それから俺達は語り合った。コーヒー1杯で粘る様な事はなかったが、追加で軽食も頼んで、色々と話をした。感想戦で何が敗因だったのかを語り、あそこでアグロ軸を出されたら実は何もせずに負けていたかもしれないなんて話をして。
それが終わったら家の話をして、どうやって育ったのかを語り合って、お互いの家の違いを語り合って驚いたり。声を荒げる事はなく、試合の後もあって俺達は凄く穏やかに、和やかに語り合う事が出来た。
だから言わせて欲しい。
「やっぱ柊家は駄目だよ。終わりだよ。何も知らずにクソって言ってたけど知れば知る程クソだよこれ」
「いや……まあ……その……あんまり否定できないけど……積み上げたものは本物だから……」
「でもそれってジジイの若い頃だけだし、ジジイ個人の功績じゃん。それに縋ってるその他大勢はダメじゃん。やっぱ終わりだろ」
「うん……」
俺達の手首には当然、モーターが仕込まれている。10分前の発言に対して掌がドリル回転する事なんて何時もの事だ。だがそれはそれとして柊家クソすぎんか? 事実を並べるだけでもだいぶクソみたいな内容が出て来る。
「役員かあ」
「Aぐらいの大会だったら柊の大会で開催を遅らせたり止めたり、気に入らない相手の参加を弾いたりできるからね。今は出来るかどうかちょっと解らないけど……気に入らなければ一生Bのまま、Aのままとか出来たよ。やってたよ」
BランクやAランクは今やっている協会でのランクマッチという形式がない。その中身は完全に大会へと統合されており、BやAは大会でレートを稼ぐことになる。逆に言えば大会に出場できなければ永遠に昇格する事も出来ないという事だ。
永遠の徒労だ。どれだけ努力しようが上に上がる事が出来ない。
「柊家の名声はほとんどジジイがその全盛期に作り上げたものだ。その後に次いでSランクのマスターも現れた。だからウチは強く、そしてバトルという仕組みそのものに食い込んでる……柊家を継ぐというのはそういう事なんだ」
「積み上げられた運営やシステムを継承する、か」
Sランクになれば自分の力で稼ぐことが出来る。だったらそもそも財産の継承なんて必要ないんじゃないか? なんて事を思っていた。だが本質的にはそれがオマケなのだろう。本当に重要なのはジジイが、剛三が築き上げたシステムに食い込んだ名声と立ち位置なのかもしれない。
「それに」
「それに?」
「モンスターもそう。継承者はグランドマスターへと至るのに供をしたモンスター達も含まれている。そのレシピも、後継者には継承される。これは金額にならない財産なんだ。だけどきっと、他の連中が当主になったら売り捌かれる事になるんだろう」
それが許せないと雅人は言う。
財産。それは何も金に限らない。それまでに積み上げたものがある。それこそが本当に狙っているものなのだろうが―――まあ、うん。はい。
ゴミっすね。
ジジイの過去の戦闘記録を見て、モンスター確認すればレシピ再現できます。
つまり俺はジジイの遺産を既に握ってる―――!
モンスター見れば大半のレシピは解る。特殊合体も覚えてるし、めんどくさい仕様も知ってる。必要アイテムの場所も大体把握してるし、やっぱりモンスターの確認さえすれば再現できると思う。悪いな、もう後継者は最初から決まってたらしい。嫌だわジジイの後継者は。やっぱレシピ忘れておくか。
「でも、そうだな……もし俺がジジイの後を継ぎたいと思うなら、本当の意味でその足跡を追うなら俺もまた自分の力でのし上がる事を目指さないといけないんだよな……」
「時代が違うから同じやり方は通じないと思うけどな。それでも自分の力でのし上がろうとする、ってのは俺は嫌いじゃないぜ。その時はアレだ」
サンドイッチを掴んで、それを突きつける。
「今度こそ、ライバルだ」
「今度こそ?」
「これまではライバル、って感じじゃなかっただろ? お家争いの勝負って感じで。妨害とか認めないとかそういうちゃっちい理由じゃなくて、上を目指して本気で潰し合うって気持ちで向き合うなら……」
「ライバルになる、か……」
その言葉に雅人はうん、と呟いて頷いた。
「そうだな、ライバルだ。今度こそライバルになれる。いや、なる。次は負けない。Cランクで待ってろ。俺も直ぐに追いつくから」
「ま、12月の認定戦で頑張りな。たぶん今回見てた連中全員分析して対策してくるから」
「こんな環境で揉まれてれば強くもなる、か……良し!」
頬を両手で叩くと雅人は立ち上がった。財布からお札を数枚取り出すとそれをテーブルに叩きつけて何も言わずに去って行く。その背中に声を投げかける程俺も野暮じゃない。また明日か、或いは明後日には見かける事になるかもしれないが……それまでは新しい旅立ちに無言でエールを送る事にする。
「しっかし、この軽食に3万円も置いて行くのは流石に金銭感覚お坊ちゃまだな……」
「おつりはどうするかい?」
「取っといて。次ここで飲む時に使うから」
「はいはい」
はむ、とサンドイッチを口に運んで腹を満たし、椅子の背もたれに寄りかかる。これで激動のDランクを乗り越える事が出来た。雅人のエントリーが原因で少しだけ苦戦したが、全体的にはかなり良いスコアで通る事が出来た。これで俺も、ついにCランクだ。
Cランクは凡人の限界だと言われている。Cからは戦闘で飛び交うスキルが複雑化し、更に戦闘難易度が上がる。またモンスターのレベル上限が引き上げられる影響で育成が更に大変になり、追いつかない人が増えて来る。
Dまでは運でどうにかなる。
だがCからは実力の世界だ。そしてBに入るには才能が求められる。その為にある程度戦力が横並びだったDに対し、Cランクは上と下で実力とマスターの温度差が異なって来る。趣味でやるマスターと、本気で戦っている奴の差がデカい。
それにCランクはDとは違い、魔法環境が強い。Dまでにはなかった強い魔法攻撃スキルがCからは出現するほか、範囲攻撃魔法なども出現し始める。その影響でCでは魔法をメインにするのが圧倒的に強い戦い方になる。
この環境に適応するなら此方も魔法攻撃をメインに戦う必要があるし、それを通す為にタンク役のモンスターを生み出す必要がある。
エデ、チビ、ウェルギリウスだけでDランクは回していたが、チビは少なくともCランクで戦うのは難しいだろう。そしてエデとウェルギリウスのコンビでCを戦い抜くのは厳しい。
Cランクで戦う為の新しいモンスターが必要だ。
戦力の補充を行わないとならない。
―――つまり、次のDLCダンジョンへの遠征が必要だ。
「しっかし柊家ねぇ……マジで興味ないんだけど、目立った以上もう放っておかれる事もないだろうし、ちまちまと対策考えた方がいいかも……お?」
スマホが震える。取り出すと東吾から祝いのチャットが届いていた。
『よ、Cランクおめでとう』
『サンキュ、中々の強敵だったわ』
『映像がネットに上がってたがDランクでは中々見ない試合だったな。お前、相手がアグロで来てたらどうするんだ?』
『笑って死ぬ』
『だよな』
モンスターの選出も読み合いの勝負だ。チビに有利という時点で相手がゴブリンメイジを選出すると俺は読んでいた。そうなると俺は自然とチビを編成から外さざるを得ない。そうすると長期戦想定でエデとウェルギリウスのコンビになるのだが……ここ、経験がある化け物はセオリーを外して物理アグロで此方を殺しに来る。
雅人はまだまだ其方方面の経験が少なそうだから素直にメイジ2体かファイターとメイジの組み合わせかなぁ、とは思っていた。ここでレッドキャップ辺りを選んだ速攻戦で来るのはチビを俺が読みを外させる為に選出した場合、何もせずに詰みになる可能性が高い。
そう考えるとやっぱ本日の選出に落ち着くんだよね。
『Cランクの準備は出来てるのか?』
『全然? 戦力の補充が必要だから次の遠征を考えてたんだよね』
『へえ』
『へえ、じゃねえだろ。完全にソレ目当てだろ』
『テヘッ』
「おえっ……」
リアルに吐き気を感じてちょっとだけ息を整えてから再びチャットへと視線を戻す。
『で、次の予定は?』
「次の予定、なあ」
Cランクは魔法メインの構築で戦いたい。つまり魔法をメインに戦うモンスターを確保しないとならない。そしてそういうモンスターを確保する為の聖地みたいなDLCダンジョンが存在する。ここでなら“超越”を作成する為の素材も手に入るし、丁度良いと言えば丁度良い。
『実は行きたい所がある』
『詳しく』
『でも物理的に行くのが難しい』
『詳しく』
『幻想図書館という名前のダンジョンだ』
返信が止まった。
『聞いた事のないダンジョンだなあ』
「今絶対に調べてただろ?」
まあ、自分もこの手の裏ダンやDLCダンジョンが発見されているのかどうかを死ぬほど調べたし、その上でまだ発見されていないと思っている。発見されていないで欲しいなあ。発見されていないでくれ。落ちてるアイテムを回収させてくれ、頼む。
『じゃあまだ発見されてないんだな』
『で? どこ?』
幻想図書館というダンジョンが存在するのは日本じゃない。
『イギリス』
『イギリス?』
そう、イギリスだ。
『大英図書館の中にある。特定の条件を満たすと入館許可証が貰えて入れるようになるんだ』
『解った。冬は暇か? いや、スケジュールを送れ。チケットはこっちで確保しておく。モンスター輸送の手続きは面倒だしこっちのコネを使った方が早い』
「うわっ、行動早っ」
文面から死ぬほどわくわくしている感じが伝わってくる。東吾の奴、こっちがCランクに上がるのをずっと待ってたんだろうなあ……というのが伝わってくる。
「冬か……冬休みはイギリスか? ちょっとお洒落かも」
漸く終わったDランクとこれからのCランク。忘れていた柊家の問題が顔を見せてこれからも面倒が増える事を予想させる。
それでも先が楽しみなのは、この状況を楽しんでいるのか。はたまた面倒ごとが好きなのか。何にせよ、まだまだ退屈しそうにないのは確かだった。