実の所、芸能関連でモンスターと人間のシェアは半々らしい。
この内訳は放送局とか番組はモンスターを採用したく、視聴者側は人間のが良いという声がデカいという風になる。どうしてそんな風なの? という話をすると、業界の細かい話になるのでアイドルくんが教えてくれた。
『モンスターの方が人件費安い上に色々と無茶なロケさせられるんですよ。体張ったタイプの番組ってどうしてもコンプラとか色々あるじゃないですか? 重労働もモンスターだったら回復魔法だけでどうにかなりますからね。でもモンスターが酷使されても何とかなるのは見ていて当然だからそこまで面白くない……というのが視聴者の酷い所なんです。危ない場所や環境に死ぬかもしれない人間が行く事に面白さがあるんです』
酷い話だ。
『はい、すっげぇ酷い話なんです。だから局の方はモンスター採用したいんですけど、人間がやってる方がウケは良いんですよ。あ、これはエンタメの方の話ですね。アイドルは純粋な実力勝負って感じがデカいですね。というかスキルによる技術再現がある分、モンスターのがだいぶ強いんで人間側は相当才能ないとやってられないって感じの戦国状態です』
アイドルくんは言う。
『ほら、モンスターって基本的にビジュアル良いじゃないですか? その上で歌唱スキルとか舞踏スキルで完璧な歌と踊りがスキル習得だけで何とかなるじゃないですか? アレってほんとズルいですよね。だからアイドル業界はモンスターのが圧倒的に強いんです。そしてその影響で視聴者の目も肥えてて歌が上手い、踊りが上手い……ってだけでは印象に残らないんですよね』
『見た目が良い、踊りが出来る、歌が良い……それだけじゃ没個性なんですよ、今のアイドル業界。コネとかを使って番組に出ても意味はないです。自分から何か、他にない特徴を用意しないと駄目です。印象に残るものが必要です。ほら、僕も駆間系アイドルになっちゃいましたからね……アレないとここまで残る事も出来なかったと思いますね』
他人にはない強みを持て。
だがこの時代、生半可な個性では戦ってはいけない。
コネを使った所で見られるだけでは残れない。
だって皆、美人は見慣れているから。
モンスターのツラは基本的に良いし、技術も生前持っていた技術を所持していたり、合体で継承していたりで上手なケースが多い。アイドルくんの話では芸能系専用の合体レシピ、みたいな秘蔵のレシピも存在する。何でもスキルにならない芸能技術が高いモンスターを作成し、それを素材にする事でスキルではない優秀な技術を持つモンスターを生みだす為のレシピらしい。
まあ、ここまで来るとほんと良くやるもんだって感じだ。
だから本気で芸能系に食い込もうとすると、かなり大変になるらしい。ノリや才能のない人間が芸能系に踏み込んだ所でロクに採用されず、雑用だけで終わる。だって技術もルックスも全部揃ったモンスターを採用すればその新人枠は十分なのだから。
定期的に人間側から化け物的な才能を持った人間が発掘され、それがモンスターを抜いて一気に成長するだけであって、モンスター側から上へと向かうのは結構ハードルが高い。真似できない独自性が求められる。それも生半可なものではない。他人には絶対にコピーできないってものが必要になる。そういう物がないとマスターの知名度がどれだけ高くても、そのマスターのモンスター……付随品程度の認知しかされない。
『コネを使って番組とかに出るのは止めた方が良いです。間違いなく他のゲストに食われて印象が無くなるから。足元、地盤を固める事を優先した方が良いと思います! 演じてる側だから売れるかどうかは判断できないけど、牧場長とエデちゃんのこれからを応援してます……!』
と、業界の知り合いであるアイドルくんのお達しである。芸能業界は今、想像以上に凄い事になっていた。バトル業界の人間だからそういう細かい事情は知らなかったが、やっぱりどの業界もモンスターと人間で色々と問題を抱えてたりするんだなあ……というのを感じた。
今から群雄割拠するこのアイドル界に乗り込むのは中々難しいものがある。
それでも我が家のお姫様はだいぶ悩んでいた。
自分の歌唱技能はスキルとして与えられたもので、自分が磨き上げたものではないという事実に。完璧に仕上げられたスキルはシステム的な働きが強く、それでバフを配れるのはバトル的に正しい。だがエデは元々歌唱を生業としていたモンスターではなく、歌唱スキルの数々はシステムとして継承してきた技能ばかりだ。
元はエデの技術ではない。
《アイドル》のスキルが開花して以来、エデは悩んでいた。自分の役割と与えられた力に。本当にこのままで良いのだろうか? 基本的に内向的で余り迷惑をかけないエデがこうやって悩みを打ち明けてくれたのだ。マスターとして是非とも我が家の可愛い娘の力になってあげたい。
―――という訳で。
「エデ! 最初の仕事だ! アイドルくんからまずは地盤を固めろってアドバイスもあった……だからまずはご当地系アイドルを目指すぞ!」
「むんっ……頑張、るっ!」
拳をぎゅっと握ったエデは他のストロングスタイルな連中にはない可憐な可愛さがあった。これはアイドル路線、間違いなく行けるぜ! という確信がある。そういう訳でまず最初にアイドルとしての地盤を固める為に地元―――即ち駆間での仕事を取って来る。
何せ、注目度だけならバリ高いからね、駆間は。駆間出身のアイドルだったらまず間違いなく話題になる。だからこの駆間をホームグランドとして、アイドルとしての1歩目を踏み出す。広報用のアカウントは実は2世代前、アーティが芸を広める為に使ったアカウントがあるので、それを広報用にこれからは再活用する。
アーティはアレでそこそこ知名度もあったので、そのファンの一部がエデを応援してくれればという思いもある。
という訳で最初の仕事は駆間デパートでのミニライブだ。
デパートの屋上に来るとちびっこ達がステージ前に集まっており、その上ではヒーローショーが行われている。エデはステージの上の人たちを見ると目を輝かせた。
「カルマレンジャーさん……!」
「ああ!」
カルマレンジャー! それはモンスターマスターとしての才能を持たなかったヒーロー! しかし、人間の可能性、強さ、意思を見せる為にあえてただの人として駆間でヒーロー活動を行うリアルライフ系ヒーロー達である!
元レンジャー隊レッド!
元自衛官ブルー!
元特殊工作員イエロー!
元スパイピンク!
現役死刑囚グリーン!
彼らこそ人の可能性だけを武器に駆間のトラブルと戦い続けるリアルライフヒーロー、カルマレンジャーである! 毎週日曜日活動を生放送中! 生放送を見てなくても街中に出れば会えるぞ! ちなみにグリーンは今回のステージは不在である。
先週、刑務所から脱獄して来た50人の死刑囚を全員刑務所に叩き込む為に戦った結果、今も意識不明の状態で病院に居るからだ。
戦えカルマレンジャー!
理不尽に負けるなカルマレンジャー!
お前らの経歴どうなってるんだカルマレンジャー!
噂では元は国から駆間どうにかできない? って派遣された国側の人達だったらしい。当然無理なのでそのまま取り込まれて居着いてしまった。今ではすっかり馴染んで立派に通りすがりの殺人鬼等と戦うヒーロー達だ。ちびっ子たちのヒーローだ。
「う、ぅぅ……大先輩の後にライブ、大丈夫、かな……?」
「イケるイケる。エデは可愛いし、
少しだけナーバスな姿を見せるエデだが、ヒーローショーを終えたカルマレンジャーがステージを降り、バトンをエデへと渡そうとするのを見て気合を入れる。気合を入れたエデはステージへと向かい、カルマレンジャーに応援されながらステージに立つ。
「あ、あの、こん、にちわ。エデ、です。歌、頑張りますっ」
直前に言う事が全部消し飛んだのだろう。必死な姿を見せるとそれが微笑ましくて、見ているちびっ子たちもカルマレンジャーも微笑んでいた。だが一度歌い出せば綺麗な声から詰まる事もなく、淀みない歌が流れ出してくる。
腕を組みながら少し離れた位置から俺は頷く。アイドルはまず聞いてもらうって所からが難しい……声と技術自体はスキルで確約されている。後はエデがここからどう個性を獲得し、自分だけの技術を積み上げて行くかの勝負だ。
だがこの業界は厳しい……歌って踊れるだけでは勝負にならない。
何かないのか? エデだけの武器は。勝負になる為の道具が。
エデの初ライブを眺めながら考えていると、客席の方から声がしてくる。よく見ると話しているシルエットは協会のバトルアリーナでも見かけるシルエットの様な気がする。
「いやあ、やっぱ歌唱スキルはええなぁ……普段はバトル中に聞いてる余裕なんてないからな」
「そうだな。歌唱って相手にすると大体どうやって黙らせるかしか考えなくなるからな……こうやってゆっくり聞けるとかなり良い声してるの解るよなぁ。俺も歌唱握りてぇ」
「歌唱強いけど後から入れるにはちょっとトリッキーなんだよな。歌唱を前提に全体のバフを調整しなくちゃバフ被りで枠が勿体ないし……あー、でも歌唱使って遊びてぇ」
「なー。しっかしいい声してるなぁ。これでもスキルの効果なのかなぁ?」
む、と思った。2人の会話を聞いていて良い事を思いついた。
これはもしかしてエデを売り込む為のアイデアになるかもしれない!