最強以外ありえない   作:てんぞー

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つまり俺が勝てば雅人くん残留って事ね

 駆間市をはじめとしたダンジョン活性域のある土地はモンスターバトルが異様に栄えている反面外からのマスターたちからすれば異常な程に混沌とした環境だと言われている。考える事が多すぎる。想定する事が多すぎる。知らなきゃいけない事が多すぎる。

 

 バトルはもっとシンプルなものではないのか? そういう考えはプロからでも遅くはないんじゃないのか? バトルはもっと楽しむものではないのか? そんなに必死にやって本当に楽しいのか?

 

 楽しいから殺し合ってんだろ黙ってろ。

 

 それが大体の場合で答えになる。だが外からこの環境を見てこう考える者が偶に出て来る。

 

 ―――成程、あそこで俺の腕が通じるならもっと上に行ける。

 

 強くなる為には強いモンスターを揃えるだけでは駄目だ。強いスキルを覚えさせるだけでも駄目だ。戦い方を覚え、経験を積み重ねないと駄目だ。その為にはより上質な相手が必要になる。そしてそういう人間がダンジョン活性域に、つまり駆間市には集まる。

 

 そうやって遠征組が生まれた。

 

 より多くの強者を、より多くの経験をつむために自分の地元だけでは経験できないバトルをする。その為にはより強い相手がいる場所へと向かうのが最も効率が良い。遠征先で最も名を上げられるのは東京で、中央である分多種多様のマスターが揃っているからだ。

 

 交通の都合もあって東京は遠征先としてかなり人気があり、大抵の場合は皆は東京へと向かう。

 

 だがその上で、さらに力を求める者は当然、更なる激戦地にたどり着く。

 

 そう、つまり駆間の様なダンジョン活性域だ。そういう修羅の蔓延る土地こそ最も鍛錬に相応しい大地になる―――が、誰もがそこに適応できるという訳ではない。

 

「嘘だろ、全く通じない……!?」

 

「基本的なアグロ構築は研究され切ってますからね……追撃か連撃、どちらか採用してないと瞬間火力が不足していてとてもじゃないですが相手にはなりませんよ」

 

 ステージの上では遠征組の1人が敗北していた。対戦相手は駆間出身のマスターの1人。勝てると思ってCランク認定戦を駆間で行い、そして敗北した。間抜けに見えるがそんな事はない、外から見える以上に駆間の環境が煮詰まっているだけだ。

 

「基本的なアグロ構築でしたが、改善点は多々見られます。私も次の試合まではまだ時間がありそうなので、其方で感想戦を行いましょう」

 

「え? あ、あぁ……良いのか?」

 

「強い相手は多ければ多い程喜ばしい……対戦とはそういうものです」

 

 そう言ってステージに上がって戦っていた2人は去って行く。遠征者がこのまま馴染めるか、適応するかはまだ不明だが、この土地は強くなる意思を見せる者には寛容だ。その意思がある限り手を差し伸べる者は多い。それだけの話だ。

 

「ふいー、流石に8戦もしてるとだいぶ疲れて来るな」

 

 自販機で買ったスポドリに口を付ける。戦闘回数だけを見るなら普段のフリーマッチの方がはるかに回数が多いだろうが、負けたらまた3か月待たなきゃいけないというシチュエーションは普段よりも多く精神の消耗を強いられて、判断のミスを誘ってくる。

 

 まだ他の試合が終わってないか、マッチングが決まってないからこっちのコールが来てない。敗北者もだいぶ増えてきてバトルエリアから撤退して観客席側に回っているからこっちもずいぶん広くなるように感じた。もうそろそろこの認定戦も終わりか。

 

 消耗した体力と精神力をスポドリとチョコレートバーを胃の中に流し込んで補給しつつ、スマホでこれまでの試合を振り返る。認定戦の試合は有料会員である場合、リプレイ機能で振り返る事が出来る。

 

 暇な間はこうやって自分の動きを見返せばミスの洗い出しとかが出来る。

 

 まあ、一番物申したいのは数試合前の開幕自爆の奴だが。

 

「何が来るのか理解した瞬間のインパクトで頭の中から色々と抜け落ちたなあ……」

 

 超反省。相手に判断を許さない、択を強要する……という意味では奇襲性抜群で運ゲーで勝てる面白い構築だった。ああいうギャンブル系って場合によっては何も出来ないまま負けるからあんまり好きじゃないが、あの試合には間違いなく反省すべき点があった。

 

 例えばマスタースキルの有無。

 

 あの時自爆に対してマスタースキルで食いしばらせてたら耐えで確定勝利ではなかったのか? だが食いしばらせた所で《根の国》が展開されていてライフ2割以下で即死していた。その事を考えれば耐えた所で攻撃命中した時点で負けじゃないのか?

 

 或いは《根の国》によるルール死は此方が展開したフィールドだから此方によるキル、或いは自爆後の死亡判定だから此方の勝利になるんじゃないのか? それとも自爆が命中した結果フィールド効果を連鎖させて死んだから相手のキルカウントなのではないか?

 

「類を見ない処理すぎて判断に困るなこれ……ゲームだとどういう判定だったかなぁ、これ……玩具扱いで全く使わなかったから記憶にないな……」

 

 たぶん協会に問い合わせても滅茶苦茶困った表情する判定になると思う。結果的に勝てたが、判断としてマスタースキルを使えたよ、というのが頭から抜け落ちてたのは反省点だ。そこまで頭が回らなかったのは経験不足が大きい。

 

「そうだな、考えてみればバトル始めてからはまだ1年も経ってないしな、そんなもんか」

 

 これからもバトルの回数を増やす事でしかこの手の咄嗟の判断を鍛える事が出来ない。今になって東吾の基礎を鍛えろって意味がちょっと解って来たかもしれない。

 

 物事をゲームとして捉えすぎている。

 

 フィールドをゲームとして見て判断、捉える事が出来る反面、それに脳味噌が縛られている。処理の順番も、処理の仕方もゲーム時代の知識基準で判断してしまっている。これがゲームだったら冷静にマスタースキルの差し込みをコマンド入力で選べたかもしれない。

 

 だがリアルに目の前で自爆するというインパクトが迫ってくると、その択が頭から抜け落ちる。

 

 認知のズレがある。多分これが一番の問題点だ。自覚していても直す事が難しい部分。そして間違いなくこれは俺に牙を剥くだろう。それが何となく察せている。この世界を頭ではもう思っていなくても、心の奥底ではまだゲームの様に捉えている。

 

 本物のようには思えていない。

 

「鴉羽尊ッッ!!」

 

「ん? お前は……」

 

「ここまで! ここまで漸く来たぞ!!」

 

 額に汗を浮かべながら此方に指差して来るのは身なりの良い少年の姿だった。どこか疲れた様子を見せているが、それでも意気は十分備わっている。柊雅人は未だに敗北する事なくそこに立っていた。

 

「雅人、勝ってたんだ」

 

「お前に!! この大舞台で勝って! お前を妨害してやるからな! 見てろよ! お前は絶対にCに上がれないって事を教えてやるからな! 絶対にだ!!」

 

「はは」

 

 なんかもう、兄に命じられたからとかじゃなくて意地になっている辺りが可愛かった。小型犬が必死に吠えている感じがして見ているだけで和んだ。ただ俺のそんな態度が気に入らないのか、顔を真っ赤にして雅人が怒って来る。

 

「なんだよ、余裕のつもりかよ!」

 

「いや、余裕なんてないよ。俺が思っていた以上にDランクは魔境だったし、皆強かった。最初は俺もDランクなんてさっさと抜けてCまで行こうかと思ってたけど……そんな考えは間違いだって気づかされたよ」

 

 今はもう敗北して観客席へと向かって行ったDランクのライバルたちを見る。皆、必死に頭を動かして、対策して、そして勝つために来てた。楽に勝てる試合もあれば、焦ってミスした試合もあった。根本的なキャラパワーの差で今のところはある程度の余裕を持てているが、それが無ければ難しい所もあった。

 

「どの勝負も楽しかった。必死に勝つために頭を捻って、頑張って、そして整えた戦略と戦術がハマった瞬間……凄く気持ち良くなれた事はないか?」

 

「……」

 

「新しく手に入れた力を振るった時、強いと思えた相手に戦えた時、眼中にもない筈の相手が立ち上がった時……そんなバトルは楽しくないか? 俺は初めてバトルした時からずっと楽しかったよ。雅人、お前は?」

 

「俺は……」

 

 ピピピピ、とスマホからコールが鳴る。内容を確認すれば次の試合が最終戦で、対戦相手が雅人になっているとの事だった。ここにいて運命力の様な物が漸く仕事を果たして俺達のマッチメイクを完了してくれたらしい。

 

「尊、お前はなんで―――」

 

 そこまで話した所でいや、と自分の言葉を遮った。

 

「いや、良い。お前の事なんか欠片も興味なんてない! 俺に! 興味があるのは、どうやってお前を倒すか、それだけだ! その為だけにここに来た! こんな……こんな……」

 

 雅人が急に涙を流し始める。

 

「こ、こんな頭のおかしい場所に、ぐすっ、留まってるのは……お前を、倒す為だ……お前さえここに居なければこんな頭のおかしい都市に居座らなくて良いのに……!」

 

「雅人くん才能あるよ!」

 

「認定戦終わっても残りなよ!」

 

「大歓迎!!」

 

「一緒にバトルしようぜ兄弟!」

 

「うるさーい!! 外野は黙ってろ!! 会話に割り込んでくるな―――!」

 

 ここで死ねとかカスとかの暴言が飛び出さない辺り、本当にこいつは育ちが良いんだなあ……というのを感じさせてくれる。直ぐにここら辺の言葉が飛び出す俺達はあまりにもバトルというスラム街に染まり過ぎてしまった。

 

「はあ、はあ、はあ……良いか! お前に絶対に勝つからな! 勝って! 胸を張ってここを出て行くからな!」

 

 成程な、と腕を組みながら頷く。

 

「つまり俺が勝てば雅人くん残留って事ね」

 

「はあ?」

 

「じゃあそういう事で」

 

「おい、待て、待てよ、ちょっと待って」

 

「皆、試合に出るから行くぞー」

 

「わん!」

 

「♪」

 

「……」

 

「おい、待てってば! その発言に法的な拘束力はないって思っても良いんだよな? なんで笑顔で去っていくんだお前? アンティルールとか聞いてないからな俺? そもそも認定戦にアンティルールとかない筈だからな? 聞いてるか? おい、聞いてるのか!? 聞けよ!!」

 

 るんるんスキップでステージの方へと向かうと必死の形相で雅人が追いかけて来る。観客席からは俺を応援するコールが響いている。一気に状況は此方へと傾いた。戦いとは戦う前から始まっているのだという事を意識しなくてはならない。

 

 対戦の為のステージまでやってくると相対するように俺と、雅人が並ぶ。

 

 お互い、背後にはここまで連れてきたモンスターが揃っている。

 

 此方はチビ、エデ、ウェルギリウスで3体。

 

 雅人の背後には……5体ものモンスターが揃っている。対チビ用に最初から連れていたゴブリンメイジが2体、盾を持ったゴブリンファイターは役割としてはタンクで、味方への被害を軽減しつつ同じ種族と連携が取れるのが強みだ。

 

 次に足が速く、斬撃ダメージをメインとする亜人種のレッドキャップは斬撃と一緒に毒等のデバフを付与する事が出来るモンスターだ。そして最後にヒーラー枠の天使型モンスター、リトルエンジェルだ。

 

 しかしこの並び、完全に亜人に掴まって調教されて寝返った天使って構図で酷いな……。

 

 ここまではチビとウェルギリウスのコンビをメインにしてたのは一番対策され辛く、一貫して殴れる範囲が広かったという理由がデカい。チビはメインアタッカーだから外しづらいのもあるが、対応力ではウェルギリウスのがエデよりも上なのだ。

 

 だからステージにまずは全てのモンスターを連れて行く。そこからギリギリまで選出を遅らせ、時間ギリギリのところで戦闘に出す2体のモンスターを選ぶ。

 

 雅人の様に金とコネと土地がある所がこうやって選出できるモンスターが多く、それだけで相手に対してプレッシャーを掛けられる。元々2体しかいなかった事を考えるとこの数か月でかなり成長している。

 

 少なくとも個人に対するメタだけではなく、他のマスターに気を配って戦う事が出来るようになっている。種別の違うモンスターを複数揃え、シナジーもはっきりとしている。それだけでもかなりの脅威だ。

 

「さて、と」

 

 時間ギリギリまで粘って考える。この試合開始前の時間はどのマスターにも用意されている先の展開を想定し、戦術を決める為の時間だ。どのモンスターを選出するのかを考えて、そして相性の良いスキルを考える。

 

 腰のホルダーからスキルカードを取り出し、確認する。

 

 根の国から回収してきたのもあるが、その後修三とトレードしたカードもある。スキルカードは協会で販売しているもの以外の売買は基本禁止されているが、ちょっとした抜け道があって譲渡やトレードは制限に引っかからない。あくまでも協会以外からの購入が禁止されている。

 

 ゲーム的な仕様が現実へと変化した所……と考えておこう。

 

「さて」

 

 スキルカードを後ろ手に回して、雅人からは見えないようにスキルカードをサクッと使用する。その様子に雅人が険しい表情を浮かべる。それに笑顔で応える。

 

「……お前」

 

「どうした、ブラザー。笑えよ。バトルは楽しんでやるもんだぜ。選出するモンスターは決めたか? 勝ち筋がどんなものなのかは想定したのか? 今だけは互いにカスの血が流れてる事を忘れて楽しもうぜ。この狭いフィールドの上では誰がどんな立場なんて物は一切関係ない」

 

 雅人に向いたまま後ろへとゆっくり歩き出し、調整を終えたスキルカードをホルダーに戻す。

 

「戦おう、雅人。俺達にはそれ以外の言語は必要ない。そうだろ?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 モンスター達を引き連れて雅人も下がり、指揮所に到着する。そこで俺達はフィールドを挟んで向き合った。

 

 選ばれた2体のモンスターが互いの前に残り、観客から感心する声や息をのむ音がする。

 

 それから数秒後。

 

 試合開始を告げる音が響き、Cランク認定戦最後の戦いが始まる。

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