最強以外ありえない   作:てんぞー

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余罪のリボ払い

 モンスターゲーム・ウィズ・ダンジョン。

 

 それがかつて遊んでいたゲームの名前だった。

 

 そして同時にこの世界の元となったゲームでもある。或いはこの世界がモデルとなってゲームが生まれたのか。事実はどっちでも良い。重要なのはそういうゲームが存在したという事実の方だ。

 

 主人公はとある事情で古い牧場を経営する事になった。そこには1匹のモンスターがいて、そいつを相棒に牧場経営が始まる。

 

 牧場を経営しつつモンスターを育て、賞金を稼いで牧場に投資、時折牧場の敷地に出現するダンジョンを踏破してモンスターを鍛えたり資源を回収し、それをもとに……という風にモンスターの育成と牧場経営をメインにしたゲームだった。

 

 終盤に入ると賞金額がインフレするから牧場を放置してひたすらバトルを繰り返し、戦闘民族になるのがプレイヤーの常だった。初心どこに消えた? まあ、開発者もランクマ導入してどんどん対戦環境へとDLCを通じて変化していったので次第に牧場要素は忘れられていった。

 

 このゲームのメインコンテンツはモンスターの育成とバトルだ。

 

 育成、合体、継承。それを繰り返す事で第7世代、つまり最終世代へとモンスターを至らせ、Sランクに上がり、チャンピオンとなる。その後は全世界のプレイヤーたちとランクマッチで心行くまで対戦し続ける事が出来る。

 

 そういうゲームだったし、俺もそれなりに熱中した。何時間もかけて理想のパーティーを考えて、それを育成して、ランクマに突っ込んでぼこぼこにされるまでがワンセット。そうやって何百回も育成とパーティーの再構築を行う事で強くなっていくものだ。

 

「この駆間は昔からダンジョンの発生しやすい地域らしく、その関係でライセンス取得者が多い。護身用にモンスターを連れ歩く為にな」

 

 それが今、現実になって自分も1人のマスターになるかもしれない……という事になりつつあるのはまだ夢を見ているような気分だった。無論、現実感がないという意味で。そういう意味であれば生まれた時からずっと夢を見ているような感じでもあるのだが。

 

「ダンジョンが発生しやすい地域……聞いた事はあるな」

 

「実際に見るのは初めてだろう? アレを見ろ」

 

 そう言って少し離れた所にあるビルを指差した……よく見れば警察によって封鎖されており、軽い緊張感に包まれているのが見える。何らかの事件が起きている様にも見えるが、それは違うと久遠が言葉を続ける。

 

「アレは建物内でダンジョンゲートが発生してしまったから、その処理の為に警察が動いてるんだ。駆間にはソレ専用の部署もあるらしいが、それだけでは突発的に出現したダンジョンには対処できないからな、ある程度の自衛能力が求められるんだ」

 

「その為のライセンスか」

 

「そうだ。最低でもモンスターを連れ歩けるFがあると咄嗟の状況で身を守る事も出来る。多くはEまで上げて、D以上になると市の方から給付金が貰えるとかなんとか」

 

「へぇ……」

 

 スマホで軽く今の話を叩き込んでみると日本では数か所、世界でもそれなりにそういう場所があるらしい。都市のある所にこういう地域が重なった場合の対処も難しく、都市を捨てる訳にも行かないから必然的に荒れるか住人の戦闘力が向上するらしい。

 

 嫌だな、住人の戦闘力が勝手に上がる都市……。

 

「だからクラスの皆は割と真面目な表情でライセンスだけでも取れって言ってたんだ」

 

「あぁ、出来るならモンスターも連れてきた方が良い。それは貴様ではなく妹の方にも言える事だが」

 

「灯はなぁ、チビと遊ぶのは好きだけどバトル方面はからっきし興味ないんだよね」

 

 だから灯は俺が協会の方へとライセンス取得しに行くよ、と言っても興味なしで家に帰ってしまった。妹を送り届けた後またこっちにやって来るミストドラゴンさんにはなんだか申し訳なくなってくる。多分これからも立派な乗り物として酷使されるだろう。

 

「ふむ……なら外に出る時はなるべく一緒にいる方が良いだろうな。それにあの家の周囲にももう少し護衛用のモンスターを置いておくべきか。ああいう広くて何もない土地にダンジョンゲートは発生しやすいらしい」

 

 そう言う久遠の顔を見て、そして最初に会った時に久遠の一家が土地の管理をしているという事を思い出した。

 

「もしかして土地の管理って」

 

「ああ、ダンジョンの対処も含まれている。と言っても、基本的に父がモンスターを連れてがー、とやってずばー、と突っ込んでどがー、っと粉砕するだけだが」

 

 第6世代のモンスターを使役するという事はAランク相当のマスターだ、そりゃあランダムに出現する程度のダンジョンだったら苦戦する事もなく終わるだろう。やっぱ久遠パパ、相当なエリートのようだ。問題があるとすればファッキンジジイに逆らえない事か。可哀想に。

 

「ん、どうやらダンジョンゲートの制圧が完了したようだな。あんな風に駆間市内で出現したゲートを潰したり、警戒したり捜索する光景はそこまで珍しいものではない……ここに来たばかりなら面食らうかもしれないが、そのうち慣れる」

 

「慣れていいのかなぁ」

 

「慣れろ」

 

「うす」

 

「うむ」

 

 満足げに頷く久遠に連れられ、そのまま目的地であるモンスター協会へと到着する。どこの支部も大きな建物になっているこの協会は基本的にモンスターに関するあらゆる商売を担っている。それがシステムとしてどういう風に存在するかは……正直、知らない。というか把握していない、余り興味を持っていない設定の類だ。

 

 ランクマッチに沼った人間は大体データしか覚えないのだ。

 

 後は気に入ったフレーバーテキストと設定。

 

 そしてこの手の設定は別に覚えていなくても楽しくゲームプレイできる部分。

 

「こっちだ。まずは受付の方で登録する。駆間では登録者数も多いからそう手間がかからないようになっている。さっさとお前のライセンスカードを作ってしまおう」

 

「おー」

 

 自信満々に案内する久遠の後について中に入る。

 

 ゲームで見た事のあるドラゴンの頭を模したエンブレム。グッズやモンスターに使う道具の販売所、他のマスターと交流する為のカフェ……見覚えのある施設がビルの中には広がっていた。メインを攻略した後はもうここに来ることはなかったなあ、なんて思い出が溢れだす。

 

「ここだ。ここでマスターとしての登録が出来る」

 

「ようこそ、モンスター協会駆間支部へ。マスターライセンスの発行ですか?」

 

「ああ、コイツのライセンス発行を頼む」

 

「どうも」

 

「貴方のライセンスですね? それでは身分証明書は持っていますか?」

 

 受付をしている女性に身分証明書を求められたのでスマホの電子証明書を取り出して渡す。それを受け取った受付嬢は少々お待ちください、と声を零してパソコンに入力し始める。その間に久遠が此方へと振り返る。

 

「この後に用紙を貰うからそれを読んで回答して、それが終わったら軽い面談を挟んで終わりだ」

 

「結構あっさりしてるんだな。保護者同伴じゃないとダメかと思ったけど」

 

「結局取れるのはFランクのライセンスで、それで出来るのは最低ランクのモンスターの使役とバトルへの参加だけだ。高ランクライセンスじゃないと身分証明書としての機能は持たないらしいしな」

 

「あー、Fランクだとゲーセンで記録するカードと何の変わりもないんだ」

 

「???」

 

 頭の上にはてなマークを浮かべる久遠の様子にくすりと声を零す。ゲーセンの一部ゲームは専用のカードを作ってそれにデータを保存してたりするのだが、あの手の文化はこっちの世界だとあんまりなかったりするのだろうか?

 

 娯楽といえばモンスターバトル、みたいな空気があるしどれぐらい元のサブカルが残ってるのかは気になる所だ。

 

「これは……少々お借りしてもよろしいでしょうか? ありがとうございます、少しお待ちください」

 

 受付嬢がそう言うと軽く頭を下げてからスマホを持って奥へと行ってしまった。久遠と顔を合わせて首を傾げる。何か問題でもあったのだろうかと悩む事数分、スーツ姿の男を伴って受付嬢が戻って来た。

 

「まずは此方をお返しいたします」

 

「あ、はい」

 

 心なしか対応が丁寧になっている。そしてスーツ姿の人が前に出て来る。

 

「む、吉沢だ」

 

「はは、夜月ちゃん久しぶりだね。そして初めまして鴉羽くん、ここの支部長を務めてる吉沢という者だよ。宜しくね」

 

「あ、はい。宜しくお願いします」

 

 差し出された手を握って軽く握手すると吉沢が1枚のカードを差し出してきた。

 

「これが君のライセンスカードだ。Fランク相当の奴だからそこまで価値があるという訳じゃないけどね。君がこの世界へと踏み出す為の第一歩となるものだよ。是非とも大事にしてね」

 

「え?」

 

 なんかその前に色々と無かった? 筆記試験とか面談みたいなのあるって久遠が言ってた気がするんですが?

 

「ははは……誰、とは言わなくても解るかもしれないけど。さるお方がね。こほん、ね? 宜しくしておけ……とね?」

 

「あ、はい」

 

「ま、そういう訳だから。何か困った事があったら何時でも連絡して良いからね……?」

 

「うす」

 

 ライセンスを受け取ると漸く肩の荷が下りたと言わんばかりの支部長が凄い速度で奥の方へと消えて行く。その姿にやっぱあのジジイは生きている間に殺しておくべきだったなあ、と思える。知れば知る程余罪が増えて行くジジイ、老害でしかない。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 残された3人でしばし無言を保ってからこほん、と久遠が咳払いする。

 

「なあ、ミコト。どうせなら試合でも見ていかないか? 地下ではF~Dランクの試合を良くやっているぞ」

 

「モンスターバトルか……」

 

「今日はパートナーを連れていないとはいえ、見るのも悪くはないだろう? 気分転換にどうだ?」

 

 折角ここまで来たのだからそれも悪くはないだろう。久遠の言葉に頷いて返答し、受付嬢に軽く頭を下げてからついて行く。

 

 エレベーターに乗って地下へ。

 

 そこに広がる、モンスター達が戦うために用意された広大な空間へ。

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