それでは。
「七海の優勝を祝しまして」
「かんぱぁーい!」
かぁん、とグラスをぶつける。ちょっと大き目の音が響くので周りを見る。迷惑はかけてないようだ。それに安心してグラスの中のウーロン茶を飲む。そう、俺たちはまだ未成年なので酒はなしなのだ。20歳になって生きてたら飲んでみたいな。
大会が終了した俺達が向かったのはちょっと高そうなレストラン―――ではなく、どこにでもあるようなファミレスだった。アンナは普通に金を使って社会に貢献しろよと言うのだが、俺達は普通のファミレスにちょっとした憧れを抱いている。だって普通のファミレスなんてもん駆間にはないからね。
防弾ガラスが標準装備、店員は常に武装、ドリンクバーには回復薬が常備されていて何時でも持久戦へ移行できる。そんな武装レストランが俺たちにとってのファミレスだ。だから回復薬も武器も置いてないファミレスは珍しいものになる。こうやって普通にグラスを傾けるのも新鮮な気分だ。
流石にモンスターの連れ込みは禁止なので俺と七海の2人だけだが、連中は後で労う事になってるのでまあ、許してくれる。そんな訳で普通のファミレスに今話題のBランクマスターが2人揃っていた。
「個人戦では負けちゃったけど総合優勝したー」
「スコア負けしちゃったねぇ」
初めて俺から勝ち星を取ったという事で七海のテンションは割と高かった。自分へのご褒美に大き目のパフェを丸々1個頼んでそれにスプーンを突っ込んでいた。頭を使って疲れているのは俺もそうなので、チーズケーキを頼んでフォークで突っついている。
大会は成功だと言っても良いだろう。反省点もあったが、ドラゴンの運用も出来た。初陣を済ませたしここからはどんどん純ドラゴンや混合構築での出番を増やしたい。1度出した以上はもう控えさせている事に意味もないからな。
「次は個人戦で勝つからねー」
「やれるもんならな」
でも次は本気でやって負けるかもな。七海のプレイングはそれぐらい上手くなってる。
「本当に成長したなぁ、お前はよぉ」
「でしょでしょ? 凄い研究とかいっぱいしたんだからねー」
大変だったよぉ、と七海が語る。
「映像いっぱい集めて、過去のバトルの傾向を整理して、プロファイリングして……東吾さんの研究会に入れて貰って……それでいざ対戦! ってなったらこれまで影も形もないモンスター使って来るんだからほんと困ったよ。ミレーナちゃんかチビちゃんを使ってれば素直に完封出来たのに」
「ほんと恐ろしいな、お前」
何が恐ろしいってデュラハンの《デスフォーチュン》は仕様上打ち消しで作動する為、《スペルアブソーバー》等で誘発させる事が出来る。だから《パーフェクトキャンセラー》や《インタラプト》を打ち終わっても、魔法詠唱を消費する行動が残っている限り常に打ち消しからの死の宣告加速が待っているのだ。
こうなるとミレーナはもう詠唱行動が取れなくなる。ノーコストの下級魔法じゃ威力が足りない。そうなるともう置物になるしかない。後は恐怖でチビとノトスを縛り、弱点付与をキャンセルしつつ物理無効のポルターガイストを壁にして行動縛って死の宣告進めるだけ。
行動キャンセル+死の宣告+バステによるダメージ。
相手が後手に回った瞬間、対応でパンクさせて殺し切るコントロール構築だ。これに1番近いスタイルは誰だ? って話をするとマルチルート構築の東吾なんだよね。その東吾も交流戦以来構築更新と戦術のブラッシュアップにずっと集中している。
今じゃあの頃とは完全に違うレベルにまで成長してるだろう。うーん、将来対戦する時が楽しみだ。東吾、実はちょくちょくウチに来ては暗黒樹海に潜ってるんだよな。樹海抜けて原始の海へのルートを構築してるみたいで、どうやら独力でフェニックスの討伐を目指しているらしい。
危ないなぁ、とは思うが東吾は別に弱くない。事前にメタの用意と情報さえあれば勝てる相手ではある。ただ俺抜きで攻略されるのはちょっと寂しいなぁ、って気持ちは存在している。俺も一緒にフェニックス殴りに行きたいよ。
でもその奥の破壊神は絶対に触っちゃダメだよ……?
眠ってるなら眠ったままにさせておいてください。現状アレを止められるのはノアロボモードだけでこれで決戦した場合地球がたぶん壊れるんだよな。破壊神の攻撃演出、普通に地球割ってたからな。
後はなんか小惑星掴んで投げつける演出とかなかった? やっぱ裏ボスの攻撃演出おかしいよ。
「しかし尊くんもドラゴン握るんだ……意外だなぁ。尊くんってああいうパワータイプのモンスターそんな好きじゃないと思ったんだけど」
「まあ、構築としての面白みはどうしてもランプとかコントロールにあるよね、っては思う。俺そもそもアグロ系そんな好きじゃないんだよ」
七海が解る……って頷く。アグロ系ってリソースぶっこんで序盤に早期終結させるのがメインの戦術だから考える事が少なくてあんま楽しくないんだよね。逆にランプやコントロールは考える事がたくさんあって大変な分、相手を完封して勝利出来た時の喜びがデカい。
この苦労に対する報酬で脳内麻薬ドバドバって訳よ!
でもオンラインで対戦するとレートの都合上短期間で試合を終えるのが理想になるから、どうしても早期終結が狙える構築のが優秀になっちゃうんだよね。オフラインだと長期戦想定でランプとか握るのが正解だけど、
「相手の構築見て攻略法を考えて綺麗にリーサルまでの道のりを考えて通すの、気持ちが良いよね……」
「解る……」
やっぱお前は俺の弟子だよ。こういう所そっくりだわ。
チーズケーキを突いて口にする。ファミレスの安い奴だがやっぱ好物を口にすると気分が高揚する。後はふわふわとろとろカリカリのクロワッサンがあれば完璧なんだけどなー。でもクロワッサンって安い奴あんま美味しくないんだよな……。
「しっかし尊くん豪いスキル覚えたドラゴンちゃん連れて来たね」
「お前も結構酷い構築握ってたけどな。ウチの子は最終的に全部統合予定だからこれでも全然未完成なんだよ。本当はA辺りからお出しする予定だったんだけど、どう足掻いてもメタられて死ぬ未来しか見えなかったからな」
「尊くんって結構構築の範囲狭いからね。Bランクだと構築の範囲が狭い人多めだから、自由度の高い動きが取れる所とか結構スキルをメタ構築に換装出来て勝率上げやすいんだよね」
そういう意味じゃ藤原プロや虫食いおじさんみたいに構築の内容が固まってる連中は七海の餌にしかならないだろうな。
七海の軸はコントロールにあるが、その内容そのものは自由に入れ替えられるように出来ている。その気になれば状態異常の種類も変えられるし、拘る必要がない。その気になればバステからデバフへと切り替えてステータス下限からの弱体特攻での勝利も狙えるだろう。
こいつの強みは相手に合わせて切り替えられる所にある。
「尊くんはミレーナちゃんがバカの性能しててこれどうやって倒すの? ってレベルで強いんだけど、詠唱必須って点においては絶対揺るがないから詠唱メタさえ用意しておけば何とかなっちゃうんだよね。《スペルアブソーバー》、凄い良いスキルだと思う。合体魔法による蹂躙性圧力をこれ1つで牽制できるのは強いと思うよ」
「俺もだいぶ有名になったから個別メタでアブソーバーの採用率が高くなってきた感じがするんだよなぁ。エデも歌唱は通れば無法だけど《ノイズキャンセリング》の採用率が今回高かったし、そろそろ脳死で詠唱歌唱が通る時代は終わったかな? って感じはする」
この世界、試合映像はちゃんと残るから気を付けないと一瞬で情報が出回るんだよね。そして今回、専用使った上でアブソーバーとキャンセリング使ったおじさんの戦術は見事に映像として残って共有されてしまった。
この先、間違いなく俺と対戦する相手は2枠を俺のメインエースへの対策として割いてくるだろう。もうちょい舞えるかと思ったけど、こんな早く対策されてしまったのならもはや隠している事も出来ない。
未完成だが投入するしかなかった、ドラゴンを。
「高耐久のアタッカー……枠として欲しい所だけど強いスキルやモンスターの選別を考えてから導入を検討しなきゃいけないから採用するのは難しいんだよね」
「そこで単体完結型の性能が効いてくるってワケ。うちの子の高耐久アタッカー枠は最終的に最上位のドラゴン系統で埋まるんだけど、単体完結型の性能にする事でメタに対して強く動けるようにしてるからな」
「今回とか完全にそれにやられちゃったからなぁ……次はうまくメタりたい」
でも、と続く。
「これ以上メタにスキル枠を割く余裕なんてないんだよね。そうなるとモンスターを増やす必要あるし、増やせば増やすだけお金と時間が増える……!」
「大変だよね、モンスターマスター」
「うん……でも楽しいよ」
あはは、と七海が笑う。
「最初、負けてた時は本気でプロを目指そうだなんて思わなかったもん。あの時、尊くんが助けてくれなかったら私はいなかったと思うよ」
「それなら今度久遠を連れてどこかで遊んできてくれ。あの時久遠がお前に話しかけなかったら俺は見捨てただろうしな。単純にめんどくさくて」
そう言う意味じゃウチの久遠様は色んな人を救ってるんだよな。あいつが人との関わりを捨てず、見捨てず、そして俺を変えたから多くの出会いと救いがあったと言えるだろう。本当のMVPはアイツの方だよ。
さーて、ドラゴン達の試運転も出来たし、ぼちぼちキッズ共を本格運用の練習に入るか。最近はドラゴンズバレーに面倒を見て貰っていたが、ぼちぼち実戦経験を積むのをメインに変えて積極的にフリーマッチに出そう。
メタが回ってきて詠唱歌唱が戒められると、今度は単体完結型の性能が強く出れるようになる。これを効率的に突破できるのはそれこそOC構築ぐらいだから、またメタが回ってくるまではドラゴン達で環境に強く出れるだろう。
「次の認定戦に出るんだっけ?」
「あぁ、最速で来年4月の内定貰ってる」
協会の連中から海王事変解決のボーナスって事で次の認定戦の内定をゲットしてるんだよね。こういうのあんまり好きじゃないんだけど文句は言えないし、貢献度で言えば地球最高クラスだからこれぐらい受け取っておけって感じの話はあった。
「来年4月ってなると尊くんは高校3年生かあ」
「高校中にSになるって目標はあったんだけど、物理的にちょっと難しかったかもな。この感じだとSに上がれるのは卒業してからかな」
「おー、じゃあそろそろ進路を考える頃だ」
パフェをぱくぱく食べながらそんなことを言って来る七海に頭を悩ませる。
「進路なあ」
「アレ? プロ入り一択じゃないの?」
「両親が大学入って欲しそうにしててな」
「堅実な親御さんだねぇ。尊くんならすぐにプロ入りしても何も問題ないと思うんだけどなぁ」
「大学に行けるのは今だけだから、その後でプロ入りするもしないのも自由に選べば良いってね」
実際、日本だけじゃなくて外国からも大学のパンフレットとか企業系チームの勧誘とかすごいいっぱい送られてきてるんだよね。たぶん3年生になったら本格的にここら辺の勧誘合戦もヒートアップする事になると思う。
悩ましいなぁ。
少し前まで小学6年生だった気がする。なのにもう卒業した後の進路の事を悩んでいる。人間の成長と時の移ろいって本当に流れるように過ぎ去るもんだ。
感想戦を絡めながら世間話に花を咲かせ、俺と七海の大会は終わりを告げた。
そして9月も終わりが近づき、いよいよ10月……秋が顔を出す。
それは海王事変で死亡したディザストロとマガツキュウビ、復活の時期だった。