色々とあっても、とりあえず日常はやって来る。
何時までもぐだぐだうだうだしている訳にはいかない。鴉羽ファームは今も営業中で、俺の存在は鴉羽ファームの支柱となっているのだ。俺が仕事をしなきゃ誰がするんだ。灯がやる。恐らく俺よりも上手くやる。じゃあ俺は不要なのでは……?
「お兄ちゃんがちゃんと滅茶苦茶にした責任を取るんだよ。私にパスするな」
「ラブリー・リトル・シスターよ、ナチュラルにお兄ちゃんの思考を盗聴するでない」
「それよりもノトスおぢさんが準備出来たって言ってたから顔を出してあげて」
「はぁい」
という訳でセンチメンタルな気分に浸っている暇さえないお兄ちゃんは部屋を蹴り出されて牧場に追い出された。愛されマスターであるみこっちゃんは牧場にしばらく顔を出していないと集めたモンスター達に心配されて揉みくちゃにされてしまう。はいはい、皆大好きみこっちゃんですよ。所で今俺のケツを撫でてるの誰?
横から飛んで来るデスペリアが集団を皆殺しにしている間に俺は抜け出し、そのまま湖の方へと向かう。毎度のことながらDLCダンジョンを攻略すると我が家の牧場は妙なトランスフォームを迎える。これがゲームだとわあ! エリアが変化したあ! で割と楽しい要素なのだが。
解るだろうか? 急にわあ! 牧場にあの世直行ゲートだあ! された人の気持ちを? 父さんも母さんも別に普段の駆間と変わらなくない? とかいう感想出たのであの2人は割と剛の者だなぁ、って思いました。ちなみに一般人はだいぶ苦しい。
所で邪神を世界中に放って安全地帯がなくなる……つまりどこでも勝負やモンスターが見られる環境になると、全世界駆間化と見て良いのだろうか? 良く考えたら普段からモンスターや人間や暗殺者や通りすがりの殺人鬼に襲われる環境に居るから邪悪の神がいきなり三丁目の角から現れても特にびっくりしないんだよね。豆腐買いに来た? って感じに世間話しながらリーサルを決める自信がある。
まあ、全世界駆間化計画は俺にはどうしようもないので、この話は全部東吾に投げる。俺には政治は解らないので頼れる大人に全部投げる。
そんな訳でちょっと肩が軽くなったのを感じつつ到着した鴉羽ファーム湖エリアは相変わらずでかい。Bランクに上がり知名度の上がった当ファームは戦地さながらの環境でモンスターが育つ、戦わなくても実戦経験が入る、PTSDにかかる等という事で評判になっている。
偶にアンチの情報操作によって命の危険があると言われるが、お前は正しい。そのまま正確な情報を発信してくれ。但し、危ないのはモンスターの命じゃなくて人の命の方だと正しく発信してほしい。
そんな口コミ危険度Sランクファームである鴉羽ファームの湖はもうそりゃあデカい。水棲系モンスターは大きな水場がないと生活ができないのはそうだが、いつの間にか拡張されている事もあって相当なデカさになっている。
水竜等の大型モンスターも大満足なこの大湖、一般人が近づくと餌かな? と勘違いした子にそのまま湖の底まであの世直行される事もあり、働いているスタッフでさえ気を付けないといけないデスレイクなのだが、なんと今度のアップデートによって更に拡張されたのだ。
湖正面から反時計回りに移動すると霧を抜けて何故か砂浜と港のある海に到着する。テラフォーミングというより完全に時空間が歪んだ結果としか思えないが、これはまだ序の口である。
湖を正面から時計回りに進むと……また、霧がかかって視界が一瞬ロード画面のように閉ざされる。それまでは牧場の草地を靴の裏に感じられたが、それがゴツゴツとした岩の感触へと変わる。
「話には聞いてたけど……」
霧を抜けるとその先には新世界が広がっている。
空は黒く、星空に満たされている。辺り一面は灰色に染まり、風の存在しない空間では湖面は一切揺れる事なく凪ぐ。その上には静かに鎮座する鋼の都市艦。
そして空。
遠くに見えるのは青い星。
地球だ。
そう、なんと鴉羽デスレイクが物理的に月の海と地繋ぎとなったのである。ついにスペース鴉羽ファームになってしまった。ロストエデン攻略したら鴉羽空中庭園でも出来るのかな……それとも牧場に鴉羽神殿が出来るのかな……どっちにしろウチの牧場が増々滅茶苦茶になってゆく。
そしてお気づきだろう。
今、月面にいるのに呼吸可能である事実に。
そう、ノアは月面を改良して人類でも生存可能な領域へと改造してしまったのだ。国際法? によると月面はどの国家も保有する事は出来ないらしいが……月を再生しテラフォーミングしたら所有権は主張出来てしまうのだろうか? ちょっと気になる。
「デッけぇなぁ……」
地上から見上げるノアは本当にデカい、この中を探索してたんだなぁ……という感心が湧いてくる。ほんの少し前の出来事なのに遠い昔のように感じるぜ。
と、ノアを月の海の横から見上げていると、ノアの方から歩いてくる姿が見えた。
「おーい! 大将ちゃーん!」
手を振りながら近づいてくるのはノトスとエデだった。しばらく事後処理やノアの管理のためにノトスをノアへ派遣させていたのだが、様子を見る限り上手くやれているみたいだ。一緒にいるエデは……まあ、ジュニアの子守か。エデ、若い子には人気なんだよね。お歌のお姉さん枠で。
俺もノトス達に手を振り返す。
良く見るとノトスの足元に何かいる。
……ミニノア?
眺めている間にノトス達が来ていた。
「いやぁ、見舞いに行けなくてほんとごめんね大将ちゃん。思ってたよりも大変な事になっていて」
「いいよ、いいよ。ノトスも大変でしょうし。俺もゆっくりさせて貰ってるし」
「マスター、お疲れ、様」
「エデもお疲れ様」
撫でてやろう。
そして足元を見る。
なんかプラモデル感のあるノアの模型? がホバークラフトみたいに地面から浮かんで走行していた。その後ろには同じように浮かぶホバーボード、そして金魚鉢とジュニアの姿が。
『疑問を提示される前にノア中枢電脳がお答えします。人の力を借りずに移動を行うためにオーナーを運ぶ為のミニノアになります。なお擬人化案は却下されました。提供された参考資料が邪でした』
アヘ顔ダブルピースの博士が全員の脳内に浮かび上がる。特に考えたくもないのに勝手に人の脳内に侵入してくるとエナドリを飲んで、そのまま合体装置に頭だけ突っ込んで吐き始めた。そろそろこのグロ映像止めらんないの? あ、消えた。毒電波って月まで届くんだなぁ。
「ぴゃ!」
金魚鉢からにゅっと顔を出したジュニアは元気よく挨拶するとニコニコオーラ全開で挨拶してきてすり寄ろうとして……それからフリーズする。
「ぴ……しゃー!」
それから少し威嚇すると金魚鉢の中に飛び込み、金魚鉢の中からこっちを睨んでる。そんなぁ……ってそうか、海王に止めを刺したのは俺だったな。
ちょっと悲しいかも……そう思いながらとぼとぼ金魚鉢から離れるとにゅー……とジュニアが悪いことしたかなぁ……? でもなぁ……うーん……みたいな顔をして出てくる。
凄く良い子だこの子……! 心配になるぐらい良い子だ!!
がさごそがさごそ。
4次元ポーチに良いもんがあった筈だ。ちょっと手を突っ込んで漁ると、子供モンスターと遊ぶ為の玩具が出てくる。チビ(無印初代)と遊ぶのに使った猫じゃらしのような玩具だ。
先端には疑似餌が付いていて、これを子供の前に吊るすと興味津々!
金魚鉢の外をなぞる様に疑似餌を動かすとジュニアの視線も頭もそれに合わせて動く。縁まで持っていくとジュニアも金魚鉢の縁まで上がってきて……ぱく! 噛みつこうとする。それを回避し、ちょっとした攻防を経てからジュニアに噛みつかせると、頭をぶんぶんと振って噛み付いた戦果を誇示する。
「ぴゃ!!!」
「可愛いなぁ」
「若様は遊び盛りだからなぁ。一緒に遊ばせる相手をどうするか……って問題もあるんだけどね」
エデに玩具を渡すとエデがジュニアとオモチャで遊んでてくれる。先程まで俺を睨もうとしていた姿はもうなく、完全に忘れて玩具に没頭してた。
これが将来の2代目海王かあ。
「まあ、ジュニアは生身だからね」
『はい。情操教育と健全な精神の成長のため、積極的な交流が推奨されます。ですが現状、立場を考慮すると様々な問題があり、解決を必要としております』
「大将ちゃん、この事に関しては大将ちゃんとも相談したいんだよね」
「俺で力になれるなら幾らでも」
ぽん、と白紙の物語を手の中に出現させる。取り敢えずノアを巡る戦いは終わったのだ。なんかあるかと思ったが、白紙は満足したのか沈黙している。アレで良かったのか……?
まあ、いいや。
「で、何をすればいいんだ?」
俺の疑問にノトスは腕を組みながら長い溜息を吐いて、こう続けた。
「なんというか……色々だな。ほんと、色々」
そう言うノトスの姿に、しばらくは忙しくなりそうな気配を感じた。