「エデ! 見てみて! 誘拐されると本当に手を縛られるんだよ! やばい! 凄い有名人感出てる! 俺今誘拐されてる! 凄いよ!」
「やった、ね、マスター!」
『こいつら状況解ってるのか……!?』
ワゴン車の中に放り込まれた俺とエデは車の中できゃっきゃしてた。実行犯はチンピラ風の男が2人、他に仲間はいなさそうだった。捕まった俺とエデはこのシチュエーションを楽しみながら誘拐されている最中だが、常に余裕を保っていた。
だって影の中にウェルギリウス待機しているし。
腰から吊るしている本にオールドテイルズが擬態しているし。
窓の外を見ると当局の人が凄い形相で走ってるし。あれ絶対に国際問題は起こさせないぞって必死な表情だよね。ブライアンは爆笑しながら中華屋台巡りでもしてそうだな。あの男、こういう状況において心配するとかいう概念はなさそうだ。
という訳で、人生初の誘拐実績解除。
俺もエデもこのシチュエーションを楽しんでた。やっぱ現地マフィアなのかな? それともどこかのチンピラなのかな? どっちにしろ今、政府の人たちは地獄を見てるんだろうなあ。
きゃっきゃ。やっぱ旅には多少のトラブルがないと楽しくないよね!
誘拐犯の弟分? らしき人物が中国語で話している。中国語は勉強してないんだよなぁ、言っていることが良く解らないのがちょっとつまらないかもしれない。もうちょっと言語の勉強はしておくべきかもしれない。そう思いながら会話に耳を傾ける。基本的に言葉はわからなくても、声や感情から伝えようとしていることは理解できるのだ。この鴉羽尊は感情ソムリエ故。
『兄貴……追手はいなさそうですぜ!』
『へへ……だから言っただろ! 人1人攫うぐらい問題ねぇって! 今こいつはな、裏だとすげぇデカい金額がついてるんだよ。こいつを裏の連中に引き渡せば俺たちは大金持ちだ!』
『流石っすね、兄貴! へへ、この先が楽しみだぜぇ』
うーん……声の感じからして組織的じゃなさそう? プロじゃなくてアマチュアかな。大人数じゃなくて少人数の突発的な犯行って感じはする。おっと、どうして白紙ちゃん。え、翻訳できるの? すげぇ、翻訳できるんだ君。昔そんな機能なかったよね? ノトス編クリアで更にパワーアップしてる? そっかぁー。
窓の外を見るとビルの上から上へと跳躍して走る姿がこのワゴン車を追いかけている。あの身のこなし……姿は人間に擬態しているけど人間じゃないな。たぶん政府側のマスターがモンスターを使って追跡してるな。こういう犯罪対応早いんだなぁ。ふりふりと手を振ると向こう側から手を振り返してくれる。わぁい。
『しかしこいつ全く暴れないな……少しは抵抗されるもんだと思ってたが』
『怖がってるんじゃないっすか? ほら、ほーら』
ナイフをちらちらと見せつけられて脅される。わぁ、怖いよぉ、とエデと身を寄せて震わせる。なんてちっせぇ刃なんだ。あまりにも小さすぎて恐怖を覚える。まさかその程度の刃物で犯罪をしようって考えたのか? あまりにも哀れで涙が出てきた。そ、そんな頼りない武器で行動に移るなんて信じられない……! も、もっと銃とかモンスター用意してないの……!?
「エデ、俺ちょっとこの人たちが哀れすぎて涙が出てきたよ」
「だ、大丈夫、マスター。外の、人たちは、とても、平和なんだ、ね」
そうだね。活性域の中と外だと世紀末と文明社会ぐらいの差があるね。
俺たちは長らく駆間で暮らしていたから、外では比較的に武器や犯罪が難しいって話を思い出すべきだったな……しかし活性域の外に出るとこのレベルの武器しか手に入らないのか。本当にあの中だけは別次元というか別世界なんだなぁ。
面白いしもうちょっと誘拐ごっこされるか……。
脱出するだけなら何時でも出来るし、屋根の上を走ってる人が必死に脱出しませんか? って顔をしてるけど無視する。このままのほうが楽しそうだ。だからこのままぶるんぶるんとワゴン車に運ばれ、目隠しされたから更になんか複雑な道を行く。
ちょっと酔ってきたかも……と思っていると漸く車が止まり、目的に辿り着いた様子だった。
『良し、降りろ! 妙な動きはするんじゃないぞ!』
『おいおい、傷つけるなよ? 価値が下がるからな……!』
なんかテンプレ的な会話をしている気がする。凄いわくわくしてきた。こんな体験駆間じゃ絶対にできないぞ! 駆間とかだと有名になりすぎて喧嘩を売る奴さえいないからな! 近所の殺人鬼でさえ回覧板を笑顔で渡してくるぐらい平和だからな! 報復で世界滅ぼす人はちょっと……ってなんだよ! 俺は滅ぼさねぇよ、勝手に周りが滅ぼすんだよ。俺は止める側だよ。喜んで世界滅ぼすわけねぇだろ。
車から出てきたところ、見えるのはごみごみとした大量の店舗やビルが並ぶエリアだった。そういやこういうのをくーろんなんたらと呼ぶんだっけ? アニメとか漫画ではよく見る中国の光景だよなぁ。
その路地裏っぽいところに連れてこられた俺達は目隠しを外し、新しい経験と光景を前に目をキラキラさせながら辺りを見ている。すると黒尽くめの男達が俺たちの前に立って待っていた。
『鴉羽尊を連れて―――』
黒尽くめの男たちは両手を縛られている俺とエデを見て、それ以上なんの拘束もされていない俺たちの姿を見て、一瞬で顔を青くすると全力ダッシュで逃げ出した。
あ、良かった。こっちはちゃんと理解している方だ。
だけどねぇー。
流石に逃げるにはもう遅いんじゃないかな?
背中を向けて逃げ出したその瞬間、近くの壁が吹っ飛んで胴衣に身を包んだ武人風の男が現れた。黒尽くめの男たちを吹き飛ばしながら登場した男は流れるような動きでピン、とデコを突いた。
「天穴を突いた……お前はもはや指1本とて動かすことは出来ん……」
『な、なぁ!?』
『お、おい、なんだこ―――』
す、と音もなく武人風の男たちが何人も現れ、手刀でロープを切り裂き、誘拐犯を気絶させた。
「我々は中国活性域の者です。歓迎の準備をしていたら誘拐されたと聞き、比較的に理性のある者で救出に参りました」
中国の活性域の人たちって武芸者気質なんだなぁ、と思っていると黒尽くめの人たちを空中に打ち上げてから5分ぐらい、一切地面に落とすことなく空中コンボを決めてる人がいる。あれ人間? 人間っぽいな……本当に人間だったわ。
凄いよ館長! 俺達の見えてないところで人類は……人間は……ちゃんと進化してるよ! 人類は戦う力を身に着けてるんだ! 捨てたもんじゃないぜ館長!
まあ、最終世代のモンスターの核兵器オリンピックしてる方が遥かに強いのでこの程度の強さでは戦力にならないっすね……。
助かったよお、と救出されている間にも誘拐犯は空中コンボが複数の武人による継続コンボへと発展していた。
「しかし開幕で誘拐されるなんて思ってもなかったよ」
「ドキ、ドキしちゃった」
エデの発言で空中コンボのスピードが上がった。もうそろそろ原型解らなくなるから解放してあげても良いんじゃないかな? あ、この世からの解放って意味じゃないです。
「鴉羽氏、貴方は己の勇名を少々過小評価しております」
首をこてんと傾ける。エデも一緒に傾ける。
「貴方の数々の活躍……根の国の発見、図書館の攻略、ドラゴンズバレーの発見、ノアの攻略……これら全ての功績は全て公然の秘密となっています。裏の世界ではこれらの情報に比較的アクセスしやすくなっており、関係者の中では貴方に注目を払うことで次の環境を早い段階で手を出すことを考えている者もいます。貴方は今、ブライアンや國木田よりも最も評価され、注目されている人間の一人になっています」
ほえー、と声が零れる。エデは笑顔で拳を握った。
「マスターが、評価……!」
エデは嬉しそうだった。本当に天使みたいな子だよ……良く……こんな環境で……こんな天使に……!
「裏社会では表と違ってスキルカードやモンスターが直接売買されています。環境のキーカードとなるスキルカードは協会を通さない為法外な値段を請求されますが、協会の在庫を気にすることなく購入できます。表の在庫はどうしてもSランカーに抑えられ気味ですからね」
環境に合わせてスキルカードを何度か買い占めていた連中の姿を思い出す。
まあ、はい。そっすね。
「特に近年は新しいダンジョンの登場や環境の流動性が高く、ブラックマーケットは非常に活性化しています。情報源としての貴方の価値は天井知らずに伸びています。それこそ懸賞金が出るほどに」
空中コンボを決められている黒尽くめを見た。
何時の間にか政府の人がコンボに参加して人の形を失いつつあった。まだ生きてる? 生きてるらしい。中国の武術ってすげー。
「そんなに需要あるんだ」
「はい、ですので身辺の事には―――」
「見学とかできる?」
「え」
「見学とかできる?」
え、だってこの国って世界最大規模のブラックマーケットがあるんでしょ? 折角旅行してるんだから観光ぐらいしたいじゃん。え、オプションですか? 行ける? 行けるんだ。
じゃあ裏社会見学しまーす。
ついでにやるか。
ブラックマーケットライブ……!