最強以外ありえない   作:てんぞー

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グッドスタッフ

「デラ美味ぇ」

 

 やはり高いホテルだけあって朝飯が段違いに美味い。そもそもクジラの時もそうだが、Sランクへの接待なのか東吾の趣味かは知らないが、飯が美味い。いや、ずっと美味い。おかげで寝起きなのに一瞬で食欲が覚醒する。

 

「喉に詰まらせるなよ」

 

「いや、しねぇよ」

 

 子供か。いや、今はまだ子供だったわ。

 

 ホテルの提供するモーニングビュッフェを堪能しつつコーヒーを楽しむ。東吾も昨日の間に用事を終わらせたのかゆっくりしている。カリカリふわふわのクロワッサンを堪能しつついると、それでと切り出す。

 

「協力者は?」

 

「合流にはまだ少しかかる。数日後には動けるようになるはずだ」

 

「へぇ、忙しい人なんだな」

 

「まあ、俺のようなSランカーだからな」

 

「んぐ」

 

 クロワッサンを飲み込んで、コーヒーで喉の中を洗い流す。合流予定の人がSランカーだと聞いてびっくりした。大丈夫なのかそれ、と視線を東吾に向けるとまあ、と言葉を置かれた。

 

「そもそも大英図書館にモンスターを連れて入るってのがほぼ不可能に近いからな。イギリスで影響力のある人間でゴリ押さないと無理だぞ」

 

「それはそう」

 

 確かに言われてみればそうだ。普通は入れないのだから、それなりに影響力のある人間の助けが必要になる。

 

「それにやつも俺みたいなバトルジャンキーだ。裏切ったりする心配はする必要はない。奴に限ってそういう事はありえないからな」

 

「信頼してるんだな」

 

「海外遠征やら国際交流戦で毎度出て来る顔だからな」

 

 それ、ヨーロッパでも相当序列上の方のランカーなのでは? まあ、東吾も日本の9位だし、序列としては上の方か。

 

「先日8位になった。妨害たくさん打てるの楽しいね」

 

「死神の使い方を理解したようだな……」

 

 インフレが進めば進むほど、強いスキルが増えれば増えるほど、一手で相手の行動を阻害できる妨害札のバリューは上がる。しかも今は環境的に染めてるタイプの構築が多いから始動か軸を潰せる妨害特化モンスターが強い。

 

 慣れると手放せないんだよね。

 

「合流できないかー。まあ、先に入館許可を得ないといけないから丁度良かったかも。場合によっては時間がかかるかもだし」

 

「入館許可証だったか。それはどう手に入れるんだ?」

 

「んー……」

 

 どう説明すればいいんだろうか。ちょっと面倒なんだよね、図書館の背景を話す必要もあるし。だから良し、と言って朝食をデザート含めて食べ終える。

 

「行こう」

 

「行こう?」

 

「勿論、大英図書館へ」

 

 まずは確かめないとね。

 

 

 

 

 

 ロンドンに存在する大英図書館は世界最高の蔵書数を誇る図書館だとされている。

 

 とにかくデカイ。デカくて凄い。実際に見たことのある人でなければこの積み重ねられた叡智、その重みを理解する事はできないだろう。

 

 入館は無料、パスを作成すれば特別展示の類も見られる。観光名所の一つでありながら人類の歴史、知恵、その軌跡を見れる素晴らしい施設になっている。

 

「お、今月は歴代グランドマスター展か」

 

「普通にメチャクチャ心惹かれる奴来たな」

 

 歴史に人類最強として名を残した者達の記録を展示しているらしい。どういう構築使ってたとか普通に知りたい。

 

 俺たちは示し合わせるように視線を合わせると、頷いてパスの購入へと向かった。こうやって図書館の運営費は稼がれてるんだろうな……なんて事を考えながら特別展示エリアへと向かった。

 

「今のグラマスは2期王者でアメリカ所属だっけ」

 

「まあ、来期は怪しいな。今回対策されまくっててかろうじて勝ったって感じだったしな。たぶん次は押し切られるだろう」

 

「3期覇者は未だ、か」

 

「良い線行く奴も居るんだがな。流石に対策されてるところで3期は無理だな」

 

「3期継続王者は未だ、か」

 

「あぁ、お前の爺さん以来一人もいない。近代では唯一無二だな」

 

 歩き出しながら話す。特別展示エリアにはこれまでのグランドマスターの軌跡、歴史、インタビューや様々な記録が展示されていた。彼らが歴史上の人物なのではなく、実在したヒーローである事を証明している。

 

「近代に入れば入るほど育成環境は緩和され、情報は共有されやすくなる。最強だと思われてたモンスターも検証と対策の果てには雑魚扱いされる時も来る。モンスターバトルは近代になればなるほど、頂点に立つのが難しくなると言われてる」

 

「せやろな」

 

 解りやすくゲームの話をしよう。

 

 ランクマッチ初日、強い構築が出てくる。まず間違いなくSNSで曝されるだろう。そうなるとそれに強い構築を作ったやつが上を取り、メタゲームが形成される。

 

 通信技術が発達し、どこにでも人の目があるこの時代において、情報を隠すというのはほぼ不可能に近いものになっている。何かを見せる、というのは知られるということでもあるのだ。

 

「その中で柊剛三は三連覇を成し遂げた。誰もが認める偉業だな」

 

「あのクソジジイがなぁ……」

 

 特別展示には当然ジジイのコーナーもあった。近代で最も偉大なグランドマスターと言われた男。その展示が存在しないはずがなかった。

 

 ジジイの偉業が載ってる。

 

 グランドマスターの連覇。新種の発見。新しいスキルの開発。ダンジョンに侵食された大地の解放……列挙してみれば本当に偉業としか思えないことをやってる。

 

 特にアメリカ南部を崩壊させた黙示録の騎士と呼ばれたモンスター達の討伐は他の人には真似できないと評されてる。

 

 そうやってジジイの記事を見てると、一枚の写真の前で足が止まる。

 

「これは……」

 

「剛三氏の基本構築だな」

 

 写真に写ってるモンスターを見て、声が漏れる。

 

「いや、待って、この構築は知ってる……」

 

 呟きに近い声が漏れた。思い出すように目を閉じて、記憶の中を漁る。ランクマッチで見覚えのある構築だ。誰かが、という訳ではない。比較的に見る構築だった。DLC環境導入前が最も輝いてた時代だったが、それ以降も常に“壁”として存在し続けた。

 

 無印、DLCのない環境においては特にシナジーを持たないが、各々能力が高い為、弱点をカバーしながらスペックの暴力を押し付けて戦う構築―――グッドスタッフと呼ばれる構築だ。下手なシナジーパを構築するよりはこのグッドスタッフを握った方が成果が出るぐらいには強かった。

 

 最終DLCが出て以降は環境に食らいついてはいてもTier1、Tier2辺りをうろつくようになったが、それでもランクマッチに出現しては下手な構築を破壊して行く壁……或いは先生ポジションに立ち続ける優秀な構築だった筈だ。癖がなくて使いやすいという点もあったか。

 

「アストラルドラコ、オリハルコンスライム、イグドラシル、セラフィナ……」

 

「懐かしい名前だな。どれも最近聞かない上に見ないからなぁ……あぁ、また戦いたい……」

 

 懐かしそうに呟く東吾を横に、俺の内心はそんなどころじゃなかった。こんな構築が組めるのは間違いなく俺の様に前世のゲーム内レシピを覚えている人間だけだ。つまり、柊剛三は高確率で俺の様な転生者である可能性が出てきた。

 

 ―――いや、だが待て。本当にそうか?

 

 もし本当に転生者でゲームの内容を知っているのなら、まず間違いなくDLCの回収に走る筈だ。根の国なんて行き方がすごい簡単なのに手つかずでモンスターの発見もされていなかった。ならDLC環境を知らなかったのか? それなら説明がつくか?

 

 いや……DLCを知らなかったにしても、おかしなところはある。

 

 性格の急変。何故ジジイは急に性格が変わった? 頂点に立ってから人が変わったように態度が変化したらしいし。それに遺産継承だ。この事実を知った上で遺産継承の話を持ち出されると、何らかの意図を感じてしょうがない。

 

 或いは。

 

 このレースで、何かをしようとしているのか?

 

「尊、考え込んでどうした?」

 

「いや……強そうだし、どうやって勝とうかと考えてて」

 

「はは、皆やってる事だな。さ、そろそろ次のに行くか」

 

「あ、あぁ……」

 

 駄目だ、答えが出ない。遺産とは本当に金や情報の事なのか? もしかして家族にすら伝えていない財産があるのではないのか? それとも何か……この作り上げた才能の蟲毒の中で磨き上げられた“玉”にしか渡せないものがあるのか?

 

 解らない。

 

 だが解らないものは悩んでいても仕方がない。

 

「……雅人が言ってた通りだな、昔はやるもんなんだな、ジジイ。ちょっとだけ見直したぜ」

 

 振り返り、ジジイの功績に背を向けて歩き出す。確かに重要な事かもしれないが、それよりも大事な事が今は他にある。

 

 特別展示を抜けて一般蔵書エリアに入ったら、懐から愛用の手帳を取り出して中身を確認する。積み重なる記憶をめくるようにページをめくり、降り積もった埃を退けて大事な事を思い出す。そうやって記憶の中から必要な情報を引っ張り出したらゲーム内の情報をリアルに照合する。

 

「モンスターと歴史の棚」

 

「あー……あっちだな」

 

 案内板を確認しつつ広大な図書館内を進む。ちょっとだけ迷いそうになりつつも目的のエリアまで到着する。歴史に関する書籍……というよりはモンスターに関する書籍は人気らしく、近くの読者エリアや棚の間に本を読んでいる人の姿が散見される。

 

「現実に……照合する……確か―――この棚だ」

 

「ふむ、ダンジョンゲートは見えないな」

 

 恐らくここ、と言える棚に到着する。最も古いモンスターに関する歴史の棚。不自然なぐらい周りには人の気配がなく、そして静かだ。ここだけ周囲から切り離されているかのように感じるぐらいには、周りとは違う。

 

「前々から思っていた事だが」

 

「うん」

 

「俺達は遠い昔からモンスターと共に暮らして来た筈なのに……」

 

 東吾が、棚から本を取り出し、確認する。

 

「最も古い、確実な資料があまりにも若い。残りは伝承や神話ばかりになって、実在の証明がない。だというのに誰もそれを疑ったりはしない」

 

「モンスター達が出現したのは別にそんな昔の話じゃないからね。モンスターとダンジョンが出現するのと同時に、全人類の認知が上書きされただけだよ」

 

「へぇ、そうだったのか。1つ賢くなれたな」

 

 棚をつつつつ、と指で背表紙をなぞって行き、1つの本の上で止まる。

 

「あった、鍵だ」

 

「これが? 本に見えるぞ?」

 

「ん」

 

 抜いた本を東吾に渡す。受け取った東吾が本を見て、眉を顰める。

 

「なんだ、この本は。文字が書いてあるのに読めない? いや、読めるけど正しく文字を認識できない。見た事がある知らない文字を見ているような気分だな、これは」

 

「この世界の文字じゃないからね。んー、やっぱ入館許可がないと読めないか。許可があるとこれが鍵になってゲートが開くんだけどね。だけど今はないから読めない。読める状態になってれば許可を得ているって事だよ」

 

 懐から手紙を取り出す。今回の為に事前に書いておいた手紙だ。中身は何度も確認し、読み直している。あまり得意じゃないが……これなら確実に館長に届くだろう。あの人は活字中毒の極みみたいな生き物だし。

 

「手紙を鍵の間に挟み込んで……はい」

 

「……これで終わりか?」

 

 持ってきた手紙を読めない本の間に挟み込んで10秒待つ。その後に本を再び開けば、挟み込んだはずの手紙が消えている。それを東吾に見せてから本棚に本を戻す。

 

「これで終わり」

 

 手紙は間違いなく幻想図書館に届いただろう。館長がそれを読んでどう行動するかを決めるかはまだ少しだけ時間がかかるだろう。早くて明日、場合によっては1週間後。

 

「果報は寝て待てさ」

 

 待ってる間は純粋な観光タイムだ。

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