最強以外ありえない   作:てんぞー

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ダンジョンに居ても家にいても結局は死ぬんだなぁ

 ブーツにオーバーオール、手袋をはめて寒くなってきたからカイロをポケットに入れておく。去年の経験上、この土地は冷えるのが早い。だから防寒対策は早めを意識しておく。

 

 着替え終わったらいよいよ朝の仕事の時間だ。家を出るとまだ陽が昇ってなくて暗い朝が見える。それでも早起きのモンスター達は既に起きている。厩舎の中ではなく外をうろつく連中は目ざとく此方に気づくと近付いてくる。

 

「ブルルルッ」

 

「どうどう、おはよう。よく眠れなかった? 成程、イビキが煩かったんだ。お部屋の入れ替えでもするかい? するほどじゃない? そうか」

 

 最近は鴉羽ファームの名前もちまちま売れてきてモンスターを預けてくる所も出てきたので赤字運営では無くなってきた。他にも起きているモンスター達が集まってくるので、軽く撫でたりしながら話を聞いてあげる。

 

 人の言葉を話せるモンスターは限られてるが、意志のある存在なのだ。軽いシンクロ状態に入ればその意志は伝わってくる。このファームにおいて、モンスター達のメンタルケアは俺の仕事でもあった。

 

 なにせ、無差別なシンクロでモンスターと心を通わせる奴なんていない。これはウチのファームでしかできないサービスだった。

 

 そうやって日が昇る前に起きている連中のチェックを済ませたら、今度は公道の方へと向かう。道路の横の空き地にテントを建てて、寝袋に包まって眠ってる姿が多数見られる。

 

 レイド徹夜組である。

 

 彼らは学習した。

 

 モンスターをウチに預ければ後はテント生活でレイド前待機が出来るって事を。モンスターのコンディションさえ維持できれば戦力的にはどうとでもなるから自分のQOLが多少下がるのは許容出来るのだと。

 

 馬鹿の集団だった。

 

 だがウチの黒字化にも貢献しているから警察への通報は今の所していない。それでも父はそろそろ牧場内に宿泊施設作って金取るようになった方がいいのでは? とか考えてる。

 

 たぶんメチャクチャ正しい。

 

 こいつらなら絶対に金を出す。

 

 そんな確信を抱きつつ誰も凍死してないのを確認してから一旦家に戻る。この時間になるともう既に皆が起きている。ファーム運営生活になってすっかり皆早起きになってしまった。

 

「尊、コーンスープの入った鍋持って行ってくれるかしら?」

 

「はーい。灯、パンケーキをお願い」

 

「任せて」

 

 音も気配もなく何時の間にか横にいた妹に指示を出しつつ馬鹿広いキッチンで作られた簡単な朝飯を持ち上げる。それを察したのかイーリュも合流して他の鍋とかを持ち上げる。

 

「お手伝いします!」

 

「ありがと。こっちだよ」

 

 3人でそれを先程の修羅キャンプへと持って行く。かんかんかん、とお玉とフライパンを鳴らすと待機してた餓えた獣共がテントの中や、近くの池から現れてくる。

 

「プレミアムプラン加入のお客様に朝飯の配給だぞ!!」

 

「来た! スタミナ回復が来た!」

 

「待ってました!」

 

「朝から美人人妻飯をキメられる優良プラン!!」

 

「美少女に配膳されるだけで寿命が伸びる……うぉっ、感情の篭ってない目ありがとうございます……!」

 

「尊氏、前世で徳積んでますねぇ」

 

「思い至る事は無いんだけどね」

 

 ほぼ常に居座ってる警備員みたいなポジションに落ち着いてるレイド待機組に飯を与えたら今度はモンスター達の朝飯を用意する。こちらは量が量なので人間だけでは運べず、モンスターを労働力として活用する。これになると他の連中も起き上がって手伝ってくる。

 

 というより自分で食べる飯なので、ちゃんと動いてもらわないと困る。お客様気分なのは預かっているモンスター達だけで良い。

 

 干し草。魚。肉。果物。野菜屑。生気。モンスターによっては欲しがる食べ物が違ってくるからこのファームというシステムは意外と難しい。ただ広い土地があれば良いという訳ではないのだ。モンスターの好む環境だって種族によって異なる。

 

 厩舎があるが、厩舎で満足できる訳じゃない。

 

 その為に既に大きな湖があったり、見える範囲に山や林があったりする。最近はアンデッド向けの彼岸エリアも追加されたし、もうちょっと茂った森も用意している最中だ。人型のモンスターなんかは普通に家で生活するから預かる事はないとはいえ、色々と住まう場所には気を使う。

 

 そうやってモンスター達の食事を終わらせれば漸く自分の朝食に入れる。家に戻れば既に出来上がっている朝食にパクりと食べつく。学校がある日ならもう既に久遠が来ているが、休みの日はゆっくり起きる事もあってまだ来ていない。

 

「お兄ちゃん、久遠と一緒に居るのがすっかりと普通になっちゃったね。昔の虚無的で尖ってたお兄ちゃんはどこに行ったの?」

 

「パパは今の尊の方が好きかなぁ」

 

「ママも」

 

「そういう訳だ灯、虚無主義の称号は灯に継承するよ」

 

「いや、我が家に2人目の虚無主義者は必要ないから」

 

 どうかなぁ? 灯も灯でだいぶ中身が漏れない子だからなぁ。心配だなぁ。とはいえ、酷さで言えばこっちのが数段上なので心配する程でもない。灯の感性のズレはまだ自覚してれば付き合える範囲だ。俺のズレは久遠なしでは致命傷になるレベルだ。たぶん出会わなきゃそのうち死んでたと思う。

 

 改めて、久遠と出会えたことは運命だったのかもしれない。

 

「ご馳走様」

 

「お粗末様。今日はどうするの?」

 

「ん、イギリス行きが近いし家で色々とやるよ」

 

「イギリスかぁ」

 

 未だにどことない難色を示す父から逃げるように片手をバ、と上げてダイニングから脱出する。家を飛び出すと家の前の日向で、家の中に入るにはちょっと大きくなり過ぎた―――魔獣方面に更に進化させた事で一回り巨大化し、ソウルイーターと呼ばれる赤黒い魔獣へとランクアップしたチビが丸まっている。

 

 家から出てきたのを見るとチビが起き上がって付いて来る。

 

「別に寝てても良いんだぞ?」

 

「わうっ」

 

「鳴き声の可愛さはウルフパップの頃から何も変わらないなお前……」

 

「わふっ!」

 

 “未来”に至ってもこのままなのかなぁ、と思うとちょっと不安を覚える。“未来”さん滅茶苦茶クール系なイメージなんだけど……やっぱこのまま合体進めるとイメージ崩壊するのだろうか? ちょっと。ちょっとだけ嫌だな。

 

「チビ、ちょっとキリっとした顔してみて」

 

「……がおっ!」

 

 キリっとした表情をチビが作ろうとして、それを見て俺は全てを諦めた。コイツには不可能だ。魔獣なのになぁ、というぼやきは聖獣方面で合体させていた、5世代目でチビと合体させる予定のモンスターが拾った。

 

「ぐるるぁぉ」

 

「おぉ、威厳があるなぁ」

 

「わうっ!?」

 

 聖獣の方はソルレオニスという白く燃える鬣のライオンの様な姿をしているが、此方はチビと違って大変威厳がある。チビはどう足掻いても可愛さの方が先だってしまうのは一緒に生活して育ってきた影響が大きいのかもしれない。

 

「お前らはBからAに上がる時統合予定だから、仲良くな」

 

「わうぅぅ……」

 

「がうぅぅ……」

 

「あまり仲良くないなお前ら……」

 

 なんか序列からプライド的なもんでもあるのか? こういうパターンで合体させると人格とかどうなるんだろう。ちょっと興味あるけど今は知るすべもないし、忘れておこう。それよりも牧場内に出現しているダンジョンを確認する。

 

 家の前の置き配を確認したらそれを彼岸ゾーンの鳥居の下にまで持って行き、セットしておけばあら不思議、今日も荷物が消える。最近は増えてきたSランカーの襲撃で根の国は結構盛り上がっているらしく、迎撃に成功すると雑に数千万とか数億ドロップして行くから経済は潤っているらしい。

 

 あの世の経済ってなんだろう。

 

 WIFI完備だし次はウォッシュレットでも導入するのか?

 

「お、今日もレイド用のゲート開いてるじゃーん」

 

 1個、2個……3個もレイドが用意されている。今日はもしかして伝説のレイドフィーバーデーなのかもしれない。レイドを外から観察していると、自分の胴体にロープを巻き付けたララが人参を齧りながらやって来た。

 

「何時でもいいっすよ」

 

「良し、逝け! 耐えろ

 

 ぶんぶん分まわしてから食いしばりを付与したララをレイドの中に投げ込む。シンクロを使ってララの視界だけを共有し、《耐えろ》を駆使して最低限の情報を引き抜いた後、ララの死体をロープを引っ張って回収する。

 

 これを3回繰り返せばレイドの情報3個分ゲットという寸法だ。

 

 コストもララの命3つと預かっているモンスターの蘇生魔法3回で済ませられる。間違いなく環境に優しいエコ戦術だ。

 

「ボクの命に優しくないっすけど。ダンジョンに居ても家にいても結局は死ぬんだなぁ、ボク」

 

 朝の仕事を終えたララは人参を齧りながら去って行く。その風格はもはや職人レベルまで達していた。そう、ララはコンセプト的に既にこの段階で完成されている。奴は一生ラッキーラビットのまま運用される運命にあるのだ。可哀そうだね。でもコスパはこれが一番だからしょうがない。

 

 レイドとダンジョンの情報を軽く調べたら修羅キャンプへと向かう。

 

 居座っている間は3大欲求が食欲、睡眠欲、レイド欲に変わってしまった頭のおかしな生き物たちはこの時間になると偵察を終えた事を察して鳴き声を上げながら情報を求めて来る。

 

「レイドォ……レイドォ……」

 

「情報が欲しいかぁ?」

 

「レイド……レイド!!!」

 

「はい、どうぞ」

 

 タブレットに叩き込んだ本日のレイド情報をアップロードすると爆速でレイド廃人たちが集まって円卓会議が始まる。ゲームと違って敗北=死に近い世界において、この人たちは勝利する為の手段や方法を間違える訳にはいかない。

 

「こっちは水中戦、こっちは菌糸類の森ですかぁ……」

 

「こっちの山岳地帯レイドは比較的楽そうですね。水中戦と胞子が舞う中で戦うのは大変ですよこれ」

 

「菌糸の森はこれ、環境維持と戦場保護の為のモンスターが必要ですねぇ」

 

「水中戦ならウチのメンツかなあ……確認しても良いですか?」

 

 サムズアップで返答すると湖へと向かってギネス記録を打ち立てそうな速度で走って消えて行く。せわしなく攻略の為に動き出すこの人達の姿を見てるとあぁ、1日が始まったんだなあ……というのを感じる。

 

 この異常者の集まりを日常にはしたくなかったが、なってしまった。

 

 怖いなぁ、駆間市。

 

 何が怖いって馴染んでしまった事が一番恐ろしいんだよね。

 

 しかし後少しもすれば12月になって冬休みに入る。

 

「そうすればイギリスかあ」

 

「む、尊さんはイギリスへと遠征予定ですか? 偶には環境を変えるのも成長に貢献して良いですよぉ」

 

「イギリスと言えばストーンサークルにある異相ダンジョン!」

 

「いやいや、ドリーム・キャメロットの攻略でしょ、やっぱ」

 

「ヴィヴィアンの試練も面白そうだよねー。1度で良いからイギリスのダンジョンは行ってみたいなあ」

 

「でもモンスター連れて海外行くのはお金がね」

 

「うん……」

 

 そう、凄く高い。俺も東吾が費用持ちじゃなかったらちょっとこれ一生無理じゃない? と言いたくなる金額が必要になって来る。少なくともAランクで軽く金を稼がないと絶対にモンスター連れて旅行は無理と言いたくなるレベルの金額が要求される。

 

 それが海外遠征に対する1番大きな壁だ。

 

 だから基本的に交流戦でもなければ海外へとバトルの為に赴くという事もしないし、海外産のモンスターを手に入れるという事もない。これが出来るのは相当なブルジョワだけだろう。今回は東吾のコネで無理矢理実現しているようなものだ。

 

「土産モンスター……期待してますぞ!」

 

「無茶言うな」

 

 わははは、と笑い声が響いた所でレイド廃人たちから離れる。今日の出現レイドは彼らに任せれば良いだろう。

 

 何時も通りの日常を過ごしながらふぅ、と息を吐いて空を見上げる。もう少しすればこの国を出てイギリスに向かう事になる。海外旅行なんて考えてみれば前世ぶりのイベントだ。

 

「お土産はどうするかなぁ」

 

 脳裏に浮かぶのは婚約者の姿。あまり駆間から離れる事が出来ない彼女が喜ぶものはなんだろう……?

 

 そんな事を考えながら、また1日が過ぎ去り―――その日がやって来る。

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