……Check。
過去改変による海王の状態変化を確認。
海王の状態変化を検出中……。
……Check。
記憶領域の活性化を確認。
理性の活性化を確認。
「おぉっとぉ、ログが急に物騒な事を書き出し始めたぞぉ」
「物騒だが尊がちゃんと仕事しているって事だろう。少しは好転し始めたか?」
海上で戦う者達はぼろぼろだった。既に戦闘が始まってから数時間が経過している。その間に幾つかの船が崩落し、海に飲まれていた。《水底の墓場》を発動して以降、死亡したモンスターは蘇る事を許されなくなり、被害は加速し続けている。
神経を削り続ける戦いが続いており、最初は温存されていたアイテムが惜しみなく投入されるようになった。その中でログによる海王の変化が語られ始めた。同時に海上で暴れ回っていた海王はピタリ、と動きを止めた。
「頼むぞ……もう動かないでくれよ……」
誰かがそう祈り、バトルログシステムの試作機とリンクする精霊が海王の変化を解析しながら読み上げた。
海王の記憶から戦友の絆が想起される。
コマンダータクティクス:尊を思い出した!
海王は同朋を呼び寄せた!
幽霊船団が現れた!
マーマン特戦隊が馳せ参じた!
シーホース楽戦隊が参上した!
シャークネードが到来した!
シャークネードの中からニュークリアハリセンボンA~Fが飛び出して来た!
《波濤》! 対象が敵/味方全体に変更された!
《分かち合う力》をここに示す!
味方の攻撃力が海王と同値になった!
「ざけんなあああああああ―――!!!」
「なにしやがった!!! なにしやがった尊おおおお―――!! この野郎おおおお―――!!」
「ボケカスが強化してるんじゃねぇぞォ!!!!」
「おーっほっほっほっほ! 頭おかしくなりそー」
一瞬で戦場が阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き込まれた。核弾頭が大陸破壊弾頭へとジョブチェンジを果たしてしまったのは、恐らく誰も気づかない方が幸運な事実なのかもしれない。これまでは単騎で全てを破壊しつくす暴力を見せていた海王が、集団を前提とした戦術へと戦い方をシフトする。
それは元々の作戦説明にはない海王の動きだった。正史における海王はその段階に到達する事なく敗北、ノアは壊滅している。ただその事実を受け入れるだけの余裕がこの場にはなく、それに追撃をかける様に通信が入る。
『ッ! 現海域に幾つかの集団が接近中!』
「糞! この忙しい時に……メディアか!? どこの馬鹿だ!?」
僅か数秒、息を呑んでからオペレーターが言葉を続ける。
『先頭を行くのは……船から飛び降りてバタフライで泳ぎながら向かって来てます!!』
「良し!! そんなイカレた事をするのは味方しかいない! 援軍だ!! しかも頭のおかしい援軍だ! これは強いぞ!!」
「強い奴はイカレてるって風潮止めませんか?」
「レ」
来たな……というニュアンスを出しながらレ大団長は腕を組んで海を眺めた。その視線の先には海域に急速接近する彼の同胞たちの姿があった。本来であれば沿岸部の警備に回され、ランク不足だから参戦出来ない筈のC~A帯の仲間たち。
ブラックバス放流の影響で世界各地へと拡散し、仲間を増やした彼らは大団長の呼びかけに応じて集まって来たのだ。
「レレ」
レイド戦のプロフェッショナル達。
尊曰く、付いていけない。キモい。
ハメ戦術のエリート。
気持ち悪いぐらい封殺するのが得意な変態集団。
ハイヴマインドでもキメてる? というぐらい気持ちの悪い連携する集団。
彼らがついに! 世界最強のレイド地に集まってきてしまった!
「もうこの際なんでも良い! 戦力になるなら本当に何でも良い! アレを何とか止めて時間を稼ぐぞおおお―――!!」
「うおおお―――! 流石に死ぬかも……」
「もう死人出てるし今更だろ。オラ! やるぞ!」
海上が地獄に突入する中。
―――当然、過去も地獄に突入している。
「攻撃力を共有! 数を集める! 物量で攻めるってのはこうやるんだよッッ!!」
ノア戦士団A~Dの《援護砲撃》!
チクタクマンは回避した!
ワールドイーターに特大のダメージ!
アリア=マリスに攻撃が届かない!
海王の《大乱闘》! 敵陣に飛び込んで暴れ回った!
「そ こ だ」
尊はランダム性を廃してターゲットを絞った!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
Hit! ワールドイーターに特大のダメージ!
6Hit! ワールドイーターは腹が減った!
Again!
海王は連続で《大乱闘》を繰り出した!
Full Hit! 全てワールドイーターに命中した!
ワールドイーターは限界まで飢えた!
《万 界 捕 食》
ワールドイーターは世界を喰らった。
世界が縮小した。
世界の寿命が縮んだ。
食らったエネルギーを生命へと変えてワールドイーターは賦活した!
食らった力と細胞がワールドイーターに変化をもたらす……!
削り切ったァ!
言葉に出ない叫び声を吐き出す。即興でスキルカードを大量消費しながらリアルタイムで海王を改造し、有効なスキルを作成しながら戦闘を行う中、漸くワールドイーターの1段階目を削り切る。そこから発動した《万界捕食》により世界そのものを食らい、宇宙を縮小してまで得たエネルギーを体内で活性化させた。
それによって異形の食欲は漸く生命としての型を得る。
闇を肉体から発し、その内側から突き破る様に光を放ち―――身体を突き破る様に、新たな姿が現れる。
一言で言えばそれはドラゴンだった。サイズは変わらず、全身を禍々しい黒と紫の鱗に包み、覚えのある甲殻やしなやかな鱗を纏っている。イメージとしてはラグナロクとネプチューン、竜王と海王を合わせた姿に近いものを感じる。
そう、竜王と海王だ。
コイツはその2体と戦闘し、その遺伝子や体組織を取り込んでいる。それを世界というエネルギーそのものを使って肉体をより戦いに特化した姿へと変化させた。ワールドイーターの第2フェイズとしての姿だ。
究極生物のハイブリッドとして新生した。
「が―――お前には高潔さもその強さもない! 結局は姿を真似ただけの劣化デブだ!」
『称賛:素晴らしい意気です』
「それでこそ挑む者よ」
チクタクマンとアリア=マリスが拍手を送って来る。死んでほしい。そう口にする余裕はない。ワールドイーターが第2フェイズに突入して圧力が増える。姿を変化した直後のまま、迷わず此方へ―――そう、俺へと向かって無数の口を開いて飛び掛かって来た。
「エスト!」
「もう通じませんわよ!?」
《食らいつくす》!
ワールドイーターは尊を極上として求めた!
《アローン・イン・ヘブン》!
《加速する世界》!
チクタクマンは世界を加速させ1巡させた!
3ターン後へと何時の間にか世界は到達していた!
《アローン・イン・ヘブン》は終了している!
ウェルギリウスの《デコイ》! 攻撃対象を海王に差し替えた!
い た だ き ま す !
海王に絶大なダメージ!
海王の精神を喰らった! 《無我》で無効化した!
海王の理性を喰らった! 《無我》で無効化した!
海王の記憶を喰らった! 《無我》で無効化した!
精神的負荷が全て尊へと降りかかった!
ワールドイーターは満たされない!
更に3度海王に食らいついた!
海王に絶大なダメージ!
海王に絶大なダメージ!
海王に絶大なダメージ!
ワールドイーターは《崩界の光》を放った!
天から降り注ぐものが万物を滅ぼす!
海王は攻撃を反射した!
エデは攻撃を反射した!
エストは攻撃を反射した!
ウェルギリウスは攻撃を反射した!
チビは攻撃を反射した!
ミレーナは攻撃を反射した!
ララは攻撃を反射した反動で死んだ!
チクタクマンは《タイムブリンク》で回避した!
ワールドイーターに連続ダメージ!
《混沌再生》でターン中のダメージを回復した!
「はあ―――ふぅ―――」
流石にちょいキツイかな。まあ、耐えられない程じゃない。久々にここまでされると精神に負荷がかかるのを感じる。遠慮なく精神とか諸々を持って行こうとしやがって。こっちが精神を透明にして透かさなければ一瞬で廃人コースだったぞ。頭も痛い。ちょくちょく女神がこっちにシンクロ回線ジャックしようとしやがる。繋がる瞬間に回線切らなきゃいけないからずっと頭にスパムコールされてる気分だ。
止めてくれよ……脳にはブロック機能ないんだぞ……?
「さて、どうしたもんかな」
ノア戦団が4グループ程合流してくれたから手数は増えた。海王に威力が低めだけど手数の多い攻撃を習得させて、それを戦団にも使わせることで総合ダメージを稼ぐことには成功した。
問題はチクタクマンは物理に強い事だ。
素早さ=回避率の世界で、素早さカンストは回避率カンストを意味する。だから物理で戦うとこいつに全くダメージが通せない。
だが魔法の連続攻撃はかなり希少で、ダメージ回数を増やすのが難しい。元々必中という属性を持っているのだからそこら辺でバランス取ってる感覚はある。
お陰でチクタクマンを攻めきれない。
こいつの回避率を0にするか、必中系統で殴るしかない。問題はこいつも絶対回避持ちなので温い攻勢じゃ普通に回避されるって事だ。設置型AOEでダメージは稼いでいるが、それにも限度はある。
防御面は死ぬほどやり口があるし、アイテムも大量にある。《万界捕食》みたいな特殊系統ダメージは防げないが、他の物理や魔法は反射+バフ延長バフによってほぼ無敵のまま殴り続けられる。
定期的に飛んでくるゼロリセやディスペルが最大の敵だが、それにさえ警戒すれば戦線は持たせられる。
だが永遠じゃない。
先に俺の精神と体力が尽きる。困ったなあ。
手を振り、指揮する。戦団が此方の指示に従って動いてくれる。防御面は何も心配なく時間を稼げている。だから戦団も従ってくれている。1人もロストさせていないから。
だがチクタクマンには物理が通じず、ワールドイーターは物理じゃないとまともにダメージが稼げない。この噛み合わなさが現状の手詰まり感に繋がる。
どうにかしてチクタクマンの回避問題だけでも解決出来れば良いのだが。
そう思ったとき、それは響いた。
『お待たせしました。此方はノア中枢電脳です。当艦はこれより対邪神、対女神戦闘モードに入ります』
「来た」
『おや、修復されましたか』
ノア側面のミサイルハッチが開く。そこから1000を超えるミサイルが一斉に放たれる。空高く舞い上がったミサイルは筆舌し難い軌道を、まるで空間を何度も跳ねるように動き回りながら飛翔すると、一斉に小口の大群諸共殺到した。
着弾。
爆炎は起こらない。
起きるのはキュルキュルという音、そして吸引。
ブラックホールだ。
1000を超えるマイクロブラックホールミサイルがチクタクマン、ワールドイーター、そしてアリア=マリスを飲み込んだ。艦橋に向かった連中がノアの戦闘システムを起動させるのに成功したのだろう。
無限に、そして自由に物質創造が行える造物エンジンが戦闘利用出来るなら話は別だ。ピンポイントメタをこれで用意して殴ることが出来る。これで必要な手札は全て揃った。
「リーサルの時間だぁ!!」