ブライアンの再合体がすべて完了した。
サンダーバードやクイーンバンシー等のモンスターは全て合体が完了し、レベル1になった。クイーンバンシーはスキル更新の為に再合体だったが、これによりブライアンの構築はほぼ刷新に近いレベルで更新されてしまった。
永世GMの構築ってのはブランドであり、象徴でもある。それが更新されたとなると大事件に発展するのだが、もはや永世GMという立場をどうこう出来る存在は地上に居ない為、誰も止める事が出来ない。
そしてこれに伴い、ブライアンが合体してから数日後にはマスター仮面もノアで再合体を行った。全てのゼリィ達が再合体の対象となってレベルが1にリセットされた。元々固有種のみでパーティーを組んでいるマスター仮面は種族を変更する必要がない。
その代わりに取得するのは合体時にしか取得できない種族固有スキル……つまりパペッター追悼戦の時に使用した、合体の時にしか作れないスキルの数々だ。モンスターとしての固有スキルも勿論存在するが、種族専用スキルも低い種族値をカバーする為に意図的にアッパー調整されているものが多い。それをマスター仮面はついに、搭載する手段を手に入れた。
レベル、訓練値はリセットされてしまったが国木田ゼリィ達はこれでいよいよ地上最強の暴力を手に入れたと言える。丸1年動けなくなる事が確定したが、少なくとも訓練値抜きでもスキルのスペック等だけで暴れられるだけの力がゼリィ達にはある。レベルが100になった時点で暴力としてはほぼ完成する。来年は交流戦やマスターズチャンピオンシップでその暴力を披露してくれるだろう。
そして最後に東吾。
俺の最初の友人にして親友。
東吾はほぼ構築を初期段階から刷新し、作り直すことを決意した。
その最大の理由は彼の構築のコンセプトが今の環境に対して初速で劣っている事にあった。デバフを付与して回復反転によるリーサルを取るというコンセプトは即死級の火力をPvP環境で見せてくれるが、逆に言うとこれは対策さえすればどうにかなるという事でもある。
東吾はこの火力を通す為にこれまでは妨害を多めに積む事で対処していた。だがここにきてオーバークリティカルと合体魔法という攻撃手段が増えた事もあり、彼の構築はやや時代遅れと呼べるフェイズに入っていた。
無印からDLC環境へと移行する上でどうしても無印やDLC初期のモンスターは対応幅が薄く、型落ちする運命にある。ブライアンが刷新する事を覚悟したように、東吾もまた最新の環境で戦い続けるにはモンスターを刷新する必要があった。
初期とDLCモンスターでは習得可能なスキルの範囲が違うし、基礎スペックも違ってくる。
これまでは暗黒樹海産の合成スキルで何とか戦力差を誤魔化して来た。
だが情報が全体に回るのに合わせて環境もアップデートが進み、海王事変以降世界全体の高位マスターが戦力を強化する事を考え始めた事で、東吾にもこのままではいられないという事実が襲い掛かって来る。単純なプレイイングだけではどうにもならない時は存在する。
東吾もまた、この時期に合わせて構築を更新する必要があった。このまま反転軸でやるのか。それとも異なるスタイルにするのか。その結果が見えてくるのは他のマスター達同様、1年後になるだろう。相談に乗った人間として、東吾のこれからには期待している。
―――と、ここまで見れば高位マスターが忙しい時期に入った様に見えるだろう。
だが忙しいのは決して高位マスター達だけではなく、俺もそうだった。
というのも、俺は1つの問題を抱える事になった。
《アイドル》。
海王事変の時にエデが習得してしまったスキルについてだ。元々は《詩吟》だったスキルは《アイドル》等の上位スキルへと派生する種となるスキルだ。ここから上位である《スーパースター》へ、更には《コズミック☆アイドル》へと派生する事が出来る。
だが《コズミック☆アイドル》へと派生するとなると《歌姫》を習得できなくなり、スキル構成を微妙に変える必要がある。大きな変化はなく、マイナーチェンジと言える範囲だがそれでもプランの修正が必要になって来る。
じゃあ《コズミック☆アイドル》と《銀河の歌姫》の違いって何? って話になる。
それは歌唱専用管理バフ、テンションの運用になる。
アイドルルートはテンション消費型。
歌姫はテンション蓄積型という分類になる。
歌姫系統はテンションを蓄積する事で蓄積数に応じたステータスボーナスを得られるというスタイルで、長期戦に強い性質を持つ。バフ盛り盛りの盛りっとする歌唱構築において、歌姫系統のテンション蓄積型ボーナスは基礎ステータスを伸ばすタイプのバフの為、通常計算式のバフと組み合わせてステータスが凄く良く伸びる。
特にエンドコンテンツを想定した長期戦等を想定していると最終的な着地点を《歌姫》にするのが1番安定する。エンドコンテンツのボス……例えばネガコスモスや竜王ラグナロクと戦う場合、どうしても戦闘は長期化するし、その方が安定して戦える。
何度も繰り返してきた事だが、シミュレーションRPGやターン制RPG等のゲームにおいて、1ターン当たりの被害を受けきって回復で戻すというスタイルは究極の戦術であり、理想的な状態だと言える。
発生した被害を次のターンまでに0にし、リソースを残すのが理想の状態だ。
長期戦でこれを維持するのは中々難しい事だが、歌姫系統はこれをサポートする事が出来るタイプだと言える。最終的にバケモンばかりと戦う事を想定した現在、歌姫系統をベースにした方がミスが少なく、安定して決戦へと向かえると言えるだろう。
じゃあ《コズミック☆アイドル》を軸にした歌唱はダメなのか? という話をするとそうでもない。テンション消費型のアイドル軸は歌唱を通じて蓄積したテンションを消費する事で瞬間的なバフを付与する事が出来る。
例えば無敵貫通とか、追撃付与とか、カット付与とか。
固有のトークンを消費してバフを付与する事が出来るアイドル軸は歌姫軸と比べると瞬間的な火力と殺傷力に優れており、テンションを溜めてから一気に消費するスタイルはかなり殺意が高い。歌姫軸が長期戦を想定した安定感のある軸だとすると、アイドル軸はその逆だ。
玄人向け、瞬間火力による即殺を目的としたRTA向けの軸だ。
実際、ラグナロク短期決戦RTAやネガコスモス超火力瞬殺動画とかでは複数アイドル編成による相互テンション蓄積等の超テンション加速構築で一気にテンションを溜め、毎ターンテンション消費してカンスト火力に追撃乗せまくって蒸発させるというスタイルが主流だ。
エンドコンテンツを極まった火力で瞬殺するスタイルのプレイは玄人向けだし、誰もがコピーできる構築じゃない。何せ相手はエンドコンテンツのボスだ、想定しなきゃならない行動は色々とあるし、それに対抗する為の手段を頭に叩き込んで手札の切り方をコントロールしなくちゃならない。
これに比べると歌姫軸はそこまで複雑ではなく、長期戦を安定して流せる誰でも攻略動画……みたいなのに採用されているタイプのモンスターだ。クリアにおいて最も重要なのは再現性と安定性だ。そういう意味では歌姫軸の方がミスの出来ないリアルにおいて優位性を持っている。
何よりもアイドル軸はテンション消費が能動的な行動、つまり《インタラプト》や《パーフェクトキャンセラー》による打ち消しの対象に取られるという事だ。アイドル軸は瞬間火力が凶悪な分、止める手段が存在するのだ。歌姫軸はランプ向けとも言えるし、その影響で止め辛いのが特徴だ。
だから俺も歌姫軸を想定してビルドしていた。
ただ当然、ランクマッチ最上位帯は戦闘回数を増やすのと相手の隙を突くのが前提となる為、歌姫よりはアイドル軸の方が圧倒的に人気だった。というよりアイドル軸がPvP向けで、歌姫がPvE向けという感じに近い。
無法なバフを付与するという意味ではどっちも変わりはないぞ! という意見が出てしまえばそうなのだが、強化上限が存在する状態で運用する場合、アイドルも歌姫も1ターンか2ターンで天井を叩くのは同じ事だから別にどっちを選ぼうとも一緒なのだ。
歌姫は最上位クラスの歌唱スキルを習得する事が条件。
アイドルはモンスターの知名度が条件。
めんどくささはアイドルの方が圧倒的に上だ。何せ合体すると別の姿になる為、個人としての知名度は喪失するからだ。現状、モンスターが持つ知名度はほとんどマスターに付随するものだ。モンスター単体としての知名度は実際バフや能力程度の認知だろう。
だから作成の手間と運用の安定性を求めるなら歌姫の方が圧倒的に楽だ。
―――だが。
「マスター、わた、し、与えられた……実力、じゃ、なくて、本物に……なりたい!」
と、我が家のお姫様が申されましたので。
アイドルマスター編、始まります。