最強以外ありえない   作:てんぞー

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リーサル

 ―――この時、雅人は焦った。

 

 防御札を切らされた事実と見せていないスキルを晒した事実に。少なくとも防御札を幾つか備えている事、それを予測されているとはいえ、見せる事は何が対応範囲なのかを見せる事になった。雅人が採用したのはダメージカット型の防御スキル。それは属性、種別問わずダメージをカットできる優れもの。

 

 だがコストが重い。消費MPが多く、ゴブリンファイターの様な重戦士型のモンスターでは連発するのが辛い。大半の時間を防御して過ごし、MPを自然回復したとしてずっと使い続ける事は出来ない。《コラプション》を連打されれば落ちる。それが理解できたからだ。

 

 弱体特効魔法は複数の低下状態を付与することでその火力を増す魔法。戦闘開始当初から少しずつ蝕まれているファイター、及びメイジには良く突き刺さる魔法でもある。デバフが得意な死神らしい戦術でもある。

 

 そして同時に尊はこう思った。

 

 ―――うっわ、躱された。えー、メイジの方まだ札を切らないじゃん。なに隠してんだよー。怖いなぁ。

 

 楽しみながらも頭の中では必死にメイジの抱えているスキルを考えていた。ランプは終盤一気に溜めたリソースを消費する事で高コストの火力を打ち出すスタイルだ。それにより一気に終盤の盤面を制圧し、勝利するという形式をとる。

 

 その都合上、終盤に至るまでどれだけ相手のリソースを削れるかが課題になる。HPは1つのリソースだ。尊は的確に防御出来ない攻撃方法でHPを削り、リーサルまでのラインを引き下げていた。ここで1度でも回復を差し込めばそのまま詰みまで盤面を作るつもりでもいた。

 

 だが尊の動きは良く研究されていた。

 

 マーメイド+死神という組み合わせは一度も出した事がない動きだった。だが尊のこれまでの動きと癖、そして性格と手持ちからこれは出来るであろう、という動きが徹底して研究されていた。その感覚に尊は懐かしさを覚えていた。

 

 前世でランキングやSNSで晒された構築が徹底して研究されるのと同じ流れだ。構築が割れた時点で尊は慢心するのを止め、徹底して、リスクを犯さないように、コントロールらしくリソースを削る事に意識を向けていた。

 

 だが予想外に雅人が粘る。ぼろを見せない。動きが堅実で、徹底している。

 

 ―――強い。揺さぶっても焦らない。冷静に対処してる。これは怖い。

 

 この時点で尊はファイターに搭載されているスキルの内、9割は防御札で、最後に1個だけ保険として攻撃札を残していると判断した。そしてメイジには回復手段を放棄し、火力に全てを捧げる事を意識した調整を施していると判断した。

 

 ここまで来て1回も回復を入れないのは徹底して《パーフェクトキャンセラー》を意識して詰みに持っていかれないようにする為だ。

 

 これは恐らく経験者による入れ知恵がある。それが1番見えたのが《コラプション》に対抗して2枚防御札を切った瞬間だった。あの動きは上のランク帯で同時出しする事で妨害を突破する為の動き方だった。

 

 少なくとも日常的に妨害が飛び交う環境で戦った事のある人間のケアの仕方だった。

 

 怖いなあ、と思いながらも同時に尊は考えた。

 

 ―――楽しい。

 

 表情が笑みに歪む。普段取り繕っている冷静な表情が崩れた。Dランクに出て来る人間は感想戦で対応策を練り上げて来るとはいえ、上位のランカーではない。雅人には上位のブレインが―――元マスターであった葉月が裏に付いている。

 

 彼女は慣れていた。この手の相手との戦い。似たような展開をした事もある。故に対応策も、考え方も限られた時間の中で徹底して雅人の中に叩き込んでいた。その存在を尊は感じ取っていた。

 

 葉月からすれば今の尊はまだ対応できる怪物だ。そのうち手が付けられなくなるのは見えている。だがまだ何とかなる。

 

 しかしその全てを雅人は継げた訳ではない。果たして彼女の持ち得たものの何割を継いだ? スキルは? そして技術は? 未知―――だからこそ楽しい。

 

 ゲームは同等の相手がいて初めて成立する。

 

 だから尊と、葉月という純粋な競技年数による経験が上回るブレインを得た雅人は対等なテーブルに着いた。

 

 だから次の行動は既に決していた。

 

 

 

「振り払え!」

 

「出たな《シェイクオフ》! インチキスキル止めろ!!」

 

「まだ《パーフェクトキャンセラー》切ってないお前が言うな!!」

 

 《シェイクオフ》、即座にかかっている弱体異常効果を全て解除する究極の復帰スキルの1つを迷わずファイターに発動させる。受けていた弱体効果が全て解除され、《コラプション》のダメージ倍率が1倍に戻る。

 

 ―――忘却対策に取っておきたかったけどここで切らないと殺される!

 

 ファイターの足の速さは死神やマーメイドと比べれば遅く、即時解除すれば相手の攻撃が飛んでくる前に解除できる。被害は最小限にとどめられた。だが同時に手札を見せた以上、ここから勝負は一気に加速する。防御して体力を回復する……完全回復には至らない。それでも即死ラインは超えた。

 

 戦いは今、この瞬間、終盤戦に入った。

 

「メイジ!」

 

「ごぶぶっ!」

 

「リーサルラインが見えてきたな」

 

 マーメイドから攻撃力低下が、死神から魔法攻撃低下がそれぞれメイジとファイターに飛んでくる。弱体は回避不能、メイジの体力が再び1割削れて合計で6割減った。既にレッドゾーンに踏み込んでいる。《コラプション》で即死するラインは超えている。

 

 だが詠唱スタックもほぼ完了しつつある。ファイターの弱体蓄積も解除された。ここまで《パーフェクトキャンセラー》は消費させられていないが、流れそのものは悪くない。後は見えていない札にどう対処するかだけだ。

 

 ―――全部対処出来たら苦労しない!!!

 

「“対処できないものは捨てて、此方の手を通す事を考えろ”だ……!」

 

「終わりが近いな」

 

 メイジに再度魔法攻撃低下が入る。同時に体力が削られて残り2割から3割程度。と予測する。ファイターに火傷が付与され、弱体化が2個付与される。能力が大きく下がる。それに構わずファイターが前に飛び出した。ナタの様な剣を両手で持ち、飛び上がりながら振り下ろす。

 

 《大切断》、物理斬撃の中ダメージ攻撃。マーメイドや死神の様な低耐久モンスターにとって、当たり所が悪ければそのまま即死する火力は出る―――が、反応はなし。デバフによって火力が下がっている影響で死にはしないという判断だろう。

 

 死神は攻撃を受けて吹き飛ぶも、存命。

 

 目算、体力は1割もないだろう。ギリギリ死なないと理解しての判断だとすればイカレてる。相手の下がった攻撃力を一体どうやって計算に入れている?

 

 一瞬、メイジに追撃させるかどうかを判断し、止める。ここで欲をかけばどこかで罠にかかるかもしれない。故に次の……2発目を止めるか崩しに来る。そして今のでMPもだいぶ減った。防御札を2枚同時に切るのが後の展開を想定して難しくなった。回復の為に防御……を取る余裕はない。

 

 クライマックス。

 

 ここからは互いに、全ての札を切る。

 

「準備は整った!! 勝負だ、鴉羽尊っっ!!」

 

「来い、柊雅人。どっちのプランが通るのか答え合わせをしよう」

 

 ―――先陣をこっちが切る! 対処しきれるならしてみろ!!

 

「《ダブルマジック》!!」

 

「そうか、それで来るか。じゃあ当然使うよな? 《パーフェクトキャンセラー》」

 

 メイジが2回魔法を使う為のスキルを発動させる。その瞬間、死神がスキルそのものを殺す為に運命の断頭台を振るい、それにメイジが運命の糸を手繰って抵抗する。

 

「《インタラプト》か」

 

「ああ、当然対策はこれしかない!!」

 

 《パーフェクトキャンセラー》が最強の打ち消しスキルだとすれば《インタラプト》はそれに続く打ち消しスキルだ。問答無用で打ち消す《パーフェクトキャンセラー》に対し、《インタラプト》は主行動を妨害できないという制約が入る。

 

 使えて1戦闘1回、当然レアスキルに分類される。《パーフェクトキャンセラー》に対抗できる鬼札だからだ。だが《シェイクオフ》も含めて、葉月が現役時代に持っていたものをこの為に貸与してくれた。

 

 その期待に応えないで何が柊の血だ。

 

「エデ、ウェル、焦るな……これの対処は決めてある」

 

 マーメイドと死神から再び付与魔法が放たれる。ファイターに状態異常が、メイジに弱体化が付与される。体力が更に削られて残り1割あるかないか。ギリギリのラインに入る。が、生き残った。

 

「リーサルに持ち込めッッ!!」

 

 会場に雷鳴が轟く。暗雲が生み出され、最速の雷撃が振り落とされる。人間には到底反応できない速度、介入は不可能に思える意識を超えた攻撃魔法はそれぞれ死神とマーメイドを狙っている。声による介入は絶対に間に合わない。

 

 だが間に合う。

 

「《ルアーリング》」

 

 声は攻撃の後に響いた。必殺の2連撃は吸い込まれるように人魚を穿った。

 

 1撃目。人魚を炭化させた。

 

 2撃目。炭化した人魚を消し飛ばした。

 

 明らかなオーバーキル。殺しきった上で殺しきった攻撃。《ルアーリング》は攻撃対象を変化する即時スキル、《カバーリング》とは処理が異なる相手を対象としたスキル。それによってマーメイドは死神を守り切った。

 

 これで2対1の状況。必殺の魔法は外れた? いや、躱されるのは想定内だ。その為に前のターンに削りが入った。

 

「これで……終わりだっっ!!」

 

 《大切断》。ファイターの跳躍斬撃が死神に向かって放たれる。

 

耐えろ

 

 吸い込まれるように攻撃を喰らった死神は吹き飛びながらも死ななかった。まるでその一言は運命を塗り替えるように致命傷を後1歩という段階まで削った。

 

 が―――それを殺す為の追撃が入る。

 

 ゴブリン固有の追撃スキルが発動する。ファイターの攻撃に反応してメイジの追撃が入る。

 

「終われ!!」

 

 メイジが追撃用に生み出した火球が死神へと向かって放たれる。回避する術も、耐える術もない。1撃だけ耐える猶予を与えられた死神はその命を散らす。

 

「俺のぉぉぉ、勝ちだぁあああ―――!!」

 

 汗を飛び散らしながら咆哮を響かせる。倒れ砕けて行く死神の姿に勝利を確信する。マスタースキルは切らせた、《パーフェクトキャンセラー》もない。切り札は切らせている。対応できるように動いた。

 

 もう、起き上がらないでくれ。祈りながら吠えて。

 

「―――愛しき永遠の隣人よ。今こそ彼岸を渡り、輪廻を踏破し、新生せよ。一生という旅路を傍らで見守る己もまた、大いなる旅路にあるという事を見せろ」

 

 花が咲き乱れた。

 

 鳥居が立った。

 

 光る蝶が舞う。

 

 フィールドが上書きされて、戦闘開始時には展開されなかった効果が発動する。即ち、一定体力による足切り効果。それがメイジの命を一瞬で奪いながら、景色の奥から揺らめくように新生した死神の姿が出現する。

 

「蘇生、効果……!?」

 

「《インタラプト》を切ったな?」

 

「《パーフェクトキャンセラー》は……囮か……!?」

 

 《インタラプト》を切るタイミングを間違えた。あの《ダブルマジック》への打ち消しは即時回復効果で戻すべきだった。一番警戒されていると理解しているからこそ此方の打ち消し札を引き出させ、対処させた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()と理解しているから。

 

「すまない、母さん、葉月……俺……勝てなかったよ」

 

「ではリーサルだ」

 

 再び弱体化効果が蓄積されたファイターに最後の《コラプション》が刺さり、その体力を奪い、《根の国》の中にゆっくりとその体を横たわらせる。

 

 苦しむ事もなく、静かに、眠るようにメイジとファイターが息を引き取り、勝負は決した。

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