―――早い。
解っていた事だった。だが藤原はその瞬間、尊の異様な判断の速さに舌を巻いていた。無論、知っている事だった。事前のリサーチは何度も繰り返し、試合映像も確認していた。今更他の構築に切り替えるほど器用でもない。
だから藤原は自分の構築を限界までアップデート、ブラッシュアップする事で対応するという選択をした。つまり今の藤原の構築は未知の部分が多く、対応するのが難しい筈だ。特に初戦で運よく尊にぶつかる事が出来た。
初見とは未知のアドバンテージだ。情報がない為、正しい対処法がまだ割れていない。これは実戦の中で相手に判断する為の時間を要求する事になる。つまり、事前に動きを理解している分、行動を高速化して突き詰められる。
だが尊の対応が早い。
早すぎる。
『え? 尊くん? そうだね、判断早いよねー。尊くんと対戦すると嫌でもゲームスピード上がるよね。なんというか……試合前に限界まで詰めておかないとまともに戦いにならないんだよね』
七海はそう言った。
『鴉羽ァ? アイツはエンタメってもんが足りてねェんだよ。バトルするなら100しかねぇんだよ。常に本気。常に全開。全部本気でやってるから常にバトルスピードもトップで駆け抜けやがる。 ア? 判断の早さ? そりゃァ全部頭に入ってるからだろ。変態だし』
花火師は割と辛辣だった。
『尊はなぁ……ちぐはぐなんだよ。経験は足りてないけど経験がある。地に足つけろって昔言ったんだけどなあ、まだ片足って感じだ。それでもアイツの中にはデータベースが出来上がっている。どのモンスターがどう動き、何が出来るのか。それが全部頭の中にある。だからこそ常に最善手を理解して動く事が出来る』
東吾は最後の一歩を待っていた。
尊の中ではモンスターとセットアップを見て9割の動きが決まる。相手がどう動くのか大体脳内の中で完結しており、あとはそれを現実に出力するだけだ。だからこそゲームスピードが速い。現実で起きる出来事はほぼ確認作業に近い部分がある。
だから尊の指し手は常に神速。シンクロが封じられた今が最弱の状態だと言える。それでも尊の指し手は早く、異様としか表現できないゲームスピードを成立させる。
……それでもどういう判断してるんだこいつ……!
尊は最初から割合ダメを捨ててグランバジリスクから落とす事を目的にしていた。その為にリソースの投入に躊躇しないし、それが正解だと最初から理解して動いていた。たとえ高耐久編成と相対した経験があったとしても、リソース投入からの速戦には普通、躊躇が入る。
先ほどの盤面はたとえば《ワープスター》でも藤原が指示すれば崩れる所だった。チビの攻撃前に割り込んで《箱舟都市ノア》を再展開すればクリティカルが封じられ、バフがすべて無意味になる所だった。
だが《ワープスター》は入らなかった。《ファストアクション》が入ったのはノトスとウェルギリウスだけだった。つまりまだチビが《ファストアクション》を抱えている可能性があった。
先制付与による割り込みは速度による優先権が入る。
《ワープスター》使用後に《ファストアクション》が入った場合、チビが《ワープスター》による神速付与を超えて先手を取って殴ってくる。この場合、完全にマスタースキルが腐って無駄打ちになる。
藤原はこの可能性を考慮してマスタースキルがその瞬間打てなかった。あるいはもう1秒か2秒あればマスタースキルを切るだけの根拠を自分の中で固められたかもしれなかった。だがあの瞬間、尊は攻撃した。
おそらくそこら辺の計算と判断も全て織り込み済みで。
モンスターの性能そのものが強いのは事実だ。インチキじみた性能をしているのは確かにそうだ。だがその上で、活用している人間の判断能力が異様に高い―――まるで十数年現役のベテランマスターの指し手を見ているような錯覚さえしていた。
それでも。
「意地があるからな」
天秤が既に傾き、決着が見えていても藤原プロは諦めていなかった。プロとしての矜持がある。みっともなくても戦う。最後まで諦めない。それが、誇りでもあった。
ミスリルガーゴイルは《方舟都市ノア》を展開した!
アルラウネの《ブレインブラスト》!
ウェルギリウス小ダメージ!
ウェルギリウスのMPに小ダメージ!
……まあ、諦めないよな!
ここからが厄介だ。そう思いながらざっと盤面を確認する。ガーゴイルは無傷。支援要請着弾まで後1ターン。アルラウネは最後の手札残して無傷。こっちはアタッカー2人が毒で時間がかかるとマズイ。
先にグランバジリスクを落としたのはこれ以上耐久を上げられて反射毒を強化されない為……だが、それでも猛毒を食らった。これで体力が尽きる前にリーサルを決めないとならない。
が、速度の関係でこれが難しい。
ノアを解除できるのはチビの行動後だ。チビ自身に《根の国》を積んでるが、使えばチビは動けない。ノトスではリーサルまでに火力が足りない。ウェルでは殺せない。相手の行動が此方の後だから、行動を見てからノアを再展開出来る。
つまり火力であるクリティカル攻撃を叩き込むタイミングがすっとズレるのだ。後攻クリ封じで此方のメインソースが封じられる以上、必ず相手のノアをどうにかしてからじゃないと動けない。
つまりノア展開にパフェキャンを切るか、チビで上書きしてノトスで殴るか。
だが火力の都合上、チビとノトスはセットで動かさないと火力が足りない。ならノアにパフェキャン切って殴るか? でもガーゴイルは恐らく無敵持ってるんだよな。
なら無敵にパフェキャン切るか? という話はノアの後攻対応出来なくなるのでまあ、難しい話だ。相手もこっちのパフェキャン見てる感じあるし。ただ、アルラウネの最後の1枠は感覚的に蘇生手段だと思ってるんだよね。
バジとガゴのこの耐久力なら蘇生したら自己回復で勝手に耐えて居残るだろうし選択肢としては悪くないね。問題は《根の国》が展開されているとノアを出さざるを得ないから使う暇が無さそうなことかな。使ったらウェルギリウスの《彼岸送り》で完殺するんだけど。未だにこっちは見せるタイミングなくて手札で腐ってるんだよなー。
まあ、その内蘇生特化と当たった時に死ぬほど刺さるからその時まで腐らせておこう。
さて。
手札的に相手の対応上限はここら辺かな? ここまで分析が進むと大体のリーサルプランが見えてくる。ノアを上書きしつつチビはバフ再展開、ノトスは弱点付与。準備整ったら下準備にノアにパフェキャン当てて火力出して、無敵されたらサクリ輪廻でパフェキャン再取得かな。
インタラ時点で妨害耐性がないのは見えたからこれが止められるのはもう考えなくていいや。後は行動割り込みへの警戒だけかな。こっちもチビのファスアクで対応出来るしそこまで怖くないな。
良し、プラン確定完了。最悪割り込まれても支援砲撃着弾と合わせればリーサルラインだろう。
じゃあ、やりますか。
チビの《クリティカルエッジ》!
ノトスの《船解体斬り》!
物理弱点が付与された!
ガーゴイルに小ダメージ!
《無惨》! Weak! 小ダメージ!
ウェルギリウスは《根の国》を展開した!
ガーゴイルの《星の盾》!
アルラウネは《方舟都市ノア》を再展開した!
猛毒ダメージ!
チビ&ノトス残り8割。
1ターン終了。このターンに支援砲撃着弾。間を置かずにそのままゴー。
チビの《レヴェリー》!
ノトスの《ディスペル》!
ガーゴイルの強化が解除された!
ウェルギリウスは《根の国》を再展開!
ガーゴイルの《大盾》!
バリアが付与された!
アルラウネの《方舟都市ノア》!
ウェルギリウスの《パーフェクトキャンセラー》!
「やっぱり来たか……!」
チェック、詰めに入る。藤原プロもこの手は見えてたみたいだな。解ってても止められないという事を解らせる。
月からの砲撃が降り注ぐ!!
ガーゴイルにダメージ!
アルラウネに大ダメージ!
猛毒ダメージ!
チビ&ノトスの体力残り7割!
ターン進行。
《ワープスター》!
藤原は味方に神速を与えた!
《ファストアクション》! チビは神速を得た!
チビの《フェイタルクロー》!
ガーゴイルに致死の爪撃が襲いかかる!
介入処理
《インビンシブル》!!
ガーゴイルは無敵となって耐える!
《サクリファイス》!
ウェルギリウスは己の命を絶った!
《輪廻転生》!
明日の向こう側からウェルギリウスは帰ってきた!
《パーフェクトキャンセラー》が復活した!
《インビンシブル》は打ち消された!
Over Critical! Weak!
ガーゴイルに極大ダメージ!
《レヴェリー》! 残像が切り刻む!
Over Critical! Weak!
ガーゴイルに極大ダメージ!
ガーゴイルの《大盾》!
バリアが付与された!
ノトスの《船解体斬り》!
Over Critical! Weak!
ガーゴイルに極大ダメージ!
《無惨》! ノトスは再び切り込んだ!
Over Critical! Weak!
ガーゴイルに極大ダメージ!
「耐え、たぁ!!」
「いいや、リーサルだ!」
馬鹿みたいに硬い、が、底は見えた。此方はまだウェルギリウスを残している。
「詰め!!」
ウェルギリウスの《明日の礎》!
ウェルギリウスはチビの礎となるべく死亡した!
チビに再行動が付与された!
チビの《フェイタルクロー》!
Over Critical! Weak!
ガーゴイルに極大ダメージ!
《根の国》がガーゴイルの命を摘み取った!
ガーゴイルは死亡した!
「糞、隠し玉か!」
ガーゴイルが死亡したのを見て、藤原プロは片手で目を押さえると溜息を吐いた。
「流石にここからは覆せないな……グッドゲーム。俺の負けだ」
「グッドゲーム! 楽しい対戦だった!」
決着に歓声が溢れ出す。それに応えるように近寄ってきたドローンカメラにピースサインを浮かべる。これで取り敢えず1勝目だ。