ブラックマーケット!
それは即ちルール無用の世界! 犯罪者の世界! ルールなんぞ守ってねぇと暴れまわる日陰者の居場所! 裏社会の物品が流れ着いてくる場所! 漫画やアニメでその名前をよく耳にするものの、実際に目撃する人は多くないだろう。当然だ、そんな危険な場所に普通の人間は近づいたりしない。
そして俺もブラックマーケットなんてものにはとんと縁がなかった。
だけど折角関わったんだ。見学ぐらいするのが筋というものだろう。
なのでさっそくブラックマーケットへ直行。わくわくるんるん気分で裏社会ピクニックだ。というのもブラックマーケットそのものは色々とあっちこっちにあって、特定のデカい場所を示すものではないらしい。
ちょうど近くにあるのなら都合も良い。
という訳で歩くこと30分程、武人さん達に別れを告げて俺達は徒歩でブラックマーケットへと向かった。ごみごみした建物の景色はそのまま、ブラックマーケットに近づくにつれ、段々と人が増えてくる。もしかして全員裏社会の住人? そう思うとテンションも上がってくる。
エデ! 見てみて! あの人たぶん犯罪者!
そうだねマスター! でも駆間の皆の方がたぶん凄いことしてるよ……?
はい。
エデときゃっきゃしながら歩けばそれなりに人が多い所に到着する。恐らくだがここが噂のブラックマーケットとやらなのだろう。右を見ても左を見てもどことなく脛に傷のありそうな連中ばかり。黒服だったりローブだったりで姿や形を隠している人が多い。
ほーん。ふーん。こんな感じなんだ裏社会って。あ、モンスターが歩いてる。もしかして暴れる? 暴れるのか? ……暴れないのか。
割と行儀良く歩いてるし、周りの人たちも極力互いに干渉しないように気を付けている感じもする。なんというか……不干渉? 興味がない? 想像の数倍静かで大人しくてあんまり面白みがない。駆間だったらこの間に3回は血が流れてるぞ。しかも全部別人の血だ。
もっとこう……ピリピリした空気を期待していたのに、想像していたよりも平和な光景にちょっとがっかりしてしまった。これがブラックマーケットなのかぁ……と残念に思っているとスーツを着崩した丸レンズグラサンのおじさんが此方へと向かって来るのが見えた。後ろに数人の護衛を連れているのを見ると、中々の地位の人物っぽい。
やはり敵か……! 俺を狙ってきた奴か! やっぱりいるんだ! 悪い奴は!
テンション上がるなぁ。
俺もオールドテイルズに巻いてあるストラップを手に取ると、それを掲げてぶんぶんと本に擬態しているオールドテイルズを頭上で振り回して威嚇する。恐らくこの世で最も理不尽な鈍器で威嚇していると周りがざわめく。
「お、おい、あれまさか」
「あぁ、顔役だ……あのガキは……いや、まさか……!」
「ひっ」
「に、逃げろ! このブラックマーケットはもうおしまいだ!」
うわああ、と叫びながら俺に気づいた人たちが逃げて行く。そんな、自家製隠しボスを振り回しているだけなのに逃げ出すなんて……。
「お兄ちゃん」
5メートル開けて足を止めたグラサンのおじさんはふぅ、と長い息を吐いて言葉を止めた。それから両足に力を籠めるのが見えた。それに動きを作ると察した俺が一瞬で脳を戦闘モードへと切り替えようとした瞬間、グラサンおじさんが跳んだ。
後ろに。
回転付きで。
一気に6メートルほど飛び上がると空中で4回転し、そのまま両手足を下に、頭を下げ、空中で姿勢を整えると垂直に空から落ちてきた。
それはまさしく、見事な土下座だった。
「お願いします、帰ってください」
「帰ってください」
「いるだけで経済が乱れるんだ、帰ってくれ兄ちゃん……!」
「いるだけで、経、済が、乱れる」
頭を下げている顔役のおじさんにえー、という声が出る。だってよ、人生初めての裏社会見学だぜ? 滅茶苦茶期待してたのに帰ってくれは酷くないか? もっと見学したい! 危険なアトラクションが見たい! この遊園地でもっと遊びたいよおじさん!
「いいか、兄ちゃん? 良く聞けよ? 俺達はあくまでも悪法の中で生きてる。解るか? 悪い事は確かにいっぱいする。だけどその中にも法は存在するんだ。外の連中からするとルールを守ってないように見えるなかでもちゃんとルールがあるんだ」
腕を組んで首を傾げる。
「んんんんもぉー。解らないかなぁ? 例えばあそこにいるおっちゃんいるだろ? アイツは詐欺の常習犯だ。空き巣と強盗もしているどうしょうもない悪人だ。兄ちゃんの所だとどうする?」
顔役のおじさんに駆間の流儀を教える。
「皆で囲んで殺す」
「うん、そうだね。迷わずそういう選択肢なのね。やっぱ怖いわ……」
えー、そっちだと違うの?
「勿論だ。そもそも対立してないんだから手を出す必要はない。それにあんなのでもここの経済に貢献してるんだ、殺す必要はない。勿論舐められたら話は別だが……殺すのは最後の選択肢だ」
俺達が話している間にマンホールと雑居ビルの上から武人マンが現れ、唐突に悪人さんを八つ裂きにし、その血の雨でシャワーをし始めた。
「これでまたこの世界に正義が示されたな師弟」
「あぁ! 我らの正義を遍く者共に示そうではないか師兄!」
そう言うと2人は近くのビルの中へと入って行った。
「見たか? アレに悪法とかはない。無法だ。純度100%の無法だ。自分ルールの中で生きていて他のルールを考慮しない怪物だ。アイツラは返り血で全身が赤くなったら本日の活動は終了とか言っているんだ。解るか? 会話も通じない化け物が近所のコンビニを使っている気持ちが?」
俺は近くのマンホールへと向かい、たんたんとマンホールを叩いた。隠れ武人が顔を出した。
「なんでしょうか」
「どうしてこんな事をするの?」
「鴉羽氏よ、それは何故鳥は飛ぶのかという問いとなんら違いはありませんよ。我ら武に生きるものは常にその武を何に使うのかという疑問に悩まされています。果てしなき武芸の道は常にモンスターという生命の強さの前ではあまりにも無意味です」
そこまで喋った所で武人はにっこりと笑った。
「ですが悪人は簡単に殺せますし比較的に良いことなのでお手軽善行ですね! 善行! これは善行! 社会を捨てた我らが出来る国への奉公です! レッツ皆殺し! 今日も空は赤く染まりますとも!」
そう言うとマンホール武人は本日の善行を積む為に住み慣れたマンホールから去って行った。俺たちはその背中姿を見つめる以外何も出来なかった。
俺は視線をおじさんに戻した。
「頼む、ルールの言葉の意味が解らない奴は社会に出てこないでくれ……!」
なんか悪い事はしてないのに申し訳ない気分になってきたな。いや、でも悪い事してるのはコイツラだし…? でも殺すほどかなぁ。もうちょっと命を大事にしてもいいとは思う。
「近所の殺人鬼も最近は命が安すぎるって嘆いてたなぁ」
「そ、そういうことなんだ。だからね? 家に帰らない? ここに長居するのは止めよう?」
でもなぁ。
「さっき誘拐されたんだよなぁ」
「普通の奴は君を狙ったりなんかしないから! バカしかもう狙わないから! 報復で国ごと滅ぼしそうな奴とか余程なバカじゃないと狙わないからね! こっちで下手人を探して処するから……ね! 帰ろう! ね!?」
近くのビルから武人マン達が出てきた。鞭のように人間を振るいながら最後の1人が【こいつが下手人です】という看板を掲げながら連れ去って行く。
おじさんが崩れ落ちた。
「お願いします、帰ってください……!」
「泣いちゃった」
泣きながら帰ってと言ってる姿を見ていると罪悪感が湧いてくるなあ。しかし活性域は無法で、ブラックマーケットは悪法か……やっぱ活性域の方が頭おかしいんだなぁ。
納得した所で近くのお店からステージになりそうな場所を聞き出して、そこにエデをセッティングしたらブラックマーケットライブを開催する。
なんでや! なんで俺らのホームじゃなくてここで!? 許せねぇ……! そんな怒りの表情たっぷりの中国武人連合が集まってライブを盛り上げてくれる事を約束してくれた。やったぜ。
おじさんは膝から崩れ落ちて動かなくなっちゃった……。
逃げ出す悪人を捕獲してライブから逃げる? 良くないねぇ! をする武人集団がどこからともなく集まり、現代の百八星が揃いつつある中、泣き叫んで許しを乞う者共が増え始める。
そうだね。
本来なら活性域でやるライブなのにブラックマーケットでやってるから怒ってるね。でもエデは可愛いから許して悪人は許さないって。
野生のモンスターと野生の無法武人が集まる中、混沌活性域となってしまったブラックマーケットで今! 地獄のライブが始まる!