認定戦シーズンが過ぎ去り9月が終わる。
9月が終わると10月になり、肌寒さを感じる初秋に入る。認定戦で昇格したマスターたちを待つ戦力強化、敗北したマスターを待つ戦力強化。どちらにしろ10月というシーズンはマスターたちにとって次のシーズンに備える為の期間である。
それはここ、駆間市でも変わりはしない。マスターたちは次のシーズンに向けて環境を読みながら新しいモンスターを増やしたり、戦術を構築する事で次に備えようとする。俺もその例に漏れず、仲間の強化を行わなくてはならない。
だが学生としての本分を忘れてはならない。
そう、秋の文化祭である。
駆間中学の文化祭はハロウィンと融合した結果、非常に混沌としたイベントになっている。仮装した連中が出店等をやっているのだから当然見た目も派手派手だ。問題があるとすればモンスターとの生活が非常に近い影響で、モンスターを使った出店も許可されている事だ。
例えばミノタウロスの乳を使って作ったアイスクリームとか。オークのポークステーキ屋とか。エルフの脇で握ったおにぎり屋とか。王道から妙に狂ったものまで本気で学生たちはこのイベントに励む。そしてそれは当然ウチのクラスもそうであった。
青春とかはまるで関係ない。とりあえず売り上げで他のクラス皆殺しにしてえなあ……という純粋な闘争心のみで俺達はこのハロウィン文化祭を乗り切る事にしていた。
「ヘイ! いらっしゃいいらっしゃい! そこのモブ顔の皆さん、1年B組の彼岸ハウスを試して行かないかな! 本格派ガチのガチで作られたホラーハウスだよっ!」
教室の前で看板を握り、掲げながら歩いて来るお客さんを呼び込む。普段とは違い、一般客までもが駆間中学には来ている。ちなみにウチの両親には今日、ここはヤバめの無法地帯になってるから来ない方が良いよ、と教えているので来る予定はない。
「ねえねえ、ホラーハウスだって! お化け屋敷みたいなものかな?」
「お、入ってみる? 本格派と言うぐらいだからアンデッドモンスターとかいるんじゃない?」
「なにそれ、こわそー!」
カップルがウチの前で止まった。その姿にお、と声を零す。
「試してみますか? ウチの彼岸ハウスは殺傷力高いですよー。カップルで入れば真の愛が試されますからね。その愛、彼岸でも通じるか試してみませんか?」
「面白そう……ねね、入って見ない?」
「そうだなあ……折角だし試してみるか」
「お二人さんご案内っ! はい、1人500円です」
「ちょっと高めだな」
「まあまあ」
カップルから1000円回収し、スマホで教室内部に隠れている
「これ、1枚で1回危機を回避できるお札なので、使いどころを考えてくださいね」
「へぇ、面白そうだなぁ……ゲーム性がある、って奴かな?」
「ゆう君私を守ってー!」
「はは、当然だよ」
扉が自然と開き、その中へと2人が入って行く。そうやって扉の向こう側へと消えて行く姿を確認してから、扉から逃げ出そうとした告死蝶を掴んで、教室の中へと投げ戻す。脱走してるんじゃねぇぞお前。ちゃんと仕事してろよ? 良いな? 教室の中から聞こえてくるガチ目の絶叫を無視して扉を閉める。
「何やってんだお前」
「ん? んん!?」
次の
「東吾!? 何やってんのお前」
「俺のセリフだよ。扉の向こうに広がっているのアレだろ」
扉を開ければその向こう側には鳥居が、花畑が、湖が、告死蝶の舞う彼岸の向こう側が広がっている。そう、根の国出張版である。明らかに教室に収まらないレベルの広さになっているのだが、フィールド展開によって空間を上書きして無理矢理広げているのである。
「見ての通りホラーハウスだよ。ホラーハウスやろうって話になったんだけど、どうせやるなら最強のホラーハウスにしたいじゃん? だからS級スポット回って選りすぐりの怨霊と根の国に行って暇してた駄狐とかスカウトしてきたんだ」
WIFIは通るけど宅配は届かないからな、あそこ。宅配の届け先をウチにして、俺が人力で根の国まで運ぶ事を約束に雇用成功となった。最近、牧場の一角にアンデッド系モンスターが住みやすい彼岸花が咲いて鳥居の置いてあるスポットが増えたが、関連性は謎である。
謎である。
荷物を鳥居の下を通すとどこかに消えるが関連性は謎である。
不思議だなー。
「まあ、実害がないなら別にいいんだが……流石駆間だなぁ、久しぶりに来るとやっぱ愉快だな」
「愉快で済ませられるのも中々凄いけど……ん?」
気づかなかったが、東吾の後ろに隠れるように女の子が1人いた。年のころは……妹と同じぐらいか? 緩いウェーブのかかった栗色の長髪の少女だった。少女を見てから、東吾を見る。
「良くないぞ」
「何が良くないぞ、だ。娘だ」
「え? えぇ……あー……そう言えば妻子持ちってあの世で言ってたなぁ……」
キュウビ相手に妻子持ちだから靡かないとか言って袖にしてた事実を思い出す。全く興味がない事実だったので忘れてたが、こうやって娘を連れてきている所を見ると結婚するぐらいの社交性は持ってるんだよなコイツ……みたいなちょっとした敗北感を受ける。
「若いうちに駆間とかの活性域を回って見ておけば、大抵の事には動じなくなるからな。若いうちに見せておきたかったらいい機会だしな、こっちに来るついでに連れて来たんだ。ほら、桃花」
「……こ、こんにちわ」
「こんにちわ、桃花ちゃん。俺は鴉羽尊。宜しくね?」
「よ、宜しくお願いします」
少しだけ父親の横から顔を出して挨拶すると、直ぐに隠れてしまった。
「どうやら母親似みたいだな」
「幸運な事にな」
そう言い終わった所で教室の出口側の扉が開く。鉄パイプを持った彼女と、上半身裸でお札を3枚残した状態の彼氏が一緒に出てきた。入る前は和気あいあいとした表情のカップルが、出てくる頃には歴戦の戦士の様な表情へと変わっていた。
2人は無言で肩を並べると、次の戦場へと向かう様な足取りで廊下の奥へと消えて行った。駆間の闇に、また新たな住人が増えてしまった。そろそろ校長にクレームが入りそうだからそこら辺の悪霊をけしかけて時間稼ぎするか。
「で、東吾もやる?」
「一昨日行ってきたばかりだしな、遠慮しておく。そうそう、最近ヤマタノオロチの討伐に成功したぞ。10回ぐらい全滅して漸く攻略出来たわ」
「おめでとうー。合体素材確保出来たでしょ? 使って新しい子迎える?」
「考えてる。強いモンスターが手に入りそうだけどコンセプトが合うかどうかは実際合体結果を見ないと解らないしな……でも新しいモンスターとの出会いというのはそれはそれだけでわくわくするしな。イギリス行くまでに深淵の大母とかいうのを倒したいなあ」
「アレは……アレはどうだろうなあ」
深淵の大母、根の国に出現する隠しボスだ。その正体が何であるのかは日本人であればもはや説明は不要だろう。条件即死の使い手で、HPが満タンだろうが条件を満たしたモンスターを耐性や食いしばり等を無視して強制的に即死させる能力を持っている。
専用対策が必須なタイプのボスなので、前に見た東吾のパーティーで勝てるかどうかという話をすると、ちょっと難しいんじゃないかなあ……とは思う。
「で、結局こっちに何しに来たんだ?」
「お前の両親との話し合いだよ。イギリスに行くのにお前の面倒を見るのは俺だからな。保護者の代理としてちゃんと筋は通しておかないとな。という訳で後日、そっちに顔出しに行くから」
「あぁ、うん。助かる」
「気にするな。前回がアレだったしな。それじゃ一旦ここで。桃花、見たいものはあるか?」
「ん」
父親の手を取ると桃花が歩き出す。それに楽しそうに付いて行く東吾の姿を見て、あんなにSランクマスターとして普通の人から外れた感性をしているのに、普通の幸せを追求する事が出来るんだな……という驚きと、羨ましさを感じた。
「普通の、幸せか」
結婚して、子供がいて、その手を繋いで歩いている自分のイメージをしてみる。普通の幸せ、一般人としての幸せ……そのイメージが出来るかと言われれば難しい。自分がそもそも家庭にちゃんと収まっているというイメージ自体が中々持てない。
それでも、その時、横に立っているのはどんなイメージか、という話をすると―――。
「―――ミコト、交代の時間だぞ」
「ん? あぁ、もうこんな時間か」
気づけば目の前に久遠の姿があった。当然のようにそこにいて、自分と一緒に居る事を疑わないでいる。
「久遠は―――」
「ん? どうした」
「……いや、何でもない。折角の文化祭なんだし一緒に回ろうか」
「当然だ。あっちの方で人魚救いをやってたぞ。密猟者チームと環境団体チームに分かれて殺りあうらしい」
「流石駆間、スケールが違うな」
「リアル人狼ゲームも楽しそうだったぞ。何といっても眷属化スキルを使って実際に人狼に変えるらしいからな!」
「人間に使うの法律で止められてなかった?」
どうやら怨霊だけじゃなく蝙蝠とかでも校長は足止め食らってるらしい。この調子だと他の模擬店からも地味な攻撃を喰らっている可能性がある。全員ルールと倫理を遵守しようとする精神性を持ち合わせていない。
まあ、犠牲になるのが校長だけだしいっか。
「まずは人魚救い行くか」
「環境保護団体側だとルール無視が1回まで認められるらしいぞ」
「マジか、アツいな」
久遠と並んで一緒に文化祭の喧噪の中に埋もれて行く。将来の事は解らなくても、今はきっとこれで良いんだと自分に言い聞かせて。