タツノコダーツ!
それはダーツの代わりにタツノコを投げるゲーム!
ただし、タツノコ達は気まぐれなのでマトモに飛んではくれない! 真っ直ぐ飛んでほしいならまずはタツノコを懐柔する所から始めなければならない! なお、お店でタツノコの好きな飲み物が売っている。貢ぐと気分が良くなるかも!
「あ、飲ませ過ぎてお腹タプタプタツノコに……!」
「雑魚雅人ぉ!! 甘やかし過ぎたな?」
「見るが良い、我に相応しい気品のタツノコではないか……? この者をキングと名付けよう。キング…、真っ直ぐ飛んでくれるな? キング? どこに行く? 昼寝の時間? そうか……我のターンだが皆、昼寝が終わるまで待っていてくれるか?」
「アンタら、楽しいのは解るけど真面目なターン始めるわよ」
はーい。3人で声揃えて返答する。カウンターに寄りかかり、タツノコを掌に乗せて遊びながら話を始める。この柊の後継者レースを終わらせる為の話だ。
「もう皆うすうす気づいているかもしれないけど、情勢的に内輪もめしてる場合じゃなくなったわ」
「海王事変と呼ばれる事件でこれまで世界の裏側で行われていた事件が表に出るようになって来たな」
俺に視線が集まる。
「隠す意味もないし言うけど、あの海王事変で俺はここに居た。そんで海王ネプチューンと戦いつつ、侵入してきた邪神チクタクマンとも戦った。アイツには仲間も殺されたし必ずケジメはつけさせる」
「あの事件以来世界全体で犯罪率や謎の事件が増えてるわ。街1つ住民が消えたり、突然ある日鉄の塊になった人が出てきたり……穏やかだった筈の人が急に暴れ出したりね」
「あぁ、武者修行に世界回ってたら変なの見たな」
雅人が思い出すように言う。
「アレは俺じゃない……私じゃない。うわ言のように繰り返し鏡に怯える人が居た」
「まあ、パラレルミラーの仕業だな」
アイツもついに外に出てきたか。最悪のIFを見せるもの。それで現実を上書きしてくる可能性の悪意。今、雅人の言った人は自分のIFに存在を食われているんだろうな。あの性悪鏡……叩き割ってやらないとな。
サイドストーリーだと一国の破滅の可能性を投影し、それで現実を上書きする事で国をその可能性通りに終わらせた……なんてのもあったな。存在しちゃいけないんだよなぁ、こいつら。
「世界情勢が少しずつ滅茶苦茶になり出しているわ。そしてトップ層はそれに対抗するために力を付けてる。いい加減、私達柊家も世界を牽引する立場としてこの流れに加わる必要があるわ」
「まあ、権威はあるからな。正常化して動かす事が出来ればかなりの力になるだろうな」
「故に、談合で終わらせろ、と?」
王兄様の言葉にアンナが俺を見た。
「尊、今この世界で最も事情に詳しいのと脅威を理解しているのはアンタでしょ。説明しなさいよ。私達の知らない事含めて。納得させられるのはアンタだけよ」
「お前、今日の本命はこれだな?」
柊家の集まりを出汁に清十郎を釣り出して、このお家騒動を丸く収めて目的を達成するつもりだ。ほんとこいつ頭良いな。対抗派閥を納得させられるなら終わらせられるもんな。
じゃあ、説明するか。
と言っても、細かく説明すると認知フィルターに引っかかるかもしれないので固有名詞をこの場合は避ける。そうやって説明する事で話を通しやすくする。
世界融合。
女神。
終末。
邪神。
チクタクマンと剛三。
今、共有出来ることを全て共有した。意外にもアンナはこの話題についてこれていたし、雅人は当然の様に認知出来ていた。王兄様は当たり前に平気だった。だかこれで情報の共有は出来た。
「概ね理解した。そしてこの女神なる存在に関して我に出来る事はあまりない事も。我々にとって重要なのは寧ろ邪神の方だな?」
「そうだ。邪神は本来は次元城に封印されている。けどその扉をジジイが開けた。俺達は同じ柊の血を引くものとしてジジイの過ちを正さないとならない。あの扉を閉めて……あの奥にいる邪神を殺す必要がある。柊家で争ってる場合じゃないんだよ」
タツノコを撫でながら伝えると王兄様は考えるように腕を組む。既にデザートも食べ終わり、それなりに時間が経過している。それでも俺達はここに残っていた。
「後継者争い……邪神の登場……ループする時間軸……積み重ねられる因果……壊れる時……ふむ」
タツノコを頭に乗せて王兄様が考え込む。アンナの方は完全にお手上げという様子だった。
「政治や経済ならどうすれば良いか解るけど、大邪神と契約してるって言われても全く理解出来無いわ。時間が壊れそうって言われてもどうすればいいのよ」
「全部倒せばいいんだろ? 簡単じゃん」
事も無げに雅人が真理を突く。
「滅茶苦茶難しい話に聞こえて本質的には全員倒せば解決する問題なんだろ? だったら強くなって全員倒して滅ぼす。それだけだろ」
「流石雅人、良く解ってる」
「出来そうにないから困ってるのよ。全能を相手にするって何よ」
話のスケールが大きいのはそうだ。それにアンナは頭を悩ませている。
「尊」
「ん?」
「噂のネガコスモスとはどういう邪神だ?」
王兄様の問いに答える。
「世界」
「せかい」
アンナと雅人の理解力の溶けたオウム返しが来た。
「或いは宇宙。或いは反世界。まだ誕生していない卵。生まれる時を待つ新世界」
俺の言葉に王兄様が理解に至る。
「宇宙卵か!」
「本質的にはね。ネガコスモスは新世界そのものなんだ。肉体がこことは別の世界で構成されていて、その目的は今の物質界の終焉を待ち、己を起点に新世界を開く事なんだよ。これは本質的に今ある世界、宇宙の滅びを意味するからあらゆる生命、存在に相反する行いだ」
「だからネガコスモスか……道理だな」
「頭痛くなってきた……」
それでも聞こえる辺りアンナも鍛えられてるよな。いやぁ、我が家の訪問回数地味に凄く多いからあのカオスの中で鍛えられてるなこいつ……。戦うのは無理でも、話にはついてこれてる。凄い事だ。
雅人はなんか普通に付いてきてた。こいつが一番おかしい。柊家のハズレ値って俺じゃなくてこいつだと思うよ。
「まあ、ネガコスモスもその内殺すよ」
全部叩き潰し殺す。仲間を殺られて黙っているほどこの鴉羽尊は甘くない。必ず関わった事を後悔させてやる。全て皆殺しにしてこの星から脅威という脅威を消し去ってやる。その果てで俺は漸くゆっくりと眠る事が出来るんだ。
そうだそうだ皆殺しだと雅人くんも頷いています。
「だから後継者争いはもう止めにしないか? 正直リソースが勿体ない。俺達が協力し合えばもっと大きな事が出来る。違うか?」
俺の言葉にアンナがうんうんと頷き、王兄様は考え込むように視線を天井に向けたままだった。
それから10分程、結論を待つ時間が続く。
静寂は清十郎によって破られた。
「成程、そういう事か」
「何が?」
「この後継者争いの大体の図が見えた。老爺が何故これを始めたのかもおおよその察しがついた」
「マジで?」
「うむ」
ほーほーほー。
全員興味が向いて椅子を引っ張り王兄様の周りに集まる。気分が乗った王兄様もマイ・マイクを取り出してポーズを決める。空気が緩いのもあって、皆ノリが良い。
「さて、この継承争いを振り返ろう。この問題はそもそも我らが偉大なる祖父より始まったものだ。だが本人が生きているという可能性が尊よりほぼ確定となった事で……この争いは単なる茶番以上のものである可能性が出てきた」
「もし生きてるだけなら一族全体をおちょくってるんじゃない? で済んでたのよね」
あ、皆そんな意見なのね。
「うむ。だがよりにもよって祖父が人類の敵側に立つのがほぼ確定となった。結果、この争いも無駄に始めたのではなく、なんらかの意図があって開始されたものだと憶測出来る。そうでなければ間違いなく愛娘に遺産を全て押し付けていただろうな」
「母さんはそうされたら迷わず全額寄付するって言ってたわ」
「流石の柊力だ……」
ええんかそれで? 柊出ていったのに? まあ……いいか……。
「そう、そもそも競わせる形を取ったうえで尊を引き込んだことにも違和感がある。尊」
「俺は本来ジジイが認知しているループには誕生しないイレギュラーらしいぜ」
「即ち、この継承争いそのものがなんらかの策であり、勝負でもあると見た。イレギュラーを盛り込んだ勝負だ」
勝負……となると出てくる相手は1人しかいない。アリア=マリスだ。ジジイの伝説が本当ならこの地上でジジイより強いモンスターマスターは現在存在しないだろう。そのジジイでも勝負を挑まざるを得ないとなるレベルの相手は確実にあのボケカス女神だけだ。
さて、と言葉が区切られる。
「尊、貴様から見て柊家とはどういう風だった? 昨日までの話だ」
王兄様に答える。
「世界の権威。あらゆる事に首を突っ込んでいる恐ろしい一族。激やば闇社会の住人。世界のトップ・オブ・トップ……って感じだったかな」
「雅人」
「実態は雑魚集団だけどね。才能もあるし、財力も権力もある。だけど実態は柊剛三を神格化した宗教一族。全てを与えられ、全てを奪われるかもしれない恐怖に怯えている。どれだけ足掻こうとも神であるジジイが常に首を握っていると思っていて……何をしようとも越えられない絶対という存在を前に膝を屈するしかない諦めの中で好きに生きている雑魚一族」
「あまり聞こえが良くないけど概ね間違ってないわね。神格しすぎて永遠にお爺様の影から抜け出せない哀れな一族よ」
「今に思えば暴走しないようにそういう風に躾けられている可能性も出てくるがな。女神の登壇とそれ以降の世界で勝手に暴走して壊滅する身内程厄介なものはない。自分を絶対の象徴として置けばコントロールもし易かろう」
「ジジイの悪事がどんどん明るみに出るなぁ。良いぞ、もっとやれ。もっと罵れ」
あのジジイほんとチクタクマン差し向けたこと許さねぇからな。まあ、インスペクターじゃなかっただけまだ有情なんだろうけど。インスペクターだったらマジで成すすべなく全滅してただろうし。あぁ、いや、ワンチャンオールドテイルズ見て絶頂して家に帰るかも。あいつ、未知が大好きだし……。
「柊家は内にいるか外にいるかで大きく認知が変わる。だが概ね、世間からはあらゆる分野のトップであり、リーダーとして見られている。つまり、世界を牽引する立場にあるという事だ。柊家の当主になるという事はその立場を手に入れるという事でもある……恐らく、これが当主の本当の報酬だろうな」
「お爺様は女神の登場を知っていたのでしょう? つまり女神に対抗する為の救世主をトップに据える為にこの後継者争いを始めた……という事?」
「我はそう見る」
「だけど当主になっただけじゃ柊剛三は越えられない」
「どうせジジイの事だ。S認定戦が終わった瞬間、現場に現れて俺を倒せばお前が当主だァ! とかやるに決まってんだろ。俺なら絶対そうする」
3人の視線が納得感満載で向けられてくる。なんだよその剛三セカンドを見るような目は。死亡ドッキリは基本中の基本だろ? 俺はずっと前からSになった瞬間ジジイが顔を出すと思ってたぞ。
「最終試験は自らを超える事か」
「じゃあ……私もアンタも柊家の全ても、尊を鍛える為の生贄にされてるって訳?」
「コスパは悪くないのではないか? 失敗したらまた回帰すれば良いだけだからな」
「……」
「……」
「……」
流石に出てくる嫌な結論に全員で黙り込んだ。タツノコ達がその空気にちょっと不安を覚えてそわそわしている。ダーツしている場合でもないのでタツノコ達をちょっと撫でて落ち着かせる……こういう仕草はモンスターを牧場で世話している間に覚えた。
「……柊家の連中に何も指導しないのは無駄だって把握してるからって事か」
「恐らく全員試したのだろう。周回プレイで成長率の悪いキャラクターは省かれる……結果、今回生えて来たイレギュラーにオールベットした。実際、尊は界隈では救世主と呼ばれているのだろう? そう考えると老爺の判断もそう間違いではないと思える」
「冗談じゃないわよ。人を何だと思ってるのよ」
「駒だろ」
どんな感動的なシナリオも周回し続けると飽きてくる。それでも終わる事のない周回は作業になってくる。そしてキャラクターはそのうち数値で区別するものになってくるのだ。そういう形になるのは良く理解できる。
ただ……本当に柊家のパターンを網羅してるとして、どれだけ周回しているのだろうか? その上で娘に、母に対する愛情を一切失っていない。妹の灯に対しても似たような愛情を見せる。
それだけ繰り返していてその点だけは絶対にブレない辺りに恐怖を俺は感じるよ。
「ただこれで女神を倒せるってなら悪くないな」
「あぁ、全能者をこれで倒せるというのなら安いな」
「あぁ、もう、この倫理観のないコンビは……雅人、アンタは何か言う事ないの?」
タツノコをダイエットさせようとしていた雅人はアンナに名を呼ばれ、視線を上げる。
「複雑に考えすぎなんだよ。結局ジジイの思惑が何であれ、現時点では答えが解らないんだけどもしかして……でしか語れないんだから。出て来た奴全員倒せば良いんだよ。その心構えを持って柊大戦もやれば良い。その方が戦闘回数が多いし」
「こいつほんと……!」
「俺は難しく考えるのに向いてないからな。リソース全部こっちに向ける事にした。そうしないと尊には勝てないからな」
雅人の熱視線にへへ、と鼻の下を擦る。1人の若者の未来をなんか捻じ曲げた感あるな……? まあ、雅人は既にプロで食っていけるぐらいの実力は付いてるし、柊家では珍しいマスターとしての才能が開花しているタイプだし寧ろこれで正解って感じはあるかも。
さて、ジジイの思惑や目的をある程度話し合って予想した所で正しい答えだとこれは限らない。だが王兄様の考えは割と真に迫っている感じはする。ならこの後継者レースが次のリーダーを生み出す為の舞台だとするなら。
「止めるか、これ?」
俺の疑問に対し、アンナが言う。
「止めるべきでしょ。談合して終わらせた方が良いわよ」
清十郎はこう言う。
「いや、続けるべきだ。祖父にしか見えない図面がある。それを我らで崩すのは不味い。乗せられていると解っていても乗るべきだ」
まあ、当然意見が割れた。
これ軟着陸無理そうだなあ。