年内の大型大会は全て延期している。
交流戦。
マスターズ・チャンピオンシップ。
認定戦。
全てが延期になっている。何故か? って話をすると海王事変の影響で沢山のマスターが死んだこと―――そしてこれは何もSランカーに留まらない。世界最高戦力たるSランカーが死んだのもそうだが、当然延沿岸部から内陸の被害を抑えようとしたマスター達が津波に飲まれたり、沖に出て被害を食い止めようとした軍人、そういう人達を無視して外に出ていた一般人、撮影しようとして勝手に死んだ人たち……。
こういう人達が何人も死んだのが事実で、今世紀最大の死者数を誇る大事件だと言われている。そしてこの被害の大部分は戦闘による余波であり、直接的な攻撃ですらない。戦力を補充したい国家の思惑とは別に、世間は今、大々的な自粛ムードが漂っている。
つまりこんなに死んでいるのに大会なんて開いている場合じゃねぇだろ!!!
……という話である。これは正しくあり、正しくない。人が死んでるので大会を開いている場合じゃないのは確かだが、大会を通してマスターの練度を高め、マスターを上の世界へと押し上げないと死んでしまったマスターの枠を埋める事が出来ない。
実はこの認定戦をしなきゃ上のランクには上がれないというシステムの儀式部分を理解していない者が一般人には多い。これは所謂裏の設定という部分で、それなりに事情に精通するものでなくては知らないような設定になる。
だからテレビや一般人はこう言うのだ。
今は自粛して、だけど上を補充したい……ならAやBの有望株のランクを上げれば良い! それで減った枠を補充しろ……とな。勿論そんな事が出来るならもうやってるに決まってる。
だから国家や協会としては今後の事を考えて認定戦を再開したい……は、今年は世間の声を受け入れてキャンセルし、来年からは再び再開しようという話になる。じゃあそれまで大会は無しなのか? という話になるとそうじゃない。
16人制の大型大会などがキャンセルになっているだけで、小規模な大会であれば普通に開催される事になっているしCランク帯だと16人総当たり式とかも開催出来ている。こっちはあまり話題にならないからね。
だがBやAとかのメディアに引っかかる奴はアマチュアランク帯のようにはいかない。ここらは大々的に放送される―――そもそもこの規模になるとスポンサーとかが必要になってくるのでバレずに大会するというのがちょっと難しいのでどうしても世間一般の目が届いてしまう。
だけどバトルそのものを止める事は出来ない。
自粛ムード中だが、バトルを止めれば経済にも影響が出る。当然、新鮮な勝負ができないから強くなる事も出来ない。大会の開催を止めるとそれだけで多方面に影響が出てしまうのだ。だからバトルそのものを止める事は出来ない。
Sランクの大会は現状、かなりの混乱が大きくて開催できないという事情があるものの、AやBは比較的小規模であれば開催する事が出来るというのが今年の状況だった。来年になればまた印象操作等を通して自粛ムードも薄れるだろうというのがアンナの予想だった。
協会としても、政府としても、何時までも自粛ムードや不謹慎という言葉を引きずってバトル文化の衰退を招くような事は止めたいというのが本音だ。だから今年いっぱいは世間の空気を大事にしつつ、来年からは通常営業に戻す予定だった。
さて、海王事変で大ダメージを受けた俺も例に漏れず、もっと力をつける必要がある。
シンクロが使えない今、マスタースキル抜きで他のプロと戦うだけの技量を磨く必要がある。幸い、図書館攻略の後に似たような状態に陥った事があるので、その時を思い出しながらやればシンクロ抜きで勝負をするのもそう難しくはない。
だが今度の相手はプロフェッショナル。アマチュアではなく明確に一定以上の実力が保証されている強者ばかりなのだ。生半可な技術で挑むと負ける可能性も高い。だがそれで良い。最近は勝ち続きだったから敗北して自分の失点を見直すぐらいの相手が欲しい。
という訳でアンナに大会を頼んだ。参加して腕を磨きたいという話をすると2つ返事で了承された。大会数は激減しているが、試合を望んでいるマスターは多い。最近はゲーム方面でも収益が結構デカいので、アンナが主催になった所で十分元を取れるらしい。凄いね、原作(仮)。
原作(仮)といえばついに海王事変周りのデータが整理が終わり、最新アップデートとしてついに実装された。
これはある意味、全世界の原作(仮)ユーザー待望の瞬間でもあった。
すでに鴉羽尊というインチキクソマスターが海王事変に深く関わり、作戦に参加していたという事実は漏洩している。これは政府とかの情報管理能力が弱いわけではなく、単純に現代社会において情報を守るというのが凄い難しくなっているというだけの話だ。
技術の進歩によるデジタル化した情報を守るのは難しくなっており、デジタルとして情報を隠しているのであれば絶対にどこかで漏れるようになってしまったのが1つ。
千里眼、読心等の異能やモンスターの能力で情報が抜けるようになってしまったのがもう1つ。現代社会、それも異能やモンスターが存在する環境で手段を択ばず本気で情報を抜こうとする連中を止める手段は非常に少ない。
それこそ図書館クラスの鉄壁の防御力でもなければリーカーやスパイによって情報は抜かれるだろうってぐらい今の時代は酷い。当然、海王事変も初期段階では秘密が守れていたが、後半に入るとドローンや千里眼による遠隔透視で戦闘の参加者は割れていた。ノア内部は見れない仕様になってるので戦闘の様子は割れてないが、俺の存在そのものはどこからか漏れてたらしい。
この鴉羽尊様も有名人になったものよ。
インタビュー? 現地のみで受けます。オンラインはやってないんですよ……え? そっちに向かう? それはちょっと……宣伝して貰う必要性とか感じないし。インタビュー受けてほしいならウチに来な。
最近は野生の100レべとか120が牧場内外うろついているから護衛選びにも気を付けてね。数年前はAかBが護衛につけば十分だったけど、近年はSランカーでも連れてこないと素人はちょっと危険かも……。なあに、慣れれば簡単さ。皆そうしてるからな。
ちなみに我が家を1番訪問し危険地帯の踏破に慣れてるのは郵便屋さんと配達の人である。
特に配達の人は車で来てるプロのドライバーなので俺からしてもどうしてこの環境で車が無傷なの???? となる神ドライバーなのである。何時も大量の物資を注文してごめんね……でも業者さんじゃないとダメなんだよ……牧場だし……。
そういう訳で、海王レイド、およびノア浮上作戦実装である。
海王レイドは全ユーザー参加型の大型レイドで、ソシャゲでよくある素材摑み取りレイドになる。難易度別に強さを設定し、最高難易度は難易度Realに設定されており、地球破壊クラスの戦闘力をユーザー全員が体験できる形になっている。
当然、マガちゃん、オルテ、ディザ兄貴抜きの難易度なのでユーザーには是非地獄を見て貰いたい。なお実装から1週間、海王Real難易度の攻略率は1%以下で撃破に成功した人は1人しかいない。やるねぇ、人類……。再現性があるようにゲームは作ってるので、攻略できた人が1人出ればそれに続く人も出るはずだ。
海王事変の再現イベントの実装に伴いノアも実装され、これにより全世界がある程度はあの戦いの真実を知る事になった。実装するかどうかは悩んだが、艦内チクタクマン戦も実装し、イベント戦として当時経験したクソゲー感を皆にもお裾分けした。
これである程度、ゲームという媒体を通して真実が知れ渡る。
そして知るだろう、海王という存在がどれだけ滅茶苦茶なのか。
そしてこの有名税を使ってアンナが大会を開く。とにかくオーダーはBランクでも有望株、A認定戦でぶつかりそうなマスターとの対戦経験だ。フリーマッチでは経験できない緊張とガチさが大会には存在する。
なのでアンナにはたっぷりと苦戦しそうな強者をお願いね! と頼んだ。
元気良くオッケーが貰えた。
るんるん気分での当日。
『―――さあ、ついに待ちに待ったこの日! 今! Bランクで注目株の4人が一堂に揃った!』
大会当日。参加者発表。
『前環境Bランク1位! 今はやや調子崩し気味か? 藤原プロ!』
『デカパイだけじゃない! 陰険な戦術はBランク最強! 篠田プロ!』
『年齢不詳! 本名不明! 好きなものは生きたカブトムシ! 虫食いおじさん!』
『Bランク最強と呼ばれる男! Bランクを語る上ではこいつは外せない! 鴉羽プロ!』
『以上! 本日はこの4人、総当たり式によって進行するぜ!』
すいません、対戦相手にバケモン混じってるんですけど?