【書籍化】最強以外ありえない   作:てんぞー

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わくわくさせてくれるじゃねぇか

『来たぞ来たぞ来たぞ! こいつがやってきた! 数か月の沈黙を経て! あの大嵐の中を戦った1人だと噂されているあの男が! Bランク最強とも噂されている男が! 鴉羽尊がやってきた! 未だにBランク無敗! その戦績を守れるか!? 対するはBランク最大の壁とも呼ばれる男、藤原―――鉄郎―――!』

 

 観客の声援を浴びながら中央に到着すると、既に対戦相手の姿がそこにあった。しかし海王事変は大体が流出されているって話だったけど、こんな所でも話題になってるんだなぁ、と、ちょっと感心する。

 

 正面、藤原プロが連れてきた3体のモンスターを見ながら事前にデータ通りの相手だと確認する。

 

 中核となるサポーターのエルダーアルラウネ。

 

 2枚盾となるグランバジリスクとミスリルガーゴイル。

 

 植物系統×妖精系統で作成できるアルラウネ系は植物系統特有のバフとデバフと妖精系統のバフとデバフ、異なる2系統のサポート能力を備えたかなり優秀なサポーターだ。エルダー級にもなると高位スキルや高いステータスにも恵まれてサポーターとしてかなり高い地位を獲得する。

 

 グランバジリスクは接触反応型モンスターで、《毒血》を保有している。これはエストの《堕落の誘い》と似たスキルで、接触ダメージを受けた相手に対して毒を付与するというスキルだ。接触攻撃限定のため魔法の場合反応しないのが弱点だが、このグランバジリスクは非常に優秀な耐性を持っており、弱点が光1本で残りは半減か通常のみという具合になっている。また魔法耐性を20%も保有していたから魔法そのものが通じづらい相手だ。

 

 それと一緒に運用するミスリルガーゴイルはひたすら物理防御力を高く纏めたモンスターだ。バジリスクがロングレンジの戦闘で相手を疲弊させる役割なら、ガーゴイルはひたすら受け続けるのが役割だ。その為の高防御、防バフ、そして耐性スキル。ただただ固くしたモンスターは相手の必殺スキルを受ける為の存在だ。

 

 完全に役割を徹底した完成された耐久構築。それが藤原プロの構築だ。俺は割と高評価を押している。これなら合体魔法構築相手にも強く出られるだろう。今は環境的にOCの方が多いが、《箱舟都市ノア》が広まればクリティカル耐性が雑に増える為、環境はまたOCから合体魔法へと寄るだろう。

 

 そうなったらこの人はまた、勝率上がるんだろうなあ……と思っている。まあ、その前に俺はこのB帯を抜けたいんだけど。

 

「鴉羽プロ……」

 

「藤原プロ、今日はよろしく」

 

 俺もいつの間にかプロって呼ばれるようになったんだなぁ、と感慨にふけっていると藤原プロがまっすぐと俺を見つめてきた。

 

「さっきはなんか人間か怪しい奴がいたせいでまともに話が出来なかったから戦う前に言わせてくれ」

 

「……? どうぞ」

 

「俺は、お前が嫌いだ」

 

 いきなりの言葉だった。俺は割とあんたの構築、性格が出てて割と好きなんですけど……!

 

 良いか、と藤原プロはこっちを指さしてくる。

 

「お前は特別だ」

 

 はい。

 

「お前は才能があって、若くて、勢いがある。その上で周りに恵まれている。お前のような奴はすぐに上に行くだろう……もうそれが見えてる。噂が全部本当なら、な」

 

 急に褒めるじゃん。照れるわ。

 

「だけどな、俺みたいな人間はな、そう簡単に戦い方を変えたり、適応したり……そういうのが出来ないんだよ。これまで付き合ってきたモンスターと別れて新しい環境に合わせるとか、そういうのは出来ねぇんだ。何年もかけて磨き上げてきたこの1本でしか勝負できねぇ。今更他に切り替えるだけの能がねぇんだわ」

 

 悲しいけどな、と言葉が続く。

 

「俺のような奴が世の中大半で、お前を恨んでる。お前が普段から会って、良く話している連中は才能のある、適応できる側の存在だ。そういう奴は同じ才能のある奴の周りに集まってくる。俺のような奴はな、それまで使ってたもんにしがみついて行くしかねぇんだ。俺が勝ってたのはたまたま環境に合致してたからだ。それが過ぎ去った。俺はそう遠くないうちに凡人って呼ばれて沈んでいくだろうな」

 

 こいつらをな、手放せないんだよ、と言って3体のモンスターを示した。

 

「忘れないでくれよ。お前が環境を変えて盛り上げるように……その波に飲まれて溺れる奴がいるって事を―――まあ、素直に負けてやるつもりはないけどな」

 

 そう言って先に人工ダンジョンの中へと入って行く。その姿を見送ってから呟く。

 

「諦めた男の目にしては好戦的すぎるだろ。本性隠せてないだろ」

 

 全然諦めきれてないのが見える。未練たらたらだ。だからこそこの大会で少しでも牙を突き立てに来たのだろう。バカだよなぁ、このランクになって弱者なんてもんはもう存在しないだろうに。

 

 後を追うようにダンジョンの中に進み、チビたちを布陣させる。とん、とん、とん、とこめかみを叩いて頭の調子を確かめる……うん、悪くない。ちゃんと動いてくれそうだ。そのまま距離を空けるように歩いて、手を動かす。

 

 グーチョキパー、ぶんぶん、ぴたっ、すっ……良し、ハンドサイン完璧。

 

 シンクロを通して指示を出せない以上、ある程度のプランはモンスターたちに仕込んであるが咄嗟の判断は声や気配、ハンドサインだけで指示を出せるようにしないとならない。図書館事件の後に散々練習したのもあって未だに体に染みついている。

 

 いや、ほんと、何が助けになるか解ったもんじゃないな。

 

「じゃ」

 

「おう」

 

 そんじゃ。

 

「対戦よろしくお願いします」

 

「対戦よろしくお願いします」

 

 社会人だからこそ挨拶は大事にしよう! ファイっ!

 

 Bランカーの藤原プロが勝負を挑んできた!

 エルダーアルラウネが現れた!

 グランバジリスクが現れた!

 ミスリルガーゴイルが現れた!

 《スポットライト》! 世界はチビの可愛さに釘付け!

 《輪廻転生》……私たちは再び会える。

 ウェルギリウスの来世が約束された!

 チビの来世が約束された!

 ウェルギリウスは《根の国》を呼び起こした!

 ノトスは悪夢を乗り越え、過去の因果を改変した!

 今、悪夢は未来へと出航する希望へと変わった!

 《運命踏破者》! ノトスの基礎クリティカル率が100%になった!

 《運命共同体》! チビに運命が共有された!

 

 という訳でまずはこちら側のセットアップから。速度はこっちの方が早く、相手は鈍足構成故にセットアップ行動はどうしても1手遅れる。タンク系はどうしても遅くなるもんだからしょうがないと言えばしょうがないのだが。

 

 ノトスのバフ共有でチビとノトスが常時確定クリティカルになったのはかなり強いポイントだ。これでアグロ戦における火力は完全にミレーナ編成を上回った。無理なくOCを狙えるラインにも乗ったので、弱点付与と合わせて瞬間と継続火力が両立できる。

 

 さて、ここからが問題だ……!

 

 アルラウネの《即興劇》!

 即座に歌唱スキルを発動させる!

 アルラウネが《堅城の記憶》を奏でた!

 敵全体の防御力が1段階上昇した!

 バリアが付与された!

 ダメージカットが付与された!

 《変曲》!

 《朝露の音》が奏でられた!

 敵全体に状態異常無効化が付与された!

 継続回復効果が付与された!

 3ターン歌唱スキルが使用不可になった!

 グランバジリスクの《スポットライト》!

 グランバジリスクもチビに可愛さで対抗し始めたぞ!

 ミスリルガーゴイルは《箱舟都市ノア》を呼び起こした!

 生命保護プログラムに従い、全ての生命が運命の悪戯から保護される!

 あらゆるキャラクターはクリティカルを受け付けない!

 

「マジかあ」

 

 ミスリルガーゴイルがそれを発動させるのと同時に、フィールド全体が見慣れた鋼鉄の都市へと姿を変貌させる。フィールド全体が上書きされ、青空の見える海―――ではなく、月の空が見える月の海に停泊するノアの甲板が再現された。

 

 このスキルが流通し始めてからまだそんな時間が経過してはいない筈だ。値段を安くするために相当数を流通させる様に協会に納品ボンバーをキメたが、それでもこれを手に入れる為には相当な努力が必要だったに違いない。

 

 なーにが俺の事が嫌いだ。

 

 なーにが沈むだろう……だこのクソボケ野郎!

 

 勝つ気満々じゃねぇか! どう見ても弱点カバーする為の最新のアップデートを施してきてるじゃねぇかこいつ! 詐欺も良い所だぜ! わくわくしてきたなおい! ノアを実践運用する奴はまだこっちで見たことがなかったんだよ、面白れぇ! 《即興劇》で歌唱キャンセルしてメインフェイズ残す動きもだいぶ手馴れてる……。

 

 強者……強者だこれ!!

 

 わくわくさせてくれるじゃねぇか藤原プロ―――!

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