まあ、ぼちぼち社会復帰しなきゃね。
リハビリと休養は大事なのだが本分は学生であり、モンスターマスターだ。まあ、ちょっとマスター業の方は最近義務感混じりになってるところもある。これはランクが上がってエンタメ方面でも顔を出さなきゃならないのが原因になってる。
まあ、ここら辺もしょうがない。仕事がないとバトルが出来ないのだから。ここら辺ちょっとモチベ下がるよなぁ……と思いつつもアンナに連絡を入れる。最初はしばらく動けなかった事を心配してくれるが、事情を説明するとすぐに簡単な仕事を紹介してくれる。
という訳で、簡単なお仕事から社会復帰を開始する。
まずは鴉羽尊への依頼率ナンバーワンのお仕事、モンスターを使わないピンのお仕事でバトル解説である。
大人気枠である。
交流戦の実況を未だに覚えてる奴がいるし、俺がゲームのデータ担当だって話も既に知られている影響もあるのか、なんだかよく知らんがモンスターの事を良く知っている有識者として呼ばれる回数が異様に多い。勿論、全てに顔を出す事は出来ないので適度に……という感じで解説に出てるのだが嫌われるパターンも割とある。
というか解説の仕様上、絶対にどういう動きを想定してどういう能力を持っているのか、という話をする必要が出て来る。その関係で手札をバラされる事にキレる奴が出て来る。まあ、正当な怒りなんだけどそれはそれとしてこっちは仕事でやってんねん。キレられてもどうしろっていうんだよ! って話になってしまう。
まあ、恨まれるのはしょうがないねで諦めてしまう。諦めたので遠慮なくデータと対策とメタり方を生放送で披露する。結果、地獄みたいなバッシングと視聴率の高さとSNS炎上にリピーターが出来上がる。この世の地獄みたいなサイクルによって仕事は新しくやってくるのだ。大体月に2回3回ぐらいの頻度で依頼されるのだが、負担そのものは結構低いので比較的に受けやすい仕事でもある。
2番目に良く呼ばれるのは講師や先生役。
というのもこれは低年齢向けの家庭教師みたいなものではなく、アンナ経由で依頼される研究室からの依頼だ。
俺はとんとそういうのに興味もなくて所属していないが、B以上のプロは研究室と呼ばれる戦術を研究する為の勉強会を開いている。セミプロや弟子といった身分のマスター達はこういう研究室に所属する事で師匠や先輩マスターから戦術やモンスターの特性を学び、秘伝とも呼べる技術を伝授されたりする。
中でも優秀な者はマスタースキルを覚える訓練を手伝って貰えたりして、これがモンスターマスター技術の継承と特訓において最もスタンダードなスタイルだったと言える。
無論、このスタイルは原作(仮)の存在によってだいぶ崩壊している。今ではゲームを通して戦術やデータの確認が出来る為、だいぶ秘匿された数字やスキルはオープンなものになって来た。
それでもモンスターを動かすタイミング、シンクロ技術、コミュニケーションの取り方。そういうマスターとしての技術はゲームでは学べない。結局、こういうプロマスターが開いている研究室の類が技術の伝授の場としてはメジャーになって来る。
駆間みたいにぶつかり合って感想戦をして、互いの欠点や改善点を洗い出しながら……というのを野良でやるのは非常に珍しい。そもそもモンスターバトルは興行がメインであり、勝負はショーであり、同時にビジネスでもある。勝利と殺戮が趣味の駆間市民とは違うのだ。
戦う事そのものが目的の駆間環境はどれだけ手札が晒されても問題はない。だがビジネスとしてモンスターバトルを行っているマスターは手札が割れる事がそのまま勝率に影響する。負けても別段ペナルティがある訳ではない駆間環境とは違い、一般環境は負ければ勝負の世界から追い出される事もある。
その事を考えれば情報はなるべく秘匿されるべきものである。そういう考えからモンスターバトルの環境は長らく閉鎖的であった。最近は暴露実況とか原作(仮)の存在もあって比較的オープンになりつつあるが、それでも秘匿技術というものは多く、研究室の類が廃業する未来は遠い。
そういう事もあり、足りない技術や知識を補う為に外部講師を呼び、研究室内で講師を務めさせる事がある。
この研究室に鴉羽尊という男は大人気なのが発覚した……というのも海王戦以降、世界のトップ層に完全に顔と名前を覚えられたからだ。なのでお菓子付きで歓待される。
東吾にもマスター仮面にも呼ばれる事がなかった為に今まで一切縁のなかった研究室だが、弟子や弟子志願が数百人単位で所属している時もあって、組織として思ってたよりもデカいのが解る。
呼び出されるのは大抵の場合新戦術の講師役で、まだまだ未発展と呼べるオーバークリティカルや合体魔法を軸にした戦術を低ランクと高ランク、それぞれでどういう風に動かすか、封じるか……等、研究室によって研究室内容は変わってくる。
個人的に1番面白く感じたのは専用マスタースキルの研究をしている所だった。
シンクロとマスタースキルを地上で1番無法している視点から専用マスタースキルは模倣可能なのか、他のモンスターに流用可能なのか。それを検証と研究するという話だった。
結論から言えば俺が今はシンクロ不能状態なので検証は出来ない、という所に落ち着いてしまった。もし出来る状態なら検証は面白そうだな、と思えた。
海王事変以降、アンナを通して俺へと向けられる仕事はこういうものが増えていた。エンタメの類はアンナ側でもうやるだけ無駄だと判断して却下し、完全に才能を活かせるバトル方面に仕事を集中させることになった。
その結果が研究室に関わる依頼であり、そして3種類目の仕事である。
即ち、合体プランナー。
これは実在する仕事でもある。
かなり機密性が高く、信用のある人間にしか回されない合体プランニングは専門の者が協会等に所属しており、膨大なデータを抱え、その人の適性や戦術に合わせたモンスターや合体プランを提示するという仕事をしている。
無論、データ量において原作(仮)を超えるものは存在しない為、この人達はゲームの登場によって危うく廃業に追い込まれることになった。
だが個人とモンスターの相性や、気質、そういうゲームでは解らない部分を判断する能力を持った彼らは辛くも廃業を逃れた。
そして今、膨大なデータを参照しながらプランニングする必要性に駆られている。
そしてこのデータ面におけるプランニングの王者が俺である。必然的に、プランニング依頼がこっちに投げられてくる。
当然といえば当然だが、SやAにまで上がったマスターは仕事や育成、バトルで忙しい日常を過ごしている。ゆっくりとしたゲームを遊んでいる暇はそんなにない。ランクマに熱中しているアメリカの馬鹿がおかしいのだ。
なので高ランクマスターは現環境でもプランナーを雇う必要があり、その中で最も優れたプランナー……即ち俺に依頼する事に繋がる。
何よりも海王事変を通して、Sランカーの多くは力不足を痛感している。この戦いにおいて彼らはあまり、戦力にはならなかった。
俺からすれば時間稼ぎ出来るだけでも大健闘だったのだが、彼らは天下のSランカーだ。
Sとは最強の証であり、強さの象徴でもある。
そんな彼らがまるで歯が立たず、時間稼ぎしか出来なかった事実はあまりにも恐ろしい。最強どころか木っ端扱いなのだから。インフレの存在するゲームにおいて無印環境とは木っ端扱いになるのは当然の事ではある。
だがそれを許す事は出来ない。
そうして始まるのは合体ラッシュだ。
合体、再構築、そして戦術の見直し。
俺に振り分けられる仕事の多くは、Sランカーの戦力再編成に伴うものになって来ていた。世界は次の脅威と戦うための準備を始めていた。これで終わりじゃないことは誰もが理解していた。
これまで、Sランクは過剰戦力とも言われてきた。
スキルによる攻撃が核兵器相当の戦闘力を持つモンスターを1人で何体も所有する事に対して批判するものもいた。だが今、その意見の多くは黙るしかなかった。
これらの戦力を大きく超える者が現れたからだ。
そしてチクタクマンを始めとする、現人類では対処できない戦闘力を持つ邪悪も現れた。
インフレが必要だった。更なる力が必要だった。Sランカー達は世界を守り、代表する存在としてもっと強くなる必要があった。
そしてそれは、当然ある男にも言えた。
8月末。
その男は月面に到着した。重力の薄い環境に胸を弾ませながら月の海に停泊するノアを見上げた。その横には今回、合体に使う数々のモンスターが並んでいる。
地球最強の男、ブライアンは月から見える地球を見て言った。
「これがアームストロングの見た景色か……」
地球最強の男、モンスターの合体の為に月へ。