最強以外ありえない   作:てんぞー

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東京でやったら5回ぐらいムショに叩き込まれてる

 Cランク認定戦に勝利し、Cランクへと至った。

 

 駆間市における認定戦はほぼ本気の殺し合いで無駄に狭き門になっている。そのせいで毎度多くの者がふるい落とされるが、この結果を恨む奴はいない。駆間市所属のマスターはこの殺し合いを楽しんでいる精神異常者の集まりだからだ。

 

 だが異常者だからと言って何時までも同じランクに居座っている訳じゃない。それなりに同じランクで戦って満足した後、“じゃ、そろそろランク上げるか!”とかいうモチベーションの高さを見せて他の会場へと認定戦登録しに行く。

 

 そう、日本各地の認定戦で野生のボスが出現するのである。

 

 身内で延々と殺し合いながら感想戦でブラッシュアップし、モンスター交換で互いの手札の確認や違う構築への理解を深めた化け物みたいな一般通過修羅(モブ)が唐突に平和な会場にエントリーしてくるのだ。

 

 テロ以外の何物でもない。

 

 雅人vs俺の試合を見てモチベーションが高まった者達により12月の認定戦の地獄が確定した裏で、俺もまたちょっとした忙しさを迎えていた。

 

 簡単に言えばCランクへの構築移行だった。Dランクで活躍していたモンスターをアップデートするのも1つだが、Cランク向けに新しいモンスターを用意する必要がある。チビ、エデ、ウェルギリウスは今回の件でだいぶ底が見えた。

 

 今握ってる構築が物理アグロに弱く、チビがメタられた場合選出の読み合いで勝つ必要があるという所だ。なるべくキャラパワーを高める事で勝率を上げているが、環境の対応力が異常で、このまま同じモンスターを握っていた場合勝率が下がる恐れがある。

 

 将来の目標云々を抜いて、負けるのは普通に嫌だ。

 

 なるべくなら勝ちたい。

 

 そういう訳でDランクの間に温めておいた素材を使って、新しいモンスターを作る事となる。

 

「―――死んでないし、輝いてもない。もしかして今日の博士は比較的にまともなんじゃないか?」

 

「そうか? 本当にそう思うか?」

 

「……」

 

 そしてモンスターの強化を行える場所は1つ。

 

「ようこそ!! 合体といえばここ! 良く来たねっ!!」

 

「オメガゆっくりしていってね!」

 

「テンション高いなあ」

 

「ああ……まあ……だいぶ慣れて来ただろう、貴様も」

 

 うん、と久遠の言葉に応えて見る。モンスター協会の合体施設では何時も通り、年中無休で働き続けているモンスター博士とQちゃんの姿があった。モンスター博士が幼女化してQちゃんが男になってなければ何時も通りの光景だっただろう。

 

「一応聞いておくけど……どうしてそんな姿に?」

 

「新しいエナドリの配合を試したらこんな事になったのさッッ!!」

 

「そっかぁー」

 

 久遠と揃って同じように中身のない声を零し、改めてギャグ補正が全力でかかっている生き物相手にまともに取り合うだけ無駄なんだなぁ、という気づきを与えてくれる。俺達に出来るささやかな抵抗とはこの真の理不尽を相手に脳味噌を空っぽにして対応する事だけである。

 

「剛三Jr.!!」

 

「的確に嫌な呼び方してくるな」

 

「鴉羽Jr.!」

 

「あ、言い直した」

 

「ちょっと悪いと思ったのだろうな」

 

「予約してた時からお前が来るのを待っていたぞ! さあさあさあ! 新しいモンスターを呼び出すと良い! 新種だともっと嬉しい!」

 

「残念だけど今回は新種無しでーす」

 

「そんなぁ」

 

 白衣の幼女が床に倒れ、エナドリを漁り始める。絵面がヤバイので早めにここから出て行きたいなあ、と思いつつ連れてきたモンスター達を合体装置に中へと誘導する。この作業にもだいぶ慣れたもので、最初は感動の別れのシーンみたいなものもあったが、今では完全に流れ作業に近い。

 

 最初の時のカスの対応はまあまあアレだったが、こうやって何度もここに足を運んでいると気持ちは解る。モンスターの中身も決して消える訳ではなく、引き継ぐというか続くというか……言葉で表現するのは難しいが、そこに“ある”のだ。

 

 だから嘆く事はない。

 

 全ては積み重ねだ。

 

「隠し味はこれで」

 

「ほう、竜の鱗か。この都市の外なら良く集めたな……とでも言う所だがな。この都市でならばゴミ箱を漁れば出て来るかもしれん」

 

 法律の都合上、店に売る事は出来ないし、トレードに使うにも大量に余るから駆間市内でのトークンとしての価値もない、コレクションする意味もあまりないゴミ扱いである。これでもそこそこ珍しい素材扱いなのに。

 

 竜の鱗で作った手袋とか、皮の手袋とか、結構な高級品なのに。

 

「まあ、ではお待ちかね合体タイムだ。今日こそは残業回避のためになるべく時間を圧縮して行こう。予約と予約の間の時間は貴重な休み時間だからな!」

 

「認定戦のあるシーズンは休める日なんかないものねぇ! 何時もの事だけどぉ!」

 

 勝手にテンションを上げてテンション下げる奴らを無視し、連れてきたモンスターのセットと隠し味の投入を終える。危なくないように下がって、シリンダーの中に入ったモンスターに向かってばいばい、と手を振る。シリンダーの中からもモンスターが手を振って来る。

 

 ばいばい、トカとゲー……ぶっちゃけ名前の件はすまんかった。でも100匹超えると名前考えるのも大変なんだ。

 

「はい、では合体どーん!!」

 

「リザードマンx2の合体だから結果は見えているけどね!!」

 

 2本足で立ち、武器を握ったトカゲ人の戦士が分解され、合体する。それによって中央のシリンダーの中に新たなモンスターが出現する。4本足、翼をもって空を飛ぶ力を備えた第4世代型モンスター。

 

「きゃうー」

 

「ドラゴンパピーの誕生だ!」

 

 中央のシリンダーから合体させられたばかりの緑色のドラゴンの幼体が出現する。小さな体に小さな翼。それでも使い方は心得ているようで、羽ばたかせると浮かび上がり、此方へとやって来る。手を伸ばせばばくり、と腕にかみついて肘辺りまで食いつかれる。

 

 可愛らしい姿をしているが、これでも第4世代モンスター。生まれた時点でFだった頃のチビよりもステータスが高いし、もうFとかEとは比べ物にならない強さまで育つ。

 

「はは、こやつめ」

 

「早速甘えられているな! 信頼関係が築かれている証拠だ」

 

「私の目が狂ってなければ歯が食い込んだミコトの腕から血を流してるようだが」

 

「どうしてモンスターマスターに生傷が絶えないのか、答えが解ったかな!?」

 

 ドラゴンパピーは甘噛みのつもりなのだろうが、俺はガンガン出血している。記憶や経験を引き継いでも、本質的には“はじめまして”なのだ。そりゃあ力加減も間違えるというもんだ。後ろで控えている他のリザードマン達も指差す。

 

「じゃ、他の連中も合体宜しく」

 

「うむ、サクサクやって行こう」

 

 次のリザードマンのペアを合体させて青いドラゴンパピーを誕生させる。その次に誕生させるのは赤色、その次は茶色の。その後は白、そして最後に黒。火、風、土、水、光、闇の6属性を網羅するようにドラゴンパピーを作り出す。こいつらが終わったらドラゴン変種をコンプする。

 

 こっちはリザードマンxジャイアントスネークによる合体だ。《竜の血脈》と呼ばれるスキルを保有している爬虫類型モンスターを素材に使う事で合体結果にドラゴン系統のモンスターを増やす事が出来る。後は隠し味で調整すれば合体先にドラゴンを増やせる。

 

 毎日ちまちま集めていたモンスター素材がすごい勢いで消費される。

 

 ドラゴニュート、リトルワイバーン、マリンドラコ……ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン! 大量のドラゴン素材を使って大量のドラゴンを合体させて行く。合体する度に追加でドラゴンを合体させ、ひとまず連れてきたドラゴンを全て合体させて、ドラゴンの合体作業を終える。

 

「前々から思ってたが、狂った量のドラゴンだったな……鴉羽ドラゴンファームに改名するのかと思ったぞ」

 

「ははは……」

 

 久遠の言葉に苦笑いを零す。“神龍”の合体条件は血統内で全ての異界産のドラゴンをコンプリートする事だ。この条件にSランクのモンスターは含まれないが、修三の保有しているミストドラゴンを含め、本来地球には伝承も存在していないドラゴンを血統内でコンプしないとならない。

 

 その上でヒマラヤ山脈にある裏ダン、ドラゴンズバレーで竜王の鱗を素材にして合体を行う事で作成できるのだ。その為、空いている時間にとにかくドラゴン素材を調達し、ちまちまトレーニングさせて、ひたすら合体を繰り返す必要がある。

 

 これをクリア後じゃなくてメインシナリオ進行中にやろうというのはまさに狂気の沙汰だ。

 

 1度に素材をコンプリートする形で保有しようとすると、また父と母に食費だとか世話だとかで凄い文句を言われるのが目に見えているので、管理できる数だけを捕まえて、育成を終えたらすぐに合体する事で牧場の管理数を増やし過ぎないように気を付けている。

 

 そのせいで余計に大変になっているのだが。

 

 それでも前よりはマシだ。Cランクに上がって管理するべきモンスターもだいぶ減ってきているのだから。

 

「良し、合体の終わったモンスターはお前の牧場に帰しておいたぞ」

 

「今頃空が飛行するドラゴンの群れで覆われているだろうな」

 

「明日の朝刊はこれで確定だな」

 

 なお駆間市内では定期的に牧場や家へと帰還する合体帰りのモンスターの群れが出没する為、特に珍しい光景ではない。場合によっては100を超える合体帰りがレベリングの為そのままレイドに突っ込むというはた迷惑な事まで発生するので本当に珍しくない。

 

 東京でやったら5回ぐらいムショに叩き込まれてる。

 

「さて、これで合体は終わりかね?」

 

「あ、いや、後1件お願いします。こっちはCランクで戦うスタメン用の合体なんだ」

 

「ほう、どれどれ」

 

 ドラゴン祭りを終えた所で今度は最後に残していた2体のモンスターを呼び出す。呼び出したのは男女どちらとも取れるビジュアルをしている純白の翼を背負った天使型のモンスターと、中身が空洞、大きな盾を握った白い鎧のモンスターだ。

 

「エンジェルとリビングアーマーのディフェンダータイプか……となると耐久用のモンスター作りか」

 

「イエス」

 

「では早速合体を行うとしよう……隠し味は何かあるかな?」

 

 隠し味に用意しておいた調整用のアイテムを渡し、天使と鎧の合体を行う。事前にステータス及び属性の調整は行われている。これが通常の合体であれば天使メインでホーリーガードかホーリーファイター辺り、リビングアーマーがメインの合体でソウルレスガーディアン……天使か無機物タイプのモンスターになる所だろう。

 

「では合体を……ん? これは……成程、そういう事か。では合体先はこれで良いのかね? うむ、では始めるぞ」

 

 だが事前に属性とステータス、そして血統内の種族を調整する事で狙った種族へと変化させる事が出来る。

 

 エデが合体した結果、鳥類種から水棲種へと種族を飛ばしたのもこのテクニックだ。これを駆使してエデは自分の能力とシナジーを持つモンスターへと変化させる為、かなり色んな所へとぶっ飛んだ種族変更を行う事になる。次は異形種だしな。

 

 同じテクニックを駆使して、この天使と鎧の合体も種族を軽く飛ばす。

 

 何時も通りシリンダー内のモンスターが分解されて、光の中で融合し、1つになって現れる。

 

「合体は無事成功だ! 新たな仲間を連れて行き給え」

 

「しかし面白いねぇ、一体何をどうしたらこんなにも鮮やかにモンスターの種族を切り替える事が出来るのやら。第4世代での確認はあるけど、このルートは初めて観測するねぇ」

 

 仕事を終えた2人は既に研究モードへと戻り、先ほどの合体のデータ確認に入る。その間にシリンダーの扉は開き、そこに収まっていたモンスターが浮かび上がって出て来る。

 

「―――お待たせしましたマスター。これより我が身を持って貴方を守り、慈しみましょう」

 

 そう言って目の前に降り立つのは二つの盾を横に浮かべた、長い金髪に背に白い翼を生やした女性の姿だった。見た目だけなら年上の美人にしか見えないが、彼女の放つ雰囲気のそれが、人ではない事を本能的に教えてくれる。

 

 庇護の女神イーリュだ。

 

 女神という強力な種族カテゴリーに属するモンスターだ。

 

「頼むぞ……Cランク戦線は優秀な魔法耐性を持つお前が勝利の鍵になるからな」

 

 タンク。それは被害を抑える、構築に置いて必須のポジション。戦闘のレベルが高くなれば高くなるほど増えるダメージをコントロールするポジション。これまではチビが物理専用のタンクとして働いていたが、これからは魔法攻撃を受ける回数が増える。

 

 それに対抗するには魔法に対して高い耐性を持つタンクを採用する必要がある。

 

 それが彼女、イーリュの役割だ。

 

 ……それはそれとして。

 

「久遠さん? なんですかその視線」

 

「ふむふむ、そういうのがお前の趣味か」

 

「いや、あの、ほんと、性能で選んでるだけなんで」

 

 ジト目で見て来る久遠を前に、帰る前にどうにかご機嫌を取るか……なんて事を考えつつCランク参戦への準備を進める。

 

 とはいえ、本格的に参戦するのはやはり―――幻想図書館へと行ってからになるだろう。

 

 冬休み、異国での冒険が俺を待っている。

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