最強以外ありえない   作:てんぞー

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Cランク認定戦

「―――はい、メディアパスを確認しました。ようこそモンスター協会駆間支部へ。案内は必要ですか?」

 

「いや、大丈夫だ。ここには来た事あるしな。そら、行くぞ郁美ちゃん」

 

「ま、待ってくださいよ先輩……ま、まだ、心臓がバクバクしてて……はあ、はあ……」

 

 メディアパスを下げた男は振り返ると苦笑を浮かべて後輩の女性を見た。それから横に立っている男に向かって軽く礼を取った。

 

「護衛サンキュ。相変わらず治安悪いなここ」

 

「そこが良いんだよ、そこが。生活している間に段々と非日常が日常になって、戦う事や備える事がストレスじゃなくなって行くんだ……そうして戦っている事やその対応が日常になった時、俺達は“完成”を迎えるんだ」

 

「そっかぁ……」

 

「じゃ、帰りに迎えに来るな」

 

 護衛の男がモンスターを連れて去って行き、それを見送るメディアの男は笑って送り出しながら思う。あの思考回路だけは絶対に理解できないと。駆間市の住人全体がそういう者だと男は理解していたが、その思考回路はもはや別世界の住人みたいなものだ。

 

「郁美ちゃん、何時まで息整えてるんだい? 仕事が待ってるんだ。早く行くよー」

 

「ま、待ってください柳田先輩!」

 

 柳田が先を歩き、それを郁美が追う。時折視線が向けられるも、2人が下げているメディアパスを見れば直ぐに関係者用の通路に入る事が出来る。ここまで来れば安全と漸く郁美は張っていた気を抜く事が出来たように溜息を吐く。

 

「もう、本当に何なんですかこの都市は入った直後にはモンスターを当然のように引き連れた人たちがいて、更に進めばここは今日は毒ガス地帯だぞ! ……って当然のようにガスマスク持ち歩いてますし、途中でみた商店街は炎上してるのに商売続けてますし……何なんですか本当に……」

 

「ははは、駆間市の洗礼を受けちゃってるねぇ」

 

 カメラを取り出して確認し、中のデータ容量を確認し、それからスマートフォンの中に書き込んだメモを確認する。何百回も繰り返してきたルーティーンを通して柳田の心は直ぐに落ち着きを取り戻していた。

 

「それが日本の2大活性域の姿さ。郁美ちゃんは外歩いてる時に車の類をあまり見なかっただろう? 道路や建物内でも頻繁にダンジョンゲートが発生するから車で移動していると廃車にする事前提になるんだ。だから駆間市の人々は移動する場合モンスターに乗る事が多いよ」

 

「せ、世界観が違いすぎます……。これが東京だったら外に連れ歩いているだけでバッシングウケますよ!?」

 

「ここはそういう場所だよ。だからこそモンスターバトルで強くなりたいのなら駆間か逆田に行け、って話になる。本気で強くなろうとする奴は常に最先端を追い続けなきゃいけない。そしてここにそれがある」

 

「言っている事は解りますけど」

 

「ほら、ぐちぐち言うな。一度は見てみたいって言ったのは君だぞ」

 

「正直後悔してます……。こんな地獄みたいな場所だと知ってたら絶対に来ませんでしたよ!!」

 

「ははは、噂話が大体真実だって信じていなかったなぁ?」

 

 笑いながら柳田と郁美の2人はメディア用に用意された見晴らしの良い席まで移動した。バトルフロア全体を見渡せて、フォーカスしたい試合を見下ろすように配置された展望の様なフロアには2人以外のメディアの姿もある。

 

 とはいえ、大きな放送局の類はこのような場所へは来ない為、どれも地元メディアか潜り込んできた出版社の雇われジャーナリストの類だった。立場そのものは柳田達とはそう変わらない。普段の仕事と違うのは駆間での仕事がほぼ戦場ジャーナリストと似たような扱いの事か。

 

「おや、柳田氏。氏も来られましたか」

 

「米蔵さん。お久しぶりです」

 

 柳田に眼鏡をかけたジャーナリストが挨拶する。柳田の返答に米蔵も頷き、視線はステージの周囲へと向けられる。

 

「まあ、ここにいるという事は氏もどうやら嗅ぎ付けた様子で」

 

「ははは、こんなおいしい話独占されたらたまりませんからねぇ」

 

 軽い牽制する様な言い合いに、2人は一瞬だけ沈黙を作り、それがどれだけ無意味なのかを悟って直ぐに崩した。

 

「それで柊一族のぼっちゃんは見つけました?」

 

「いや、まだですな。ですが車は見つけたので間違いなく会場入りしてますな」

 

「となると控室かどっかで姿を隠してるか……試合まで待ち、だなこりゃ」

 

 そう言いながらも男のカメラはせわしなく会場を巡っている。認定戦目的の者もいれば、見物に来ているのもいる。それらをカメラの中に捉え、記録に残して行く。この場の雰囲気が、高揚が、熱が少しでも読者へと伝わるように、と。

 

「しかし先輩……ここの人たちはモンスターを隠しませんね。普通ギリギリまで情報を渡さないように見えない所に置いたり隠すようにしてる筈なんですけど」

 

「おや、氏の後輩さんは駆間は初見ですか? ここでは死ぬほどバトルを繰り返しているので既に互いの手札はほぼオールオープン状態ですぞー。モンスターを隠した所で無駄無駄、既に手の内は日常の中で割れていますからなあ」

 

「か、隠す気がない」

 

「そうそう、隠す意味がないんだよね。モンスターに関する知識量もズバ抜けてるよ。見たら大体どういう動きが出来るのか徹底して頭に叩き込んでる上に最近ではモンスターを交換して戦ってるらしいから、他人のモンスターの動き方まで頭に叩き込んでるんじゃないかな?」

 

 東京などの大きな箱で行われる大会などを見ているだけに、郁美はこの駆間という都市がどれだけ異様な環境を展開しているのかを理解していた。駆間は一種のガラパゴス環境と化していた。外とは別の進化、成長を遂げてそのまま尖り続けている。

 

 世間がどうとか、世界がこうとか、そういうのは欠片も意識していない。

 

 生きる為に戦う。戦うために戦い続ける。常に戦争に挑むような日常をここにいる者達は送っていた。根本的なメンタリティが違う。異世界に踏み入れたような気分さえ彼女には感じられていた。頭がくらくらしそうな中で柳田がお、と声を零した。

 

「早速第1試合の準備が始まるぞ。郁美ちゃん、アレを見てみ」

 

「アレ、ですか?」

 

 ステージに上がったマスターたちが指揮所に入る前に中央で煽りあいつつ、腰のホルダーからカードを取り出してしゃっしゃっ、とカードをシャッフルしながら交代して行く。

 

「なんですか、あの儀式は……」

 

「アレは相手への相対想定で即座にスキルを組み替えようとする威嚇だよ。お前の構築は既に割れているから今からメタするな、という見えやすい行動をとる事で相手に対応を迫る動きなんだ」

 

「?????」

 

 つまりですな、と米蔵が続ける。

 

「モンスターの能力が割れていると出来る事は大体見えてきますな? だから相手に対応するにはスキルを入れ替えるのが一番効率的で簡単なんですな。それを相手に見せる事で相手の脳の思考リソースを圧迫、対応させる事で相手を消耗させようという戦術なんですぞ」

 

「ちょ、直前にスキルの調整ですか……」

 

 トッププロと呼ばれる様な者達が試合前に相手に合わせたスキル調整を行うのは周知の事実だ。だがそれをDランクで行っている事なんて聞いた事が郁美にはなかった。ましてや相手にそういう対応を強要するのも初めて聞いた。

 

 この駆間という都市はおかしい。

 

 明らかに戦い慣れ過ぎている。

 

「なんですか、この都市は……!?」

 

「まあ、そう思うよね。俺もそう思ったよ」

 

「ははは、慣れてくると毎日が賑やかなのですがなぁ」

 

 1試合目が終了し、2試合目が開始する。その間も柳田は常にカメラを試合やマスターたちへと向け続ける。最近、何かと駆間が話題になりつつある事を柳田は気づいていた。ここが、騒動の中心となる気配を見せている。それは記者としての彼の勘の様な物だった。

 

 少なくとも特に意味もなく、柊一族の人間が認定戦の為だけにここに来る筈がない、と思っていた。

 

「どう思います、米蔵さん?」

 

「何かがあるんでしょうなぁ」

 

 ぼかすような言葉遣いに、米蔵が何かを理解しつつもそれを口にするつもりがない事を柳田は察せた。少なくとも米蔵は駆間在住のメディアマンだ。普段駆間で起きるマスター関連のあれこれをメディアに流す立場にある。

 

 米蔵であれば駆間で起きている細々とした出来事や、或いは何らかの予兆を掴んでいてもおかしくはないだろう。

 

「んー、耐久しつつコントロールで消耗戦ですな。中々のお点前」

 

「ひえー、このランクでここまでえぐい戦い方が出来るのか。将来有望だなぁ」

 

「えぇ……」

 

 Dランクは悪く言ってしまえば低ランク帯だ。上がろうと思えば誰でも上がれるランクではあるし、大したモンスターも出て来ないランクだ。スキルだってそんな幅はないから自然と戦い方は限定されてくる。

 

 つまりは殴り合いだ。

 

 Fから始まり、Dまではより早くダメージを出せる方が勝てる。それが基本的な認識になっている。だからこそ強いモンスターを用意して、ステータスの差で耐えながら殴る。それが王道であり、最もDランクで強い戦い方だと言われている。

 

 少なくとも柳田も郁美もそう認識していた。

 

 だがこの会場で行われている戦闘方式ではコントロールも、積みによるランプも、DoTによるバーンも見られる。多種多様の戦い方が会場では繰り広げられており、退屈とは言い難い戦闘が続いている。

 

「ここまで……ここまでレベルの高い戦いをしていながら、どうしてこの都市はそこまで話題にならないんですか? これほどまでにレベルが高く、そして凄いならもっと話題になって人が来てもおかしくはないじゃないですか」

 

「さあ?」

 

「長年の不思議ですなぁ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようなものを長年暮らしていて感じますな」

 

 けらけらけらと米蔵が笑う。

 

「なんというか……モンスター達は強くなろうとする本能がありますな? だからこそトレーニングを行い、合体を受け入れ、より過酷な戦いと死を受け入れる。この駆間などのダンジョン活性域はまるで土地そのものが住まう者の対応と進化を求めている様に感じますな」

 

 土地の意思なんてものを口に出して米蔵は笑うが、郁美はこの異様な環境の進化を受け入れている住民たちの姿を見て、笑う事は出来なかった。外から前提知識なしでやって来た彼女だからこそ解る。

 

 ここは変だ。

 

 何かがおかしい。

 

 土地そのものが何か違う。

 

 治安が悪いとか、生活が違うとか、常識が……等ではなく、根本的な部分で何かが違う。ただそれ自体を言語化する手段を彼女は持たず、思考がまとまる前に柳田の声が遮った。

 

「来たな……」

 

「ほう、そこに注目してましたか」

 

 柳田のカメラは休憩エリアの方から出て来る一人の少年を捉えていた。続くように連れるモンスターは黒い魔狼、人魚、そして現在国内有数のレアモンスターである死神。3体のモンスターを引き連れた少年がステージの方へと移動していた。

 

「鴉羽尊、かの叶プロと同じレアモンスターを保有するマスター……間違いない、台風の目になるぞありゃ」

 

「目の付け所が良いですなぁ。自分も彼には注目していまして」

 

 カシャカシャとカメラのシャッター音が鳴る。同じように注目しているカメラマンの類は他にもいた。死神を連れている、それだけでも話題に上がるべき人物なのは確かだった。だがそれ以上に柳田の心を動かしたのは彼の戦績と足跡だった。

 

 モンスター協会のデータベースに登録されている1年未満で300勝を超える戦績。

 

 そして数か月前に黄泉平坂の奥、根の国と呼ばれるダンジョンから叶プロ―――東吾と共に出てきたという情報を柳田は東吾の足跡を追う中で発見していた。

 

 妙に気になる少年。完璧な話の中のノイズ。それが柳田の気を引いていた。

 

「米蔵さんも?」

 

「最近彼が中心になってDランク全体の底上げが行われていましてなぁ……この調子だとCランクに上がっても同じような事になるでしょう」

 

「ほほお、それはそれは―――っと、本命も出てきたな」

 

 奥の方から柊雅人が出て来るのも見えた。真っ先に鴉羽尊を探し、見つけると突っかかりに行く姿を見て、なんらかの関係があるのか、と考えた。だが考えた所で邪推以外のなにものも出来ない為、無駄な思考をカットしてベストショットを取るのに戻った。

 

「郁美ちゃん、ちゃんと良い絵撮れてる?」

 

「撮ってます撮ってます! 頭空っぽにして仕事する事にしました!」

 

「賢いなあ」

 

 尊と雅人が別のステージへと向かって行く。他のマスターたちもそれぞれのステージへ。今日は特別な日、勝者がCランクという栄誉を得られる日。態々こんな蟲毒で殺し合わなくても、外の世界に出れば勝てるだろうに彼らはそうしない。

 

 この蟲毒の中で打ち勝ってこそ本当の栄誉となり、価値あるCランカーを名乗れる。

 

 そういう認識が自然と駆間のDランクマスターにはあった。

 

 ―――彼らのCランク認定戦が始まる。

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