【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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誰かぁ!!!!

 俺達の思いついたこのアイデアに対して、有識者である館長はあっさりと答えた。

 

「あ、出来るよ。というか態々合体させるより”ノアというダンジョン”にしてしまうのが一番楽なんじゃないかな? 事前準備が色々と必要になるけど、ノアだったら比較的に簡単に成立させられると思うよ。そうすればノアに丸ごと当時の状況を再現できる筈だね」

 

 流石開発者は格が違った。俺達があーだこーだ頭を捻ってた事に対して一瞬で答えを出してくれた。やっぱこういうのって素人が考えちゃ駄目なんだなぁ、ってのが良く解った。ミニノアを含めた皆で世界一モンスターに関する事で詳しい館長にこういう事出来ない? って話を聞いたら一瞬で答えが出てしまった。

 

 やはり図書館。困ったときは図書館。とりあえず図書館。図書館に行こう! 来ました。

 

「そもそもノアを満たすぐらいのモンスターを用意するというのがちょっと非現実的だからね。そうなると環境そのものを過去に近づける……って考えになるからやっぱりダンジョン化させて当時の乗組員たちをモンスターとして呼び出すのが一番楽だと思うよ。深海にいた頃はダンジョン化していた筈だけど……今はどうかな、ノア?」

 

『現在、当艦は浄化プロセスを経てダンジョン化を解除しています。再ダンジョン化処理を行うには危険性がない事を証明しなければなりません』

 

「ノアの生命保護コードだね。ノアに対する危険性のある改造行為は認められないっていう」

 

 館長がちゃき、と眼鏡を持ち上げた。俺達はその仕草を見てあー、やる気スイッチ入っちゃったかあ、と諦めモードに入る。ミニノアは完全に受けて立つという様子だし、俺とノトスは静かに館長から離れる。

 

「かーわーいーいー!」

 

「2代目様ですかぁ? 元気ですねぇー」

 

「おやつをお持ちしましたよ。お食べになりますか?」

 

「ぴゃ!」

 

 その頃ジュニアは従僕達に囲まれて滅茶苦茶構われていた。初めて来る幻想図書館の姿に目を輝かせているのもそうだが、見るもの、行くところ全てが未知ばかりで何もかもが楽しいというのがジュニアの表情からは見て取れた。まあ、楽しそうにやっている様で良かったよ。俺とノトスは後方保護者面で腕を組みながらうんうんと頷く。

 

 館長がノアの説得とノアの再ダンジョン化に着手するなら、ノア運用に関する話は片が付きそうだ。後は……人類側にこれをまともに運用させるだけか。

 

 1番難しそうな所だな、それ……。

 

「童話持ってきました! カイルスときのみは名作ですよ!」

 

「私達の世界の童話で良いんですか? ここはこっちの世界の童話を読み聞かせましょうよ。という訳でかちわり太郎を持ってきました」

 

「なんかおかしくないですかその童話? それに今の時代、童話を読んで喜ぶ子供なんているんですか? ネットに簡単にアクセスできる時代なんです、やはりアニメを見せるのが情操教育に1番なのではないでしょうか?」

 

「持ってきましたよ! 糞アニメ15選!」

 

「追放しなさい」

 

 ジュニアの教育は従僕達に任せても大丈夫そうだなぁ。唯一の懸念点はそもそも図書館自体が結構平時で忙しくしてるからこれ以上圧迫させるようなタスクを抱えさせたくないという所にあるのだが……館長が楽しそうにしているのならまあ……大丈夫かな……?

 

「いやあ、ジュニアの将来は明るいね」

 

「本当に? 本当にそう? いや、頼もしいんだけど……」

 

「大丈夫、大丈夫。仕事はきっちりかっちりしてくれる人達だから」

 

 俺はこうやって準備が出来たノアをどうやって人類に紹介すれば良いのかなぁ、という所に頭を悩ませ……いや、やっぱブライアンとか国木田に全投げすれば良いか。だって俺学生だし。人類への貢献とか考えるにはまだ若すぎるし。だから後は頼んだぜ! グランドマスター共!

 

 爆弾はやっぱり大人に投げるに限る。それを心の中で決定すると多少気持ちが楽になる。これで今、対処しなければいけない事はだいたい終わった筈だ。

 

 少し気分が楽になった所で適当な椅子に座り、やり合う館長とミニノアや、おねショタサークルが形成されつつあるジュニア周りを眺める。この世界もまだまだやれる。

 

 頑張る人はいるし、なんとかしようという人もいる。何も皆今の柊本家連中や、ノアを理解せずとも欲する連中ばかりではない。今を良くしようとする人だっている。

 

 だけどその裏で犠牲になる人もいる。そして俺はその犠牲側であり、犠牲を強いる側でもある。正直、倫理を抜きにすれば教団側の、酒クズの主張は解る。人は当事者にならない限り火が燃え移っていると解らない。全身に大火傷を負ってから漸く燃えていたのだと理解する。

 

 だけどあの海王による水害でもまだ世論は危機を理解していない。何でもあの事件で一般人相手にも死人は出ているらしい。それでも嘆くのは国の怠慢と対応の悪さだ。そんなの嘘だ。あのマスター達は皆頑張った。全力を尽くした。出来る力で出来ることをした。それを責める事は誰にも出来ない筈なのに。

 

 それでもこういう人の事を見ていると。

 

「疲れるな……」

 

 ん?

 

「……?」

 

 思ってたよりも低い声が自分の喉から零れた事に驚いた。俺、こんな声を出せるんだなぁ、なんて思って驚いているとなんか周りが静かになっていた。気づけば視線も集中している。ちょっと驚きながらピースサインを浮かべるとガシ、と肩を掴まれた。

 

「マスター、大、丈夫?」

 

「ん? 大丈夫だよ。そんな心配する程の事じゃないよ。それよりもジュニアの」

 

「大将ちゃん、最近入院続きだったでしょ? 気分転換とかどーよ」

 

「いや、寧ろ入院続きだったから仕事溜まってるし」

 

「お菓子お持ちしました!」

 

「書籍お持ちしました!」

 

「癒やし効果抜群の海神です」

 

「ぴゃ?」

 

 金魚鉢握らされた。金魚鉢から頭を出すジュニアが首を傾げてぴゃー? としてる。とても可愛い。チビと張り合える可愛さをしている。だが俺はジュニアから見ると親の仇なんだよね。あまり仲良くしない方がいいかもしれない。

 

 お前だって親殺しとは一緒に居たくはないだろう? 俺だったらそうだ。だから金魚鉢を返そうとしたら、ジュニアがじーっと此方を見つめてくる。

 

「ぴ」

 

 かぷかぷかぷ。

 

 歯を立てないように金魚鉢を持つ手にジュニアが噛み付いてきた。流石に甘噛みだと解る。急にどうしたのだろうか、と思ったが……気を使われているのだと直ぐに理解した。

 

「尊くん」

 

 館長の声に視線を向ける。

 

「尊くんは最近、大きな戦いを経験したし、喪失もあった。そういうものを受けて疲れたり見失ったりするのは別に恥ずかしいことでもなんでもなくて、普通の事なんだよ。無限に走り続けられる人はいないんだ」

 

「でもそんな余裕はないしなぁ」

 

 今も世界は危機に瀕している。その事実を本当の意味で理解する者はそう多くはない。だから理解してるやつが戦わないといけない。

 

「それに適度に息抜きしてますよ」

 

「そういう事じゃなくてさ……尊くんは所謂心のエネルギーが枯渇してきてるんだ。最近色々とあってそれがストレスになってるんだよ。普通ならもっと早く限界を迎えてるんだけど……」

 

 ……まあ、自分も段々と精神的な強度が落ちてるのは自覚している。前までならこれぐらいで疲れたとは感じなかっただろう。人に対する考え方が自分の中で変わってるのを感じる。

 

「こういう時は仕事から離れるのが吉です! 私達はサボりと遊びのプロですよ!!」

 

「それはアンタだけです」

 

「私達は仕事に生き甲斐を感じています! ビバ仕事! ブラック労働万歳!!」

 

「サービス残業エブリデイ!」

 

「年中無給!!」

 

「ごめんね……ごめんね……」

 

 館長が崩れ落ちちゃった。まあ、図書館はその立場上休む事が出来ないからしょうがないと言えばそうだ。

 

「大将ちゃん……人生はメリハリが大事だぜ? やる事ばかりじゃなくてオフシーズンも作らなきゃな」

 

「ちゃんと休んだり遊んだりしてるから大丈夫だよ。心配しすぎー」

 

 んもー。

 

「毎週日曜日は久遠とデートしてるし、1日1時間ぐらいは休み時間もあるよ。心配し過ぎだよ」

 

「ちょっと不安を覚えてきた……」

 

「鴉羽様? 1日のスケジュールを書いてくださいますか?」

 

 従僕に紙とペンを渡されたのでおおざっぱなスケジュールを書き出す。

 

 週日スケジュール

 日の出前に牧場管理

 日の出あたりに終わってシャワー飯

 8時前に久遠と灯と登校

 3時に学校おしまい

 10分後には協会でランクマフリマ

 5時には帰って牧場管理

 7時飯風呂

 8時宿題勉強

 9時フリータイム

 10時就寝

 

「せ、青春が日曜のデート以外で燃え尽きてる……!」

 

「放課後遊んだりしないのですか!?」

 

「最近は仕事も貰えるようになって忙しいから……」

 

 大人達が頭を抱え始めた。いや、でも、ほら。社会に出たら大体そんなもんじゃない? 休みの日って体力回復する為のもんだし。自由時間少なくてもやるべき事が回るならそれで良くない? モンスターの相手してるのも楽しいし。

 

 あ、こら、誰だ、誰に電話してる? 今すぐその電話を切りなさい! さあ、早く! 嫌な予感がする!

 

 あっ。

 

 だだだだだ、と廊下を駆け抜けて登場したのは我が恋人の姿であった。もう来たの? ワープ開いてもらったの? 早くない?

 

「私の男が限界を迎えそうだと聞いて」

 

 じと目で俺を見る久遠を前に笑顔で応える。

 

「そんなこと」

 

「良し! 貴様は今月はバトルも仕事も禁止だ! たっぷり甘やかしてやる! こっち来い! イチャイチャするぞ!」

 

 あ、待て、待って、今大事な話し合いをしてるの。館長も笑顔で手を振らないで。問答無用なの? でもね、今忙しいからちょっと後にしようよ。ね、待って、ほんと引っ張らないであ力強。

 

 誰か!

 

 誰か!!! この目は本気だ!!

 

 捕食されるから!! 誰か!!!!

 

 誰かぁ!!!!




 フリータイム(チビを含めたメイン勢と1:1で交流する為の時間)
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