「プロはご利用いただけません、おとといきやがってくださぁーい」
「どうしてだよおおおお―――!!!」
傲慢エリア、バトルキャッスルと呼ばれるバトルの為の施設、受付の前で俺は膝から崩れ落ちた。最後の希望を残して受付の上に腕を張りつかせているが、受付の女性がバールを使って俺の手を引き剥がし、そのまま俺は滑り落ちて床のシミになった。
「どぼじて……」
「昔はB以降のプロの方々にもご利用いただいていたのですが、あの人たち当然のように8時間ぐらい施設を占領する上に身内で集まってやるので他のお客様が利用できない困ったお客さんになるのでご利用いただけませぇーん。金があるなら自分の土地でモンスター揃えてやってくださぁい」
あまりにもストレートなド正論で何も言い返せなかった。確かに自分の家でやれば良いんだろう……でも用意してやるのと用意されたのをやるのでは全然面白さが違うんだよ! イベントは運営するんじゃなくて参加する方が楽しいんだよ!
勝ったらランダムに選ばれた対戦相手とモンスターを交換しながら進んで、10戦ごとにボスマスターとの対戦、50で大ボスとの決戦があるこのシステム、滅茶苦茶既知感あるけど沼としては完成されていると俺の本能は言っている……アンナに連絡してこのシステムをうちのゲームに導入できないかここの責任者と交渉させよう……沼をゲームの方にも導入させるんだ……ランクマ以外の遊びがあっても良いだろうし……。
「うぇぇぇぇーん」
「あーあ、みこっちゃん泣いちゃった」
「医者家族友人恋人全員からバトル禁止令出されて飢えてたからね。脱法バトルできるかと思ったらダメだったし。完全にアルコールの切れたアル中の状態なんだよね」
床をずるずる這い回っていると久遠に回収され、近くに椅子まで運ばれ、膝枕される。
「貴様らは遊んで来い。私はこっちのアトラクションを楽しんでおく」
「はーい、久遠ちゃんも楽しんでー」
クラスメイト達が早速バトルキャッスルに挑んで行く。中にはCランクの奴もいるしまあ、良い成果を出してくれるだろう。基本的に駆間人は全員バトルが出来る戦闘民族だ。なのに俺だけあそこに参加できていない。しくしくしく。そろそろバトルしたい。対戦したい。ゲームだけじゃ満足出来ない体になっちゃった。
ぽんぽんと久遠に頭を撫でられながら膝の上に頭を乗せて横になっている。俺もすっかりと変わってしまった。出会った当初はこの女の事が嫌いだとさえ思っていた筈なのに、今じゃこんなに甘えるようになってしまった。
人間どういう風に変わって行くのか……本当に解ったもんじゃないな。
施設内のスクリーンに視線を向けるとそれぞれ3体のモンスターをレンタルしたクラスメイト達が用意されたスタッフと対戦し始める。勝利すると相手が使っていたモンスターを選んで交換、これを繰り返して構築を強化しながらボスに挑むという流れだ。ランダム性は高いが、戦略性もある面白いルールだと思う。
イライラ要素も多そうだけど連勝スコアは自慢できるだろうなあ。良いなあ、俺もやりたかった。
「……」
「……」
「なあ、久遠」
「どうした」
「俺……負担になってない?」
面倒のかかる男じゃないか、俺って。情緒は良く解からないし、何時も勝負してるし、救世主なんて呼ばれてるけど……結局の所は運命の奴隷だ。成すべき宿業が存在し、それを果たさない限り未来がないというのなら救世主なんて言葉、運命の奴隷でしかない。たぶん俺は、生まれる前から運命の奴隷として存在し続ける事を望まれた存在なのだろう。
そうじゃなければこれほど多くの試練が用意されている訳がない。
そして俺が騒動の中心だとすれば、そこからあふれ出る禍は周りにも及ぶ。久遠もまた騒動に巻き込まれるポジションにいる。今はまだ何もないが、久遠の体質と教団がそろそろ動き出す事を考えると……時期的に、そろそろ始まる頃じゃないだろうか。
ダンジョン召喚による都市部へのテロは。鴉羽ファームは最近雇った黄龍クラマオウサクヤヒメと合わせて警備は万全だし、近くにはドラゴンズバレーの目もあるから邪神連中が入り込んでくることはない。日本という土地全体が今、竜王ラグナロクの無意識の感知範囲内にあると言って良いだろうし、ラグナロクが寝ていたとしてもドラゴンズバレーの竜たちであれば駆間周辺地域に何かが足を踏み入れればそれを察知する事ぐらいはできる。
だからうちとその周りに関する安全に関してはそんなに心配していない。
それでも俺が越えなきゃいけない試練や嵐に、巻き込まれるのは嫌気が差すんじゃないか? やっぱり俺なんかと一緒にいない方が良いんじゃないか?
そう思って見上げると久遠は微笑んだ。やはり、彼女の微笑んだ顔は綺麗だ。
「私が貴様と居て、それを煩わしいと思った事は1度としてない」
「そっか」
まあ、久遠がそう言うのならそうなんだろう。少なくとも俺は久遠が嘘をついた事を1度として見た事がない。久遠以外、見える人が既に人の姿をしているようには見えない事もあり、少しだけ頭が疲れた。だからちょっとだけ休む為に目を瞑る。
それからクラスメイト達がバトルを堪能してハイスコアを出すまで少し休んで、終わったら傲慢エリアを出る。
続いて色欲エリアどうしましょうね? という意見は強制連行される形で意見が封殺される。意外にも色欲エリアは地上にあるのではなく、地下に存在するエリアとなっていた。まあ、当然色欲なのでそういう系統のエリアだと思っていたのだが。
「意外としっかりしてるな」
「まあ、風営法があるからね」
「法律には勝てなかった」
ちょっとピンクかなあ! って感じはするけど、カップル向けのエリアって感じが強いエリアになっていた。恋人との絆の強さを確かめるアトラクションや、相性診断、結婚相談所なんてものまでセットされているほか、パートナー診断にマッチング施設まであった。
テーマパークという括りだからか意外と来ている客層はまともっぽく、恋人連れで回っている姿が良く見られる。これなら恐れる程じゃないかもなぁ、と思っていると久遠に引きずられ、そのまま相性診断の館に連れ込まれる。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、ワシは相性診断士、汝らの相性を診断しよう……むむむむ! むん! 汝らは今すぐ別れた方が良い! その少年はカスだ! 精神的支柱が完全に少女の方に寄りかかっている! 精神的な寄生虫だ! 手放せない限り負担を強いられるじゃろう!」
「それを楽しめてこそ、愛というものだろう?」
「違うぞ! それはDV慣れしているだけじゃ! 悪い事は言わない……別れた方が良い! 今すぐ別れるべきじゃ! どれ、相性の良い相手を探してしんぜ―――」
言い終わる前に怒った久遠に連れ出されてしまった。
「こんにちわ、オリチャー夫人と名乗るものよ。今日、この店には消えて貰う事にしたわ」
「はい?」
出た後なんか後ろから悲鳴が聞こえて振り返ろうかと思ったけど久遠がぷりぷり怒りながら手を引っ張るので振り返る事無く相性診断から離れてしまった。言ってる事に間違いはないし……って俺は思うんだけど、久遠の怒りには触れちゃったみたい。
そのまま、先ほどの意見を上書きする為にか久遠が幾つか相性診断を行う施設へと向かう。
だがどれを利用しても結論は変わらず、俺が久遠に頼り過ぎている。寄りかかり過ぎている。久遠には自分で立つだけの力がある。一方的に寄りかかられる関係は健全とは言えないと言われてしまい、怒って色欲エリアから俺を連れ出してしまった。
俺は寧ろ相性診断のそういう評価の仕方に感心していた。人を見る目は確かにあった。だけど久遠が欲しいのはそういう言葉じゃないのだろう。
ぷりぷりと怒っている久遠を宥めつつ地上に戻って、気晴らしに強欲エリアまで戻ってショッピングする。そうしているうちにいつの間にか空は暗くなり、脳内に念話でドラゴン達がもう暗いぞ、そろそろ帰らないか? 心配だぞ? 暗いと危ないぞ? という念話メールが届くようになる。
まあ、でもせっかくここまで来たのだから最後に見なくてはならないものがある。
そう、ナイトパレードだ。
大型遊園地ではお馴染みのイベントだ。園内を一周するようにパレード車が進み、煌びやかな姿と軽快な音楽を鳴り響かせながら夢と希望を与える素敵なパレード。
夜になったらまずこれを見なくてはならない。そうしなければ来た意味がない。なのでドラバレのドラゴンズとミスト姐さんにはもうちょっと待ってもらうとして、俺達はパレードを目撃する事にした。
先頭車両、磔になったディザイアー君の姿。
二車両目、ディザイアー君の横領の公開。
三車両目、ディザイアー君が吐いた嘘の開示。
七罪をコンプするディザイアー君の罪の公開処刑パレードだった。始まった所からディザイアー君……とその中の人がコンプした罪を処刑しながら公開するという斬新すぎるパレードにやって来た子供たちは全員そろってギャン泣きするかきゃっきゃと笑いながら火をもっとくべろと叫んでいた。
このテーマパーク治安終わり過ぎてねぇか?
電飾ではない燃え上がる罪によって照らされる園内は炎によってライトアップされこの世の地獄という見慣れた景色を演出してくれる。
『皆―――! ディザイアー君の処刑に手を貸してくれるかな―――!?』
スタッフやパレード車で踊ってる着ぐるみたちが降りて来てボールを手渡してくるのでそれをそれぞれの車両のディザイアー君に投げつける参加型イベントだ! 責任者を呼んで来い! え!? 最近話題の劇作家にイベントとかの企画を依頼してるの!? 首にしろそんな奴!
流れて行く移動式処刑場を眺めながら見に来た価値はあったかもなぁ、と思いながら炎に照らされる久遠を見る……どうしよう、本当なら電飾とかパレードに照らされてロマンティックな雰囲気の筈なのに、中世の処刑場に迷い込んだ気持ちにしかならない。
欠片もロマンティックな気持ちにならない。締めに何かロマンティックな会話をしたかったのに、欠片もそういう気分になれない。
許せねぇ、名も知らない劇作家……!
燃え盛るディザイアーくんがキャッスルに連行される処刑パレードを俺達は最後まで眺めつつ、クラスで夏の思い出を残した……。