チビの《ヴェロシティ》、素早さが2段階上昇した。
ブラッドヴァイパーは《粘着糸》を唱えた。
ウェルギリウスの《パーフェクトキャンセラー》、行動をキャンセルした。
《去り行く過去》ブラッドヴァイパーに忘却が付与された。
《削れる運命》によりブラッドヴァイパーの命が削られた。
《ミスチーフ》ブラッドヴァイパーの防御が低下した。
《削れる運命》によりブラッドヴァイパーの命が削られた。
ブラッドヴァイパーは《脱皮》して忘却を振り払った。
《抜け殻》を咀嚼して体力を回復した。
脱皮し新生した事で攻撃力が上がった。
ウェルギリウスは《ヴェール》を唱えた。チビは免疫を得た。
ルミナスゴートは《ヴェール》を唱えた。ブラッドヴァイパーは免疫を得た。
《神秘の守り》がブラッドヴァイパーの体力を回復した。
《根の国》に彼岸花が咲き誇り告死蝶が舞っている……。
「そのインチキスキル使うの止めろぉ―――!! 1手でどんだけ崩しに来るんだよそれ!! 立て直しだけで必死になるんだが!? 犯罪止めろ!!!」
「持ってないのが悪いですね……。拾わなかったんですか? 3億」
「殺すぞ」
反対側から向けられてくる中指に対して笑顔で中指を突き立て反論する。Dランク帯では明らかに過剰戦力とも呼ばれる《パーフェクトキャンセラー》からのコンボは相手を1ターンどころかケア抜きでは数ターン動きを放棄させられる代物だ。
だがここ数か月それを何度も対戦で見せている影響か、Dランク帯でありながらケアする手段を各々が備えるようになり、リアクションスキルで即座に回復する手段などを入れるようになってしまった。Dランクで普通、コンボを意識したスキル構築はしないらしいが、ここ、駆間においてその理屈は通らなくなった。
何気にヤギが免疫付与でウェルギリウスへの牽制を行っている辺りしっかり次のターンへの備えが出来ていて凄い。《粘着糸》使われるとチビの火力が大幅に死んで戦闘が長引くようになる。こうなるとこっちの敗北率も上がる為、絶対に塞がないといけない。
それを理解していて今のチビ・ウェルギリウス対策は絶対に1度は《粘着糸》を使って此方に《パーフェクトキャンセラー》を使わせる事から始まる。デバフをリアクションスキルでどうにか解除し、攻め手は物理や魔法ではなく《カウンター》に引っかからないDoT系統が理想。
その上で言うならブラッドヴァイパーは足が速く、リアクションでデバフのケアが出来て、なおかつ毒を付与する事が出来る。此方の基本構築に対して非常に有利に動けるモンスターだ。何気に状態異常による殺害はマスタースキルでは防ぎ辛い。
とはいえ、今回は勝ちだ。
ルミナスゴートでは速度が足りない為、此方を相手に先手が取れない。黄泉平坂で手に入れたそこまでレアではないスキルだがそこそこ便利でそこそこランクの高いステータス2段階上昇スキル、《ヴェロシティ》は《クイック》の純粋強化スキルだ。
《クイック》が1段階に対して此方は2段階で即座に通常枠の強化上限に届くようになる。これまでこれを温存していたのは今日という舞台で相手の耐久計算を狂わせるためだ。積み1段なら耐えられる計算も、積み2段になると不可能というラインは結構ある。
この認定戦開始というタイミングでメインウェポンの火力を引き上げるだけで、事前の計算を狂わせる事が出来る。
「リーサルです」
「クッソぉ、こっちも何らかの打ち消しを入れないと追いつかない……!」
先手を取って行動したチビが《アクセルクロー》で防御が1段階下がったブラッドヴァイパーの体力を9割吹き飛ばしそのまま《根の国》の効果で即死。残された光ってるヤギは穏やかな顔で光らせながら
チビの積みを止められなかった時点で凡その結末は出来ていた。
「GG、対戦ありがとうございました」
「対戦ありがとうございました」
試合が終わったらフィールド中央で握手を交わし、次のマスターが戦えるようにモンスターを引き連れて素早く降りる。素早くモンスターを治療し、次の試合に備えながら先ほどの試合を振り返るように相手と感想戦に入る。
「やっぱパフェキャン反則だろ……いや、それも強いけどそれよりも《ヴェロシティ》のが痛かったな。今日まで温存してて見せなかった奴だろアレ」
「うん。ここで初めて出したら楽しいなあ、ってずっと思ってた」
「でしょうね!! いや、でも今回の敗因はそこじゃなくてデバフのケアに意識持って行かれてバフを消さなかった方だな」
「せやな。積み消されてたら火力ガタ落ちしてたから初動は後手行動なのを活かして《ディスペル》で良かったかも。《脱皮》強いよなー」
「蛇系統専用って制限はあるけど即時デバフ解除があって優秀だよな。リアクションヒールでデバフ解除するか開幕免疫貼れればもうちょい編成に自由が出てくるんだけどな」
「そこはまあ、Dの制限って所かな。もしくはダンジョンでスキルカード拾ってくるしかない」
「まあ、そうなるか。ここからの課題はヤギの足の遅さの改善と択の選び方かぁ」
サクッと感想戦終了、既に次の試合が始まっている。
駆間市での認定戦は参加者が多いため、他の会場よりも多くの枠が用意されている。これはモンスター協会の会長の計らいであり、
『え、なるべくいっぱい認定戦で殺し合いたい……? そっかぁ……枠多めにするね……』
という事で大人数で本気で殺し合う機会を提供してくれているのだ。やったぁ。無駄に狭き門になってしまっているが俺達はそもそも戦うのが大好きなので特にデメリットでもなんでもない。
と、感想戦を終えた所でスマホのモンスター協会公式のアプリに新しく対戦が決まった通知が届く。じゃ、と別れを告げて次のステージへと向かい、新たな対戦相手と向かい合う。相手はジャガイモに手足を生やし、ヒーローマフラーを着けたようなモンスターを2体連れたマスターだった。
「ベジタブルヒーロー?」
「ふっふっふっふ、
「嫌な予感してきたなこれ」
ベジタブルヒーローズ、善と悪に分かれて戦う野菜たちの姿をしたテーマで確か根野菜とかの種別で敵対とかが決まっているんだっけ? 結構マイナーなモンスターだから細かい部分は忘れちゃってるかもなあ。ただなんとなくだが相手の行動は読める。
ふっふっふと不気味に笑う相手を前に、手を出す。
「対戦宜しくお願いします」
「対戦宜しくお願いします」
マナーは大事。どれだけ濃いキャラをしていてもしっかりと挨拶と握手はしよう! 煽り合いはマナーがちゃんとしているから許されるという事を絶対に忘れてはならないのだ。
モンスターをフィールドに配置したら互いに指揮所に入り、戦闘の準備を整える。右目を押さえてシンクロをする準備をし、俯瞰する戦場を脳内でタイムラインへと変換する。全ての行動が数値化され、時間順に管理される。
「
「あ、解っちゃったかも」
戦闘開始の音が響く。
「防御―――あ、いや、防御も妨害も意味ねぇなこれ。どう足掻いても消し飛ぶ。チビ!! 全力で避けろ!!!」
「行けェ!!! ヒーローとは爆発する事と教えてやれェ!!!!」
フィールドに立ったじゃがいもヒーローたちが儚い笑みを浮かべながらサムズアップを向けて来る。全力で防御を固める中で、じゃがいも達の体の中から光が溢れだし、体が割れ始める。
《根の国》が呼び起された。
チビの《ヴェロシティ》、素早さが2段階上昇した。
ウェルギリウスは全てを察して行動を放棄した。
ポテトブレイブAはその命を限界まで輝かせた。
「サヨ……ナラ―――!」
ポテトブレイブAは自爆した。
ポテトブレイブBはその命を限界まで輝かせた。
「サヨ……ナラ―――!」
ポテトブレイブBは自爆した。
ポテトブレイブAは消し飛んだ。
ポテトブレイブBは消し飛んだ。
ウェルギリウスは消し飛んだ。
チビは爆発を回避した。
「ぐぉぉおおおおお―――! 技量全振りにして命中+%まで付けて当てられなかったァ―――!!」
「く、クソボケ……!」
W技量命中特化自爆編成。技量伸ばしでクリティカル補正付けつつ命中を盛って自爆攻撃で全体巻き込みながら
「ま、まさか現実でこれをやる奴がいるなんて思いもしなかった」
「くっくっく、これぞお前に対する最適解だ鴉羽ァ! この攻撃を止める事が出来ないだろうしどれだけデバフしても無駄だ! まあ、当たらなきゃ意味がないんだがな……」
「ボケカス!! 本当にボケカス!!! 認定戦で自爆ビルドなんてするな馬鹿!!!」
「何故だ!? 攻撃枠1枠、残りの7枠を命中+%にすればお前とは良い勝負になるだろ!?」
「そうだけど、そうだけど……! 運ゲーじゃねぇか!!」
「回避型も運ゲーだるぅぉ!?」
それはそう。
完全に論破されたので確かにワンチャンあるならノーチャンよりはアリよりのアリなのかもしれないが……いや、開幕オール自爆は確かにワンチャンあるだけ良いのだが……ゲーマーとして完全に全てを天に委ねたスタイルはどうかと言いたくなる。
「今回はお前に届かなかった……だが覚悟しろ、次はもっと命中を高めて
「お前とだけは対戦したくない……対戦ありがとうございました」
「対戦ありがとうございました」
箒と塵取りを取り出した対戦相手がじゃがいも片になったモンスターを回収すると、それを袋に詰めてステージから降りて行く。今更ながらララの時もそうだが、塵になったり無になるまで消し飛んだのに復活できるモンスターの生態は謎だ。
正体が正体だから確かに蘇生は可能なのだが。
塵から復活する姿を見てると脳が軽くバグる。
「まあ、いいや。俺もウェル蘇生して次の試合に備えなきゃな」
消し飛んだウェルギリウスの無を回収して無に対して大会用に配布されている蘇生アイテムを使えば無からウェルギリウスが帰って来た。ステージから降りて休憩エリアへと向かおうとすれば、再びスマホに次の試合のコールが入って来る。
既に3戦目を終えて人数もだいぶ減ってきている。徐々に試合のペースが上がっている。参加者も既に半分以下になってきていて、その分気合の入った奴が残されている。
「次の相手は……お、回避ミラーか」
知ってる名前が対戦相手だった。相手は後追いだが回避型ビルドの使い手だ。ミラーマッチもまた対戦の楽しみ……どうやって似たような構築の相手を上回るのか、それを考えるのもバトルの楽しい所だ。
次の対戦が少し離れた場所であるが故、歩き出そうとした所で別のステージで戦う姿が目に入る。
「お、勝ち残ってるな」
雅人がゴブリンを2体指揮しながら戦っている姿が見える。最初にここに来た日以来何度もボコして追い払うたびに不屈の精神力を見せて立ち上がって来る姿は俺達の胸を熱くした。これは良い玩具なんじゃないのか?
そんな疑問は雅人が帰り際にメイドと真剣に感想戦に入る姿を見て確信へと変わった。
コイツは所々ポンコツで無礼で甘いが、叩けば良く伸びる玩具だ。つまり素質と才能を持った人間だ……こんなの、歓迎しない訳がない。
「上がって来い雅人……お前と対戦するのを楽しみにしてるぞ」
ぶるりと体を震わせる雅人を最後に一目だけ見てから視線を外し、自分のステージへと向かう。このCランク認定戦という環境で、ここまで温存してきたカードも切って来た。慣れた相手との戦いにおいて一番恐ろしいのは対応できない新しい札を出される事だ。
これを押し出して他の連中を圧倒する。火力と耐久計算を慣れた数字から慣れてない数字に切り替える。これだけで押し切れるようになる奴が数人いる。
「さて、とっとと試合をするか」
元は流して勝つ程度のランクだった筈だったDランクが大いに魔境化している。最強を目指す身としては面倒極まりない状況だが、どうしてか胸が高鳴る。
だから求める。
更なる戦いを。