「開発完了! 水迫撃砲だ!」
「よくやったジャック! よし、早速配備しろ!!」
「みこっちゃん! 第1防衛ラインを突破されたよ!」
「電気ヒトデを起動させて足を削ぐんだ! そこにこの水迫撃砲を叩き込め!」
「おー!」
数時間の戦いの末、ビーチの戦国乱世を勝ち抜き天下統一を果たした俺達を待っていたのは駆間ビーチの王者、サマーデスキャンサーと呼ばれるモンスターの襲来だった。この縄張りバトルのフィナーレを飾るように出て来たサマーデスキャンサーは大量の眷属を連れてくるとビーチを新たな領地とする為に襲い掛かって来た。
こうなってくるとビーチに来ているキチガイ達が一丸となって抵抗し、撃退するしかない。天下統一を果たしたビーチ略奪王としてトップに立ち、ジャックというズルの化身にビーチ防衛用の新兵器を開発させつつ、クラフトで防衛兵器を作ってそれを配備し、デスキャンサーとの防衛戦が始まった。
海岸線を埋め尽くすように現れるカニの群れに対し、ビーチに集まった非常識と頭のおかしい連中が戦いに行く。前衛がそうやって戦っている間に防衛兵器の配備を進め、今、設置した電気ヒトデが稼働した事で相手の動きが鈍った。
「迫撃砲……着弾ッッ!!」
ぼこん。
水の塊としか表現できない水球が迫撃砲から放たれると眷属達の頭上から落ち、爆発する。その衝撃に1メートルを超える巨体を持つキャンサーの眷属達が吹き飛びながらひっくり返り、吹き飛ばされた眷属達が海へと逃げ帰って行く。
「いいぞぉ! 時代は火力だあ!! もっと叩き込んでやれ!!」
「うら―――!」
電気ヒトデトラップ。水迫撃砲。近くで産卵していた亀シールド。通りすがりの人類抹殺ロボを解体して作った防壁。殺人鬼部隊。駆間レンジャー召喚。七海の色仕掛け。俺達とデスキャンサーとの戦いは熾烈を極めた。次々ジャックが開発する倫理観ゼロの兵器に対し、物量を使って攻め込んでくるデスキャンサー。
ついに最終防衛ラインに迫り、静観していたミストまでもがブレスを吐いて参戦。大決戦に発展する。
だがそれも長くは続かず―――数時間を超える大決戦の末、デスキャンサーは撃退され、駆間ビーチはキチガイと変人と危険人物の聖地として取り戻された。
その頃には既に日が暮れはじめ、夕日が真っ赤に世界を染め上げる頃となっていた。
ゲームセット。1日を騒がせたゲームは終わって、新しい騒ぎが始まる。
即ち。
「―――肉が焼けたぞ!」
じゅぅぅ、と音を立ててグリルの上でバーベキューが焼かれている。あっちこっちで同じようにバーベキューセットが広げられ、駆間ビーチ防衛戦に参加した全員が肉や魚を焼いて暮れる夕日とやってくる夜の闇を堪能していた。夜の闇がこの辺りを包むのにそう時間はかからない。
だがこのバーベキューの明かりは消えなかった。
「いやあ、実は本部では今凄い忙しい事になっててね」
もぐもぐと串を片手にジャックが語る。
「ノアで見たものを正確に報告しろ、技術を再現しろ、修理とはどういう事をした、とか凄い聞き出して技術を吸収しようとするんだ。正直ノアの存在は人類には早すぎると思うよ。アレが人類に手を貸すようになったら誰かが絶対に法か何かでノアを制限したり接収しようとするだろうね。え、可能かどうか? 無理なんじゃないかなあ。リアル変形惑星破壊ロボに勝てるものなんて地上にはないし、政治はそういうスーパーロボットに対応してないからね……」
「そもそも月のテラフォーミング進めてるノアのアレはノアの土地としてカウントして良いのかどうか今荒れてるって聞いたな」
「協会本部でもその話は出て来るね。月そのものをノアというダンジョン扱いするべきじゃないか? って話もあるよ。まあ、本部は今面倒な事になっているからリーダーは当分来ない方が良いよ」
「まあ、俺も行く予定はないから心配しなくても良いよ。面倒な事は嫌いだし」
グリルの上から串を1本手に取って齧りつく。不思議とバーベキューって別に複雑な事をしていないのに滅茶苦茶美味しく感じられるのはシチュエーションの妙だよなぁ。家で同じ事やってもこれほど美味しくならないと思う。
久遠が串の1つを持ち上げて刺さっているものを確かめる。そうだよ。先ほどビーチで暴れてた暴れん坊だよ。美味しく供養しようね。所で概念体である筈のモンスターが食用可能になってるのって一体どういう技術なんだ……?
いや、やっぱり考えるの止めておこう。館長辺り死ぬほど長い理屈を提供してきそうなんだけど多分俺の頭が追い付かない。
「まあ、そもそも本部のご老人方はリーダーを本部に絶対に呼ぼうとしないけどね。彼らは未だに柊剛三を恐れてるし、その再来も恐れている。圧倒的な才能を持つ個人がトップに立って再び全てを掌握される事を恐れてもいる」
まあ、と続く。
「リーダーの性格はだいぶ把握されているから、柊剛三氏みたいな事にはならないだろうとは思われてるかもね」
「安心しろ」
久遠が得意げな表情を浮かべる。
「私がいる限り、ミコトが道を見失う事はない」
「そういう事なので」
「ひゅーひゅー、お熱いねぇ。仕事が忙しすぎて出会いのないお兄さんとしては結構羨ましい話だよ……」
そう言った瞬間周りの女子が本部勤めで彼女なし……? と目に炎を宿しながら静かにジャックを射程に捉えた。おっとぉ、どうやらここは再び戦場に変わるらしいな。久遠、ちょっと河岸を変えようか? 皆のハンティングを邪魔するのも悪いしね。
という訳でグリルの上から何本か串を拝借し、少し離れる。
あっちこっちでバーベキューの火が見え匂いがする。ソースの匂い、焼ける肉の匂い、人の騒がしさが空気に馴染んで溶け込んでいる。文明の味だ。俺はこの空気が好きなのかもしれない。
少し離れたところでは七海が囲まれていて助けを求めている。手を振って見捨てる。ごめんな、今は久遠と一緒だから。
久遠と一緒に歩き回っていると、少しずつ皆の輪から離れる。ちょっとバーベキュー会場から離れ、喧騒が比較的薄くなった所にヤシの木を見つける。
ん? ヤシの木? なんで? 思って軽く小突くとそれがヤシの木を背負ったモンスターなのが解る。良さげなスポットだし少し借りても良いかい? そう聞くとヤシの木を背負ったゼリィはぷるぷると震えて体を砂浜の中に戻した。ありがとう。
久遠と確保したこのヤシの木の根本に座り込み、持ってきたバーベキュー串に齧りつく。
「うん、美味しい」
「中々だな。うむ」
なんか良く解らない肉に知らん魚、あと見たことのない野菜。全部知らんもので構成されているけど食えるんだなぁ、という不思議な気持ちがあった。もうちょい気にするべきでは、という意見もある。
だけどそんな細かいことに気を使っていると駆間では生きていけないのだ。
持ち込んだ串を平らげたら離れたところから聞こえる喧騒と波の音をBGMにゆっくりとした時間を過ごす。ここしばらくはバトルも仕事もないからこういう時間が過ごせる。今までずっと全力疾走してきたんだな……というのを解らせられる。
「ミコト」
「ん?」
「貴様、今日は何人の顔が見えた?」
久遠の質問に夜空を見上げながら答える。
「久遠以外は皆見えないよ」
「やはりか」
「うん」
はあ、と溜息を吐いた。
「復元治療されたけど駄目だった。ドラゴン達によるとこれは精神的な物が理由、どれだけ物理的に治療しても意味のないものだって話だ。結局は俺の心が招いた問題なんだ」
解る。
致命傷は酒クズの死だ。
アレを見てから一気に悪化した。解らない。隣人であるはずの死を見ただけなのに。自分の感情と考えに理解が届かない。お陰で久遠や灯、家族以外の顔が一切見えなくなってしまった。
これだけ見えるのは……たぶん心の底ではこれだけが俺の根幹とも言える大事なものだから、なのだろう。だから写真で顔を思い出して、それを体の揺れや感情と結びつけて顔のモンタージュで想像している。
が、これも結構疲れる。
だが見えない顔を直視するのが一番疲れる。
「ミコト」
「ん」
「貴様は気づいていないだけで、既に答えは出ている」
「……答え」
「だが、その答えは教えられた事ではなく、実感し、自分で出さないと意味がない。その苦しみは自分で乗り越えるしかない。貴様がそれに気づくまで、だ」
「教えてくれないの」
「あぁ、教えてやれない。私は非道な女だからな。貴様が傷つき1人で立ち上がるのを待っている」
ほんと、酷い女だ。こんなにぼろぼろなのに、俺が自分の力で立ち上がると欠片も疑わずに信じている。寄り添うだけでそれ以外は何もしない。ほんと、厳しい女だよ。でもきっと、俺はこの子のこういう所が好き……なんだと思う。
少し躊躇してから……片手で久遠の髪に触れる。さらさらと手触りの良い白い髪が指の間を抜けてゆく。
「髪、増やしたんだな」
「増やした方が遊べる髪型が多いからな」
さらさら……としばらく久遠の髪に触れてから腰に手を回し、身を寄せ合う。少しだけ緊張している俺に対し、久遠は完全に身を預けるように寄りかかる。そこに、彼女の信頼を見た。
しかし、腰がほんと細いな。気を付けて触れなきゃ折れそうで怖い。
こつん、と肩に頭を乗せてきた。
「私をこんなにした責任、ちゃんと取るんだぞ馬鹿者め」
「解ってる……解ってるよ。でももう少しだけ待ってて欲しい。この感情と気持ちに決着を付けた時……」
きっと、俺は漸く1人の人間としてこの世に立てる気がする。
そんな気がするんだ。だからあと少しだけ、待っていて欲しい。俺もこの体を限界まで持たせるから。その日が来るのを待っていて欲しい。
言葉にする前に、久遠は腰に回した手に指を絡めるように握りしめ、言葉を発さずに答えとした。
「今日は楽しかったか?」
「うん……とても楽しかったよ」
「貴様から戦いを奪えば、生の実感を奪ってしまうのでは無いかと思っている。そこが少しだけ……」
「気にしなくて良いよ。君が俺を想っている事は理解しているし、今ではバトル以外にも楽しめる事は多いから」
たとえばほら、君と一緒に居る時間とか。
ただそれは恥ずかしくて口にする事は流石に出来無い。でも彼女の事だ、きっと口にせずとも理解してしまうだろう。だから口にせずに夜空を見上げる。釣られるように久遠も夜空を見上げた。
「月が綺麗だな」
そう言う久遠はその言葉の意味を知らずに使っているみたいで、月を見上げる彼女へと視線を戻し、答えた。
「あぁ……綺麗だな、本当に」
彼女と逢わせた事、それだけは感謝してるぜジジイ。
互いの体温を感じるように身を寄せ合いながら、出歯亀しに来る連中が現れるまで、2人だけの時間を過ごした。