こういうのが出て来ると新鮮な気持ちになれるよな。今まで比較的側にいなかったタイプだし。周りの民度が高いのもそうだけど、レスバよりも銃を抜く展開のが多かったからな。
……。
スッ……と懐に手を伸ばそうとしたら流石にやめとけとマガちゃんに耳元で窘められた。そんなぁ。暴力はダメなんですか? ダメなんだ。じゃあしょうがないね。
「顔が見えなくても人の事は良く見えるよ」
そうだな、と続ける。
「声。匂い。体格。服装なんかは基本だけど……体の揺れ、命の気配とか、後は魂の色。感情や性格、その人の形ってのはそういうのに良くでるから顔が見えなくても良く解る」
「はー、そんなもの見なきゃ解らないのは大変そうだな。解りたくもないけど」
一言多いなこいつ。言葉に悪意と刺がある。あまり長く話していたい奴ではない。さっさと話を切り上げてくれないかな、と思っていても、それが相手に通じるとは限らない。
「ふーん……これが爺さんに1番期待されている奴ねぇ……」
無遠慮な視線が上から下まで俺を値踏みするように見ている。
「パッとしないなぁ……本当にお前Bランクなのか? 本当はDぐらいなんじゃないか? もしかして金でも積んだ?」
やっぱ殺すか。心の殺意様が会話が通じないなら殺し合うしかないよね、と対話する前から結論出してくる所で俺と親戚の前に割り込んでくる姿があった。
「おい、尊がそんな器用な事出来るわけないだろ」
「雅人」
柊雅人くんだった。所で今、フォローしてるように見えてディスってないかこいつ?
「こいつの目を見ろ! 殺意で満ちてるだろ? 駆間生活で思考回路がすっかり蛮族仕様にチューニングされていて面倒だし殺すか……ぐらいの感覚で殺しに来るぞ! 下手な挑発は止せ! これを見ろ!」
「あ、こら、んんっ、懐をまさぐるな」
コートの内側から銃が出来た。4次元ポッケからレールガンが引き抜かれた。靴に仕込んだナイフを回収された。袖に隠した暗器が暴露された。背中に隠した分解されたライフルを取られた。財布のなかに隠しておいた銭鋲を見せられた。
えへへへ……。
「これが、俺達の標準装備だ……!」
今俺達って言いました?
雅人は俺に視線を向けると近くのテーブルからワインボトルを手に取り、それを叩きつけて割ると即席の武器を作成して構えた。
「俺で半分、お前で半分……2人で全滅させて本当の柊とは何なのかを見せてやるぞ! 皆殺しタイム!!」
今日は暴れるねぇ! 所で雅人くん気のせいじゃないかちょっと酒臭くない? 割ったボトルじゃなくて雅人くん自身からお酒の臭いしない? もしかして飲んでる? 飲んでらっしゃった?
「すみません、雅人くんに酒を飲ませた人いますか? たぶん酔ってるんですけどこの子。あ、回収お疲れさまです」
雅人の何時ものお付きのメイドさんが横から現れて雅人を回収する。顔が赤いし意図せず飲んじゃったのかな? 俺もお酒はなんか強くないっぽいんだよなぁ。俺も飲まないように気をつけよう。
酔ってる間に何をしでかすか解らないからな。
じゃあ……はい! 仕切り直し! 終わり!
「で、何の用なんだ?」
「無かったことにするんだ……いや、まあ、いいや」
そう言ってから床に散らばってる武器を見る。回収はしないよ。装備してる隠しボスが本命だから。目に見える武器でカモフラージュ出来るなら安いもんだぜ。でもそのレールガン、ノアから持ってきたもんだから持って行かないでね。オーバーテクノロジーの破壊兵器だから。
よっこらせ、と武器をしまう。話の腰を折ってごめんね。じゃあどうぞ。
親戚はもう大丈夫? と周りと連行される雅人を確認してからえーと、と確認する。片手でタイム、ってするとカンペを取り出し始めたので俺もちょっと見て見ぬふりをする。世界はこういう優しさで出来ている。
ちょっとだけ困った表情を浮かべて、何とか元の流れに戻そうとして、ため息を吐いたのが見えた。元々想定していた流れがあったんだろうが、間に雅人が乱入してきたせいで完全に流れが変わってしまった。集まっていた悪意も言葉の棘も、今の乱入で霧散してしまったのが見える。
やっぱ狂人が1番怖いんだよなぁ。
「お前、二度と柊に近づくな」
「喧嘩売ってる?」
「純粋な警告と忠告だよ。ちょっと周り見てみろよ」
親戚の男に言われて、会場を見渡す。俺を観察する視線しかここにはなく、奥の方でアンナが誰かと話しながら遠巻きに俺を眺めていた。だがそれ以外の視線は何か……妙なものがあった。
まず感じるのは強い、妬みの視線だった。羨ましい。お前はなぜそれほどの才能があるのだというとてもシンプルで低俗な感情。それが向けられている。だがそのもっと奥に別の感情が隠れているのを、俺の肌が敏感に感じ取っていた。そしてその感情に触れてちょっとした困惑を覚える。
「解るか? 多くの視線がお前に向けてるものを」
ひそひそ話。聞かれないように声量を落として。視線をそらそうとしてもそらせない。言葉に混じる悪意。でもその本質は無理解。その感情を人はこう呼ぶ。
―――恐怖、と。
そう、怯えの視線だ。恐ろしいものを見る視線だ。それが俺に注がれている。こいつは本当に人間なのか? という大量の視線が俺を釘付けにしている。その重みを今、漸く実感する。しかし、違和感はある。俺はそこまでこいつらに対して暴れた覚えはないのだが……今のやり取りでここまで恐怖を抱かれるのもちょっと違う気がする。
じゃあなんでだ?
アンナも王兄様も会話には加わらず、遠くからこちらを見つめている。あの2人、今回は裏で手を組んでたな? そんで俺をここに立たせるために呼び出したんだな? ただその核心にあるものが理解できない。どうしてこんな事をする必要があったんだ?
「お前、ほんと何も解ってないんだな」
「何がだよ」
「お前はこのレースが始まった時からすでに柊剛三の後継者だった、って話だ」
……?
「最初は誰も気に留めてもいなかった。爺さんが愛娘に肩入れしてるだけだってな。だけどお前が力を付けるに連れて気づくんだよ」
「何にだよ」
「柊剛三から直接指導を受けたのはお前だけだって」
ジジイが技術出し渋るのを惜しんだだけだろ。というかアレを指導と呼ぶのはちょっと無理があるんじゃない? 笑い飛ばしてやろうと思ったが、周りの空気は本当に真面目で重く、とてもじゃないが笑い飛ばせる空気ではなかった。こいつだけじゃなくてこいつら全体がその事実に思う事がある。
「正直な所、最初の頃のお前は特に目を向けるほどの相手でもなかった。アンナは注目すべき候補の1人だけど……結局、俺達には清十郎がいる。絶対的な王だ」
視線が王兄様に向けられる。雅人とじゃんけんしてた。じゃんけんに勝った雅人が王兄様の腹にパンチを入れて床に沈めてた。お前らの王、今床に沈んだけど……。
「だけど清十郎でさえ、爺さんから指導を受けた事はなかった」
「必要がなかっただけだろ」
「そんな訳がないだろ。あの柊剛三だぞ? この世で最も強く恐ろしい男の行動だぞ? 何一つ無駄のない人生を送り、世界の頂点に立ち、そして今もなお人の心に焼き付いて消えない男のする事だぞ? 理由がないなんて筈がない」
理解が追いついてきた。
アンナ、清十郎が違うんだ。
この柊家って連中は基本的に何らかの形でジジイを信仰し、恐れているんだ。全ての恩恵があのジジイから始まり、その死とともに栄光の時代が去る。誰も本当の意味で後継者として出現した訳じゃない。柊剛三の本当の後継者とはその財力の持ち主ではない。
マスターとしての才能を持つものだ。
そのほかの才能には意味も価値もないのかもしれない。だからこそ柊剛三の遺産、その継承には価値がある。何故ならその後継者は柊剛三の全てを受け継ぐ事になる。その戦闘のノウハウやレシピ、技術を。
それがこの今の新たな環境でどれほどの価値があるかは関係がない。
柊剛三という才能が残した全てを継承した者が本物の柊の後継者になる。
こいつらはその後継者の座を俺がとろうとしている事に恐れているんじゃなくて……俺がそもそも、突出したマスターの才能を持って生まれた、ジジイの生まれ変わりのような存在である事に恐れているのだ。
信仰であり、恐れの象徴である柊剛三を思わせる存在そのものが恐ろしいのだ。
だからこそ柊清十郎は主流派の希望であり、そして担ぐに相応しい存在になる。何故なら彼は全てを持っている。柊剛三を超える才能を持つ可能性を持っている、唯一の存在だからだ。
だが家を捨て、名を変え、そして野に下った愛娘が育てた子……無から立ち上がり頂点に向かう姿を見て恐怖を覚えた。だってそれは伝説の再来以外の何物でもないのだから。
ここにいる多くは初めて俺を見た。荒唐無稽さを、噂を、それが真実であるのかどうかを確かめる為に。そして今日、アンナがずっと遮断して隠してきた俺のお披露目となった。これまでの未熟ではなく、ある程度成熟して人に見せられる程の功績と怪物となった俺の存在を。
それでここに居る者の心を打ち据えている。
「ここに居る奴らは今日、皆、お前を見に来た。そして確信した……才能という意味ではお前が1番爺さんに近い……だからこそ、お前の存在だけは絶対に許せない。俺たちの存在意義がなくなる。お前も、柊剛三もこの世には居てはいけないんだ」
成程なぁ。
全部ジジイが諸悪の根源じゃん……!