最強以外ありえない   作:てんぞー

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逃げるように集中する

 RPGにおいてレベルはインフレの度合いを示す。

 

 レベル1だったら剣を振るうだけで精いっぱいの勇者も、レベル100になれば斬撃でビームを発射し、山をも切り裂く。

 

 レベルとは、強さだけではなく描写的なインフレを示す数値でもあるのだ。

 

 これはモンスターバトルにも言える事でもある。世代交代を重ねる度にスキルは強化、統合、変異を繰り返してより上位のスキルへと進化して行く。これは定番だがスキルや魔法というものは上位になればなる程演出が派手になり、より広範囲に大きな被害をもたらすようになる。

 

 CとBには明確な違いがある。細かい話をするならアマチュアとプロフェッショナルの壁だ。Cまでは才能が無くても時間があれば上がれると言われる。Bからは才能で殺し合う世界だと言われている。そのBランクまで上がると派手になる。

 

 無論、戦いが。

 

 まず周りの被害が大きくなる。炎の雨、津波、小規模な竜巻なんてものは普通にみられる。AランクやそれこそSランクになれば次元破壊とか流星群なんて意味不明なものまで持ち出してくる。根の国で見せた東吾の戦い方は反転ヒールベースだったからかなり地味だが、彼が使役するジャガーノートは本気のパンチ一つで家どころかビルを消し飛ばす事が出来る。

 

 つまり今Dでやっているようなスタジアムやコロシアム形式の試合は、観客の命が欠片も保証できなくなるのだ。

 

 故に、Bからの試合はダンジョンで行われる。

 

 正確には人工的に生み出されたダンジョンで、だ。

 

 技術的にはモンスターや特殊な資源が一切ない取れない所謂空っぽなダンジョンに限定されるが、人類はモンスターを戦わせるためにそんな技術まで手に入れた。そしてそれを駆使する事で周りへ死ぬほど被害を巻き起こす上位ランクの試合を開催する事に成功した。

 

 そして無差別級とはこれらのBやA、無論Sまで参加できる階級に関係しない試合形式だ。ルールはその場で話し合って決め、無差別級が戦う事の出来るダンジョン式フィールドへと移動し、そこで戦闘を行う。

 

 マッチングにこぎつければF対Sでも試合が行える……その結果を観測する必要はないが。

 

 そんな試合に価値はあるのか? という話をすると難しい。

 

 ただ己の場合、収穫はあった。

 

「対戦ありがとうございました」

 

「此方こそ対戦ありがとうございます。フリマでパフェキャン体験できる貴重な一戦でした。もし機会があればまた対戦お願いします。それと鴉羽ファームレイド毎度開催ありがとうございます、また行きますね」

 

 ぼろぼろになって死んでいるチビを担ぎ、ウェルギリウスを抱えて戦闘用ダンジョンから出てモンスター協会に戻って来る。流石に敗北するとモンスターが死んでしまうので、復帰までには時間がかかる。休憩エリアに連れて行けば蘇生回復してくれる暇な奴が大量にいるとはいえ、疲労は溜まる。

 

 流石に1回休憩入れるか、と一息入れる。

 

 死んだまま連れてきたモンスターを見かけた瞬間爆速で蘇生と回復が飛んでくるのはネトゲで良く見る光景だよなあ……と思いながら周りに感謝し、自販機からスポドリを買おうとして、横から差し出される。

 

「用意しておいたぞ」

 

「お、ありがとう」

 

「派手に負けたな」

 

「まあ、Bランカー(モブ修羅)相手には流石にね」

 

 久遠がタオルとスポドリを手渡してくるのを受け取り、汗をぬぐって水分補給する。チビも休憩の為に軽く補給させて、ウェルギリウスは生命力を餌代わりに補充するので俺の命をちょっと食わせれば問題ない。心地よい疲労感に何時ものベンチに座る。

 

「しかし無差別級だったか、そっちに行くと凄い試合を申し込まれるな」

 

「《パーフェクトキャンセラー》を撃たれるのを経験したい、ってマスターが結構いるんだよね。特にB帯辺りから。金のある所はちらほらA辺りから握るし、ライバルが使ってくること想定で本番前に喰らっておきたい……って層はそこそこいるみたい」

 

 これは全くゲーム時代では考えもしなかった事だし、適当に対戦して負けながら学習すれば良いや、ってなっていた部分でもある。対戦における環境が違うから考え方も変わって来るのは当然と言えば当然なのだが。

 

「それでお前が引っ張りだこになってるのか」

 

「ん、なんか人気になってる」

 

 お手軽に打ち消しを喰らえる。このタイミングで撃たれたらリカバリーはどうする? 繋ぎは? 致命傷はどこ? コンボを中断する? 継続する? 事前の想定で解らない部分は実践しないとならない。それが出来るならそりゃあ頼み込む。

 

 だから俺が《パーフェクトキャンセラー》を覚えさせたモンスターがいると聞いて、Bランク辺りのランカー達が盛大にアップを始めたわけだ。本当ならもうちょっとC辺りの格上と戦いたかったのだが、ここら辺の人たちにはレイドで出張ってる恩もあるのであまり追い返せない。

 

 まあ、それでも良い経験にはなった。

 

 ひたすら対戦を繰り返すと自分の技術も磨かれるというのは解って来る。指示の出し方、考え方、ゲームの捉え方、そういう技術がレベルアップするのだ。無論、10回や20回やった程度で何かが変わるという訳じゃない。

 

 実際に変化を実感するようになるのは100回や200回やってからだろう。それでも積み重ねは大事だ……というのが東吾の言っている事かもしれない。いや、解ったふりをしているだけだこれは。アイツの言うズレというものを俺はまだ良く理解していない。

 

「とはいえ」

 

 スマホを取り出して、管理アプリを起動する。そこにはCランク認定戦参加可能の表示が出ている。つまりCランクへと昇格する為の条件であるポイントを集めきった事を示している。

 

「認定戦には出られる。Dでやるべき事は終わらせた」

 

「確か2か月で認定戦まで上がるのはほぼ最速ルート……とかいう話を聞いたな」

 

「間に準備やら調達で時間をかけたせいで6月の認定戦を逃しちゃったけどな」

 

 EとDは試験官との勝負だったからタイミング的には何時でも良かったが、C認定戦からは昇格できる人間が絞られる。その理由はランクマッチによるポイント奪取が理由の1つになるが、もう1つはCランク認定戦は大会形式になるからだ。

 

 毎年3月、6月、9月、12月の合計4回にCランク認定戦が各地で行われる。

 

 そこで優勝した者のみがCランクへと上がる事が可能になる。ゲーム内では出場するのはそこまで難しい話ではなかったのだが、リアルになって競技人口が爆増した結果、大量の人間が認定戦へのエントリーを行う為、参加が条件を満たしたうえで抽選方式になってしまった。

 

「次に参加できるのは9月……だからそれまでは抽選率を上げる為にひたすらランクマと週末大会をこなす形になるかな」

 

「今までとそう変化はない訳か」

 

「そゆこと」

 

 結局、それまではポイント稼いで、自分とモンスター達を鍛えるしかない。エデ、チビ、ウェルギリウスは既に能力の調整もスキルの調整も終えているので本格的にやる事がない。出来る事は合体に使う素材を集めて全部Dランクレベルまで育てて用意しておくか。

 

 ああ、でもあまりモンスターを牧場に溜め込むとまた食費の問題で叱られる。

 

 根の国産のアイテムを売る事ができればまた話は別なのだが。諸事情があってこれを手放す事は出来ない。良い小遣いにはなるだろうが、こればかりはモンスター協会側の都合というのもある。

 

 だからモンスターの強化や、素材集めに関してはもはやCランクまでやる事がない。

 

「3か月も暇なのはキツイなあ」

 

「それは貴様がバトルの事しか考えてないからだろう」

 

「……ほかに何かイベントあった?」

 

 あるだろう、と久遠は言葉を続ける。

 

「少なくとも9月までには夏休みが挟まる。貴様が此方に来たのは確か去年の9月末辺りだったか? だとしたら最も暑い頃を経験しなかった訳だ。コッチの夏は死ぬほど暑いぞ」

 

「益々嫌になる様な事を言わないでくれよ」

 

「何を言う、夏になったら海に行けるのだぞ? 貴様には私の水着選びに付き合ってもらうからな、覚悟しろよ」

 

「覚悟しろよってお前……」

 

 いや、そこで言葉を止める。海に行く、という事はこの地を離れる事が出来るという事か? それとも比較的近い所にビーチでもあるのだろうか? 何にせよ、それは久遠にとっては非常に珍しい遠出になるのかもしれない。

 

 基本的にこの辺りから離れる事の出来ない少女にとって、夏というシーズンは普段とは違う場所へと行くことのできる季節なのかもしれない。

 

「……まあ、水着ぐらいなら選ぶの手伝うよ」

 

「ほほう、貴様がどういう趣味なのかをじっくりと見定めさせてもらおうか」

 

「そういう事を言うのは止めてくれ……選び辛くなるから。俺だって別に恥ずかしくないって訳じゃないからな? 普通にそこら辺の羞恥心はあるんだから」

 

「ほぉ」

 

 そう言いながら久遠は確かめるようににじり寄って来る。ふぅん、と呟きながら顔をすぐ目の前に寄せて来る姿に恥じらいはないのか、と思ったが久遠の頬が少しだけ赤くなっている様に思える……少しは意識しているのだろうか?

 

 そう言えば俺達の関係は許嫁……婚約者と言えるものだ。

 

 しかし1度も好きや愛しているという言葉を口にした事はない。

 

 果たして俺達の間にそういう感情は存在するのだろうか? 俺達はお互いをどういう風に意識しているのだろうか? 俺達は……どういう風に、なりたいんだろうか? 久遠は俺を惚れさせると言っていた。

 

 俺に、その気はあるのだろうか?

 

 バトルがひと段落して余裕が出てくると、余計な事を色々と考えてしまう。或いはそうやって考える事で結論から逃げているのかもしれない。

 

「どうしたミコト、顔が少し赤いぞ」

 

「……人の事、言えないだろお前も」

 

「ふむ? ふむ……うーむ……」

 

 指摘すると近づけていた顔を離し、コンパクトミラーで自分の顔を確かめながら触れて確かめる。或いは彼女も自分の感情を良く理解していないのかもしれない。

 

 なにせ、俺達はまだ中学1年生。愛や恋を語るには少し、幼い。

 

 3か月という時間は意外と早く過ぎ去って行くけど、それでも俺達にはまだ時間がある。

 

「よし、十分休んだ。もっかい対戦相手探してくる」

 

「ああ、行ってこい」

 

 十分に休めたチビ達を再び連れて対戦相手を探しに出る。

 

 愛とか恋とか好きとかどうとか、俺にもまだ解らない事ばかりは後回しにして。

 

 今はただ、出来る事に逃げるように集中する。

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