11月。
遂に根の国が破られた。
深淵の大母が沈み、攻略する事に成功した人間が出現した事によって人類の歴史が大きく進むことになった。
これまで、あらゆる高難易度ダンジョンは鴉羽尊というガイド前提で成り立つ難易度になっていた。だが原作(仮)というツールの導入と、環境アップデートの影響で、俺抜きでも攻略が出来るほど人類の戦力が整ってきた。
無論、この背景にはそもそもツールを用意したのが俺だし、深淵の大母は攻略に肯定的だから負けた所で相手の命を奪わないという暗黙の了解も存在していた。だが結果として本気で戦った深淵の大母に対して日本出身のマスターは勝利を収める事に成功した。
偉業だ。
遂に人類はこのレベルにまで来る事に成功した。続いて図書館の攻略も期待したい所だが……俺の作成したオールドテイルズがどうやら禁書庫を縄張りにしてしまったらしく、そこに引きこもって連勝中にマスターを襲撃しては地上に送り返しているらしい。
何やってんだお前?
仕様上、禁書庫はフロアセーブが存在せず、ボス攻略後にのみ脱出できる仕様になっていた。この仕様を一般公開後にちょっとした改変が入り、再開は出来なくてもどのフロアからも1発離脱可能な仕様へと館長が変更した。
それで気軽に敗北離脱できるようになってしまった為、オールドテイルズも遠慮なく徘徊型ボスモンスターとして調子に乗ってるヨーロッパのマスターを襲撃して回ってるらしい。しかも海王事変で戦線維持のMVPだったからね。ヨーロッパ側のマスターはわずかながら戦いづらさを感じてるらしい。
まあ……気持ちは解らなくもない。
そういう事もあって図書館の攻略は減速気味。オールドテイルズは必要なモンスターだったのでヨーロッパ方面には申し訳ないが犠牲になっていて欲しい。
続いて暗黒樹海は東吾が攻略中、いまだに樹海の中から出てこないので進捗は良く解っていないが、我らが巫女姫ラトゥーリアちゃん様によれば怪我はせず、堅実に時間をかけながら探索しているとの事だった。東吾もまた、強くなる為に本格的に探索に入っている。今のままではだめだと本人が感じているのだろう。
そして……ノアはついにダンジョン化の準備を終えて、ついに実行された。
希望の箱舟ノア。かつての姿を再現する形でダンジョン化が行われた結果、かつてのノアの乗員達が無事に再現される運びとなった。これによりノアを悩ませた問題の一つ、運用における住民という課題がクリアされた事になる。これによりノアの運用が本格的に可能となる。
とはいえノアの存在はチートそのもの。無限に物質を生み出すことのできる造物エンジンは利用するだけで地球の経済や多くの問題を破壊する可能性を秘めている。その事実を考慮し、ノアが地上へと干渉する事は合体以外ではなしにする……という事に決定した。
これに伴いついにジャックとラムシンが正式にノアへ異動し、合体担当者としてノアで住み込みで働く事となった。
そしてモンスター博士は無事に出禁にされていた。
本人が号泣して分解させてくれと喚いてたが、全会一致で出禁にされた。お前はもう二度と来るな。誰もがこいつだけはノアに近づけてはならないと誓っていた。ある意味最初にノアに乗せておいて良かった。おかげで乗せてはならないって関係者一同で同意出来た。
そんな風に歴史的快挙がなされた11月が過ぎ去り、いよいよ12月、年末に入ってくる。1年の終わりに近づくと段々と年末商戦が活気づき、あっちこっちでクリスマスセールやニューイヤーセールが始まる。
そして当然、駆間も年末に入ると慌ただしくなる。
「こうやって駆間が雪景色に染まると年末が来たなぁ、って感じが凄いするな」
「この喧噪もまた年末の風物詩ですね」
本日はミレーナと一緒に駆間まで買い出しに来た。少し後ろには社会経験を積ませる為にドラゴンキッズも付いて来ている。勿論、荷物係と足の役割を担っている。公式戦に出す以上はちゃんとした姿を皆の前に見せられるようにならなくちゃならない。だからちまちまと社会経験用に外に連れ出すようになった。
問題は謎の美形軍団がストーキングしてるのを見かけるようになる事と駆間警察が少し忙しくなる事だろうか。
さすがに12月にもなると寒いのでクローゼットからコートを取り出して着る必要がある。こうやってコートを引っ張り出すとあぁ、冬になったんだなぁ……という実感が強く現れる。本日、じゃんけんで同伴枠を無事に勝ち取ったミレーナは戦闘用のコスチュームや普段着ではなく、外行き用の恰好で俺の片腕に抱き着いていた。
早い話、ミレーナからすればちょっとしたデート気分だった。
はあ、と息を吐けば白く染まって行く。消えて行く先を眺めると雪だるまがぴょんぴょこ跳ねながら都市の中を歩いている。雪の降るダンジョンや北部限定の雪系モンスターがこの季節になると毎年都市に出現するようになる。
道路を歩く雪だるまがぴょんぴょん跳ねながら近くの野生のダンジョンゲートへと近づくと、そこから出て来たモンスターを拳で殴り殺した。殺したモンスターからパーツを引きちぎると、それを自分の素材として体に飾った。
キラッ!
自分を飾ってキラリと輝かせるとモンスターの血の跡を残しながらまた都市の中を徘徊し始める。
「モンスター素材執着タイプか……」
「あの個体はレベル90ぐらいありそうですね……中々の強敵ですねマスター」
「あぁ、生き残りの個体だ……今年は冬将軍級が何体も出現しそうだなぁ」
元はレベル30ぐらいの雑魚モンスターなのだが、この雪だるマンというモンスターは自分を飾る素材のグレードによって強さが変動するという非常に珍しいモンスターになっている。無論、野生のみの非プレイアブルモンスターだ。駆間の冬には比較的に良く出現する。
個体で執着する素材の種類が違っていて、農作物タイプ、生物素材タイプとかそれぞれ執着する素材が違って来る。そしてこれが高レベルのモンスター素材を多数飾ることでレベル100に至った時、俺達が冬将軍と呼ぶレベルの存在へと進化する。
問題は最近の駆間は当然のように100レべが野生で出現するという事実だ。100レべモンスターの素材がそこそこ溢れてるね……。
「まあ、人体に執着する個体が出現しない限り害がないから気にしなくて大丈夫だよ」
それにレベル30程度では駆間人には勝てない。日本語だいぶ怪しくないここ? 30程度じゃ駆間人には勝てないって何? まあ、そういう事もあるか。
徘徊雪だるまの事は気にせずに冬の買い物をする為に商店街に向かう。流石年末が近いだけあって商店街にも人の数が多く見られる。ついでに破壊の痕跡もたくさん見られるからレイドモンスターもたくさん来ていた様だ。
「お、鴉羽の坊ちゃん! 買い物かい? もうちょっと早く来ればレベル120にまで成長した雪だるまと戦えたのになぁ」
「おっちゃん」
八百屋のおっちゃんがダンジョン産の変な野菜を持ち上げてこちらに見せてくる。純正の異世界産野菜ならウチの牧場で育ててるんだよなあ。うちの牧場は良く育つけど変異の類はしないんだよね。八百屋のおっちゃんが恐らくは変異したのか新種の野菜を持ち上げて見せてくるものを眺める。味が気になる。
「味は?」
「うーん……甘いホウレンソウ?」
イメージが欠片も沸いてこない。気になるのでとりあえず貰っておく。
こんな風に駆間商店街には普通の店には出回らないようなものが現れるので、定期的に足を運んでおくと掘り出し物が見つかる。八百屋から今度は魚屋に行けばまた変なお魚が売られている。地球のお魚の変異種? つまり新種? どこでこんなもん捕まえたの? まあ、買うけど……。
最近気づいたのだが、割とナチュラルに地球産の動植物と異世界産の動植物の交配ってかなりカジュアルに行われているッぽいんだよね。気づけば見たことのない野菜とか魚とか増えてるらしいんだよね。環境活動家が発狂してそうな世の中になったもんだ。
ついでに言えば月の海も異世界でノアが航海してた海が再現されてるのであっちの魚とか泳いでるらしい。うちの湖と繋がってるしまた変な魚が増えそうだなあ。
これ本当に全部終わった後何とかなるのか?
なるんだよな館長?
信じてるぞ館長。
野菜と魚を確保したのでそのまま商店街をミレーナと歩く。振り返るとドラゴンキッズ達が通行人に捕まって餌付けされてた。もうちょっと警戒心抱いて欲しいなあ、とか思っていると通りすがりの変態がキッズの鱗をぺろぺろし始めていた。
「はあ……はあ……精神がショタならドラゴンでもショタ! ショタをぺろる! これは合法! 合法ショタ! ぺろっても許される! デカいから!」
殺さなきゃ……!
「はい、《デスペリアハザード》」
事前チャージ済みのミレーナによる容赦のない攻撃が通りすがりの変態を塵すら残さず消し飛ばした。しかしこの手の変態はカレーうどんの汁よりもしつこいのでそのうちまた復活してくるだろう。
よしよし変態怖かったね。キッズを撫でたら再び商店街を歩く。この商店街変態とか殺人鬼とか沸くから油断ならないんだよなー。
ほら、今も路地裏から爛々と目を輝かせながらこっちを見てる。
「これ、フグ毒」
そう言ってナイフの毒をぺろりと舐めた。
「舐めすぎて耐性が出来ました」
自慢げにそう言うと路地裏に消えて行った。もしかして自慢したかっただけ? 殺人鬼じゃなくてフグ毒の妖精さんだったのかもしれない。やっぱ商店街まで足を運ぶと普段とは違うものが見れるなぁ。
「マスター」
「ん?」
再び腕を組んだミレーナが囁いてくる。
「拒絶せずにいてくれてありがとうございます」
「……おう」
いずれ、合体で消えるお前たちに対して俺が出来る事なんてそう多くはないからな。せめて、一緒に過ごす間はなるべく好きな事をさせてあげたい。勿論、絶対に越えられないラインはあるし、久遠を裏切るようなことは出来ない。それが解ってるから久遠は余裕を崩さないし、ミレーナも過激な要求はしてこない。
「俺こそありがとうな」
「何をですか?」
「俺みたいな半端ものに付き合ってくれて」
「それはもう、最初に図書館に出会った時から決めてた事ですので」
そう言ってミレーナは笑うと、もう言葉を発さずに歩くことを再開しようと促してきた。
そうだ、4月には認定戦がある。だがそれが終われば再び合体による世代変化が入る。
そうすれば今のメンバーは全員、お別れなんだよなぁ……。毎度この時期が近づいてくるともっと何かしてやれなかったのかなぁ、と思ってしまう。