短ブースト。
慣性制御しつつ右ブレード展開。
滑り込む様にブレードを振るいながら短ブースト。
ロックオンは狙いが読まれるのであえてロックを外しつつ接近する……は対戦向けのテクニックだったっけ。あぁ、そうだ、背面のミサイルポッドから弾幕張った方が追い込みになるんだっけな。今回は引き撃ち想定しなくて良いのか……。
『背部右肩ミサイルポッド生成』
「……! 武装を創造出来るのか!」
『ドライバー、当艦は全ての武装をドライバーの想像通りに作成できます。決して固定概念に囚われる事なく、自由な発想で造物エンジンをご活用ください』
「ワシ、操縦して良い?」
『好感度判定により当艦の性能が90%下がります』
「お、差別かな?」
差別ってよりは当然の反応じゃないかなあ。次のノアのオーナーを蒲焼呼ばわりしたんだから殺されないだけ温情だと思うよ。頭の中に余計な思考が混ざるのは少しだけ余裕が出て来たという証でもある。すれ違い様にブレードを天空海と大海を繋ぐ海王の体に叩き込めば、赤い軌跡が体に残される。
血が流れ、海を赤く染める。
どんな傷であろうと回復していた海王の傷痕が再生しない。ノアであれば造物抹消プロトコルでアレ程苦戦した海王の回復能力や耐性を無視して傷を残す事が出来る。だから普通の戦闘と比べればはるかに楽に戦う事が出来るが……今の海王に理性なんてものはない。
全力で攻撃してくる。
宙から雨の様に水レーザーが降り注いでくる。それを連続短ブーストで回避しながら両肩にミサイルポッドを創造、それを弾幕の様に張り巡らせて海王の顔周辺を爆炎で隠す。その間に爆炎の中に突入し、左腕にパイルバンカーを装着。
強ブーストで一気に加速、すれ違いざまに顔面に杭を突き立てる。衝撃に海王がよろめきながら咆哮し、天と地を繋ぐ水のツイスターが出現する。迫って来るツイスターを回避する為に後退すれば追従するように水レーザーが襲い掛かる。
それも回避したところに、さらに追従するように上下を海王が蠢き、口からブレスが一直線に放たれる。
「危なっ!」
素早くブーストを焚いて加速すれば薙ぎ払う様に空間をブレスが一閃した。他の皆や大陸に攻撃が向けられないように天空海に寄って回避し、天の海面スレスレに回避すれば頭上の海水が渦巻き、吸い込む力が発生する。
引き込まれそうになる一瞬、減速してノアの姿がロックされる。
あらゆる方向から水レーザーが穿たんと放たれた。
「チャフだ! チャフを張れ!! 対レーザーチャフぐらい作れるだろ!! 作れ!!」
「あれは光学レーザーじゃなくて物理レーザーだからチャフは意味ないよ! 物理には物理で対抗するんだ! こっちもレーザーで対抗するんだ!」
「装甲をもっと厚くするんじゃ!」
「うるせえええええええ―――!!!!」
一瞬だけバーニアを切る。引き込まれる力を利用して渦潮の方へと機体をズラし、レーザーを回避したらフルブーストをかけて一気に拘束を振り切って追撃を回避する。回避しつつ背面を翼型レーザー砲台へと変化させ、背面からのレーザーをフルバーストして周辺に幾らでもある海王の胴体目掛けて叩き込む。
レーザーがいくつも着弾するも、流石胴体は硬い。頭ほどダメージが通る感じがしない。やはり近接武装で頭を叩くのが一番か。
『火力が足りません。更に強力な武装を推奨。発想をもっと自由に、クリエイティブにしてください』
「これでも割と自由にやってるつもりですが!!!」
もっと自由にやるの!? 俺そういうの苦手なんですけど!? 両手持ちショットガンとか!? え、それはシステム的に強かっただけ? もっと強い武装とかを使った方が良い? えーと、えーと……あ、そっか、そういやマイクロブラックホールミサイルとか使ってたな。
ああいうの使えば良いのか。
『レーザービット展開』
サブウェポンぽちっとな。
背面からビットが展開されてその銃口からレーザーが放たれる。都市サイズの船が変形したロボットが爆速アクションしながら武装創造してる姿に今各国は悲鳴を上げてるんだろうなあ。そんな事を考えながら展開されたレーザービットは海王のレーザー地獄と正面から打ち合い、相殺して行く。
罠の如く張り巡らされるツイスターと渦潮をブーストで乗り越えつつ、マイクロブラックホールミサイルを乱射する。
あっちこっちでぶつかり起爆するブラックホールに空間が歪み、放たれるレーザーが捻じ曲げられる。ツイスターの中央が歪んで穴が開き、その向こう側に海王の顔が見えた。
ノアロボの両手を前に突き出せばその両手を巻き込む様に巨大な砲塔が形成される。
『仮想砲形成。エーテルライフリング展開。空間アンカー射出。エネルギーチャージ0から100まで瞬間充填完了。撃てます』
「いっ―――痛ぇ―――!!」
「ぴぃ!!!」
「あ。若!」
発射トリガーを押し込もうとした瞬間、耳に痛みが走って思わずパッドを手放してしまう。ぶらんぶらんと耳から何か垂れ下がっていると思えば、金魚鉢から飛び出して噛みついて来たジュニアの姿だった。涙目になりながら耳に噛みついているジュニアは状況を良く理解していなくても、母親と戦っている事は解っているのだろう。
ジュニアはジュニアなりに母親を守ろうとしていた。
「ぴぃ! ぴぃ!」
「あ、痛い、地味に痛い。別に虐めてるって訳じゃないんだ。おチビちゃん許してくれよ! あ、チビ、お前の方じゃない。こっちのおチビちゃんの話で……あ、うん、だからお前じゃないんだチビ。だからね、おチビちゃん……だからチビ、お前じゃない」
酒クズ、なに腹を抱えて笑ってんだ。遊んでる状況ちゃうねんぞ。
耳に噛みついたジュニアを撫でてゆっくりと口を開けさせ、それから目の前に連れて来る。ぴゃー……と威嚇気味のジュニアはちゃんと母親を守ろうとする良い子だ。
「いいかい、2代目。お前のかーちゃんは残念ながらもう正気には戻らないんだ」
「ぴぃ……」
「それはもう感じてる事だよな……?」
「ワシ! ワシワシワシワシ! ワシが操作する!!」
「出力雑魚は下がってろ。俺の番だ」
「いいや、僕のパッドなんだから僕の出番でしょ」
眉間に皺が出来る。お前達……ちょっと今……大事なシーンなんだ……もうちょっと……もうちょっと静かにしてくれ……な? そこのノトスが銛を研いでいるのが見えるだろ?
「ぴゃ!」
「諦めきれないのは解るけど、もうどうしようもないんだ……いや、解った。もう1度だけお話してみようか。それで話が通じたら頑張るって事で……出来なかったら諦めるんだぞ……?」
「ぴゃ!」
「良し、良い子だ……ごめんね」
そう言った直後ノアが吹き飛ばされてパッドが宙に舞う。くるくる舞うパッドをキャッチして、再び構える。ジュニアが金魚鉢の中へと戻ってこっちをじぃと見ている。信じる子供との約束は破れないよなぁ。
短ブ吹かせて素早くダッシュしつつ再びミサイルで弾幕を張り、それから一気に海王の顔目掛けて接近する。段々と激しくなる海王の動きに接近するだけでも一苦労するが、攻撃を放棄して回避と相殺だけを意識すれば比較的に何とかなる。
素早く海王の前に移動するとノトスが金魚鉢を抱えて海王にジュニアを見せようとする―――が、もはや海王はそれに反応する事もなく尾で横から殴り飛ばして来た。まあ、当然こうなるよな、というのを吹き飛び、ノア内部で衝撃を感じながら思う。
「ぴぃ……ぴぃ……」
それでも納得しきれないジュニアは金魚鉢の中で母親を求めてる。ぴぃぴぃと鳴いて金魚鉢の中から母親の存在を求めている。だけどもう限界だ。海王の醜態をこれ以上長く世界に晒す事は出来ないし、世界そのものがこの戦いに長く耐えられる程強くもない。
心を鬼にする。
「《クリティカルコンバット》」
『マスタースキルを出力可能な形式にコンバート……因果操作による急所への致命撃へと変換します』
試しにマスタースキル使ってみたら凄い事やり出した。実にインチキ臭い性能をしている。だがこれだけのスペックがなければ戦いにすらならないという事実を忘れてはならない。そもそもノア自体、このスペックで過去に敗北している。
両手にライフルを装着、両肩にレーザー砲台を構築して放ちながら海王へと向かって行く。
海王もその姿を天空海に潜り込ませると素早く動き回りながら天空海の内側から大量の水レーザーを放ってくる。豪雨の如く放たれるレーザーは海面に着弾すると爆発する事無く海に穴を開ける。あんなものが大陸の1つにでも着弾すれば大陸そのものが砕かれかねない。
だから地上への被害を回避する為にも、そのまま天空海に突入する。
星を外殻のように覆う新たな海に突入する。凄まじい海流を展開されたバリアで抗いながら全力のブーストを噴かせ、海中を泳ぐ海王を捉える。幾度となく積み重ねられたダメージはもはや隠しようがない。
長い間狂気に蝕まれ、敗北から数えられない程の月日が経過し、その精神だけではなく、肉体もぼろぼろだった。どれだけ回復し、どれだけ傷を消そうともその根幹が既に崩れているのは感じ取れるものだった。女神と戦って、ワールドイーターに貪られて、その時点でもう海王という存在はかつてとは比べ物にならない程壊れている。
それでも最後まで戦い、最後の正気を見せたのは王として、そして母としての意地でしかなかった。
だがそれも尽きた。最後の理性を手放した時点で、海王は崩れる以外の結末が残されていない。
だから海王を送る為に、一気にアクセルを踏み込んだ。
海中、ブーストを全開にして出力を上昇させる。背後から海王に接近すれば、激流に混じって氷の刃が放たれて来る。それを回避しながら尻尾に食らいつき、取り出した刃を突き刺し、それをそのまま背を駆け上がって行くように引き裂いて、真っ赤に海中を染める。
血の線が海流に乗って流れて行く。
流れに抗う様に食らいつき、剣を生みだしては海王に突き刺して行く。理性を失った王から悲鳴が上がる度に金魚鉢の中のジュニアからも悲しそうな鳴き声が聞こえて来る。それを遮断するように意識を全て戦闘に注ぎ込む。
「これで―――」
海王の全身に剣を突き刺した所で海王を蹴って天空海の外へと飛び出す―――そこは宙だった。
成層圏の向こう側、天空海というラインを越えた星の向こう側。暴れて、派手にやった所で星に迷惑のかからないフィールド。天空海を飛び出してそこまで上昇した所で、虚空から鎖が飛び出し、海王に突き刺さった剣とリンクする。
「釣り上げる……!」
ギャリギャリと音を立てながら天空海の外へと海王が引き上げられる。フルスペックであれば抵抗もしただろうが、もはやそれだけの力は残されていない。単純にぼろぼろなのもそうだが、長い間人類連合と戦った影響も如実に表れていた。
天空海の外へ、星の外側へと引き上げられた海王をノアが全センサーで捕捉する。ブーストで接近し、蹴りを入れてからパイルバンカーで頭を上へと向けて打ち上げ、衝撃で後ろへと下がりながらミサイルを発射、爆炎を叩き込みながら視界を遮り、距離を開けて新たな武器を創造する。
造物エンジンが一気に最大出力まで稼働する。刀身のない大型剣が形成され、振り上げると柄からエネルギーが放出される。
ほとんど砲撃にしか思えない超巨大、超長身の刃が放出される。ノアの両腕で握られて構えられた刃を、振り下ろす。
「これで……リーサルだ……!」
「ぴぃいいいい―――!」
ジュニアの悲鳴が響く中、一瞬だけ藻掻いた海王の視線がノアを捉え、一切の動きを停止させ、受け入れるように静かに目を閉じた。次の瞬間にはその姿が振り下ろされた光の中へと消え去り、彼方まで破壊の中に飲み込まれて消えた。
後には何も残らない。残さない。
圧倒的な破壊の力によってスーパーロボット・ノア、ここにありという事が示された。
海王の消滅と共に天空海が崩壊し、地球に落下する事無く分解されて消えて行く。体に伸し掛かる疲れと、海王が消えた喪失感に深く椅子の中に座り込んで大きく息を吐く。これで漸く、海王とノアを巡る戦いは終わった。
俺達の勝ちだ。
「はあ……終わった」
椅子をくるっと回して皆の方に向き、パッドを片手に立ち上がる。
「後は月とサンゴ迷路を元に戻して終わりだ! 皆、お疲れ様!」
『評価:はい、お疲れさまでした。実に素晴らしい戦いでした』
Tick……Tack……。
立ち上がり、背筋を伸ばし、腕を伸ばしたポーズのまま、そいつを見た。恐らく全員がその存在を同時に見ていた。時が凍り付くような感触。一歩も動けない様な重み。致命的なミスを犯した瞬間の硬直。
その瞬間に、反応できなかった。
邪神チクタクマンは、そこに居た。
『リーサルです』
―――次の瞬間にはブリッジが大量の血で汚された。