甲板に降りると崩壊していた様子はもうなく、完全に都市機能を回復させた姿がそこにあった。ノア本来の都市艦としての姿がそこにはあり、モンスター達がノアの住民として生活し始めていた。
「これは盟友! ようこそおいでで!」
「艦長なら海の方で若に水泳教室を開いていますが」
「いや、親戚と遊びに来ただけだから気にしなくていいよ」
「それはそれは! 異邦人の方々もようこそ誇らしき都市艦ノアへ! ごゆっくりどうぞ」
ブリッジを降りたエントラスで兵士達に敬礼される。皆の前でそういう態度を取られることには少し恥ずかしさがある。片手で挨拶しながらささっとブリッジ前から逃れる。
「お前、本当に英雄扱いなんだな」
「話に聞くのと見るのとでは大違いね。アンタがここまで敬意を払われるなんてね」
「立派なものだ」
「恥ずかしいから止めてくれよ」
連れてくるのはやっぱり早まったか? そう思いながら記念にスマホを取り出して、パシャリ! 皆一緒の写真を撮って早速SNSに放流する。爆速でリアクションが付いてくるけど内容は確認しない。
俺のSNSは燃やす為にあるしな。
「こっちだ」
そう言って3人を案内する。ここまで来ると護衛の必要もないからディザストロとはお別れだ。羽根を伸ばしてくると言ってドラゴンの姿に戻ると、邪魔されることなく飛べる月の空を飛び出す。地球だと制限があって自由に飛べないから、自由に飛べるこの空は割りとドラゴン達に人気だったりする。
マッハで飛行しても文句言われないからね。
ブリッジから正面、大通りに出ると早速大小様々な建築物が並んでいる。地球とは違う様式の建物に皆は興味津々といった様子を見せている。解る。面白いよね、知らない世界に踏み込むのは。
「歩いてるのはモンスターだらけ! 本当に生活してるのね」
「水棲系が多いな」
「ノアは元々海上を移動し続ける都市だったからな。必然的にそっちに偏るよ。地球での航行は現状各国の返答待ちらしいけど、そこそこ大きな議論になってる」
当然の議論なんだけどね。星を滅ぼせる舟をどうすれば良いのかだなんて一生結論でないと思うけど。まあ、その内そんな事を言っていられる状態じゃなくなると思うけどね。
もう護衛はいらないしオールドテイルズとマガちゃんもリリースする。これで身軽になった。背筋を伸ばしている間にアンナ達が近くのお店に寄っていた。
「すいません、これは?」
「異邦人の方々、ブラーナを知らないのかい? こいつは潮水の中でも育った作物さ。栄養満点で長い航海で俺達の健康を支えるものさ」
サメの魚人が腕を組みながら店前に並ぶノアで育てている作物を紹介している。地球では見る事のないものにアンナは驚き、そして興味深げに眺めている。
それは王兄様や雅人も変わらず、本当の意味での異文化を楽しんでいる。こうやってノアで再開された経済活動や異文化を見ていると、助けられて良かったと思える。
「なんとも見た目からは解らぬ味をしているな……苦い様に見えて仄かな甘みが奥から湧き上がってくる……不思議な味だ」
「慣れるとこれだけで行けるぞ!」
「異邦人! こっちだこっち! こっちを食べてくれよ!」
「甘っ! 凄い甘い! なにこれ! 自然の甘さなのこれ!?」
「ははは! こっちはどうだ!?」
「み、水! 水が溢れてくるぞこれ!!」
「おいおい! 異邦人を1人占めするなよ!」
「盟友が異邦人方を連れてきたって!?」
段々と遊びに来てることが判明して大通りが騒がしくなってきた。元々航海の民だったノアは様々な国を回り、文化に触れ、それを記録し、記憶し続ける生活を送ってきた。彼らにとって異邦人との出会いは人生を彩る娯楽なのだ。
長らく断たれていた何時もが、異邦人の到来により蘇った。
そりゃあ楽しいに決まってるだろ。スマホでノアの通りを堪能する3人の姿を撮り、それを片っ端からSNSに流して行く。柊4兄弟とハッシュタグを付けて本家の奴らをついでに煽る。
僕達仲良しぃ! 雑魚どもは高級ホテル如きで満足してな!
ヒュー! 爆速で炎上したぜっ!
総理から行ったのか月に? 俺抜きで……とか書かれてる! おもしれー! 余計燃えたぜ!! やっぱ対戦型SNSは燃やしてないとな! 人類の愚かさを浴びると心が潤うで御座るなぁ!
しばらくてんやわんやしている皆を眺め、それからそろそろ行く所があるからと連れ出す。いつの間にか大集団へと進化していた所から3人を連れ出し、大通りを進む。
「凄かったな」
「あぁ、モンスターとは思えないほどの生活感を感じた」
「後少しで交渉が……!」
「何やってんだお前」
ワーカホリックだよこのロリ。苦笑しつつ案内する。俺もそこまでノアに詳しい訳じゃないが、前案内された店は覚えている。活気のある大通りから路地に入り、生活感のある通りに入る。窓から窓へと繋がる洗濯線には着替えの類が吊るされていて、日本では見ない光景にちょっと新鮮さを覚える。
そうやって進んだ先、こじんまりとしているお店を見つける。
「ここだ、ここ。ほら、入った入った! 爺さん! 来たぞ!」
「おや、お友達連れかな! いらっしゃい」
手を振りながら挨拶する先には身長3メートルほどの、鯨型の魚人の爺さんがいた。前、ノトスに案内されて来たときはまだ営業出来てなかったが、開いたら絶対に行ったほうが良いと言われてたお店だ。
あまり広くはないが、落ち着いた雰囲気のあるお店で、店内には異国の匂いが染み付いている。何とも言えない知らない飲み物やスパイスの匂いだ。
食欲と好奇心が刺激される。
「好きな所に座っていいよ。何か食べたいものはあるかな?」
「オススメ4人分で」
「解った、少し待っててね」
鯨の爺さんは眼鏡を少し整えるとのそのそとキッチンへと向かって行った。それを3人が呆然と眺めていた。
「……本当に生活しているのね」
「ここは普通のダンジョンとは違って、世界が滅びる前の状態を再現している。ここにいる人達は皆自分が滅び、そして擬似的な蘇生を受けていることを自覚し、ここで再び生活を始めてる」
折角なのでカウンター席に座ると、横にアンナが並んできた。逆側に雅人、その横に王兄様と4人で並んで座る。
「まずはこれをどうぞ」
そう言って爺さんが4人分の飲み物を運んできた。鮮やかな色の甘い匂い……ジュースっぽい。シュワシュワしているから炭酸なのだろうが。遠慮なくグイッと行く。
「ちょ、躊躇ないわね!?」
「うまっ!」
濃厚なフルーツの甘さに弾ける爽快感。柑橘系の味なんだけど凄い爽やかさがある。
「あ、ほんとだ。うまっ」
「ふむ……これ、炭酸と割っている訳ではないな……?」
「おや、解るのかい?」
キッチンから爺さんが出てきて見たことのないフルーツを渡してくる。それを王兄様はしばらく眺めると、まさか、と呟きながらそれを割った。
どろり、と溢れ出してくる果汁は最初から炭酸が含まれるようにシュワっと弾けていた。
「最初から炭酸が含まれているんだよ」
「一体どういう原理なのよ……」
面白いだろ? と俺は横からニヤニヤと3人を眺める。飲むのが勿体ないのかしばらくジュースを眺めていたが、炭酸が抜ける前に口を付けて飲み始める。
その間にも次のものが運ばれてきた。
4人でシェアするタイプの野菜チップス。
知らない魚のマリネらしき料理。
香ばしい香りのスープ。
そして最後にフォークとナイフを要求するようなタイプの大きなバーガー。どうやら中身は揚げ魚らしい。ソースがかかっていて見た目も匂いも食欲を誘う。
結局ホテルでは最後にクロワッサン食べてそれだけだったしな、といつの間にか空になっていた自分の手を見る。腹がペコペコだ。
「いただきます」
「いただきます」
全員で手を合わせていただきます、と言ってから齧り付く。
「うまっ、うまっ、うましっ」
「ホテル抜けて来て正解だったろ?」
「あんな所で食ってても美味しくなかっただろうしな」
「社会不適合コンビめ」
あ、この写真もSNSに投げて煽っておくか。ノア飯……と。あ、ノトスから俺抜きで食ってるってリプ来た。今度一緒に食いに来るか。
食べるものはどれも舌に新鮮な異界の料理ばかりだが、どれもちゃんと調理されていて美味しい。気づけば無言になって貪っていた。そうだった、と気づくのは全てを食べ終わってデザートに小さなアイスが運ばれて来た時だった。
「はー……ダンジョン産の素材使った料理は別に珍しくてもなんともなかったけど……やっぱ本場は違うわね」
「我々はあくまでも研究段階だ。だが彼らは完成されている。味の引き出し方が解っているのだろう。その違いだな。実に美味だった」
デザートをスプーンで突きながらさて、と誰かの声が零れる。
「ぼちぼち本題にはいるか」
「そうね」
即ち。
「そろそろこの後継者レースの終わらせ方を相談しましょ」
どうやってこのレースを終わらせるか、その相談を。今、ここにいるメンツなら問題なく出来る。問題があるとすればこの会話に雅人が欠片も興味を持たず、店に置いてあるタツノコダーツに興味を持ってしまったことか。
まって、俺もそっちのが興味ある。
俺もそっちに行く!!!