「王様を地球に送り届けて来たぞー……ってずるい! 俺抜きでタツノコダーツしてる!!」
「ぐぬぬぬ……尊! こいつ強いぞ!」
「ふ、率いるのに必要なのは飴と鞭のバランスよ。アンタらは飴に寄せすぎてるのよ」
ダーツボードを見るとアンナの投げたタツノコ達が自信満々の様子で突き刺さった場所を示している。終わった後で抜けて良いんだ……って気持ちになりながらタツノコダーツのラウンドが進むのを眺める。
まあ、当然交渉は決裂した。なので王兄様は地上に戻してきた。滅茶苦茶名残惜しそうにしてたのでノア土産を幾らか持たせると気分良さそうに地上に帰った。王兄様も本当はもっと気楽にやりたいのかもしれないなぁ。
遊んでる時の方が100倍楽しそうだった。
また飲み物をクジラのお爺さんから新しく貰い、世にも不思議な異世界の味を堪能しながらタツノコダーツを眺めているとアンナがで、と声を放って来た。
「こんなところでゆっくりしてるけど……アンタ大丈夫なの?」
「何が?」
「何ってもう認定戦まで3か月って所よ? A認定戦の内定を貰ってるんでしょ?」
「そだね。世界を救ったからね」
「何度聞いてもスケールイカレてるな」
雅人が呆れた表情を浮かべてこっちを見る。なんだその顔は……? お前もDLCダンジョンに一緒に行きたいのか? まあ、行きたいか。じゃあロストエデン一緒に行く? ロストエデン行くときにAになってたら一緒に連れて行くよ。それで良い? オッケー! じゃあ予約ね。
ロストエデンは親戚で攻略するか! がっはっはっは!
「いや、笑ってる場合じゃないでしょ。アンタこの前の大会で負けてたじゃない」
「アレは奇襲性が高かったの! 確かにシンクロが今使えないのは結構重いハンデになるけど、それをカバーする為の戦術や新採用も行ってるから信じろって」
虫食いおじさんほんと何だったんだろうね? アレってこれまでのループに存在してたキャラクターなのかな? 存在してたとしたらだいぶ怖いし、存在しなかったら余計に怖いんだよね。でも専用マスタースキルは見れた。あの時は衝撃でセットアップを零してたが、対応のための動きは見れた。
次はない。ミレーナのキャラパワーならアレを押し切れる。次は《復唱・極》で《スペルアブソーバー》をすり抜けて全体を焼く。それでリーサルだ。ムシキングは正直ゴキと蝗ランクの奴じゃない限りそこまで強くないからな。
逆にあの連中は相手のバフを食う事が出来るからバフが重視されるこのゲームにおいて無類の強さを発揮する。逆に言えばそこまでは別に飛びぬけた強さしてないって事なのだが。あのおじさんでも勝ってるんだ。本当に勝ってるんだよね? 何時の間にかランク上がってるとかじゃなくて?
……深く考えるのは止めよ。
「まあ、見てなって。本当ならAでお披露目予定だったうちのドラゴンはB段階でもかなり強力なスキルを搭載してるから良い感じに暴れ回ってくれる筈だぜ」
「そう願うわ。こうなった以上はもうアンタにオールインする以外私に道はないんだからね」
アンナも後継者争いが終わらないせいで大変だねぇ。俺も大変な事に変わりはないが、意外と時間の余裕はある。忙しい時期に入るとワンミスで星が消し飛ぶから苦労度合いでは負けていない自信はあるが。
「そういや雅人の方はどうなんだ? 認定戦」
「俺か? 俺はまだだな。早くて年末になるかな」
「じゃあロストエデン無理そうだね」
「もしかして今年中にまた世界が滅びそうって話してる?」
「俺が新しいダンジョン発掘する度に世界壊滅チョン避けイベントしてるって認識止めねぇか? 俺だって別に好き世界のピンチと対面してる訳じゃねぇんだぞ。こんな事なきゃずっと牧場で久遠とスローライフ送ってるわ」
「……変われば変わるもんね、ほんと」
で、年内昇格間に合うのかお前? 間に合わないなら先にロストエデン行っちまうぞ? 良いんだな? というか良く考えたら今年中に認定戦で勝って昇格しても、モンスターの育成問題があるから俺がアンブロシア込みで100レべのモンスターを用意出来るのは最短で来年になるんだよな。
ワンチャン雅人間に合うな……。
ま、話半分という事にしておこう。場合によっては酒クズの予言通りロストエデンが何らかの事件を起こしてその前に戦う事になる可能性だって十分にある。その場合はまた誰か別の奴と一緒にロストエデンを攻略する事になるだろう。
ルシフェリア解禁の為にも、育成短縮解禁の為にも絶対に攻略しなくてはならないダンジョンだ。俺の理想構築の6世代段階なら……まあ、ギリギリ行けるんじゃないかなぁ、とは思うんだよな。
ま、夢を見るだけなら自由だ。緩い空気の中、タツノコダーツを楽しんでいると店の扉が開いた。ノトスがジュニアの入った金魚鉢を手にやって来たのだ。
「ぴゃ!」
「よう、大将ちゃん。SNS燃えてるぜ」
「何時もの事だろ」
「それもそうだな! わっはっはっは!」
「それ、いつもの事で許して良い事なの……?」
金魚鉢をカウンターの上に乗せると爺さんがゆっくりとジュニアに向かって頭を下げた。それを受け入れたジュニアは頭を金魚鉢から出すと威厳を見せようと胸……らしき胴体を張って格好つけてる。可愛いね。
ダーツボード周辺をふよふよと浮かんでたタツノコ達が金魚鉢に集まると、ジュニアと遊びだす。どうやら同年代の友達らしい。それを眺めのほほんとした時間を過ごすのも悪くはないが、アンナと雅人も何時までも月に居られる訳ではない。特にアンナに関しては割とギッチギチのスケジュールが詰まってるだろう。
「さて、まだまだ忙しいのは続きそうだし私も地球に帰ろうかしら……今日はそれなりに楽しかったわよ」
アンナも清十郎同様ノアに設置されている転移装置まで案内して地球に送り返す。さり気なくだけどこんなオーバーテクノロジーな代物があるノア、やっぱ地球に置いておくのは難しいんだよね。
手に入れる為に戦争を起こす奴は間違いなくいる。
でもノア自身は戦いがなければ乗船する者を募集して、新たな航海に乗り出し一緒に航海してくれる新しい民を募集したそうなんだよね。それが出来るようになるのは何時の事やら……。
「2人が帰って少し寂しくなったな」
「そうだな。言い争ってたけど何だかんだで仲は悪くないしな」
カウンター席でタツノコと遊ぶジュニアを眺めながら雅人が溜息を吐く。
「やっぱり兄妹なんだから仲良いほうが良いよ」
「お、雅人がそういう話するのは珍しいな」
「そうかぁ? まあ、そうか。あんまする話でもないしなぁ」
ぴゃ! と鳴くジュニアがタツノコと一緒にぐるぐると金魚鉢の中を泳いでる。こいつは会った頃から全然姿が成長していない。やっぱ海王クラスに成長するまで何千、何万年という時間を必要とするのだろう。俺が生きている間にそれを拝むことは無いかなぁ、これ。
「まあ、なんというか若い頃……今でも若い頃だけど。俺は結構舐められてたり馬鹿にされてたからな。清十郎とかアンナとか、一部のまともな奴しか相手にしてくれなかったんだよな」
懐かしい、と呟く。
「俺は昔からジジイの伝説とか逸話を聞いて、ああいう風になりたいって思ってたんだ。夢だったんだ。だから俺がジジイを超えてやるって思った。だけど、ほら、柊家ってあんな感じだろ? それを口にする奴って馬鹿にされたり冷笑されてたんだよな」
想像するのは決して難しくないだろう。柊家では恐らく幼い頃からジジイを神格化する様に教育が施されていた。裏切らない様に、ジジイ自身が描いたチャートを勝手な行動で崩させない為に。
柊家はジジイにとっては道具の1つでしかないのかもしれない。必要だが勝手な動きは困る。だからあえて大きな動きを作らせないようにこういう形に落ち着いたのだろう。
「馬鹿にされる度に跳ね返って喧嘩売って、偶に兄貴に助けられて。でも結局、仲良くバトルとかしたかったんだろうな……って今は思うよ」
そう言いながら未知のジュースを口にする雅人はこれ、地球に持ち帰れないかなぁ、と呟く。気に入ったみたいだ。俺も今度、久遠とデートにここに来ようかな。
「なんかさ」
「おう」
「見下したり見下されたり、ああいうのって見てるとイライラするし面白くないんだよな。俺がそうだったのが理由なのかもしれないんだけど。柊剛三の伝説を超えて、そういうのを終わらせたかったのかもな……俺」
アンナと清十郎の交渉が決裂するのを見て、雅人にも思う所があるらしい。この3人の中で最も自由で縛られない男。しかし、本質的に1番柊の新しい王に相応しいのはこいつなのかもしれない。
ちょっと見たいかも。こいつがトップになってる所。
柊の集まりは流石に解散、雅人とノアをもう少しだけ堪能したら地球に戻る。
いよいよ、Aランク認定戦が迫りつつある。
認定戦開始までに最終調整に入らなくては。