最強以外ありえない   作:てんぞー

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惨めになるから感想戦始めるのやめない!?

「ち、狭すぎる。アーサー! ここじゃ本体を呼び出せないぞ!」

 

「良いよ、子機のままで。エグゼリア、行けるかい?」

 

「無論です、我が王」

 

「ラファエラ、ハーデス」

 

「今回はサポートですね? お任せを」

 

「何時も通りやれば良いんだな?」

 

 オメガは指のスナップで空間に波紋を生み出すとビットの様な装置を呼び出した。エグゼリアは腰に下げた剣を引き抜くと白銀の剣身を晒し額に刃の腹を見せ、その輝きを瞳に刻んで構えた。ラファエラは誰にも手が届くように翼を広げ、僅かに浮かび上がりながら何時も通り構える。最後にハーデスがその身を炎に包み、人の形を失いローブを纏った冥府の炎の化身として死の管理者たる姿をさらす。

 

 どれも歴戦の最終世代モンスター。見た瞬間に全てアンブロシアを食し、レベル上限が110まで拡張されているモンスターだと解る。つまり環境最前線で戦っているガチモンスターだ。そしてそれに相対するのはそれぞれの特徴が違うがメイドたち。

 

 共通しているのはメイド服、そしてその傍らで浮かび上がる魔導書―――或いは本体。

 

 彼女達はこの図書館に納められている魔本、それが図書館の維持と館長へと仕える為に人の形を取っているだけだ。故にその名も“魔本の従僕”になる。モンスターではあるが、非プレイアブルのエネミー専用のちょっとした特殊なモンスターだ。

 

 とはいえ、DLCで出現するモンスターだけはある。

 

 そのレベルは100だ。

 

「先手は貰います」

 

 アーサーが迷う事無くマスタースキルで全体に先制を付与する。速度に関係なく行動がメイドたちを上回る。まるで物理法則を超越するように行動の優先権が出現し、それに割り込む様に手番を消費しないスキルが乱れ打たれる。

 

「せーのっ!」

 

 《無詠唱》は手番を消費せずに即座に詠唱系のスキルを発動できるようにする戦闘1回スキル。

 

 《積層詠唱》は詠唱スタック獲得時に更に追加でスタックを得るオートスキル。

 

 《高速詠唱》は詠唱を3スタック即座に取得する《詠唱》の上位互換スキル。

 

 そこにフィールドとしての《幻想図書館》の効果が発動する。自動的に戦闘参加している全てのキャラクターが詠唱のスタックを得る。これは当然エグゼリアやオメガの様な詠唱活用できないキャラにも発動する強制効果だ。

 

 これにより4人の魔本の従僕(メイド)は一瞬で6スタックの詠唱を獲得した。雅人くんが苦しみながら必死に稼いだ詠唱がこうも一瞬で溜まってしまう。やっぱり高レベル帯は動き出しがインチキ臭いよなぁ。

 

「さて、1手見るかアーサー?」

 

「そうですね、防御を固めましょうか」

 

「悪い癖ですよ、お二方」

 

「痛い目見るのは俺様なんだけどなあ」

 

 ラファエラが回復魔法を発動させる。限界を超えて味方全員のHPが回復し、余剰回復分が追加のHPとして機能する。古今東西、あらゆるゲームで最強と呼ばれるタイプの回復能力だ。ボス戦を意識したヒーラーは必ずこの手のオーバーヒール能力を入れている。東吾も今回はボス戦を意識してスキルビルドをしているのだろう。

 

「防御を固めるぞ」

 

 喋る度にハーデスの炎が揺らめく。味方全体を対象として魔法防御力が上昇し、オメガが全体を対象にシールドを付与する。全体に対するダメージカットが付与され、割合でダメージが軽減されるようになる。最後にエグゼリアが更に剣気を高め、剣の鋭さを上げる。

 

 漸く付与された先制効果に従僕たちの動きが追い付く。

 

「妨害しない……? 馬鹿にして……!」

 

「落ち着いて先輩!」

 

「そうっすよ! アイツら滅茶苦茶強いっすよ! 明らかに歴戦の勇士って感じっす!」

 

「ですね……ちらほら見た顔もあります。無機生命の決戦機、冥府の管理者、天界の慈悲……この異郷にて再び目にする日が来るとは思いませんでしたね……」

 

 《高速詠唱》×4。動きは完全にランプの序盤の動きのそれだ。だがこれで10スタック溜まった。ここまで来ると防御札込みでも即死出来るレベルの魔法が飛んでくる。当然、防御を固めている相手だと流石に効力は半減する。

 

 だが、この相手にここまでスタックを溜めると相当ヤバイ事になる。

 

「まあ、オメガいるから大丈夫か……」

 

「んー? なんか後ろから不穏な言葉が聞こえたんだがー?」

 

 全ての行動が終了し、ターンが回る―――少なくとも俺の視界にはそう映る。だが目の前の者達にとっては違うのだろう。ターンが回る間も行動は始まり、連鎖する。

 

「エグゼリア」

 

「御意に」

 

 高められた剣気は剣光へと変換され、特大の斬撃となってメイドたちに襲い掛かる。耐久力の低いモンスターであれば即座に蒸発するだけの威力が込められた攻撃、耐久型ではないモンスターに耐えられる筈もない。魔本の従僕では耐えきれない攻撃だ。

 

 だけど彼女達はそれを待っていたのを、俺は知っている。

 

「とぅー」

 

「来ました!」

 

 2人を庇う様に2人が前に出た。エグゼリアからの斬撃を受けて当然のように消し飛び、体が分解されて無数のページへと姿は変わり、床に魔本が落ちる。だがその瞬間、犠牲になったメイドたちは体から光を放ち、スタックされた詠唱を全て残された2人へと継承した。

 

 《献身》と《ファイナルギフト》のコンボ。バフを継承し、受け取った相手の行動速度を最高に変化する。これによって2人のメイドの保有スタック数が20になった。

 

 ちょっとした馬鹿な数字になった。

 

「そう来るかぁ」

 

「これを喰らって……出て行け!!」

 

 《ダブルマジック》。雅人戦でも見た1度に魔法攻撃を2つ使う事が出来るようになるスキル。雅人戦で見たそれがまず入る。《魔道の極意》による消費詠唱のカットが入り、上位魔法が放たれる。

 

「《ディストーション》!」

 

「初見の魔法っ!」

 

「目を輝かせるなよ! 食らうのは俺様なんだから―――痛ッッ!!」

 

 《ディストーション》はこのDLCで追加された新しいインチキ魔法だ。消費詠唱10という重いコストと引き換えに放たれるのは単体を対象としたディスペル効果付きの上位攻撃魔法。攻撃しながら魔法効果を解除できるという利便性から永遠にランクマ界の癌として魔法構築と癒着し続ける事になる戦犯魔法その1になる。

 

 エグゼリアへと向けられたのを自動的にオメガが庇う。

 

 1発目で増強HPが消える。シールドが剥がれる。防バフが剥がれる。積み重ねた準備が1発で全部剥がれるから何度見ても嫌な魔法だ。それでも余裕の表情を見せるオメガに、2発目が飛ぶ。

 

「痛ぇ」

 

 空間を歪めて粉砕する魔法にオメガの首が捻じ曲がり、片腕が砕ける。その内側に込められた機構が露わに、無機生命―――即ち命ある機械である事を証明するように中身が晒される。だがまだ死なない。減った体力は6割程度。上位魔法を喰らってもなお倒れないのは最終世代の中でも耐久力に特化してるタンク用モンスターの証。

 

「そしてこれが魔法を混ぜ合わせ昇華する、合体魔法の極意!」

 

 アーサーと東吾が無言でスマホで動画を撮影しだす。これたぶん、後で見返す為の資料だな……。

 

「《ディストーション》+《ディストーション》で《カオスインパクト》!」

 

「オメガさん」

 

「いや、回復はいらねぇ。俺様だけで受けるぜ」

 

 オメガが全体攻撃を庇う。全体攻撃を受ける分、ダメージがそれだけ跳ね上がり、オメガの肉体が木っ端微塵に砕け散る。バラバラになったパーツが辺りに散乱し、その死を確定させる―――事はない。当然のように蘇生スキルが発動し、空間を割って新しいオメガのボディが出現する。

 

「―――アップデート完了、耐性を獲得。ふぅ、やっぱ子機は脆すぎてダメだな」

 

 機械系モンスターのリレイズの扱いってこういう感じなんだなあ……というちょっとした新鮮な気持ちでオメガの復活を見る。恐らくは蘇生に関連した耐性取得スキルで攻撃に対する耐性も獲得している。属性か、或いは魔法耐性か。どちらにしろこれでオメガは死に辛くなった。

 

 だがまだ相手の行動は終わってない。

 

「《メテオフォール》! そして《ダイヤモンドダスト》!」

 

 当然、属性を変えて全体魔法を連打してくる。隕石が降り注ぎ、それをオメガが受ける。全員分のダメージを引き受けても耐性を取得しているからか死ぬことはなく、続く全体魔法に対しては差し込みで軽減スキルが入る。全体のダメージがカットされて、魔法が合体する。

 

「これで……《クレイジープリズマ》!」

 

「庇って無敵! 俺様最強ッ!」

 

 乱反射する結晶体が全てのモンスターを薙ぎ払う様に空間を削ぐが、それを空間を圧縮する事でオメガが一人で受け、無敵化スキルを切る事でそのまま乗り切る。これで連続魔法コンボを乗り切った。

 

「これで全部吐き出し―――」

 

「―――いや、まだだ」

 

 それに東吾が目ざとく気づいた。合体魔法と合体魔法の残滓が融合するのを。混沌の破壊衝撃とプリズムの乱舞が融合し、最上位の合体魔法へと変貌する。空間に亀裂が走る。防御する事の出来ない、庇う事の出来ない殺人的衝撃が辺りを襲う。

 

 それから逃げるように俺とアーサーと東吾が全力疾走で現場から逃げる。

 

「ヤバイヤバイ! こっちに届く届く!! 退避! 退避―――!」

 

「おぉ、死ぬ死ぬ。流石に死ぬ。おい、俺を盾にするな」

 

「おい、これ防げねぇぞアーサー!!! どうして妨害しなかった!?」

 

「はは、いやあ、コンボ完走する所を見てみたいと思ったのが仇になりそうですね。ふふ」

 

「ふふ、ではありませんが……?」

 

 漫才に走る此方を無視して2人のメイドが手を掲げ、それをパンと合わせて魔法の融合が完了する。

 

「震えて砕けなさい!」

 

「《次元崩壊》」

 

 最上級の魔法が放たれる。防ぐ手段はない。最上位の魔法にもなれば貫通効果が付与され、生半可な妨害も通じなくなる。ここまで完成されると《パーフェクトキャンセラー》の適応範囲外になる。つまり止める手段はない。

 

 だからこそ、死神系統のスキルが輝く。

 

「《明日に死す》」

 

 ハーデスのスキルが差し込まれ、魔法が着弾する。オメガを含むすべてのモンスターのHPが消し飛び、0になる。間違いなく死亡判定の出るダメージだ、肉体なんてものは残らない。

 

 だがそれでもモンスター達は死んだまま生きているというのを、本館の影から伺う様に俺達は見た。

 

「数秒間の間、死んだまま行動を可能とするスキルだ。無敵貫通や蘇生阻害に引っかからない死神種専用のスキルだ」

 

 処理的には次のターン開始時までHP0のまま死亡しないというだけのスキルだ。普通に考えればターン開始時に死ぬだけだが、それまでに回復処理が挟まれば問題はない。そして相手は渾身の魔法を完成させてスタックを全て吐き出した直後。

 

 リソースは残っていない。

 

 それに対してこっちはオメガが多少過労死している程度。ラファエラはまだ動いておらず、ヒールが差し込める状態。

 

 決着は、あっさりとついた。魔法を防がれた時点で魔本の従僕たちに勝ち目は残されていなかった。ラファエラが回復し、エグゼリアが1体ずつ殴り倒して戦闘は順当に勝利して終わった。終わってみれば実にあっけない勝利だった。

 

 最後の一閃が振るわれ、本に戻ったメイドたちが床に落ちた。戦闘が終わったので額の汗を拭いながら元の場所へと戻って来る。

 

「流石に妨害も耐久もなしだとそこまで苦労はしないな」

 

「あの魔法はインチキの塊でしたけどね」

 

「ディスペ付きの高威力単体魔法って許されるんだな……という純粋な驚きがあったな」

 

「安心してよ、これから先ずっと見ていくことになるから」

 

 東吾とアーサーが滅茶苦茶嫌そうな顔をする。バフ、或いは積みはバトルにおいてとても重要な要素だ。火力、耐久、バトルの根幹を担う部分に干渉し、戦闘の独自性を生み出す部分でもある。

 

 それが火力出しつつリセットできるならまあまあイヤな顔もする。だが《ディストーション》は上位魔法だから10スタック要求される関係上、今回みたいな構築じゃないと即座にぶっ放すことは出来ないだろう。

 

 ただ、増えるディスペル手段に対応する為に強化解除耐性とかいう要素も導入される。

 

 良くも悪くも図書館は本当に環境を変えるDLCだったのだ。

 

『うぅ……負けたぁ……』

 

 悔しそうな声が床に落ちている魔本からする。本来の姿へと戻されたメイド達は負けた影響もあり人間の姿を保つ事さえできなくなってる。

 

 ずっと文句を言ってる本を持ち上げる。

 

「どうよ、案外外の人間も強いだろ」

 

「いや、俺達が強いんじゃない。そいつが弱すぎるんだ。高性能なスキルに胡座をかいてタクティクス面が疎かだったな」

 

「そうですね、戦術面をもっと勉強して欲しかったですね。少なくとも大砲役は1人で十分でした。耐久と妨害枠を入れて犠牲役を1人にしたほうがもっと綺麗に纏まると思いますよ」

 

『惨めになるから感想戦始めるのやめない!?』

 

 手元の本から半ギレの声が飛ぶ。

 

 東吾とアーサーは早速戦闘中に録画した映像を出して解析と感想戦に入ってる。これ、新しいスキル! とか言ってキャッキャッしてる姿は完全に新しい玩具を手に入れた中学生と変わらなかった。

 

『はあ……呆れた。もういいわよ。先に進みなさい……ここにあるものは館長がアンタ達みたいなのが現れたときに用意したものだから遠慮なく持っていきなさい……』

 

 一拍を置き。

 

『どうせ……勝てないんだから』

 

「ワールドイーターにか? それともあの女か?」

 

 俺の返答に魔本が息を呑む。

 

『アンタ……何者……!? いえ、そもそも知ってて言ってるの!? あの怪物の事を』

 

 知ってる。知ってるしゲーム本編で倒してる。だから倒せると知ってる。でもそれを口にしたところで伝わるものはなにもないし、信じられることもない。だから黙って、本を床に戻す。

 

『いいわ……どちらにせよ私は止められなかったわ……反対なのは別に私一人じゃないんだし……どうせ、他のやつに止められるわ』

 

 そう言うともう話すことはないのか、魔本は黙り込んだ。結局のところ、最後に勝つ為には今やれることは全部やらなきゃならないのだ。最強を目指す為にも、躊躇や寄り道している暇はない。何時、あの女が目覚めて動き出すのかは解らないのだ。

 

 今は大丈夫だと言って安心している暇はない。

 

「ふぅ、俺様大活躍だったな……ち、さっきのは死んだときに吹っ飛んじまったか」

 

 そう言うと棒付きキャンディを口の中にオメガが放り込む。別館も飲食禁止ルールあるけど引っかからないんだ、アレ……。

 

 回復範囲から漏れて死んでいるララの蘇生をラファエラに頼みつつ、オメガに近づく。

 

「なあ、オメガくん」

 

「ん? なんだよ。俺様のカッコ良さに惚れたか? まあ、待ってな……本体の方が100倍かっけぇし強いからよ」

 

「いや、それ食べてて平気?」

 

 口元を指差すとオメガがああ、と声を零す。

 

「無機生命に飲食概念はないからセーフなんだろ。これもキャラ付けで咥えてるだけだしな」

 

 ありなんだ。それ。

 

 懐からキャラメルを取り出し、それを蘇生されたララの口に投げ込む。死んだ。

 

 キャラメルをオメガの口の中に投げ込んだ。

 

「いや、だから俺は無機生命ビ―――システム、オフライン。機能停止します」

 

「あ、死亡判定出た」

 

「棒付きキャンディは良いのにキャラメルはダメなのか……?」

 

「飲食の自認があるかどうかの違いなのかこれ? ちょっと検証したくなってきたな」

 

「なんかルールを悪用できそうな気配もありますが、悪用した瞬間天罰食らいそうな気もするんですよね」

 

 ありうる。

 

 死んでいるオメガとララの横で俺達はキャッキャッと騒ぎながら図書館の探索を再開する事にした。

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