最強以外ありえない   作:てんぞー

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この冬は、イギリスで冒険する

「風邪を引くんじゃないぞ?」

 

「迷惑をかけちゃ駄目よ?」

 

「お土産をよろしくねお兄ちゃん」

 

「解ってる解ってるって、そう心配しなくても大丈夫だから!」

 

 空港、ロビーで家族と一時の別れをする。

 

 旅行なんてほんと前世ぶりのイベントになるが、気を引き締めなくてはならない。これから向かうイギリスは日本とはまた異なる環境にあり、バトルが活発な地域だ。だがそれ以上に重要なことがある。

 

 イギリスにはあの図書館がある。

 

 DLC追加されるダンジョンの中でも幻想図書館は特別な意味を持つのだ。

 

「ご安心ください、旅行中は私が常に目を光らせていますので」

 

「そうそう、東吾がいるから心配しないで。俺も別に詐欺に引っかかるタイプじゃないでしょ?」

 

「お前は音信不通になったりあっさりと命を諦めるから親としては不安になるんだよ……」

 

 それを言われると反論出来なくなるから困る。

 

 ともあれ。

 

 家族に別れを告げて出国ゲートを抜ける。やはりVIP扱いなのか東吾と一緒だと一般ともファーストクラスとも別の出国審査を受けることになり、凄くスムーズに終わった。

 

 記憶にあるこの手の審査、時間がかかって凄い面倒だったはずなのに。荷物も空港が手配した荷物持ちが運ぼうとしたり、嫌でも東吾の立場が伝わってくる。

 

「驚いた、本当にVIP扱いなんだな」

 

「似合うだろ?」

 

「いや……欠片も……」

 

「こいつ」

 

 自分で荷物を運んだりするのもまた旅行の楽しみ。そう言って俺たちは旅行カバンを手に出国ターミナルを歩き、VIP用ラウンジに入る。まだまだ出国までは時間があるから。

 

 初めてすぎる経験に実はちょっとわくわくしてる。

 

 前世でも経験してない未知の世界だよ、これ!

 

「そうやってキョロキョロしてると本当に見た目通りの子供なんだがな……」

 

「可愛かろ」

 

「はっ」

 

「はあ???」

 

 温かい飲み物を頼むと運んでくる人までなんか高級そうだ。段々と自分の場違い感が凄くなってきたな。

 

「それで」

 

「ん?」

 

「幻想図書館というのはどういうダンジョンなんだ?」

 

 コーヒーを片手に東吾がそんなことを聞いてくる。人払いは……まあ、別にいいかと思った。どうせ入館許可を得ない限り入れないし、館長の性格を考えると一般開放は永遠にないだろうし。

 

「東吾はさ」

 

「ああ」

 

「この世界のこと、どれぐらい疑ってる?」

 

「……」

 

 その言葉に東吾が黙り込む。考えるような表情じゃない。何かを理解して、だけど言葉を選ぶ表情だ。それを見てそうか、と呟く。

 

「やっぱマスターのランクが高いと違和感を抱いたり、法則から外れるのか」

 

「ま、教科書通り昔からモンスターと人間は隣り合わせで生きてきました……という言葉を信じてないのは確かだ」

 

「じゃあ感付いてる前提で話を続けるけど、幻想図書館はこの世界とモンスターに関連する真実とあらゆる記録、記憶を保存してるダンジョンだよ」

 

「それは……」

 

 それがただのダンジョンで終わらないことを東吾は察した。

 

「世界の真実とか興味ある?」

 

「ない」

 

 即答だった。

 

「ないんだ……」

 

「まあ、バトルできて家族が健やかに生きられるならそれでいいかな」

 

「まあ、そんなもんか」

 

 俺も直接関わりがなければそんなもんだっただろう。だが真実はラスボスを倒さなければこの世界は塵すら残らないという事実だ。

 

 ワールドイーター。

 

 そしてあの女。

 

 あのラスボス女を始末しないと、この星も終末を迎えるだけなのだ。既に世界を1つ滅ぼしてるのだ、もう1つ滅ぼすのなんてそう難しいことじゃない。

 

 前まではそこまで重視しなかったことだが、今ではやつを殺さなくてはならないという殺意が渦巻いてる。

 

 不思議な気分だ。

 

「それで、他にはどんなものがあるんだ?」

 

「本当に興味なさそうだな……そうだなぁ……東吾ならアレに興味があるかな」

 

 図書館で追加される機能の1つを思い出す。

 

「アレ?」

 

「記憶の書」

 

 その機能はあらゆるゲームにおいて欲しがられるもの。

 

「再戦できる」

 

「再戦? ん、記憶? まさか」

 

 そう。

 

「記憶に残った戦いをもう一度味わえるんだ」

 

 フリーバトル機能の解放だ。記憶の書を手に入れることでこれまで戦ったことのある相手を選び、再び戦うことができる。しかも強化ボスモードまで存在する。

 

 昔戦ったボスともう一度! あのイベント戦をまたやりたい! アチーブ取り忘れたからもう一回! という要望に応えた機能だった。RPGにありがちなやつだ。

 

 それとは別に、もう一個のほうがこのリアル化した世界ではヤバそうだが。

 

「俺は叡智の書の方を出来たら回収したいな」

 

「で、それはどんな劇物なんだ?」

 

 周りを見て、東吾に近づいて、耳元に声が溢れないように呟く。

 

「スキルカードを登録すると、そのスキルを何度でも習得させられるようになる全てのスキルカードを登録できる本」

 

「取り合いで戦争になるわ」

 

 記憶の書でウッキウッキになってた表情が一瞬で真顔になった。ネタ抜きの返答が飛んできて俺もまあ、そうだよね……と呟く。《パーフェクトキャンセラー》が1枚3億で取引される世界だ。それはスキルの性能もそうだが、希少性からこれだけの値段が付けられている。

 

 記憶の書、叡智の書は言ってしまえば機能性改善コンテンツだ。

 

 DLCでそれまで難しかった、面倒だった所が改善されて遊びやすくする為の緩和コンテンツという立ち位置にある。図書館はその手の部分が多く、プレイヤーがランクマッチに参入しやすいように育成関連を緩和している。

 

 アマゾン奥地にある“暗黒樹海”ではアンブロシアの苗が手に入り、牧場で育てる事でモンスターのレベル上限を上げる為のアイテムを手に入れられるようになる。この情報が渡った瞬間、世界各地で争奪戦争が始まるんだろうなあ……と思う。

 

「良いか、尊。よく聞け。イギリスには協力者がいる。大英図書館に普通モンスターを連れて行くことなんて出来ないからな。ソイツの仲介と同行で幻想図書館に入れるようになるだろう。だけど結局はイギリス所属のマスターだ。良いか? 絶対に叡智の書の方は黙っておけ」

 

「うん、解ってる。俺も徒に日英で戦争始めたい訳じゃないから」

 

「世界大戦が始まるぞ」

 

 アンブロシアの苗は1人で取りに行こう。俺が将来Aランクとかになったら回収しよう。ぶっちゃけ、Sランクになるまであの果実使わないし。今手元にある奴もとてもじゃないが使えないし。

 

「それ以外にもいいもんは結構あるよ? 上位魔法が自動生成される魔導書とか、《幻想図書館》のフィールドスキルは詠唱の自動スタック効果だし。ランプ、魔法系の聖地だよあそこ。回復魔法関連も含めてね」

 

「ほほお、それは聞き捨てならないな」

 

 東吾のビルドが回復魔法を反転化させた即死級ヒールダメージを与える戦術なのを考えると決して無駄な探索にはならないだろう。

 

「まあ、俺にとって一番大事なのは……」

 

「大事なのは?」

 

「白紙の物語の回収と賢者の石の回収かな」

 

「物々しい名前だな」

 

 片や“未来”を作成する為のアイテム。もう片や”超越”を生み出す為のアイテム。アタッカー候補の作成アイテムはどちらもここで回収できる。“超越”の合体素材として使う魔女系統モンスターも図書館内で確保できる為、一緒に確保するのが丸い。

 

「正直東吾にこうやって誘われないと行くのはもっと先の話になってただろうし、助かるよ」

 

「気にするな、俺が楽しむ事に必要だと思ってるだけだからな。初めて根の国を発見した時のワクワク感をまだ味わいたいんだ」

 

 東吾の言葉に解る、と頷く。

 

 あらゆるRPGで、新しいマップに辿り着いてその景色を見て回るのは楽しみの一つだ。新しいアイテム、モンスター、読み物……そういうものを拾って確認し、探索するのはRPGの醍醐味だ。それを現実で味わえるのだから夢中になるのも解ってしまう。

 

「―――失礼します。叶様、鴉羽様。準備が出来ましたので搭乗ゲートの方まで案内いたします」

 

「ん? もうそんな時間か」

 

「雑談してるだけなのに時が流れるのは早いなー」

 

 スチュワーデスが準備が整ったと言って俺達を呼ぶ。一旦話すのを切り上げて、ラウンジを出てターミナルの奥へと向かう……のだが、どんどん他のターミナルから離れて行き、完全に一般乗客がいないエリアまでやって来る。

 

 ちょっと知らない場所までやってくると流石に緊張してくる。これが所謂VIP待遇という奴か? いや、でも、普通の旅客機から離れてないか? ジャンボジェットとかに乗らないのか? ファーストクラスに乗るの地味に楽しみにしてたんだが。前世含めて乗った事ないし。

 

「なあ、東吾……」

 

「ん? そうか、お前は初めてだったな。モンスターの入国関連が面倒だって話知ってるよな?」

 

 ターミナルを歩きながら東吾の言葉に頷いて応える。

 

「そうか……俺達Sランカーは交流戦で国の代表として戦う事もあるが、国内で戦うには人数が限られているし、大会も足りない。今国内にいるSランクマスターは50人もいないからな。年々ダンジョンで死んだり寿命迎えて死ぬのに毎年1人しか昇格して来ないし……まあ、だから俺達は国を飛び回って戦う訳だ」

 

 その時に、と言葉を続ける。

 

「俺達はモンスターを連れて海外にでなきゃいけない訳だが……ウチのジャガノ見てどう思う?」

 

「馬鹿デカい」

 

「そうだ。とてもじゃないが飛行機には乗せられないサイズだ。じゃあ、どうするか? その答えが―――これだ」

 

 空港のターミナルの一番奥、高位マスター専用のターミナルが存在する。その奥にあるのは飛行機や飛行船のある発着場ではない。

 

 馬鹿でかいスペースだ。本当にだだっ広く、そこを占領する程巨大な存在が浮かんでいる。本来であれば海の中にいるであろう存在は、本来のサイズをはるかに超える巨体を持ちながら浮かび上がっており、その下から小さな村とでも表現したくなるようなゴンドラの様なものをぶら下げている。

 

 それは、クソでかいクジラだった。

 

 浮かんでいるクジラが飛行船をぶら下げている。

 

「なに、あれ」

 

「アレが俺達の移動手段だ。ウチのジャガ太の様な馬鹿でかい奴も安心して乗り込み、運ぶ事が出来る高位マスター専用の長距離移動手段だ」

 

「はあー……」

 

 ガラス越しに見えるその巨体は大きい以外の言葉が見つからない。あれが転がるだけでこの空港が消し飛ぶだろうというレベルの巨体だ。それが浮かび上がり、飛行船を吊るしている。飛行船、と表現するのはそれ以外適切な言葉が見つからないからだ。吊るしているそれだけでさえジャンボジェットなんて比較にならない程デカい。

 

 でもそれ以上にクジラのがデカい。

 

「クジラ型モンスター……モビーディックの亜種……えーと、名前なんだっけなぁ……出て来ねぇ」

 

「トワイライトホエールって名前らしいな。重力操作能力を駆使して自由に空を泳ぐことが出来る。コイツが俺達をイギリスまで運んでくれる。安心しろ、中は豪華客船みたいなもんだ。イギリスまで好きなことして時間を過ごせるぞ」

 

 慣れた様子で搭乗口まで向かう東吾の姿を見て、やっぱ住む世界違うよなぁ、という感想が出て来る。とはいえ、これでイギリスに行ける。

 

「待ってろよ館長……今会いに行くからな」

 

 全ては最強になる為。ラスボスを滅ぼす為。

 

 この冬は、イギリスで冒険する。

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