最強以外ありえない   作:てんぞー

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ライバル登場

「必殺! 分身スパイク!!」

 

「なんの! ナンパ男ガードッッ!」

 

「がっ!?」

 

 飛び上がりながら3人に分身したクラスメイトを通りすがりのチャラ男を掴んだ別のクラスメイトが盾にして防ぐ、飛び上がったビーチボールを目で追う。だいたいあそこら辺か。位置を把握してから素早く真下まで移動し、逆立ちするように体を縮めた。

 

「乗れ」

 

「よっしゃ!! 行くぞ!!!」

 

「ふんっ!」

 

 飛び込んできたクラスメイトを勢いよく体をばねの様に跳ねて蹴り上げ、高く飛び上がったクラスメイトが空中で3回転しながら太陽を背にスパイクを叩き込む。

 

「くっ、逆光……!」

 

「貰ったッッッ!」

 

「ミストガード」

 

「ずるい!!! それはずるだろ!!!」

 

 渾身のスパイクが久遠を守る霧の結界に囚われて減速する。モンスターを使った防御手段は流石に反則ではないか? 反則だと思ったが分身してるクラスメイトもいるし、チャラ男を生贄にガードしたクラスメイトもいる。もしかして合法なのかもしれない……駆間産チャラ男は顔面スパイク受けて砂浜に埋もれても平気な顔でナンパを続ける。強い。

 

「さあ、受けるが良い我が……我が家の力を!」

 

「流石夜月さん、嘘は吐けない!!」

 

「そうだよね、自分のじゃなくて純度100%お父さんの力だもんね」

 

「受け止めてみろ、ミコト!!!!」

 

「もしもし、殺害予告?」

 

 霧を纏ったボールが超廻転しながら目に見えない超必殺ゲージを溜めている。このまま数秒放置すれば間違いなく俺が死ぬ。その前にあの必殺を中断させなくてはならない。ボールは浮かんだままチャージされているせいで手が出せない、普通に反則だろうが……!

 

「鴉羽……今こそお前のセクシーアピールだ!! お前のセクシーパワーで夜月さんをメロメロにして倒すんだ!!!」

 

「熱中症? 1回頭冷やした方が良いよ」

 

「俺を信じろ鴉羽!! お前、キスした事さえないプラトニックな関係築いてるだろ? だったらここは1発、セクシーアピールで悩殺するんだ!! 行け! 鴉羽! 着弾の余波で俺達も死ぬ前に!!」

 

 明らかに1人じゃなくて此方側のコート全員が消し飛びそうな破壊力のビーチボールに、俺は無言で頷いて久遠を見る。あの必殺技を中断させるには―――良し。

 

「ち、ちゅ……」

 

 ウィンクして投げキッスを久遠に送る。真面目に考えてみるともしかして滅茶苦茶恥ずかしい事をやらされているんじゃないかと思い、一瞬で顔が赤くなる。俺にもこんな感情があったのか、と思っている間に周りが盛り上がっている。

 

「夜月さん、判定は!?」

 

 ビーチボールを目の前で超廻転させていた久遠は笑顔を浮かべ、頷くとそのまま横に倒れた。

 

「し、刺激が強すぎたか」

 

「というかボールの回転が制御を逃れて暴れ始めたな」

 

「ビーチボールが爆発するぞ―――!!」

 

 きゃー、わー、という悲鳴と共に大爆発を起こし、ビーチボールに参加していた全員が吹き飛ばされる。空中に投げだされる身にもなりながら振り返り、頭を空っぽにしてわーきゃーとクラスメイト達と楽しんでいる。

 

 うん。

 

 結構楽しい。

 

 想像の数倍、俺は海を楽しんでいた。砂浜に叩きつけられながらも自然と笑い声が零れる。ちょっとひねくれた中身をしている自覚があったから本当に何も考えずにはしゃげるかどうか不安だったのも、遊んでみれば直ぐに不安は解消された。

 

「生きてる……?」

 

「死んでる」

 

「全滅かぁ……」

 

「体が霧でびしょびしょー」

 

「濡れちゃったしこのまま海に飛び込んでくるか」

 

「私も行く」

 

 一部が海へと向かって行く。海にモンスターが出現するのはもはや当然みたいな顔をしている彼らは一切襲われる心配とかしていない。そんな心配してたらそもそも駆間で生きて行けないからだ。海に迷う事無く飛び込んで、近くにいた魚型モンスターを殴り殺しながら今度は泳いでいる。

 

 駆間の様な地域が日本にはまだあるらしい。人類、あまりにもたくましすぎる。

 

「俺はちょっと休憩、流石に疲れた。交流戦でも聞きながら休んでる」

 

「あいよー。あっちの海の家でさっき狩ったばかりのクラーケンをイカ焼きにしてるみたいだし、ちょっと食ってみるか……」

 

 体についた砂を払い落としながらパラソルの下へと戻り、クーラーボックスの上に置いたスマホを確認する。日米交流戦はまず前哨戦のAランクが2敗1勝でアメリカの勝利で終わった。続いてSランク第1試合は日本が勝利、第2試合はアメリカが勝利、そしてこれからが第3試合になる所だった。

 

「お、東吾の出番か……相手はマッケンジー? 聞かない名前だなぁ。未確認モンスターを選出? いや、これカス嘘じゃん。はー、アイツまだ未確認モンスター扱いだったのか。人形ちゃんをもう誰かしら倒してるものかと思ってたけど結構しぶとく生き残ってたんだな」

 

 SNSがアメリカ側の見せたモンスターがまだ認知されていない新種だったらしく、それで性能予測する大騒ぎ状態だった。今現地で実際に相対しなくてはならない東吾が一番大変だろう。どれ、とダイレクトメッセージを送る。

 

『ヒントいる?』

 

『いらん。楽しみを潰すな』

 

 スマホから顔を上げた東吾がカメラへと向かって―――いや、カメラの向こう側にいる俺へと向かって中指を笑って突き立てる。滅茶苦茶楽しそうにしていて羨ましい。俺も早くあの舞台に立って世界を相手に最強を決める様なバトルをしたい。

 

 まあ、そのためにはまず9月のCランク認定戦が大事なのだが。Cランクになると魔法攻撃が一気に増えるからチビ以外のアタッカーも用意しないとならないし。

 

「この足りない時期が或いは一番楽しいかもしれない」

 

 ゲームあるあるに1人で浸っていると、久遠が少し離れた所で手を振って来る。海に行くらしい。海に向かおうとするとどこからともなくやって来たナンパ男がそのまま一瞬で霧に包まれ、次の瞬間には霧と共に姿を消してた。

 

 こうして駆間の怪談は増えて行く。

 

「もうちょっと、皆で遊ぶ機会を増やそうかな……」

 

 学校が思ってたよりも新鮮で楽しい。授業はそこまで……という感じだが、クラスメイト達と一緒に遊んだりするのがとにかく新鮮なのだ。皆、俺が顔と名前を覚えられない事を理解していても、それを知った上で気にせずに接してくれる。

 

 それが俺にはありがたかった。自分でも思ってた以上に何かが変だと思う。少なくとも最近は……クラスや久遠のおかげで、自分のこの異常性を自覚しつつある。いや、或いは、異常だと思うようになりつつあるのかもしれない。

 

 見えなかった事が見えるように。

 

 たぶん、それがズレなんだと思う。まだはっきりと言える事ではないが、確かにズレていると感じる事が増えてきた。でもそのズレ自体が認知できない。まるで俺の認知そのものが最初からズレていて、それを通して世界を見ているから見つけられない様な。

 

 その根元を見つけないとならない。

 

「まあ、焦った所でどうにもならないもんだろうけど」

 

 さて、スポドリでも飲んで一休みしよう。東吾が苦しみながら敗北する姿を是非リアルタイムで見たい。カス嘘、改め“嘘つき人形”は某童話がモデルのモンスターで、その最大の特徴は固有パッシブスキルのライフ反転化だ。

 

 奴はHP1で戦闘が開始し、どれだけダメージを受けても1以下にならない。その代わりにHPが満タンになると即座に死亡するという特殊な耐性を持ったモンスターだ。初見殺し性能が非常に高く、それでいて詰み性能も高い。耐性も火弱点、土吸収、風水半減、光闇等倍と中々に優秀なモンスターだ。

 

 火じゃなくて土で攻撃しないと倒せないという事を意識してれば何とかなる。

 

 事前情報がない? やったね! クソゲーだよ! まあ、全盛期アリスロックよりはマシだろ。

 

「東吾は反転ヒール使いだしひょんな事から発見しそう―――」

 

「―――見つけたぞ、鴉羽尊!」

 

 名を呼ばれた。聞かない声だ。

 

 辺りを見渡し、それから道路の方へと視線を向ければ、高級車の前に立つ少年の姿が目に入った。年のころは俺と同じぐらいで、どこかで見た事のある顔をしている。いや、待て、顔が認知できる。という事はウチの血族の可能性が濃厚だ。そうでなければ七海の様に才能のある人間か。

 

「……」

 

 必死に思い出そうとしてじぃ、と顔を見つめて、それでも全然記憶に上がってこないから目を閉じて思い出そうとして。それでも思い出せないからまあ、どうせ大した事のない奴だろと結論付ける。じゃあ相手しなくていいか。

 

 イヤホン着けてビーチチェアに戻る。

 

「こっちを!!! 見ろよ!!! 馬鹿!!!」

 

「えー」

 

「えー、じゃないだろ!! お前、人に話しかけられたらちゃんと目を見て話せって学ばなかったのか!?」

 

 された気はするが、やっぱりあんまり興味が持てない。じゃあいっかぁ。東吾の試合の方が気になるしやっぱりイヤホンを着けて試合を見よう。

 

「無視! するな! 馬鹿!!」

 

 全速力で車から走ってくるとイヤホンを引っこ抜かれる。目の前では息を荒げた少年に追いついてきたメイドがお坊ちゃまと言いながら肩を支えている。

 

「なんだよ、こっちは見ての通り休むので忙しいんだからさ……」

 

「く、クソ、コイツ! 間違いなくウチの血族だって事を理解させられる! ジジイの血が流れてるって事を嫌でも認識させられる……!」

 

「お前もな」

 

 アンナだけは本当にジジイの血流れてる? って疑問を浮かべるぐらいのアレなんだが。

 

 ここまで来たらしょうがない。ビーチチェアに腰かけながら露骨に溜息を吐いて珍客を見上げる。

 

「で、アポなしで突撃してきたのはどなた様?」

 

「俺の事ぐらい知ってるだろ、同じレースの候補者だぞ?」

 

 首を傾げる。

 

「……お、俺が誰だか解ってるよな?」

 

 首を傾げる。

 

「俺達がレース参加者だって事は自覚してるよな? ジジイの遺産の」

 

 首を傾げない。

 

「はあ……良かった、最低限の日本語は通じてる……」

 

 コイツ面白いな……。磨けば立派な芸人になると思う。

 

「で、誰?」

 

「ジジイの葬式で顔合わせしただろ、柊雅人だよ」

 

「悪い、あの葬儀で覚えてる事アンナと話した事とDJのコールに応えてた事だけだから」

 

「感性って部分においては間違いなくお前が今のジジイの後継者だよ……!」

 

 どうやら雅人は人を不快にさせる事が得意らしい。そんな事はないぞ、と否定したかったが心の中のアンナがなにも否定できないでしょ、とキレてくるので素直に受け入れて黙っておくとする。俺の感性はジジイに近いが、俺はジジイと違って他人に優しく出来る。

 

「で、なんだよ」

 

「お前、最近調子に乗ってるみたいだな?」

 

「あぁ?」

 

 雅人の言葉に低く唸るような声を上げながら顔を見る。少しだけ怯える雅人を守るようにメイドが立っている……体から軽くだが死の臭いがする。結構修羅場をくぐっているメイドらしい。ちらほらと海の方から呼ばれているだろうに、それを無視してる。

 

「お、お前……家を出て行った落第者の息子の癖して最近バトルで目立ってるみたいじゃないか。柊姓も名乗ってない癖に、目立って生意気なんだよ」

 

 本気で睨む。

 

「ひっ、な、なんだよ、本当の事だろ? お前が柊家の事を忘れて一般人として生きるなら話は別だけど……柊を名乗る勇気もない癖に首を突っ込んでくるというのなら全力で叩きつぶすからな! 絶対だからな! 覚悟しておけよ! あ、葉月、車出して」

 

「はい、直ちに」

 

「覚えておけよ! 睨んでも怖くないからな!! 調子に乗るなよ! 柊家を継ぐのは俺だからな!」

 

 嵐のようにやって来た本家のボンボンは車に乗り込むと、逃げるように去って行く。折角いい気分で海に来ていたのに今ので完全に台無しだ。今まではアンナが一番目立っていたから本家の連中もノーアクションだったが、俺がDランクで異様に結果を出し過ぎた結果か、これは。

 

「また面倒なのが来たな、ミコト」

 

「久遠」

 

「お前を海に誘いに来たんだが……何だったんだアレは」

 

 海から上がって来た久遠が横に来ると去って行く車を眺めている。本当に言う事だけ行ったら去って行った。恐らく本人に本来、こんな事をする勇気なんてものはなかっただろう。

 

「たぶんもっと上の兄貴か姉貴かどれかに踊らされてるんだろうな。様子をみたいか、どう踊るのかを確認したいか……何にせよ、俺が目立つようになってきたから偵察目的で送り込んできた感じかな、今のは」

 

「そういえばお家騒動の最中だったな」

 

「忘れそうになるけどな。勝てば勝つほど目立つ、そして目立てば鬱陶しく感じて来る。妨害する程の価値を感じるかどうかは連中次第だけど……これからはちょっと警戒する必要あるかもな」

 

 折角海に来て良い気分だったのが崩されてしまった。溜息を吐いて気分をリセットしようとしたら久遠がビーチチェアに腰かけた。

 

「なに、心配する事はない。確かに貴様のお家事情は面倒の一言に尽きる。だが貴様が辛く、苦しく感じる時は私が常にそばに居る。だからそう怖い顔をするな。見せるなら私だけにしておけ」

 

「ん」

 

 指で眉間を揉みほぐす。ちょっと怖い顔をしていたかもしれない。意識して自分の心を落ち着けて、悪い感情を吐き出して気分転換。この気分を引きずってこの後をダメにしたくはない。休むつもりでいたが、ひと泳ぎした方が気分も良くなるだろう。

 

 試合結果は後で確認するとして、今はこの危険地帯で泳ごう。立ち上がって背筋を伸ばす。

 

「ひと泳ぎして気分転換するか」

 

「そう来なくてはな。ほら、行くぞ」

 

 そう言って手を伸ばしてくる久遠に応えるように手を握り返す。足取り軽く前へと進む彼女へと遅れないように付いて行きながら一度だけ振り返る。

 

「……ライバル登場か」

 

 願ってもない。

 

 ゲームは、障害が多い方が楽しい。

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