いやあ、怖かったわ。でも種が割れれば怖さ半減だね! これからは哀れな極悪モンスターの犠牲者と思っておくか。流石ゴキブリと蝗、存在そのものが汚い。やっぱ虫系モンスターは精神性が異形で怖いなぁ。え? うちの連中? まだマシだろ。白紙を除いて干渉してくるのがいないし。
おぎゃばぶドラゴン? ちょっと知らないですねぇ……。
という訳で控室に戻って次の試合の対策に入る。
今回の試合形式は他人の試合を見る事が出来ないが、勝敗を知る事は出来る。なので七海vs虫食いおじさんの結果だけは教えて貰える。これで大体の力関係が見えてくる筈だ。そして七海と虫食いおじさんが第1試合を担当するという事は、残された俺と藤原プロが次の試合を担当する事になる。
さて。
控室に戻ったらまずは待機していたチビを抱きしめて心の栄養素を補充する。もふもふだ。もっふもっふやぞ。もふもふして心のエネルギーを回復したらソファに座り込み、タブレットPCを取り出して事前に用意しておいた藤原プロのデータを表示する。
もふもふされ終わったチビが不満そうな表情をして膝の上に頭を乗せて抗議してくる。スタメンの他の連中も部屋の中で好き勝手やっているが、此方がデータの確認に入るのを見て静かにアップに向けた準備に入った。
―――さて。
藤原鉄郎、B級元1位。つまりBランクという環境でトップスコアを持っていたという経歴の持ち主である。つまり国内、Bランクという数千人規模の集団の中で最も強いとして評価された男でもある。基本的にレート制が採用されるBランク帯において、1位という事は誰よりも多くの対戦数をこなし、勝利してきたという証でもある。
強者だ。
だが最近は落ち目だとも言われている。何故か? その答えは全て、藤原プロが握っている構築に答えがある。
藤原プロが握っているのは超耐久パ。圧倒的な耐久力で相手の攻撃を耐え、MPダメージ等でリソースを枯らし、相手が動けなくなったのを見計らってリーサルをかける長距離カウンターの使い手だ。これは無印環境において最も強いと呼ばれた戦術でもあり、圧倒的な強さから堂々のTier0として評価された戦術でもある。
ここまでこの超耐久編成が評価された事には色々と理由がある。
最も大きな点は無印環境におけるディスペル系統スキルの種類の少なさと、クリティカル関連スキルの少なさだろう。ダメージカットを重ね掛けする事でダメージを減らしたり、元から高い防御力を補強したりする耐久構築はクリティカルによって崩すのが定石だ。
だが無印環境においてはこのクリティカルを補強する手段が少なく、DLCによって根の国が実装するまではディスペル系統が薄く、図書館が実装するまではOCが無くクリティカル関連のスキルも薄かった。
OC導入にあたり通常のクリティカルがし易いようにクリ100%バフなんかが登場するようになって漸く確定クリティカルは珍しいものではなくなった。そしてこれは同時に、防御力を簡単に貫通する為の手段の導入でもあった。
無印環境においてこの超耐久パは本当にやばかった。
クリティカルバフの少なさ。ディスペルの少なさ。最上級魔法攻撃の欠落。とりあえず高耐久を抜くための手段が薄かった。その影響で高耐久の構築を作れば妥協編成でもかなりやれた。
勿論、国木田もこれで封殺出来た。
無印あんこはクリティカル系統の攻撃手段を持ってなかったのだ。なのでクリティカル10~20%ぐらいでしか防御を抜けなかったのだが、そもそもゼリィは種族として能力値が低い。それを補うために上限解除なんてものが配られている。
そう、素のあんこに高防御を抜く手段なんてものは搭載されていないのだ。だからこそ上限解除という手段を与えている。それを搭載して初めて様々な能力を持った相手と戦う事が出来るからだ。なお、インフレに伴い現在Tier1の化け物へと無事に成長を遂げた。ちょっとぉ、このパッチノート書いてある事おかしくなーい? 正気? 正気じゃないけどパッチノートのまま実装する? いつもの事っすね……。まあ、そういう時代もあった。懐かしい話だよ。
MPが枯れて《ディスペル》を受けたあんこははっきり言って怖くなかった。少なくとも当時のユニゾンアタックには防御貫通とかカット貫通とかなかったからこれで封殺出来たのだ。そして恐ろしい事にこの超耐久編成はお手軽にモンスターも戦術もコピーが可能だった。
誰でも使えて、誰でも真似出来る。そしてお手軽に勝てる。当然オンラインの対戦は大量の塩試合で溢れていた。こんなもんが許される筈もないのでDLCで当然のお仕置きをされた。しょうがないね。
そして案の定図書館DLC登場後、超耐久パは見る影もなくなった。
OC前提構築による無バフ確定クリティカル。
《ディストーション》による安定したダメージとディスペルの両立。
陣法やムシキング共によるステータスを参照しないAOE攻撃。
一気に超耐久を無視してダメージを与える手段や無力化する手段が増えた影響で、超耐久のTierは下がった。それでもTier2ぐらいの力は持つが、それは火力ではなく安定感での評価が大きい。もはや過去の栄光に届く事はないだろう。
そして同じ歴史をこの世界でも歩んでいた。
藤原プロはBランクで高耐久を構築したロングレンジ戦術をメインにしていた。安定感のある戦闘は彼を堅実にBランクのトップへと導いた。問題があるとすれば彼がA認定戦を受ける段階で俺による全世界アップデートが施され、一時期麻薬の如く流行ったOCパチンコ構築に負けてしまった事だろう。
それが良くなかった。
次々にOCや合体魔法構築が環境に紹介され、一気に回数性のカットや高耐久を貫通する手段が環境に流入してきた。気づけば彼の高耐久構築は面倒で攻略が困難な構築から、比較的にとれる手段の多い構築へと降格してしまった。
ゲームであった歴史を、この世界がそっくりそのまま辿ってしまった。
彼はある意味、俺の被害者なのだ。Aランクへの道を1度俺によって潰されている。それを考慮した上でどうするのか? という話は簡単である。
全力で打ち倒すのみ。
「さて、誰を選出するかな……」
ここからは選出タイム。相手の構築に合わせてモンスターを選ぼう。相手は前環境最強の存在だ。強さは保証されている。大事なのは相手がどこまで環境に合わせたアップデートを行っているのかを読む所にある。
現環境で耐久パが行える調整とはなんだ?
まずクリティカル耐性だろう。《クリティカルガード》は俺が量産して流通させた。その影響もあり、今では誰もが手にできるスキルになった事だろう。まず間違いなくクリティカル耐性を積んでくるだろう。
《方舟都市ノア》も使ってくる可能性がある。こっちも量産して流通したが、まだそれほど浸透してないだろう。ただ使用すれば全体にクリティカル耐性を付与できる。フィールドとして見るとかなり相性が良い所だ。
カット系のスキルも後期のインフレに備えて無印からの完全上位互換なものが幾つか実装されている。無印環境だとカット系も全体50%1回、だったのが3ターン継続ぐらいまで進化している。そうだね、これぐらいないと竜王とか海王とかと戦えないね。ここら辺も考慮していいかも。
長期戦想定でリジェネ等の継続回復スキル、瞬間回復スキル、後は貫通能力を止める為の打ち消しも用意しているだろう。1番面倒なのは間違いなくMPダメージだろう。MPの自然回復力向上だけでは基本的にMPダメージ系統の損失分を補填出来無いからだ。
基本設計的に回復力向上で補えるのは消費分までだ。それも単発とかが想定で、合体魔法とかを駆使すると簡単にマイナスに傾く。これを全部踏み倒せるのが超越なのだが。
超越にはMPダメージが一切通じない。だからこそランプ系最強と呼ばれるのだが。
さて、ここまで情報を纏めると大体使いたいモンスターが見えてくる。
「まずはチビ」
「わぁう?」
クリティカルダメージによるサブ火力として採用。回避によるMP補填もできて性能がほぼほぼ自己完結している。相手が物理を多用するなら《クイックレイド》によるリーサルも見えてくる。耐久力が低いのが弱点だが、相手の構築的にそれを心配する必要はない。
「次にノトスかな」
「おう、おぢさんの出番か。ノアと若にかっちょいい所を見せないとな!」
最近ノリにノッてるノトスはメイン火力採用だ。ノアクリアによりスキルが《運命踏破者》に変更、常時クリティカル率が100%になった。クリバフ抜きでクリティカルが出せる他、クリバフ込みで無理なくOCが狙えるので高い継続火力が狙える。ミレーナとは違い、1ターン目からガンガン連撃、弱点付与等の高火力行動が取れる。ノアクリアによりB帯最強クラスの継続火力スペックに進化した。今のノトスはかなり強い。ノアクリアでスキル色々と更新されたしな。
問題はそろそろこれ、将来的にどうなるんだ? という恐怖が見えてきた事かなー! ちょっと想定してた元の性能から離れてきてるんだよね。強いのは良いんだけど、スキルの融合先が不透明になるのはちょっとヤバい。まあ、この問題はそのうちに。
「最後はウェルかな。調子は大丈夫か?」
無言でウェルギリウスがサムズアップを上げる。調子の悪さなら俺とどっこいだろうに。
ウェルギリウスは妨害役だ。相手の厄介なスキルの打ち消し、継続カットや無敵を剥がすのが仕事になる。今回は9割型、ノトスとチビの攻撃さえ通せれば勝ちなのでエデよりもこっちのが適している。
まあ、ロングレンジの構築って基本歌唱対策にノイキャン積んでるしね。この世界でそこまで環境が進んでるかどうか怪しいけど、警戒しておく方が賢いプレイヤーというものだ。
構築決定! という所で端末に1戦目の結果が出た。
1-0で七海の勝利だったらしい。結構接戦だったな。
「さーて、アイツが勝ったのなら師匠として負けてらんないなー」
それじゃあ、久々の大会やりますか!