『君を救うという善行。
これを成し遂げれば私は救世主を救った女だぜ! ってまあ、誰にでもドヤれるって思ったんだよね。でもまあ、これが大変だったワケさ。なんか良く観察したらマルチデッドエンドルート構築してるし。変なの途中で生えて来るし。どうしようもないのもいるし。
1番ヤバかったのは観察している未来の向こう側からこっちを見て来る奴だったんだよね。ご存じ我ら大好き女神様という話になるんだけど。未来を観測しているこっちを未来から観測して応援されちゃったよ。アレはもうどうしようもないと思ったね。勝てるわけないって
だからこそアレに勝てるように君を導けば……そりゃあ私の功績めちゃデカない? ってなるでしょ?
何か……何か良い事をするなら1つだけ、とっておきの善行をしようと思ったわ。そうする事で私のこの力に意義を与えるって。その結果がこれなんだけどね。
私が柊のジジイと会ったのがこの頃。やるぞ、やるぞ……何を? って初動で困ってた時に顔を出して来た訳ね』
「ジジイ……ここでも顔を出すのか」
ちょっと読んでいた手紙から視線を外し、考える。
今の所、ジジイが裏で動いているのは解るけど、具体的に何をやってるのかは解らないんだよなぁ。少なくともDX柊大戦、邪神の扇動、そして酒クズへの接触を行っているという事しか発覚していないけども……それだけでだいぶ世界への影響を与えている。
それでもジジイの真意が見えてこないんだよなぁ。
今の所やってる事から目的が見えてこないというか……読み進めるか。
『あのチートジジイは私に目的を果たす為の繋がりを提供してくれたわ。つまり教団の残党と引き合わせてくれたのよ。この教団っていうのは地球サイドのではなくて、異世界サイドのモノホンの残党って奴? どうやら一部が邪神化した上で味方を殺して、その魂を次元城に持ち込む事で世界の概念化を乗り越えたらしいのよ。
で、邪神である以上ネガコスモスには逆らえないからね、ネガコスモスとの契約を持つあのジジイは教団をそのまま接収、乗っ取って旧残党を殲滅、残されたリソースをそっくり頂いてニュー教団を設立。そして無事に私もそこに所属した。
はい、衝撃の事実ー! 私実は教団の人間でーす! びっくりした?』
「ふぅー……」
情報の洪水が流れ込んでくる。え、ジジイそんな事してたの? なんか全体的な黒幕ポジションに座ってない? 本当に大丈夫かこれ? いや、全然大丈夫じゃないが? いや、待て。チクタクマンはジジイの命令で俺を殺しに来たんだろ? その結果教団所属の酒クズが死んでるんだから仲間を殺してるって訳にならないか?
「……」
訳が解からない。いや、マジで。とりあえず手紙の続きを読もう。もうちょっと湿っぽい内容の手紙になるのかと思ってたけど、寧ろ凄い情報が乗っている重要なアイテムになってきている。あの女は一体、何を伝えようとしてるのか?
読むのに戻る。
『じゃあ続き読んでね?』
目頭を押さえる。
『続き書くね? のが良いか……。
まあ、なにはともあれ今ある教団の基礎ってのはそうやって出来たって話。そして教団の設立と共に私の未来の壮大な自殺へと向けた1歩も踏み出されたってワケ。まあ、私は私で色々と忙しいからずっと教団内部に関わってた訳じゃないんだけどね。それでもこれまで騙してた感じになるから、ごめんね。
まあ、個人的にはやり遂げたぜ! って気持ちが強めだけど。
ま、教団はこんな風に1度解体されてから新しい教主を立てて再設立された訳ね。その目的は適度に女神を退屈させないように世間を盛り上げながらみこっちゃんと世界を育てる事。
対女神という一点においては、私達教団サイドとみこっちゃんサイドでは意見が一致するのよね。あんまり嬉しくないと思うけど。まー、そこはしょうがないもんだと諦めて。
教団という立場を手に入れた私は漸く、未来に向けた準備に入る事が出来るようになった。最初にやったことは将来、起きうる大きなイベントのリスト作成とか地味な活動が多かったわ。みこっちゃんが干渉すると大きく未来が変動する事もあったからまあ大変な作業だったわ。
で、その合間に私はみこっちゃんのデッドエンドを阻止する事になったわ。
覚えてる? 交流戦での出来事。いやあ、あの時は凄い嫌われたもんだったわねぇ。もう解ってるとは思うけど、アレは今回に向けた布石ね。ついでに言うとあのまま放置してるともうちょっと頭がダメになるのが早くなって色々とイベントが前倒しになってまあ大変な事になってたのよ。
こういう微調整とか君を死なないようにそれとなーく誘導するのが私の教団での主な業務内容で。
あのノアで死んで、生かす事が最大で最後の仕事ってワケ。
ごめんね。何も言わなくて。
解ってるとは思うけど言うと全部台無しになるし、達成できなくなるから黙る以外選択肢がなかったのよね。あぁ、でも恐怖とかは全くなかったのよ? 本当に。ただ……そうね、自分の人生を通して決めようとした事。その集大成がいよいよここに出来上がる。その達成感と感慨深さはあったかも。
だから特に言い訳みたいな事はしないわ。
私はね、思うがままに生きたわ。自分でこうしたい、こうありたい。そう思った事をそのままやったわ。だからね、私が死んだ事に対して庇われたとか、守られたとか……そういう風に考える必要はないから』
「無茶言うな」
溜息が零れる。ほんと、会った時から好きになれない女だった。ずっと勝手やって一人で気持ち良くなってほんと……俺にどうしろって言うんだよ。
……読み進める。
『解ってるかもしれないけど私は別に善人って訳じゃないから。知らないだけでそこそこ悪行を重ねてるし、君を助けたのも世界とか君とかじゃなくて……私がそうしたいと思ったから。
例えば……そうね、前に次元城に向かったって話を覚えてるかしら? アレ、実はチートジジイには内緒だったのよね。あのお城、実は非常に良く戸締まりされてるのよね。あの爺さんが望まない限り扉が開かない程度にはね。しかも絶対に他人を中に入れようとしないのよね。
だから私があそこに裏口を作ったわ。
格のある邪神は通れないけど、50とか70程度の弱いやつなら抜け出せるぐらいの裏口ね。時期的にそろそろ見つかって外に出てくる頃じゃないかしら?
まあ、真っ先に外の世界に出て好き勝手するでしょうね。犠牲者は数え切れないほど増えるでしょう……と言っても、チクタクマンみたいに格のある奴じゃないから小競り合いや事件を起こす程度でしょうけど。
それでも偶には街を消すぐらいの事件にも発展することもあるんじゃないかしら?
こんな風にね、私も色々と悪さしてるのよ。でもしなきゃならない理由もあるってワケ。
だって人類弱いじゃない。今のままだとどこかで詰んじゃうわ。もっと力をつける必要があるわ。もっと危機感を抱く必要があるわ。残念だけどね、私達が死んだところで大して世論は動かないの。
テレビは見たんじゃない? 政府がー! 国がー! 政治がー! みたいな事を言ってない?
ほとんどの人にとってノアでの戦いは遠い世界の出来事よ。対岸の火事ですらないの。既に炎が足元まで迫ってる事に自覚さえないのよ。誰かが頬を叩いて現実を教えないとならないの。
私達は今日に至るまで丁寧に、丁寧に下準備を重ねてきたわ。少しずつ不和と騒動の種を植えて回った。芽が出るのにもう1年も掛からないでしょうね。
最初はどこかの都市の小さな事件。
次は国の治安が乱れて、大きな事件に繋がる。
それでもまだ人は自分が当事者であると自覚はないでしょうね。家が焼かれて初めて自分がこの物語の登場人物だと気付くわ。そしてそうなって初めて人はこの先の脅威に対抗するだけの意志が、用意が出来るの。
残念ながらこれは見えてた未来。ギリギリになるまで気付かないとかほんと、いい根性してるよね?
あー、はいはい。そんな顔しないでよ。
そうよね、そういう話が聞きたいんじゃないわよね。ここまで全部私の愚痴とか言い訳みたいなもんだしね。
だからごめんね、苦しめちゃって。でも反省はしてないから。私はやりたい事をしただけだから。だから君は犬に噛まれたとでも思って諦めて。その感情は……どうしようのないものだから。
良し! 謝れたな! この手紙の目的はほぼ果たせたし、最後に幾つかメッセージを残すね。
その1! チクタクマンが死んでウチの連中蘇った? スクナ以外は蘇ったと思うけど行き場がなさそうなら牧場の警備員にでも雇ってあげて。もうバトルはしないだろうから戦わせられないけど警備員としては十分な戦力になるはずよ。
その2! 君ん所のジジイはちゃんと構築6体全員に専用マスタースキル組めてたわよ。倒す気なら君も同じ事出来るようにならなきゃスタートラインに立てないわよ。
最後に、君にボトルを1本残したわ。ハタチになる頃には飲み頃になるだろうから、感想楽しみにして待ってるわ。ゆっくり味わってね。
うーん……これぐらいかな? 遺書と違って手紙って書き慣れてないからいざこう残すとなるとなんかちゃんと書けてるのか不安を覚えるわね。
ちゃんと書けてた? 読みやすかった? ふざけんなってなった? まあ、感想はそのうち聞くわ。それまで人生、適当に過ごすのよ〜。
歪沢椿より』
読み終わった。
手紙を机の上に置いて、それからベッドの上に寝転がり、目を瞑ってぐちゃぐちゃの頭の中を整理するのを放棄する。チビがよじ登って腹を枕代わりにベッドの上を堪能する。
腹の上の頭を撫でつつ、零す。
「ヘッタクソッッッッッ!!!」
なにあれ。
「文字が汚い!! 紙も汚い!! せめて酒零したのなら書き直せよ!! ちょくちょく書き直した跡が残ってんだよ!! あと話がとっ散らかりすぎ!! 話題から話題へ飛ぶな! 酔っ払いの戯言か! そうだわ!!」
「くぅん」
チビにうるさいと言われてしまった。ごめんよ。頭を撫でてから首の下を搔いてやると満足げに喉を鳴らす。
「ったく……手紙残すならもう少しちゃんとしたのを書けよな」
それでも、なんかそういう雑な所がアイツっぽくて、まあ、いいかってなる。色々と考えたい、整理したい事はあるけど……今は後回しにしよう。
今は取り敢えず、何もしたくなかった。