「―――という出来事が最近あって」
「え、ヤったの!? ついに!? 赤飯炊く!?」
「炊飯器どこから取り出したんだよ。やってねぇよ。責任取れる年齢じゃないだろ常識的に考えて」
「いや、割とやりたい盛りだろ俺達の年齢って。もう出来てる所は出来てるぞ」
ほえー……なんて事を話しながらクラスメイト達とベンチに座ってソフトクリームを食べる。
海王戦を経験し、1か月病院でこん睡状態を経験し、合同葬儀やらなにやらが終わる頃にはもう既に6月に突っ込んでいた。悲しい話だが進級直前に海王事変が起きた影響で俺は高校2年へと上がる為の始業式に参加できなかったし、まともに授業を受ける事も出来ていなかった。
それでもちゃんと単位が取れているのは日ごろから授業でちゃんと点数取ってるのと、駆間では学生が長期欠席する時、モンスターに関連する理由であればその証拠を提出をすればその分の単位をくれるシステムを採用しているからだ。
まあ、世界救ったのに単位くれなかったらキレる要素ではあるよね。
夏休みに入った所で牧場の仕事はなくなるどころか利用者が増えて忙しくなるのだが、久遠を筆頭として色んな人達からストップを突きつけられてしまった。ここ数年は最初の頃と違って牧場が広くなって、利用者も、利用モンスターも増えて来た。だから俺が牧場に居る方が何かと安心できると思うんだが……。
―――いい加減大人のフリしてないで、子供らしく遊んで来なさい。夏休みよ。
と、母さんにケツを蹴られて家を追い出されたのだからもうしょうがない。久しぶりに普通の夏休みを堪能する事になった。都市に行けば普通に皆にも会えるし、ちょっと連絡入れて遊ぼうと誘ったらなんかいっぱい釣れてしまった。
「なんだよ、お前ら何時進展するんだよ」
「何時……って言っても最低限卒業してからだろ。ちゃんと責任取れる立場にならないと人としてダメだろ」
そうクラスメイトに告げると、連中は顔を見合わせて俺の肩に手を置く。
「みこっちゃん、今どきの高校生でそんな我慢できてる奴はいない」
「現実を教えよう。彼女持ちは大体デキてる」
「馬鹿な……」
「こういう姿見てると凄い不安覚えるんだよな、みこっちゃん。お前のその貞操観念の硬さ一体どこから来てるんだ……?」
だってさ、愛しい人って宝石みたいなもんだぞ? それを自分の指で触れるのってやっぱ躊躇しちゃうじゃん。なるべく綺麗でいて欲しいじゃん。黄泉の穢れで満ちてる手で触れるなんて以ての外じゃん。鴉羽尊なんて本当は実在しない様なもんなのに。だから我は我、その一言が口から出せる日まではなるべく触れないでおきたい。
……のだが。
「最近限界を感じつつある」
俺がそう呟き、俺達の視線はアイスクリーム屋へと向けられる。トラック式の移動アイス屋さんは天井に銃座が設置されている戦地改修されている本格派アイスクリームトラックだった。今、女性勢がどれを食べようかと相談しながらメニューを10分ぐらい眺めている。
俺達は一瞬で選んでしまったので先にソフトを舐めながら待っている。
メニューを眺めて何を食べるか吟味している姿の中には当然久遠の姿もある。此方の視線に気づくと片手でひらひらと手を振って来るので、此方も振り返しておく。これだけで幸せになれるんだから俺ってコスパ良いよなぁ。
「話を聞こう」
「お前にはキリキリと語る義務がある」
「はよ話せ」
「今すぐにだ」
「圧がすげぇなぁ」
まあ、話すけど。いやね、なんというかね?
「俺達もう高校2年じゃん」
「せやな」
「そだね」
高校2年ともなれば歳だって16とか17歳だ。久遠は誕生日を今月控えているのでまだ16だが、近いうちに17になるだろう。そして17にもなればティーンズも終盤戦に入るわけだ。
来年は高校生活最後になるだろうし。俺達は今、大人への階段を登っている訳だ。数年もすれば成人するってのは結構遠く思えて案外近い話だ。でも大人になるってことは体もそれ相応に成長している、という話でもある。
「あの、最近はめっきり仕草や体付きの女らしさが強くなってきたというか……!」
全員で久遠に視線を向けた。初めて会ったのは小学生の頃だったな。アレからもう何年になるんだろうなぁ……一緒に居るのが当たり前になってしまった。
あの頃はクール系って感じが強かったし、今も顔の造形を見ていると綺麗系のクール系って感じが強いのだが、ふとした瞬間に凄い女を感じさせるというか……歳と共に女らしさが上がってきた影響もあって振り返った瞬間に美しさや艶っぽさを感じる時がある。
この話、他の連中には絶対にできないな……。
「今日はポニテか……健康的なうなじがとてもグッドだね」
「胸もある方だよな?
「そもそも顔のパーツが良いもんな。アレで中々笑わないのがな……と思ってるけどみこっちゃんには笑顔を見せるんだろ? ぶっちゃけシチュだけでエロいだろ」
「目玉引っこ抜いてやろうか」
やーい独占欲やーい! からかわれたので対抗して銃を抜いて突きつけた。全員即座に頭から久遠を集中して見た記憶を消してくれたからとても助かるよ。物理的にその首の上のHDDを破壊する手間が省けたよ。
サイレンサー……? そんなもん駆間にはありませんよ。
「なるべくチビかララの死体を連れ回す事で俺はその手のムードを回避してきた。コイツラは空気読めないし死体があるとどう足掻いてもそんな空気にならないからな」
「力技にも程があんだろ」
「死体を持ち歩くな馬鹿」
「だけど……最近は割りと誘惑してくる事があってぇ……」
激詰めされた。一瞬で横の距離を滅茶苦茶に詰められてスクラムを組まれた。キュイーン! と光ってバリアみたいなものまで張られた。
「これは一体」
「俺が目覚めた異能……防音結界だ。男子だけで集まって猥談をする時女子からは内容が一切聞こえなくなる効果がある」
「カスの異能」
「そんなもんに目覚めるな」
「どう使うんだバカ」
「今だよ!」
「最高の力」
「天才か?」
「お前が王だ」
「バカばっか」
で、話の続きは? と促される。なんかこういう話をするのは恥ずかしいな……。でもそうだなぁ、共有出来るエピソードとなるとなんだろう……。
「壁に追い詰められて至近距離で見つめられるとか……」
「男女逆転してんじゃん」
「壁ドンかよ」
「然りげ無いボディタッチが多いとか……」
「これは卑しい」
「独占欲を感じますね」
「外泊を誘われる」
「火の玉ストレート!!!」
「性欲抑えきれてねぇだろ!!!」
「寧ろここまで来て良く久遠ちゃん耐えられてるな」
「褒められるの俺じゃないのか???」
なんだよ、皆女の味方かよ。いや、はい。俺が悪いです。でも未成年なのにそういうのはあんまり良くないと思うんですよ? 責任取れる立場とかあるじゃないですか。まだ学生っすよ、学生。それに家には家族とかいるし……。
「いや、金あるんだから外泊用の家とか買ってみたら?」
「露骨過ぎて逆に反応に困るだろそれ」
「えー、セレブとかどこもそんな感じじゃん」
「実際のところさあ」
ちよっと切り出す。
「そういう空気になったとして……どうするの? どこ行くの?」
「む」
男子組で腕を組みながら、その質問に首を傾げる。俺達は学生だぜ? 実際の所でチャンスがあっても家族とかいる訳だから家とか使えないじゃん。どうすんの?
「俺はダンジョン使ったけど」
「上級者!!!!!」
軽く引いた。皆引いた。流石に初手オープン臨死体験は酷くねぇか? それともスリルとかを求めてたタイプ?
「いや、そうじゃねえよ。サキュバスのお店知ってる? アレのダンジョン版だよ。ダンジョンは時空が歪むだろ? だから外泊をする、だと怪しまれる。だけどダンジョン攻略してくる、だったらちゃんと活動記録残る上で怪しまれないんだよ」
「へぇー」
全員揃って感心の声でハモった。確かに急に外泊する事になったら怪しいもんな。でもダンジョンなら数日いなくなったところで違和感はない。これは完璧なロジックですよ。
「ちなみに場所も定期的に変わる。街中のダンジョンが何時までも残ってたら怪しいからな。だけどダンジョンボスのサキュバスクイーンは裏では市長と繋がってて見逃されてるんだ。駆間市内の性産業は割りと重要だからな……」
「あぁ、うん、はい」
「産めよ満ちよ推奨都市だからね」
まあ、それだけ毎年死人出てますからね。なおこのダンジョンそのものは警察が場所を把握しているので、教えてもらえるらしい。別にひっそりしてるものでもなく暗黙の了解みたいな感じなのかな。
しかしマジで賢いな……人間のエロに対する知恵の回し方はほんと尊敬する。
「というかお前彼女いたんか……」
クラスメイトにいつの間にか彼女が出来てた事実に驚いているとピースサインを浮かべられた。
「隣のクラスの愛加さんいるよね?」
「あー、いるいる。あの大人しめの子! なんだよ! 良い子じゃん!」
「ダンジョンに誘われたから付いて行ったら例のダンジョンだった。そのまま捕食コースさっ……!」
俺達に……俺達男に人権はねぇのか!!! どうしていつもこうなんだ! 俺達が何をしたっていうんだ!!
「ミコト」
「ん」
名を呼ばれたらアイス片手の久遠の姿があり、片手を広げていた。求めるものは何なのか解っているので、立ち上がってソフトクリームを握ってない腕を渡すと、そのまま胸の間に挟むように抱かれた。
「良し、次の現場へと向かうぞ貴様ら」
「強い」
「流石覇王様」
「夜月さんつえぇ!! みこっちゃんを狙う女を皆殺しにしようぜぇ!!!」
久しぶりにクラスメイトで集まって遊んでる気がする。ここ最近は……というよりランクが上がるたびに忙しくなっててこういうのをすっかり忘れてたな。楽しいな、そう思いながら俺達の夏休みが始まる。