「皆ぁ! もう駄目だよおしまいだよ!! 負けだよ負け!! 終わりっっ!」
控室に飛び込みつつばばーん、と壁に設置されているスクリーンを指さす。そこには対戦票が表示されている。そしてそこには第2試合、俺vsマイケルというマッチングが表示されている。涙を流しながら俺は両手でばってんを作る。
「無理だよ……」
「はわわわ」
「マスターが何時になく弱気ですわね」
「運ゲー勝負に持ち込まれると大体負けますからね、マスター」
生まれた時点で運命力を保有してないってレベルで運が悪いから確殺レベルの状況を構築しない限り勝ち負けに関しては安心できないんだよね。しかも今絶不調だから絶対にジャックポット構築と当たった所でまともに戦えないと思うよ。開幕オール7成立すると思って良いよ。俺のケツを賭ける。絶対にオール7開始するから。
「おしまいだおしまい!! 勝てるわけねぇだろこんなチート!! 運EXか何かのチート持ちかよ! ざけんな! こっちは最近バニラ性能で頑張ってるんだぞ!!!」
「お兄ちゃんどうどう。落ち着いてどうどう」
むっきー、と控室に入って暴れ回っていると控室で待っていた灯にどうどうと落ちつけられた。だってぇ、と指をつんつん突っつく。俺のクソ運に関しては自覚あるし……《復唱・極》の発動率80%でコンスタントに外すし……だからリーサルパターンはなるべく運に頼らない読み勝負に持ち込んでるのにぃ。
相手はそういう読みあいを拒否する対話拒否型デッキですよ!!
ソリティアでリーサル札を揃えたらウノ! って言って相手を抹殺するんですよ!? 卑怯じゃない!? 俺はパワーカード握って圧殺はするけどこんなチート染みた能力を使った事ないぞ!?
「ずるいずるいずるいずるい―――!!」
床にごろごろと転がってばたん、と両手を投げ出して黙り込む。てっぽてっぽ寄ってきたチビが俺の腹の上に座ってくる。おい、こら、このデカい子犬。飼い主のおなかに座ってるんじゃねえ。俺が今滅茶苦茶困ってる事が解からねぇのか。
ばば、っとチビを投げ飛ばして立ち上がる。
「良いぜ! そっちがその気ならこっちも容赦しねぇぞオラ! ウェルギリウスの合体用に用意してたサブ血統死神をバトルに回してやる!! 人類初のトリプル死神運用だ!! 教えてやる……マジレス死神構築の恐ろしさをよぉ!!」
マジレス死神、もしくはマジレスサクリファイス。
《パーフェクトキャンセラー》3個。
《インタラプト》3個。
《グローリー》3個。
相互デバフ固定ダメスキル1種搭載。
これからなる打ち消し+デバフによる連鎖発動で相手のHPをガンガン削ろうという対話拒否の究極のスタイル。壁と会話してろ。1人ソリティア。コミュ障。オフラインゲーム。様々な悪名を稼いだカスの構築である。
やることは簡単だ。
誰かが打ち消し打ったら全員連鎖反応で《削れる運命》みたいなスキルで1割ダメージ発生させる。3人同時に投げてるのでなんとパフェキャン1回で3割吹っ飛ぶ。対話拒否型の究極形である。
行動すべてに打ち消し投げて相手に何もさせずに削り殺す。行動? 打ち消します……誘発? 打ち消し投げます。あ、サクリでリソース戻しまーす! じゃ、もっかい打つね?
間違いなくバトルした後の挨拶でグッドゲームの後に草が付くし、相手は青筋浮かべて中指突き立てながらグッドゲームって言ってくれる。友情なんてもんがこのバトルの後で芽生える訳ないだろ!!
当然、《グローリー》は耐性系スキルでパフェキャンやインタラの様なスキルの対象に取れないのでこれで打ち消しが止められるという弱点があるし、《暗黒樹海》展開中は成す術もなく死亡するしかないという弱点は存在する。
だが初見でこのマジレス構築に勝てる奴はいねぇのだ! こんなクソゲーを相手にする事なんて誰も想定してないのだ! 環境に登場した時ランクマがただのストレスの塊になったのだ!!
相手が運EXとかいうチートを使って来るなら俺も主義を曲げてマジレス死神を出さざるを得ない……!
ボス系統は打ち消し耐性が付与されるからハメられないけど、一般マスターや公式戦では人気とのトレードで勝ちを取る事が出来る。
「ふ、ふふふ、ふへへへ、禁断の力を手にした俺に恐れるが良い、震えるが良い! 一生消えない恐怖を刻み込んでやるぞジャックポットォ!!」
「可愛いなこいつ」
「お兄ちゃん、根本的にずるをする方向に行かないからね。根本に正々堂々って感覚が染みついてるんだよ。お母さんの教育の賜物だね」
だってチートで勝つのはかっこ悪いし……。
「ミコト」
ソファを見ると久遠がぽんぽんと膝を叩いている。流石に恥ずかしいと思ったけどもうだいぶ恥ずかしい姿を皆に見せてる気がするし今更か。ソファの方に向かい、ごろんと横になって久遠の膝の上に頭を乗せる。
「運に負ける程貴様は弱いのか?」
「そんな事はない」
「勝つ自信がないのか?」
「うん」
「だけど私は貴様が負けるとは思えない。私の中にある鴉羽尊はたまに負けるが、強い男だ。私の期待を裏切った事は1度もない。そして今回もそうなる。そうだな?」
「男を乗せるのが上手だね」
「私が乗せる男は貴様だけだ」
膝枕したまま灯を見る。妹が視線ではよ結婚しろって訴えかけてくる。だが待ってくれ、結婚したらどこで住むのかという問題もある。この問題を解決するまで結婚するのは早いんじゃないだろうか? 牧場出て行く訳にいかないし、お互いの実家が近いとはいえ別居は割とメンタル直撃するし……出来たら一緒に暮らしたいし……。
「お兄ちゃん、ちょっとキモイ」
「うす」
のそのそと起き上がる。甘えタイム終了。心の栄養分を補充したのでちょっと脳味噌回しますか。次の試合の相手が相性的絶望的な事実は何も変わりない。だが《グローリー》を使用する前提で動くなら、相手の《パーフェクトキャンセラー》を回避してワンパンを叩きこむ事が出来る。
ミレーナに詠唱をスタックするだけの余裕はない。だがチビでは火力が足りない。となるとドラゴン(火力枠)、ノトス、エデで《グローリー》で打ち消し妨害を耐えつつワンパンで中核になるモンスターを吹っ飛ばすのが最良のプランになるかな。
ウェルギリウス+死神x2でマジレス真拳するのは別に卑怯でも何でもないからありっちゃありなんだけどね。単純にバトルとしてなんの面白みもないから手を出したくないというだけなので。
侍の決闘で刀じゃなくてガトリングガン構えてるようなもんだからね、このマジレス真拳。やる側も面白くないんだよ。対策方法? アリスでも裏に置けば良いんじゃないっすかね……。裏アリスで相手に封印警戒させるだけでこの手の一芸特化は出せなくなるからね。
ま、大体プランも出た所だしそろそろ詰めに入るかぁ……と思っているとそろそろ藤原プロたちの試合の時間だった。スクリーンにダンジョンに入る2人の姿が映し出される。
「そう言えばうちのグループがバトルログシステムの提供を行ってるからスクリーンで見るとちゃんとスキルとか表示されるらしいね」
「アンナちゃんの営業努力ほんと凄いよね」
ねー。
はー、藤原プロは構築に更新なしって事はスキル見直しで勝ち上がったのかな? 対する兵頭プロはバースト型の構築か。瞬間火力に全てを叩きこんで一気に制圧するスタイルだ。アグロよりも早く、アグロよりも強く、そして死ぬ時はアグロよりもあっさり。花火の様な生き様を見せてくれるバースト構築だ。
無影暴走で詠唱バーストなら割と良く前の世代でやっていた。フラメアでバーストするのは対処法が少なすぎて良く通った。
……フラメアを思い出すと前の世代が恋しくなるなぁ。
このゲームは無敵やカットでダメージを0にする手段がそれなりに存在する。その為、バーストは高ランク程通し辛いという難点が存在する。
Cでは限定された無敵も、Bではそこそこ配られている。貫通力のないアタッカーはバースト適性が無い事になる。なので高ランクでのバーストは火力もそうだが、貫通力が何よりも要求される。
藤原プロは構築の都合上、毒による摩耗とコンシードによる詰みへの持ち込みが本命だ。兵頭プロがバーストタイミングをズラして藤原プロの防御札。誘発させれば勝ち……って感じかな?
性能よりも読み合いの勝負だこれは。相性差はほぼない。基本防御側が有利だけどワンパン通ればそれで形勢は一気に逆転する。良いマッチではあると思う。
兵頭プロのメインアタッカーはウォータイラントという巨人族のモンスターで見た通りの物理アタッカーだ。確か固有で防御無視を持ってるからクリ耐性を保有されても高防御をその上から叩き殺す力があった筈。
耐久型にはちょいキツイ相手かもなぁ。開幕デバフ入れて火力削って……所かな? まあ、俺は早く自分の試合の準備進めろって話なんだけど。
編成をどうするかなぁ、と頭を悩ませているとカメラが藤原プロにカメラが向けられた。
その唇が音を発さずに動いた。
「……?」
「どうした」
唇の動きを読んで首を傾げた。
「いや、今、藤原プロの口が逃げろ、て」
「何からだ?」
「さあ……?」
しかし、たったそれだけで嫌な予感がし始める。妙な胸騒ぎにスマホを取り出す。認定戦なのもあって今回は護衛用の脱法ボスは用意していない。
ワンチャン、判断を間違えたかもしれない。
アイツラは、場所を選ばない。
『さあ、それでは第1試合……開始!!』
スマホを取り出した所で最初の試合が始まる。
それが、長い1日の始まりだった。