【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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ぴゃ!

 艦橋内エレベーター前まで来ると技術屋トリオとノトスの姿があった。これでステージでライブしてたエデと合わせて全員回収と集合完了だ。見事チクタクマンを抹殺した祝いに全員でハイタッチを決めてからハリセンを取り出す。

 

「じゃ、スパロボ魂の言い訳を聞こうか……」

 

「アイツは迷わずサメを入れようとしました」

 

「あ、貴様ら! 裏切ったな!!」

 

「凝りてねぇのかよこのジジイ」

 

 醜く言い争う3人組を見てから全員を平等にハリセンでひっぱたく。聞けばチクタクマンによってノアのAIが初期化されてたからゲームを教材に再教育施したそうじゃんか。一体何を食ったらそんな発想出て来るんだ? なんでこの作戦にゲームなんか持ち込んでるんだ……?

 

 4次元バッグ持ちの俺でさえ割と中身整理して娯楽関係持ち込んでないんだけど……。

 

 まあ、3人を軽くしばいたらハリセンを捨てる。正直思ってた数倍苦戦する羽目になった。本来はチクタクマン抜きでやる予定だったのだから、今の半分ぐらいの時間で全行程を終える筈だった。だが合間にサメ戦、チクタクマン、ワールドイーター、小口ラッシュ、女神……イベントが挟まり過ぎたせいで時間がかかっている。

 

 上との連絡は未だに取れない。環境が悪いのか、それともチクタクマンの置き土産なのか。どちらにせよ、海上では状況がどうなっているのか解らない以上、此方は出来る事を最速でやる以外に出来る事はない。そう言う事で合流して早速エレベーターに乗り込み、ノトスの案内で隠し部屋へと向かう。

 

 ゲーム時代はこの隠し部屋へとたどり着く為に様々な部屋を巡ってヒントを集めなくてはならなかった。それらを見つけたらエレベーターで隠し部屋へと向かう選択肢が出て来る。

 

 エレベーターを抜けて、その通路の先の隠し部屋。

 

 この隠し部屋に封印装置がある。

 

「ノトス、頼んだ」

 

「ういうい。頼むぞぉ、ちゃんと動いててくれよぉ……!」

 

 部屋の中央にあるコンソールをノトスが操作する。俺達に出来る事はないので、静かにノトスがコンソールを操作するのを見守っている。やがて部屋の奥、床が割れるとそこから巨大な水槽がせり上がって来る。

 

 その水槽はまるで時が止まったかのように一切の揺らめきを見せない水で満たされていた。その中には藍色の卵が1個、沈み、何の反応も示す事なく沈黙していた。水槽も卵も無事な所を見たノトスが額の汗を拭いながら息を吐いた。

 

「はあ、時空凍結処理はちゃんと出来てるみたいだな。いやあ、緊張したわ。今、凍結処理を解除するね」

 

 ピピピ、と素早く入力するとそれまで不自然なほどに一切の揺らめきを見せていなかった水槽の時が動き出し、水面が揺れる姿を見せてくれた。その姿に皆でおぉ、と声を零す。時空凍結処理の技術そのものに興味津々の3人組が水槽をあらゆる角度から観察し始める。

 

「えぇ、どういう技術になってるんだこれ……?」

 

「このサイズとこの何も無さでどうやってるの……?」

 

「変態だ……変態技術だ……」

 

「怖いからおぢさんの回りあんまりうろちょろしないでくれる?」

 

 水槽の中の卵を回収したいのに邪魔な3人組を追い払おうと格闘するノトスと3人がにらみ合っていると急に俺の体を光が包んだ。包み込むような暖かな光……これは先ほど、海王に受けた祝福の様に感じる。俺の体を包んでいたそれは水槽の方へと向かうと藍色の卵を包み込んだ。

 

 ぴきっ。

 

「え」

 

「あ」

 

「ん?」

 

 ぴきぴきっ。

 

 卵が揺れた。罅が入った。

 

「ああああ、孵化機起動してないのに―――!」

 

「待って待って待って! ベビーグッズ用意してない!! ベビーグッズいる!?」

 

「迎え酒よ迎え酒! 誕生を祝って飲みましょう!」

 

 いきなり生まれて来てる! 待って! もうちょっと展開に余裕を作ろうよ! スピード感エグイって! というかトリオ邪魔! 万が一お前らの誰かを親と思い込んだらどうするんねん! ミレーナに命じてトリオを部屋の隅へ確保する。ついでに酒を取り出して祝おうとするバカも追い出す。

 

 あぁ、大一番終わって何時ものノリが戻って来た。

 

 エデもなんか歌わなくて良いから!

 

「……エスト、それは?」

 

「なにって……哺乳瓶とミルクですけど……? 人肌で温めませんとね……」

 

 どこでそんなものを……?

 

「おい、待てよ。あのバカデカ蛇のガキなんだろ? 生まれたら一気にデカくなる可能性もあるんじゃねぇか? 大丈夫か?」

 

 スクナの考え無しの発言に一瞬で扉前が地獄になる。ゲーム時代の内容を知ってる俺だけがそこまで成長するのに数千年という時間が必要になる事を知ってる。ノトスもまあ、知ってるのだろう。扉前にぎゅうぎゅう詰めになっている皆を微笑ましく眺めている。

 

 その間にもぴき、ぴきぴき、と卵全体に罅が回る。

 

 やがてぱきっ、と明確に割れるような音がする。その頃には茶番を終えた皆も扉の前から戻ってきて水槽の周りに集まり、静かに新たな命が誕生する姿を見守る。

 

「頑張れー、後少しだぞー」

 

「若……貴方はあの海王様の子なんですよ……絶対できますって」

 

「ワシ、この手の感動シーン職業柄腐る程見てて今更感動とか覚えないんじゃよなぁ。職場で出産シーン見た事ある? ワシあるよ」

 

「お静か……いや、待って、今なんて言った?」

 

 ばきっ。

 

 ばききっ。

 

 ぱきっ。

 

「ぴゃ!」

 

 殻を破ってそれはついに誕生した。両眼を瞑ったまま、勢いよく頭で殻を弾き飛ばすと水槽の中に飛び出した。目を瞑ったまま頭を右左に振るうのは細長い海竜……というよりは海蛇やウナギとか、そういうレベルのサイズの可愛い生き物だった。

 

「ぴゃ! ぴゃ! ぴゃ!」

 

 鳴くと頭をぶんぶん振ってしばらく卵を叩いてる感覚を追いかけると、もうそこに殻がない事に気づいてゆっくりと目を開けた。それから自分が卵の外の世界に飛び出した事を知って、辺りを見渡し、それから俺達を見つけた。

 

「ぴゃ!」

 

「蒲焼か……」

 

 流石にライン超えだったので博士を全員で蹴り転がす。名誉挽回しようって考えがコイツの中にはないのか? 博士の死体がゴミとして部屋の隅に処理された所で生まれたばかりの海王ジュニアは水槽の中をすいすいと泳ぎ回る。

 

「はぁぁぁ……生まれたぁぁ……」

 

 それを見届けたノトスは力が抜けたのか、その場でへなへなと座り込んでしまった。そこに並んだチビが肉球でノトスをぽんぽんと労う。酒クズが指先を水槽に当てると、それに興味を持ったジュニアが近づき、指の動きを追いかける。

 

「悔しいけど私より愛嬌あるわね……」

 

「0より多いって言われても嬉しい奴あんまいないと思うよ」

 

 クラマオウが今のにちょっと笑った。お前、こういう冗談は受け付けるんか。

 

「うーむ、流石海王の血筋ですわね。健康状態良し、先天的な疾患もなさそうですわね。もう既に胃袋が食べ物を受け付ける様になっていると思うからミルクから始めて良いと思いますわよ」

 

「なんでお前そんなプロいの?」

 

「マスター、堕天使の元は天使ですよ。天使は本質的に神族の奉仕種族ですからこの手の知恵や実績は滅茶苦茶ありますよ」

 

 そういう背景があるのはちょっと知らなかったなぁ。しかしミレーナも流石魔女というか博識だよねぇ。というか海王の子供ってミルク飲むの? あ、飲むんだ。

 

 水槽の中に哺乳瓶突っ込むとあむあむし始めたので普通に飲むらしい。えー、なにこれ。メッチャ可愛いじゃん。

 

 ゲームだと海王ジュニアは海王の後継として立派にその力を継いでおり、天候操作が行える。ゲーム時代に限らないが、天候によって出現するモンスターやアイテムが変わって来る。その為、特定のモンスターの厳選の為に天候が目的のものに変わるのを待つしかなかった。

 

 だがこのジュニアは天候操作の力がある。ノアクリア後、ジュニアを牧場に招いていると牧場にある池や水槽、湖からジュニアに頼んで天候を変更し、好きな天候の中でゲームをプレイする事が出来るようになる。これによって天候限定のレアモンスターの厳選が楽になるという訳だ。

 

「けぷっ」

 

「良し、これでよろしいですわね」

 

「熟練の手付きだ……なんか……意外な人物の意外な側面を見た気がする」

 

「見方が変わりますよね」

 

「エスト、すご、い」

 

「そ、そんな事ありませんわよ……?」

 

 所で哺乳瓶マジでどこから持ち込んできました? もしかしてこういう事もあろうかと最初から持ち込んでた? 割と気になるんですけどその哺乳瓶私物か何かですか? どういう用途で保有しているかによっては本日2回目の評価変更が入るんですが。

 

 水槽の縁に指を出すとミルクを飲み終わったジュニアが上がってきて頭を水槽から出すとあむあむと指を咥えてきた。カシャカシャカシャとノトスとミレーナがスマホで連写してる。ピース。

 

「海王様の祝福を受けてるから甘えてるんだろうなぁ」

 

「スマホで連写しつつ真面目な説明するの止めない?」

 

 あむあむ指を咥えてたジュニアが頬を指にすりすりしてくる。さて、足元でチビがちょいジェラって来て混沌の気配が漂ってきたが、このカワイイタイムをずっと続けているわけにもいかない。

 

「よ、2代目。少し頼みがあるんだが良いか?」

 

「ぴぃ?」

 

 首を傾げる姿あら可愛い。女性陣が悶絶してるし博士は寿司とか言ってまた処刑されてる。

 

「さ、お前のカーちゃんに会いに行こうか。きっと、首を長くして待ってる筈だぜ」

 

 解るか? 流石に解らないか?

 

「ぴぃー?」

 

 良く解らないなぁ……という顔で首を傾げてからふと、何かに呼ばれるように視線を上へと向けて、じぃ、と天井を見つめる。それから少し息を吸い込んだ。

 

「ぴぃ―――!!!」

 

 大声で鳴いた。でも小さいからだいぶ可愛い声だった。迫力なんてものはない。部屋の外には響かない程度の声だった。

 

 でもそれで十分だった。

 

『システム再起動』

 

『電脳中枢稼働再開』

 

『損害の計算中』

 

『結末の確認中』

 

『ネットワーク発見、接続開始』

 

『情報取得完了』

 

 一瞬の沈黙。そして。

 

『造物エンジン、点火』

 

 長き眠りから方舟は目覚めた。

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