無事に新年を迎えた。
結局海王事変以降は何もなかったなー。平和なのはいいけど半年以上平和が続くと少し不安を覚える嫌な体質になってしまった。適度に世界の危機がないと安心できなくなってしまった。
まあ、でもゆっくり出来るのは大正義だよ。まだ学生なのだから勉強するのが本分。成績はキープしてるから心配ないとはいえ、後数年しか学生でいられないから時間は大切にしたい。
今年も巫女さんvsディザストロ、劇場版駆間究極の戦いで新年を迎え、帰ってコタツを楽しみ朝を迎える。平和な新年の朝を堪能していると年始の挨拶に来たアンナが早速面倒事を運んできた。
「アンタ、1度は柊の集まりに顔を出しなさい」
「下唇を噛みながら全力で威嚇していい?」
「アンタもう片足社会人に突っ込んでるのよ。いい加減1回は顔を出しておきなさい」
いい事? とアンナが続けた。
「アンタはもう世界を代表する人間の1人よ。ここに引きこもっているから自覚は薄いと思うけど。それでも今のアンタは本当に世界を代表する人の1人よ。この先、さらに有名になればさらに多くの人と接する機会も増えるでしょう」
アンナはそこで一旦言葉を区切り、母からお雑煮を受け取る。感謝の仕方も品があるよな、こいつ。
「そういう意味じゃ柊の集いは全世界でもトップクラスの人間の集いだわ。人間性はともかく、様々なビジネスに手を伸ばした柊グループの人間が集まるから、アンタも顔を出しておきなさい。こういう所で顔を出すと有事の際配慮して貰いやすいのよ」
「うー! うー! うー!」
「威嚇モードに入ったぞ」
下唇を噛みながら全力でアンナに威嚇するとよしよしと久遠に撫でられる。このコタツを出て魔境に向かえと申すか! 嫌じゃ! カスの巣になんぞ行きたくない! なんでわざわざストレスの元へと向かわねばならないんだ!
「ここまでずっと私がアンタとの間に立ってきたけど、アンタぼちぼち卒業見えてくるでしょ? まだ進路決めてないでしょ? 各方面からの催促が凄いのよ。私だけで抱えきれない所もあるからアンタに処理を頼みたいの」
「気が早すぎんだろ」
「遅すぎなぐらいよ。本当ならこういう進路とかの話は高校に入る頃にはもう決めておくものよ」
「そうだな。実際私と尊の結婚式はもう既にやると決めてあるしな」
あの……初耳なのですが……? え、式場はもう抑えてある? あ、はい……ウェディングドレスは一緒に選ぶんですね……はい……。
アンナが可哀想なものを見る目で俺を見てるけど、言葉もなく自業自得でしょ、とも訴えている。そこまでの事を俺、やった? でも同じように久遠に側にいてもらうだけで俺もだいぶ強火になったから人の事は言えないんだよね。
はい、過失100%です。ありがとうございます。
「アンタに会いたいって奴も多いけど、学校卒業すれば立派な社会人なのよ? アンタも私抜きでこういう人付き合いが出来るようにならないといけないの」
灯を見る。逃げるようにコタツの中に入って行った。違う方からチビが押し出されてきた。しゃーない。用事あるのは俺の方だしな。
「はーい、ママ」
「顔の皮剥ぐぞ」
おぉ、怖っ。
しかしアンナの言う事にも一理ある。俺もこの先アンナ抜きで色んな人と会う機会が増えるだろう。何時までもアンナを盾にしてる事も出来ない。
しゃーない。
ちょっと社会性を付けてくるかぁ。
「そうと決まったら戦装束を用意しなきゃな……」
「戦争でもする気???」
それぐらいの覚悟はいるだろ。
そういう訳で、柊家の集まりへの参戦が決まった。ジジイの葬式以来だろう、こうやって本家のデカい集まりに顔を出すのは。やや憂鬱なのには変わりはないが、この鴉羽尊、舐められることに関してだけは絶対に許せない。
参戦する以上は皆殺しだ。
全ての柊を滅ぼすつもりで顔を出す。
アンナに集まりに顔を出すように言われてから1週間後。
東京都、都心の超高級ホテルの前に俺は居た。スーツ姿もだいぶ慣れてきた。最近ではコーデの類は魔本の従僕に任せるとイキイキした表情で手を出してくるので楽だ。
そんな俺の腰には本に擬態したオールドテイルズが。
コートのファーに偽装されたマガツキュウビが。
黒服の護衛に扮したディザストロが揃っていた。
「戦争でもする気?」
「違うのか?」
アンナは俺の問いに数秒考えてから頷いた。
「まあ、これぐらいならいっか。殺人鬼とか変態とかよりは倫理観あるし」
アンナもすっかり慣れちゃったね。こっち側の世界に。
という訳で超高級ホテルに到着。流石世界の柊グループだけあって本日は貸切運用らしい。成り金感がこれ以上なく出ている。入り口でアンナの持ってきた招待状を見せて中に入る。
ホテルのロビーを抜けて会場に向かえば、そこは綺羅びやかな空間が広がっていた。立食式に整えられた会場に高そうな服装にアクセサリーのマネキン共、どいつもこいつも似たような感じがして見分け辛い。
サングラスを装着して情報を遮断する。見る必要はなさそうだな。
「覚える必要のある連中は私が一緒に話してあげるから。アンタは適当にしてなさい。先に挨拶回りしてくるから」
「助かる。ちょっと……ここは頭が痛くなる」
「そう」
アンナの言葉にはそこまで……というニュアンスが隠れていた。まあ、俺があんま人の多い所に出ようとしないのはこういう所もある。純粋に面倒な方が大きいけど。
サングラス着けて情報を遮断すると多少マシにはなる。そもそもあんま興味ないし適当な壁のシミになってるか。そう思っていると知っている声がした。
「だから言ったであろう。己の本質や本分から離れるべきではないと」
「そんな事言ってたっけ?」
ちょっとだけサングラスをズラして……もやっぱ顔は解らない。けどこの声は解る。
「王様お久」
「まだ死ぬ気はなさそうだな」
少し嬉しそうな声に握手を交わす。生命力を感じる、力強い手だ。この硬さは手を使う人の硬さだ。あぁ、解る。この人もちゃんとモンスターと向き合ってるんだな、て。牧場やってるからなんとなく伝わるわ。
「海での活躍、まさしく大義であった。流石だとこの兄も実に誇り高い」
「散々メールで褒めてたろ、アンタも……」
「褒め足りぬだけさ。世界の危機を前に貴様は人類の先頭に立った。何度褒めても足りぬぐらいよ」
おぉ、上機嫌。滅茶苦茶気分良さそうだな。そういや入院中は滅茶苦茶見舞いにきてたらしいな、王兄様。やっぱ根本的に家族大好きマンだよなぁ。
ん? こっちに視線が集中するのを感じる。視線に乗る感情は……あまり心地の良いものでないものが多い。嫉妬、憎しみ、怒り……色んなものを感じる。
ディザストロがゴキッ、と指の骨を鳴らすと視線が散った。やっぱドラゴンがナンバーワン!
「出来ることなら我もここでずっと冒険譚を聴き、そして存分に褒めてやりたい所だが……生憎と、やる事が多い。息災でな」
「おう、王様も元気で。来年には追いつくから」
そう告げると、一瞬だけ凄まじい気配を見せてから去って行く。それを眺めていたディザストロがほぉ、と感嘆の声を零した。
「王気って奴か。ありゃあ今まで見てきたヒトの中でも1番飛び抜けて優秀だな」
「ブライアンよりも?」
「潜在能力ならな。こっちのが可能性を感じさせる」
流石柊家の完成体と言われる男。上位種族視点から見てこの評価を引き出せるなら相当なもんだ。ま、それに勝てないようなら俺に先はないってこった。
Aで首を洗って待ってな。直ぐに追いつくからよ。
王兄様が元気そうで良かった。どれぐらい強いのかは正直まだ良く解ってないので今度試合の映像発注しておくかー、と思いつつクンクンと食べ物の匂いを嗅ぎ分ける。美味しそうな匂いがする。
「そこらに食い物があるぞ、取ってくるか?」
「長くなりそうだしなんか腹に沈めておくか」
視線は感じるんだけどひそひそ話してて近寄る気配はないんだよな。もう少しフランクに接してほしいもんだが、聞こえる声は鴉羽、とか部外者、とかであんま感じは良くなさそうだ。
はー! だから来たく無かったんだよなぁ!!
「近くにキッチンがあるな……なんか作って貰うか?」
「え、じゃあカリカリふわふわのクロワッサン行ける?」
「今からは無理があるだろ」
行けます!!!!!
とか言う声が聞こえてきた。サングラスズラしたら実体のある残像残しながら消えて行くホテルマンの姿が見えた。プロってすごーい。
じゃあ好物が来るのを待ってますか。ちょっとだけ気分が良くなった所で声がかかった。
「お前が鴉羽尊かぁ、へぇ……」
どこか嘲笑うような気配を持つ声には良い記憶がない。無視してやろうかな、と思ったけどアンナのメンツがある。泥を塗るわけにもいかないし対応する。
「アンタは?」
「おいおい、親戚の顔ぐらい……あぁ、顔が解らないんだっけ、ご愁傷さま」
うーん、こいつ嫌な奴!
漸く悪の一族っぽいキャラ出て来たなぁ! 流石にちょっとテンション上がるかも……!