最強以外ありえない   作:てんぞー

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駆間ビーチ

「う゛み゛だ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛―――!!」

 

 全力疾走で海へと向かって行くクラスメイトを無視して、ビーチパラソルを事前に確保しておいたスポットへと持って行き、砂浜に突き刺し、マットとチェアを置く。サンダル越しに感じるビーチの感触は柔らかく沈み込む様で、不思議な感じだ。長らくこうやって砂浜を歩いていなかったな、と思い出す。

 

「海! 海海! 夏だ! 俺達の夏が始まる!!」

 

「おーい、はしゃぎすぎるなよー」

 

 そのままテーブルのセットも完了したらクーラーボックスを置いて、用意しておいたスピーカーをスマホにつないで、それをチェアの横に置く。既にリゾートウェアに着替え終わっている身、後はサングラスをかけてパラソルの下、優雅にこの夏の海を楽しむだけ。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 海に近づきすぎた馬鹿がそのまま海からやって来たマーメイド数体に囲まれ、掴まれるとそのまま海へと運ばれて行く。全てを察したクラスメイトが敬礼を送ってくるのを俺達は眺めていると、監視員の海エルフが全力疾走で駆けつけながらマーメイドたちを皆殺しにして救出する。

 

「クソ、いつの間にか接近してたな奴らめ……《魔力探知》を使って他に近づいている個体がいないか調べるか……君たちも気を付けるんだぞ!」

 

「はーい、ご迷惑おかけしました」

 

「助けてくれてありがとう!」

 

「先生の忠告が無駄になる所だったな……あ、あっちで人魚の生き胆使った焼きそば売ってる!!! 不老不死になるか食中毒になるかは自己責任だってよ!!!」

 

「不老不死になる飯海の家で売ってたら怖ーよ。100%の食中毒じゃん。買うか」

 

 スマホの回線感度を確認し、ポケットWIFIの調子が良いのも確認する。クーラーボックスの上にスマホとスピーカーを置いて、チャンネルを合わせてスイッチオン。スピーカーから音が流れ出す。

 

『―――さあ、始まりました日米交流戦! 今年も選抜を勝ち抜いたAランクからSランクの猛者たちが国の威信を背負って戦います。去年は見事アメリカに勝てた日本チーム、今年も玉座を守れるか期待したい所です』

 

「アメリカはステータスマシマシの数字で殴るタイプだから下手に受けようとするとキツイぞぉ」

 

 日本はどっちかというとギミック系を好むよなあ、と思いながら日米交流戦の実況に耳を傾ける。スマホを見ればそっちの方で映像も流れているのだろうが、折角海にまで来てこの景色を見ないのは勿体ない。だから妥協してラジオの様に聞く事にしている。

 

 これはこれでまあ、趣がある。

 

『Aランクからは選ばれた3人が、Sランクは国を代表する5人が出場しています。日本チャンピオンであるマスター仮面、最近15位から9位へとランクを一気に上げて勢いのある叶が個人的に注目したいプレイヤーになります』

 

『特に叶プロは最近黄泉平坂の先にある隠しエリアを発見したらしく、新しい種族のモンスターも備えています。アメリカ側にもデータのないモンスター、台風の目となって大暴れしてくれるでしょうか? この先の展開が気になります』

 

「そういやランク上げたって言ってたな。まあ、死神はガチガチのガチモンだしな。アレの妨害突破して本命通すのは難しいぞお」

 

「っしゃあ! ナンパしようぜナンパ! こんなに人がいるんだから俺になびいてくれるかわい子ちゃんが1人ぐらいいるだろ!?」

 

「冷静に考えろよ雄二、お前みたいに煩い奴のナンパを受ける奴がいるか? 見ろよお前のお腹、腹筋も割れてなくて、筋肉も特にない。お前はその見た目で絶対にアウトだって」

 

「はあ!? じゃあどういう奴がモテるって言うんだよ!」

 

「そりゃあお前、アレだろ」

 

「ねえ、そこの君」

 

 ラジオに耳を傾けていると声を掛けられる。ん、と声を零しながらサングラス越しに声の方へと視線を向ければ、水着姿の女性が立っていた。少しだけ胸を抱えるようにしなを作り、視線を向けてきている。

 

「1人で海に来てるの? 実は話相手を探してたの……ちょっと話さない?」

 

「ああいうの」

 

「クソ、顔と体と成績と家庭とバトルが良いからってアイツ……!」

 

「自分の人生全否定か? 涙拭けよ」

 

 3馬鹿が此方を遠巻きに眺めてる。どうやら欠片も助け舟を出すつもりはないらしい。ゆっくりしたくてパラソルの下で過ごしてる筈だったのになぁ、と対応にちょっと思考を巡らせていると俺の無言を肯定と取ったのか、パラソルの中に入って来ようとする。

 

「それじゃ―――」

 

「―――あぁ、帰って貰おうか」

 

 その姿を、遮る声がした。パラソルを見上げていた視線を下ろせば、白い髪が視界に映る。寝転んでいるビーチチェアの端、俺の横に腰を下ろすように割り込んだのは普段よりも大きく露出の増えた姿をしている少女だった。

 

「私の男だ」

 

「はあ、女付きだったかぁ……」

 

 溜息をしながら女が去って行く。それがしっかりと消えるまで少女は―――水着姿の久遠は睨んで、漸く別のパラソルの向こう側へと消えてから視線を外している。

 

 サングラスをズラして久遠を見る。

 

「意外と独占欲が強い?」

 

「さて、どうだろう。自覚した事はないが、案外そうなのかもしれない。それは……悪い事なのか?」

 

「どうだろうな」

 

「夜月さんまた鴉羽くんと雰囲気作ってるー!!」

 

「はいはい、ご馳走様」

 

「相変わらずの空気感よね、2人とも……」

 

 久遠と何時ものやり取りをしていると女子たちもやって来る。先ほどは距離を開けていた男子組もここぞとばかりに戻ってきて女性の水着に目を輝かせている。まあ、解り切っていた事だが値踏みする様なあけすけな視線に女子たちはちょっとだけやり辛さを感じてる。

 

「やっぱりこういう時鴉羽くんの落ち着いた感じ……良いよね」

 

「何というか視線が違うよね」

 

「男子共、がっつきすぎ」

 

「鴉羽には夜月がいるからがっついてないんだよ!!! 普通の!! 男子中学生は!!! こんな感じ!!!」

 

「それはそう」

 

 向けられた視線にピースサインを浮かべ、クーラーボックスからラムネを取り出して飲む。スピーカーからは交流戦の選手紹介が始まっていて、いま日本のAランクチームの紹介を行っている。当然だが修三の名前はそこにはない。彼には駆間で家族を守る使命がある。

 

 それが無きゃ普通に参加できるトッププロレベルらしい。

 

「あぁ、そうだ、久遠」

 

「ん、なんだ」

 

「水着、良く似合ってる」

 

「解ってる」

 

 青いホルターネックタイプのビキニ姿を久遠は披露していた。事前に一緒に出掛けて選ばされたとはいえ、スタイルもどんどんと女の子らしくなっている事もあって良く似合っている。誰もが認める美少女に成長しているのを感じる。

 

 小学6年生だった頃からまだ1年も経ってない筈なのに、あの頃の子供っぽさはどんどん抜けて行く。成長とは不思議なものだ。

 

「またイチャイチャしてる……」

 

「何時もの事でしょ。それよりも今日集まったのはこれで全員?」

 

「あと数人遅れて来るって。高速で今ダンジョン発生しちゃって渋滞中だって」

 

「うわ、可哀そう」

 

 この場合可哀そうなのは渋滞に巻き込まれた人間ではない。

 

 なに高速道路でダンジョンゲート広げてんだ殺すぞ!!! ってキレた人間によって蹂躙されるモンスター側の方である。人間とモンスターの力関係はなぜかこの駆間市では普通の図式が適用されない。それを決して忘れてはならないのだ。

 

 高速道路なんぞに出現しなかったらもうちょっとだけ寿命は延びただろうに……。

 

『続きましてSランク叶東吾、今最も勢いのあるSランカーになります』

 

『新しく加入した死神種のハーデスが実に良い仕事をします。デバフを撒くだけではなく数種類の打ち消し系統を備え、回復反転を維持する力を見せてます。お蔭でパーティーのキル率が高まっています』

 

「あ、知ってる。最近新種を発見したって人だよね?」

 

「そうそう、久々の新種発見だから凄い盛り上がったよな」

 

 ばしゃーん、と音がする。沖の方へと視線を向けると凄い暗雲が渦巻いており、その下に巨大な生物が隠れているのがうっすらと察せる。その周辺には何台もの巨大な船が待機しており海上で大型レイドが開催されているのが見える。

 

 季節限定イベントかなぁ……。

 

 ちょっと興味ある。今日はクラスの集まりだからモンスターは連れて来ていないが、砂浜の様子を眺めていると連れて来るべきだったかもなあ、とは思う。

 

「マーメイド共!!! 男漁りを!!! 止めろ!!」

 

「~♪」

 

 中指を突き立てるマーメイドが男を誘惑しようとし、全ギレの海エルフや魚人型のモンスターが武器を構えながら男を誘惑するマーメイド狩りに奔走している。マーメイドたちはどうしてあそこまで男を誘惑する事に本気を出してるんだろう……。

 

 見た目美少女のモンスターが海の守護者たちによって一方的に虐殺されて行く姿は中々刺激的だが、マーメイドに掴まったら最後、死ぬか此方側には戻って来られないとか言われている辺り殺されてもしょうがないな、とは思う。

 

 ウチのエデが良い子で良かった。

 

 偶にお風呂に突撃してくるのはちょっと褒められないけど。

 

 ちなみに最近は風呂場の前でウェルギリウスが《パーフェクトキャンセラー》を構えているらしい。

 

「お、キタキタ」

 

「こっちこっち!」

 

 クラスメイト達が手を振って残りの連中を誘導している。ゆっくりと交流戦の実況を聞いていたかったが、この状況を見る限り大人しくそういう事が出来そうにはなかった。テンションを上げて来る様子にまあ、偶には良いかもしれないと諦めを付けて立ち上がる。

 

「遊ぶのか?」

 

「折角来たのに遊ばなきゃ嘘だろ」

 

 偶には。自分にそう言い聞かせながらもちょっとだけ、このクラスの一員として行動するのも悪くないなんて事を考えている。そう思うと自分も、だいぶ絆されていると見える。他人に対して無関心だった東京の頃とは違い、ここの人々はとても距離が近い。

 

 あらゆる意味で、環境が違う。

 

「さて、ビーチバレーに遠泳、やれることは色々とあるな! モンスターを鍛える傍らで俺も一緒にトレーニングに付き合っている! その影響で磨き上げられた我が肉体を披露する時が来たようだ……!」

 

「だから異様に引き締まってるし傷痕多いのかお前」

 

 モンスターとのコミュニケーションにもなるんだぞ、と言い訳しているとにゅるん、と伸びてきた触手に掴まれて持ち上げられる。何時の間にか砂浜に上がっていたスキュラが俺を掴むと、ハートマークを飛ばしながら頬ずりしてくる。

 

 虚無顔を浮かべて敬礼する。

 

「どれだけ体鍛えてもモンスター相手には無意味なんだよなあ」

 

「ライフセーバァアアアア―――!!」

 

 駆間のビーチは何時も危険と隣り合わせ。

 

 忘れられない夏が欲しい貴方も一度、駆間ビーチはどうだろうか?

 

 きっと、それは人生で最も“助けて”の言葉が尽きない1日になるだろう。

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