最強以外ありえない   作:てんぞー

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最高のフライト体験をあなたに

 日本からイギリスへは空路を使って12時間ほどかかる。これは日本からイギリスまでほぼ一直線でロシア上空を通るルートであり、一番早いルートでもある。途中で休むか乗り継ぎするのならアジアルートもあるが、基本的に直行便を利用するのが早く、楽だ。

 

 特に今回は超巨大な運送用モンスターを利用している為、12時間のフライトは気にならない。流石Sランク様を乗せる為の船だ。

 

 エステ、ジム完備。

 

 フライト中に買い物をしてもいいようにモール設置。

 

 最新型ゲーム機と巨大スクリーン設置。

 

 シアターまで置いてある。

 

 最高のフライト体験をあなたに。

 

 豪華客船と表現した東吾は正しかった。本当にそうとしか思えない豪華絢爛な設備はたった12時間という短さで消化するには不可能なレベルで設備が充実している。これも全て、Sランクという国家最大レベルの戦力を持て成す為の設備だ。

 

 ―――が、これらの出番はなさそうだった。

 

「各所に設置されている“目”から戦場の情報を整理してタイムライン化するぞ! はい、完了! 共有しまーす!!」

 

「助かる。うおっ、囲まれてるな……ドラゴンフォートレスなんて一体どこから出て来たんだ」

 

 優雅なフライト……ファーストクラス体験……そんな夢は見るな、と言わんばかりにロシア上空は鉄火場に突入していた。トワイライトホエールの横を全長50メートルはあるであろう機械化された要塞の様なドラゴンが飛行し、その体から眷属モンスター達を放って此方へと攻撃してきている。

 

 俺はもう泣きたかった。クジラの護衛につけられているモンスター達の目をシンクロで軽く借りて、取得した情報を整理し、東吾に送る。それを受けて東吾が素早くモンスター達に指示を出して迎撃に走る。巨大モンスター同士の空中戦は非常に見応えのある戦場だったが、初の海外旅行でエンカウントしたい出来事じゃなかった。

 

「なんで!! こうなるんだよ!!」

 

「最近恨みでも買ったか? 俺の方は覚えがあり過ぎてちょっと思いつかないんだが」

 

「俺も最近は柊家ってバレて本家の暗殺者もありえるラインだからなあ」

 

「ワンチャンロシアが広すぎて放置してたダンジョンから成長したモンスターが溢れてきたってのもアリなんだよなあ」

 

「あー……」

 

 機械化されたドラゴンの口からレーザー砲が放たれるのを、ララに食いしばりを付与して投げ込む。

 

「お、ボクが100回ぐらい死ねそうな威力耐えあこれ駄目そ―――」

 

 じゅっ。という音と共に食いしばりの上からスリップダメージが発生しララは蒸発した。やっぱこのクラスのモンスターになると単純な食いしばりだけでは意味がないかあ、と呟きながら消し飛んだララの残滓を集めて蘇生する。

 

 しゃーない、と呟き軽く死を想起する。それに合わせて自らの死の因果と混じり合った死神が横に出現する。

 

「良し、来たなウェル。ひたすら妨害だけするぞ」

 

 第4世代へと成長したウェルギリウスの姿は合体によって所謂グリムリーパーと呼ばれる死神の姿に近い姿へと変化していた。合体して世代が進んだ事により能力も成長しており、Dランクで暴れた時よりもクソゲーを押し付けられるようになっている。

 

 それを利用して、ひたすら妨害にだけ走る。火力は東吾がいるからいらんだろ。

 

 《パーフェクトキャンセラー》で積載しているモンスターの出現を阻止すると、打ち消しによってキレて追加行動を得る要塞竜の行動を《インタラプト》で妨害、行動を徹底して封じると東吾が構築されたタイムラインを通して割り込んで攻撃を叩き込んでくる。

 

 搭載されたモンスター達が誘爆、要塞竜が爆発しながら高度を落として行く。

 

「クソボケ―――!! 二度と空のバカンスを邪魔するんじゃねぇ! 死ね―――!!」

 

「いやあ、刺激的なフライトになったな。シアターに引きこもって映画見てるよりはこっちのが楽しいぞ」

 

「でしょうね」

 

 俺はもう少しモールの方でお土産とか見たかった。落下して行くドラゴンフォートレスに向かって中指を突き立ててもう二度と出て来るんじゃねえぞ、とか言ってると外装を急にパージし始めて第2形態に突入し始めた。その変化に俺は真顔で対応する。

 

「ウェル、《サクリファイス》」

 

 音もなくウェルギリウスは鎌を振り下ろし自身を即死させる。死亡し、即座に種族固有スキルの効果で輪廻を経て蘇生し、ウェルギリウスが新生する。

 

「パフェキャンGO!」

 

「ほお」

 

 輪廻を経て新生されたウェルギリウスのスキルの使用回数が復活した。無論1回分だけだ。だがこれにより1試合で2回《パーフェクトキャンセラー》を放つ事が出来るようになる。禁断の打ち消し2度打ちによる第2形態キャンセルを喰らったドラフォ君はそのまま地に落ちて爆散する。

 

「2度と! 楯つくんじゃねえぞ!!!」

 

「まだ8時間近くフライトあるしなあ、まだ1度か2度ぐらいは襲撃あるかもしれないぞ?」

 

「止めてくれよ……」

 

 こっちは穏やかなフライトを求めてるのに。

 

 溜息を吐いて辺りの目を使って見渡し、もう襲撃がないのを確認して一息。ウェルギリウスも出番は終わったとばかりにララを撫でるとそのまま姿を消す。入国審査に引っかかる前に牧場に帰ってくれたのだろう。

 

 ところで……イギリスで呼び出したら密入国になるのかこれ?

 

「まあ、国が把握しきれていないダンジョンなんてごまんとある。特にロシアやアジア地域なんて人の手が入ってない場所が多いからな。そういう所ではダンジョンが外の地形を侵食したり、モンスターが溢れだす事も珍しくはない。空の旅もルートを外れれば安全じゃなくなるな」

 

「イギリス直行便は安全だと思ってたんですが」

 

「知らないのか? 今はアジア経由じゃないと危険だぞ?」

 

 殴ったろかこいつ。拳を構えてシャドーボクシングを始めると良い笑顔で反復横跳びし始める。しばらく互いに牽制しあってから落ち着き、船内へと戻って行く。最後に1度だけ周りの目を借りるが、襲い掛かって来るモンスターの気配はない。どうやら襲撃は乗り越えたらしい。

 

「それにしても襲撃……というか暗殺騒動って東吾でもあるのか」

 

「あるぞ。死ねば国家最大戦力を消せるからな。今はSランクマスターが核兵器に代わる戦力みたいなものになってるからな。国の強さは保有しているSランクマスターの数と強さに依存する。それが今の時代のスタンダードだ」

 

「おー……」

 

 腕を組み、天井を見上げる。ゲームの時はただの世界的に熱狂されているスポーツみたいなのが、現実になるとこういう風になるのか。俺もそのうち強くなったらこんな風に戦力として見られるようになるのだろうか? それは面倒だな……。

 

「世界各国のパワーバランスはSランクのメタによって回ってる。だからSランクマスターには最強としての自負が求められる。守っているのは己の命だけではない。自分の周りにいる命もまた守っているんだという自覚が必要になる」

 

「重すぎる」

 

「そうだ、重いんだ。強さとは重みだ。それまで積み上げてきた全てが強さになるからな」

 

 船内に戻って、飛んでいるクジラの声を聴く。あまりダメージを受けて無いようで、元気そうな意思が伝わってくる。これならもう大丈夫か、と漸く息を抜く事が出来る。この様子でまだ襲撃があるのかもしれないと考えると本当の意味でリラックスは出来ない。

 

 適当に映画でも見てるか? いや、モールを巡ってウィンドウショッピングでもするか。正直、ここで土産を買うにはちょっと高すぎる様な気もしてきた。

 

 果たして持つのだろうか。Dランクで巻き上げてきた俺のお小遣いは。

 

 いや、でもイギリスも物価高いしな。あっちでお土産買うのも大変かも。

 

「尊」

 

「ん?」

 

 どうするかなぁ、と船内モールの入り口でうだうだしていると、東吾が此方を見た。

 

「モンスター協会のジュニアコースに通ってるんだってな?」

 

「あぁ、うん。勧められたしジュニア用のコースに登録して通ってるよ」

 

 本当に基礎の基礎を学ぶようなコースで、ぶっちゃけ内容そのものは初心者向け……バトルを知らない人間がバトルを勉強する入門の様なコースだ。モンスターへの指示の出し方、モンスターとの接し方、そして心構え。そういう基本的な知識や技術を固める為のコースだ。

 

 申し込みをした日は正気か疑われた。

 

 正気だと言ったら本気かと疑われた。

 

 ランクマッチで見せる動きを見て本当にそんなものが必要なのかどうかを問われた。その上で必要だと答えたので受講する事が出来た。1週間に1度、モンスター協会にある教室で少しずつ内容を学んでいる。

 

「正直思ってたよりも面白かった。そう言えば俺、こういうの学んだことなかったな」

 

 バトルの知識は前世から、モンスターへの指示の出し方はジジイから学んだ。そのやり方でさえ恐らくは正しくはないであろうやり方だ。それもジジイから教わったのはほんの1,2時間程度の時間だ。それが俺が他人からバトルを学んでいた時間になる。

 

「もっと早く門を叩くべきだったな。そうすればここまで拗れはしなかっただろうが……」

 

 東吾が腕を組みながら見下ろしてくる。

 

「まだ直ってないみたいだな……自覚はあるか?」

 

「これが良くないんでしょ」

 

 右目を片手で覆い、戦闘時のタイムラインを形成する。前世のゲーム時代、そのまんまに戦闘ログとタイムラインを脳内で構築し、出力するというやり方が普通じゃないのは理解できるが、これが成長の妨げになっているとは思いもしなかった。

 

「自覚は出来たか」

 

 東吾の言葉に頷く。

 

「俺の知識、基礎、根本にあるのはジジイの教えだからな。ジジイが最初に戦い方を授けて、そこからこれを構築したんだ。だけどそれは数段飛ばしで構築されたシステムだから、根本的に学び、理解すべきものが抜けてる」

 

「―――それが何か解るか」

 

 その言葉に俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「これはゲームじゃないって事」

 

 俺の答えに東吾は目を瞑るとふむ、と呟き、歩き去って行く。

 

「理解はしているが実感が伴ってないな。まだまだ足元がグラついてる」

 

「理解してても実感がない、か……」

 

 東吾の言う言葉は正しい。脳内でこんな事が出来る時点でまともに現実を見られていないのだから。生まれ変わってからずっと、未だに現実というものに馴染んでいないのだろう。生きているという実感が薄い。全てはきっと、そこに起因してるのだろう。

 

「生きたい、か」

 

 きっと、俺にはその意思が欠けてる。死は終わりではないという真実を知っているから。現世で絶対に果たしたいと思えることが薄いから。それでもこの意思を、考えを、その根本を変えるものがあるとすれば―――きっと、自分が思う以上に何かに強い執着を覚えた時だろう。

 

 勝利ではない。

 

 戦いではない。

 

 今、この生でしか果たせない事。この命でしか絶対に出来ない事。それに出会えて、理解した時―――きっと、俺は本当の意味で生きたいと思えるだろう。

 

 その時が恐らく、鴉羽尊が本当の意味で生まれて来る日だろう。

 

「それまではぐらぐらの足元でなんとか踏ん張って頑張ってみますか」

 

 背筋を伸ばして体を軽くリラックスさせる。とりあえずフライトはまだまだ続く。エコノミークラスで旅行している訳じゃないのだし、ゆっくりと、足を伸ばしてどこかで時間を潰すのも良い。

 

「そうだ、写真も撮らなきゃな。終わったら皆を旅の話で煽ろう」

 

 七海辺り、いいリアクションで鳴いてくれると思うんだよなあ。冬休みが終わる頃には別会場でC認定クリアしてるだろうし、上がっても落ちても後々煽っておくか。そんな邪悪な考えを浮かべながら船内の設備を楽しみに戻る。

 

 

 

 それから9時間後。

 

 道中もう1度だけモンスターの襲撃を受けて多少の遅延が発生しながらもイギリス内に到着する。

 

 ロンドン市からさほど離れていないその空港はイギリスどころかヨーロッパ全体を見ても有数の大きさを誇る空港であり、毎日大量の人を国へと運び込んでいる。本来よりも大きく拡張されたその空港はモンスター達を下ろす為の巨大な滑走路などを併設されており、日本を出た俺達もここへと降りて来る。

 

 船内から船外へ。

 

 扉を開けて感じる空気の味はそれまで味わっていた日本の空気とは異なる、不思議な感じがする。空港へと降りる為のタラップをターミナルへと接続しながら、歓迎するようにアナウンスが響く。

 

『―――ようこそイギリス、ロンドン・ヒースロー空港へ』

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