「―――貴方は誰?」
それは美しい女だった。正直に言えば魂と脳が焼かれるほどの美女だった。この世のものではない美しさを体現した唯一無二の存在。長い黄金の髪、傷一つない肌、纏われる薄布……彼女に恋せぬ男なんてものは存在しないだろう。女でさえその美に魅了されるだろう。
無論、それは彼女を直視する事が出来ればの話だ。
そして彼女を直視出来るだけの資格を持つものであれば、その美しさに抗える。
「知らない」
戦場に合流した俺を見て女神アリア=マリスは言った。
「貴方を、私は知らない。未知……どこから来たの? どうやって来たの?」
語り掛けて来るうちに彼女の声に熱が入る。凡人が、只人が戦場に存在するという事実そのものが彼女の中に熱を生みだす。本来ここに立つ格を持たない生物が立っているという奇跡が彼女の願いを、想いを、理想を証明している。
「貴方の名前を教えて」
アリア=マリスに俺はにっこりと答えた。
「俺は―――柊雅人だ!」
秒で身内を売った。
「鴉羽尊というのね……知らない名前……」
秒でバレた。まあ、そうだろうね。お前全知全能だもんね。嘘ついた所で事実を確認できるよね。はあ、しんどっ。
全盛期のアレと対峙しなくてはならない事実に頭が痛むが、そうも言ってられない。この場にはアリア=マリスとワールドイーター、チクタクマン、そして海王が揃っている。この時代で行える決戦としては最高クラスのものだ。これ以上の暴力は存在しないだろう。
ここでチクタクマンが倒せないならもうどうしようもない。コイツだけはどんな手を使ってでも絶対に滅ぼす必要がある。そうしなければこの先の未来を確保するのが難しくなる。同時に、ワールドイーターを始末出来れば多少は未来を良くする事が出来る。つまりサブターゲット、ボーナス目標といった所か。
驚き、キラキラした目を此方に向けて来る女神。顔なんて持たず、食欲以外を持たず女神にのみ従う異形の食欲。そして全てを冒涜する邪神。これを相手に最適解を常に打たなくてはならない。死ぬほど面倒で、絶望的な状況だ。
黄龍の背の上、腕を組みながら海王の横に乗りつける。
「海王ネプチューン! 大体は察しているでしょうがここからは指示に従って動いてもらいたい!」
『神殺しの縁を持つ稀人……良いでしょう、私の力を上手く使ってください。何が出来るかの説明は不要の様ですね』
「あぁ、任せてください―――詰将棋は得意なんだ」
停止した雨粒を足場に優雅に立つチクタクマンには余裕が見える。この絶体絶命と呼べる状況で余裕の表情を見せるのは恐らくまだ奥の手か、リカバリーのプランを用意してあるかだろう。もしくはこの状況そのものがコイツの目的と合致するか。
女神の方は……まあ、あんまり見たくない。現代では久遠をモチーフにした姿をしていたから、こっちの本来の姿で見るのは結構久しぶりなもんでちょっと懐かしさを覚えるが。あぁ、でも、こいつら別に特定の姿が本来の姿って訳でもないしな……姿自体は受けが良いなら何でも良いのか。
流石全能は規格が違うなぁ。
「凄い……凄いわ。貴方、私を殺した縁まで持ち込んでいるのね。まさか、こんな所で、私の死神に出会えるなんて。只人が私の死神になりうるなんて」
陶酔した表情を浮かべた女神ははあ、と息を吐き出した。
「
まあ、確かに俺という脆弱な人類が女神を殺す事に成功したのであれば、誰だって女神に届きうる刃となる。それだけの輝きを見せる事が出来るという証明になってしまうだろう。それでも俺は人類の外れ値の方だと思うけどね。
あぁ、でもこの時代に存在する特別な存在……神々や大英雄等と比べれば俺は話にならない程脆弱で普通なのか。普通に狙って転生する様な連中いるしな、この世界。ただ、それを理解した上でこう答えよう。
「うるせぇ、気持ち悪いんだよカスが。死ね」
親指で首を切るジェスチャーをとってもなおにこにことその美しい顔を歪めない女神に宣戦布告する。その様子を眺めてたチクタクマンがぱち、ぱち、ぱち、と手を叩く。
『感想:素晴らしいシーンです。問題があるとすれば勇者の実力が足りない所でしょうか。それとも……試すのに丁度良い機会ととらえますか? 自らの理想の体現者を』
「面白そうね、それ」
理想は女神がこの邪神を気に入らず最初に排除する事を目的として殺してくれるのが良かったんだが……まあ、当然そう上手くいくわけもないか。好感度稼ぎ過ぎたせいかこっちにロックオンしている。まあ、これに関しては既に予測済みだ。
「纏めて対処する。全員既知のデータで、攻略済みのモンスターだ。処理する。海王様、行きますよ」
『えぇ……我が大海に邪悪の存在する場所無しと示しましょう』
深呼吸。少しだけ目を閉じ、それから身体と脳と心を決戦に向けた状態へ一瞬でシフトする。目を開く時には準備は完了していた。
「―――シンクロ開始」
尊は海王とフルシンクロした!
海王は尊との同調を受け入れた!
海王に未来のイメージが流れ込んでくる……海王はシステムに適応した!
約束された未来の光景に海王の心火が限界を超えて燃え上がる!
海王は《限界超越》を果たした!
強化上限が解除された!
特攻:神が共有された!
守るべき戦いに後退等存在しない!
全ステータスが上限値まで強化された!
尊の《無我》が共有された! 完全なる精神耐性を獲得した!
チクタクマンは《時の神》を簒奪している!
チクタクマンの全行動が先制扱いとなっている!
チクタクマンの速度がカンストした!
チクタクマンの全攻撃は速度で代用される!
アリア=マリスが降臨した。
アリア=マリスは《全能者》である。
《全能者》とは不壊である。
《全能者》に触れる事は許されない。
《全能者》とは朽ちる事を知らない。
《世界の理》は思うがまま我が手に。
―――アリア=マリスの法に亀裂が走った!
《全能者》《世界の理》が一部機能不全を起こした!
《白紙の物語》が輝いた!
アリア=マリスの《世界介入》が封じられた! @3ターン!
アリア=マリスの《全知》が封じられた! @3ターン!
女神は理想の未来の到来を想い微笑んでいる。
ワールドイーターは満たされない……。
ワールドイーターはお腹が空いている……。
「あら……何かしらそれ……」
女神の視線が自らの権能を封じる事に成功した理外の書へと向けられた。女神を殺す為に存在する物語。それは積み重ねられた無念の証。女神への復讐の証でもある。だがそれを見ても、女神はその本質を見いだせずにいた。
「面白い……実に面白いわ。さあ、魅せて尊。貴方が持ち込んだ縁が決して偽りではない事を」
死ね、と中指を突き出して答える。たぶん今実績を解除した。異世界の皆―――! 皆の代わりにコイツワンパン入れておくから見ててくれよな―――!
『では先手を貰いますね』
チクタクマンの《次元断絶》!
エストの《アローン・イン・ヘブン》!
チクタクマン達はエストしか攻撃できなくなった!
ウェルギリウスの《サクリファイス》!
エストは死亡した!
攻撃対象が存在しない! 《次元断絶》は不発した!
《ディセラレイト》! この空にはもう誰もいない!
《剥時結界》! チクタクマンを時の結界が包み込んだ!
《次元潜航刃》! 次元の中に刃を仕込んだ!
アリア=マリスは微笑んで見守っている!
ワールドイーターは《たべる》! 食べるものがない!
《たべる》! 食べるものが何もない!
《たべる》! 食べるものが何もない!
《くらいつくす》! そこには何もない!
ぐうぐう、お腹が空きました。
ミレーナが蘇生アイテムをエストに投げた。
エストは蘇生した。
「うわああああ、私滅茶苦茶睨まれてますけどぉ―――!?」
チクタクマンとワールドイーターとアリア=マリスの視線が1ターン丸々透かすの成功した雑魚堕天使に向かった。そうだよね。レベル70で超越者を丸々3体無駄行動で潰してるもんな。そりゃあえ、なにこれ? って感じで視線を向けるよね。基本的なサクリファイスエスケープです。
アロへとかの効果ってフィールド効果なんでターン終了時まで本人が消えても継続するんすよ……。レの民が使ってるロバ騎士はこれの下位互換だから死んだら消えるんだけどね。こっちは上位互換なのでエストが死んでも残ります。
後は解るな?
尊は技神の血薬をエストに使った!
エストのスキル使用回数が回復した!
ウェルギリウスは狂戦士の秘薬を海王に使った!
海王はターン中与えるダメージが2倍になった!
エデはウロボロスの皮をエストに使った!
エストのスキル使用回数が減らなくなった! @3ターン!
『……』
「……」
「……」
俺はす……っと両手中指をカス3体に向けた。
「まともな勝負をすると思ったのぉ? 可愛いねぇ? じゃあハメるね……」
教えてやろう……アイテムを解禁した時に出来る無法戦術を! 手段を択ばずに殺しに行くとはどういう事なのかを! 毎ターン発生するサクリファイスエスケープにより何も出来なくなる恐怖を! アルティメットスーパー海王によって一方的に殴られる恐怖を!!
アイテムが尽きるまではずっとこっちのターンだぞ馬ぁ―――鹿! 死ねっ!!