「―――じゃ、早速ミーティングを始めようか」
場所は変わり部屋に戻る。流石に図書館のもう少し突っ込んだ話をするのにレストランというのはあまり良い場所ではない。泊っているロイヤルスイートに戻り、大きなテーブルの上に日本から持ってきた紙を広げる。
「これは?」
「俺が記憶の中から可能な限り描き出した図書館の図」
「ほほう」
ちょっと大きめの地図みたいにテーブルに広げると、東吾とアーサーがビールを片手にそれぞれテーブルの前に立つ。3人で囲む様にテーブルに集まりながら、俺もコップの中に注いだぶどうジュースを飲む。高いだけあってやっぱり美味しい。
「まず最初に図書館の侵入に関するルールを話すけど、図書館は完全に許可を貰った人間じゃないと中に入れない。新しく入館許可を得るには館長に会う必要がある。中に入るだけなら俺と一緒なら入れるはずだから、そこは気にしなくて良い」
「成程、勝手に入る事は出来ないという事ですね」
「あの鍵、って奴はどうなんだ?」
「アレは館長が現世側に置いてある数多くある入口の1つ。鍵がないと開かない」
ちなみに図書館でのイベントを進めた後は別の“鍵”を貰って自分の牧場から図書館への直通ルートが開通する。俺も出来たらこの直通ルートを日本の我が家に繋げて貰う予定だ。なにせ、図書館は便利だし利用する為に一々イギリスに飛ぶのは非効率極まりない。
なんだかんだで根の国ショートカットも開通出来たし、こっちもさせたいところだ。
「だから目的その1、館長に会う事。俺自身館長に用事があるのもそうだけど、アーサーと東吾の入館許可を得る為に1度は会わないとならない」
「大事」
「とても大事」
うんうん頷く2人は自由に入れる高難易度ダンジョンにずっとときめいているらしい。ちょっとIQ下がってきてない?
「俺の目的は図書館内での特定のアイテムを回収する事になるんだけど……このアイテムの取得が結構な曲者で、その為には図書館を広い範囲で探索しなくちゃならないんだ」
ずずず、とぶどうジュースを飲む。美味ッ!
「まずは入口のある本館。次に別館、そして最後に禁書庫。幻想図書館は大まかに分けるとこの3エリアから構成されている。このうち本館は戦闘行為が禁止されていて、戦う事が出来ないようになっているから注意してくれ」
図書館はちょっと特殊なダンジョンだ。
「図書館は本館、別館、禁書庫の各フロアで絶対に守らなきゃならないルールがある」
「破ると?」
「その場で死ぬ」
「文字通りデスペナルティですか」
これが戦闘中に魔法攻撃をしてはならない、だったらモンスターだけが即死するからまだ被害は小さいだろう。戦闘行為禁止のルールを破った場合、戦闘を指揮、指示する人間も即死出来るのだ。だから絶対にルールを破らないようにしなくてはならない。
「このルールはフロアで変わったりするけど、親切に入る前に提示してあるからしっかり確認しておく事。で、本館は普通の蔵書を公開しているエリアだから普通に本を読むならここになる。別館や禁書庫で解かなきゃいけないギミックのヒントや回答もここに用意してあるから重要度は高い」
「これまでのパターンからすると答えはお前が把握してそうだが?」
「内容が変わってなければね」
場合によっては館長がギミックやクイズ内容を変えているかもしれない。そうだったら少しは苦労するだろう……俺だってゲームの内容を完璧に覚えている訳じゃないし。それでも館長と俺の敵は同じだ。その一点において俺達は完全に味方だと言える。だから意地の悪い事はしないと思うんだよね。
「本館には館長室があるからここに普段館長がいる―――なんて事はない」
「いないんですか」
「いないんです。この図書館、隠し部屋の類がいくつもあってその中のどれかに隠れて本を読むのを趣味にしている奇特な人なので、本館、別館、禁書庫含めて全ての隠し部屋を探す必要があるんだ」
これはゲーム時代の仕様で、館長との初エンカウントはどれかの隠し部屋にランダムで隠れている所を見つけなければならない。ちなみに隠し部屋にもレアアイテムの類は配置されているので、外れ部屋でも徒労という訳じゃない。
「その上で別館に存在するボスモンスターが禁書庫の鍵を握ってるから倒す必要がある。俺が欲しいアイテムは禁書庫の一番奥に存在する。俺には2人程の戦闘力はないから、禁書庫の戦闘面での攻略は完全に任せる事になるけど」
「任せてください」
「それが目的だしな」
「頼もしい事で」
まあ、心配はいらないか。少なくとも雑魚相手なら。ボスの方はちょっとどうなるかは解らないかなあ。
「後はここに出現するモンスターを確保したいのと、図書館では新しい戦闘スタイルが解放出来るから、それを解放させておきたいかな」
「あたらしい」
「せんとうすたいる」
2人が一気に近づいてきた。で? 続きは? みたいな顔でビールを飲んでる。多分今脳内で凄い勢いで新しい構築とかビルドを考えているんだろう。その気持ちは解る。俺もパッチノートが公開された時は死ぬほど計算してた。
「図書館で解放出来る新しいスタイルの“合体魔法”はターン中に発動された特定の組み合わせの魔法を合体させて、新しい魔法を発動させるというコンボ型のシステムが解放出来てぇー」
「くわしく」
やっぱ知能指数下がってない?
「えっとね」
新しい紙を用意する。
「例えば《ファイアーボール》と《アーススパイク》を同じターンに発動させるでしょ? 下位の火+土属性をトリガーに合体魔法《ヴァルカン》が発動するんだ。これは火土の混成属性で属性と耐性系の処理は通常通りね」
「これは魔法が追加で発動する感じなんだね? 消費は?」
「合体魔法の条件が満たされた直後に発動する形。合体魔法の消費コストも最後に発動させたモンスターが支払う形になる」
「おい、ヤバいぞ。これ根本的な戦術が変わるぞ」
「あぁ……今の環境が大きく変わりますよこれは! 合体魔法搭載型の魔型アグロ構築が一気に強くなりますよ」
「あぁ、環境に一気にアグロが増えるぞ……だがアグロが増えるという事はそれに対抗して妨害系を増やしたコントロールが台頭してくるって事だ。尊、合体魔法は中位や上位にも……?」
「うん、あるよ。3種合体魔法とかもあるよ」
「おいおいおいおい」
「興奮で手が震えてきましたよ」
ただのアル中じゃないそれ?
「だがこれで恩恵を受けるのが魔法だけだとバランスが悪いな……?」
「何か……あるんじゃないですか? 物理方面の強化も……!?」
「君らもしかして神に対して語りかけてる?」
じぃ、と見てくる視線にサムズアップで応える。
「あるよ!」
「あったか」
「助かります」
ほっこり。笑顔のように見えて二人共はよ教えろ状態で掴みかかってる。これが信頼できる大人の姿か?
「オーバークリティカルというシステムが解放されて、クリティカル率100%超えると追加でクリティカルが発生するようになるよ」
目の前の紙に、発生したクリティカルに対してクリティカル補正がかかると見せる。つまり雑にダメージがぶっ飛ぶようになるのだ。上手く行けばタンクをワンパン蒸発させる火力が出せるようになる。
ちなみに仕様の話をすると、物理はクリティカルして、魔法はクリティカルがない。そしてクリティカルが発生すると防御力を無視するようになる。
物理は防御で軽減し、魔法は魔防ステで軽減される。
これだけ見ると物理が有利だが、魔法は必中属性持ちで回避が出来ない。
クリティカルはしないが必中の魔法。
回避で攻撃が無力化される可能性があるがパチンコキメて気持ちよくなれる可能性のある物理。
どっちを軸にするかはマスター次第だ。ちなみに最終的にどっちも通したほうが勝ちなクソゲー化するから本当にどっちでも良い。防御とか魔防とかに頭を悩ませるのはタンク担当とS未満だけだ。
Sからはクソゲーのぶつけ合いだぞ。まだバランスとかの話してんの?
「……って、2人とも何してるの?」
「買い占めてる」
「ミコトの話を聞いて値段がインフレしそうな高級スキルカードを買い占めてるんです。協会も商売ですからね、合体魔法とオーバークリティカルが出来るようになった瞬間値上げするでしょうね……」
「あ、値段上げ始めた!! こっちの動きを察知したな? クソッ! 上がり切る前に独占するぞ!」
2人がスキルカードの競り合いで忙しい間に地図のボスの位置をマーキングしておく。別館の中にいるボスは1体、コイツはレベル120。続いて禁書庫にいるボスは全部で3体。2体が120レベルで、最後の1体が150レベル。
図書館の禁書庫は合計で30層にも及ぶ大型ダンジョンだ。下に行けば行くほど空間が狂い、10毎にボスが用意されている形式になっている。つまり10層、20層、そして最下層である30層でボスと戦う事になる。
それぞれのフロアはランダム形成される為、事前にマップを用意する事は不可能だ。その代わりに10層のボスフロアで1層へと帰還する為のワープが設置されている。懐かしいなあ、実装直後の図書館で死ぬほど苦しんだの……。
「では、ある程度事前買い占めが終わった所で今回の大型ダンジョン:幻想図書館の攻略目標を纏めます」
アーサーが仕切る。
「1つ、ミコトの希望するアイテムとモンスターを確保する事。これは情報提供者であり、私達のガイドを務めるミコトの希望なのでマストになります。そもそもこの探索自体ミコトがいなければ成立しない事でもありますからね」
「そうだな、まずそこを忘れちゃならないな」
「前々から不思議だったんだけど」
ん? と2人が此方を向く。
「俺は欲しいアイテムとか遠慮なく要求してるけど2人はそういうの一切口に出さないし、バトルで大体満足するけど……本当にそれで良いのか? なんというか、俺だけ貰いすぎてると思うんだよね、これ」
正直自分に都合が良すぎると言いたい。だがその言葉を受けてアーサーは頭を横に振った。
「いえ、これは正当な権利です。そもそもダンジョンは発見者に対する一定期間の独占権が発生します。最初に発見しているミコトは現在ダンジョン内のアイテムを独占する権利を保有しているんです。これは法律として定められている事です」
「低ランクのダンジョンだとあまり聞かない法だけどな。高ランクのダンジョンになればなる程この法律が効いて来る。Aを超えるダンジョンは数が少なく、取り合いになるのも珍しくはないからな」
えぇ、とアーサーが続く。
「正直こうやって先陣に加われるのは大変名誉な事ですし、貴重な経験です。特にSランク相当のモンスターが野生で出現するダンジョンというのは……ほぼ、大規模災害の様なもので、国家存亡レベルの危機です。ミコト、貴方は理解していないかもしれませんが、根の国を発見した時は地味に国家の危機でしたよ」
そうなの? と東吾に視線を向けると、東吾は頷いた。
「S規模のダンジョンはSランカーでしか攻略出来ない。だがあの根の国のモンスターは非常に理性的で、自分から外に出ようとする事はなかった。おかげで俺達Sランカーは安全に戦闘経験を重ねる事の出来る場所を手に入れた」
この価値が解りますか? と続く。
「安全に、そして自由に戦闘経験を積めるのです。レベル100になる為にはそれに近いレベルのモンスターと戦う必要があります。ですがSランクでの大会や試合というのは数が多くありません、それだけの大量の金が動くからおいそれと開催する事が出来ないからです」
「あったとしても1か月に1回ぐらいだ。それ以外はどうにかして適正レベルのダンジョンを探す必要がある」
「もし、この幻想図書館が本当に貴方の見つけた根の国と同様のダンジョンであれば……イギリスは、安全に経験を積める高レベル用ダンジョンを確保したという事になります。無論、このダンジョンは館長らしき人物がいて、その主に伺いを立てる必要があるでしょう」
ですが、とビールを飲みながらアーサーが説明する。
「これはイギリスの、そしてヨーロッパの高ランクマスターを育てる為の場所が提供されるという事でもあります」
「そっか、新しくSランクに参入してきたマスターが100レベルのモンスターを育ててバトル環境に参入しやすくなるんだ」
「えぇ、ですからレアなアイテム等には惹かれる部分は確かにあります。ですがそれ以上に君を守って、そしてこのダンジョンを理解し、再利用できる常在型のダンジョンとしてこの国に根を下ろして貰う事がとても大事なんです。だから私もトーゴも、戦闘さえできれば満足なんです」
「これは、未来へと向けた投資でもある。将来、より強い奴を生み出し、育つ土壌を作る為のな」
「成程なぁ……」
単純なバトルジャンキーではなく、ちゃんと未来を見据えての行動だったのか。そうなるとノリで突入して東吾と出会わなきゃ死んでたであろう俺の行動がより恥ずかしいものになってくるな……。
「まあ、それはそれとして戦いたいんだけどな。強い相手や未知の相手と」
「はい。強敵と全てを吐き出しきって苦しみながら勝利を掴みたいですね……」
「そっかぁ」
やっぱ見直す必要ないかもしれねぇな……。
その後、図書館の話題で盛り上がってビールが進んでしまった2人がとてもじゃないがダンジョンに行けるコンディションでなくなった為、幻想図書館攻略は1日延期した。