「ここは石像が動く。はい、隠し部屋」
「罠っすね。うおっ、ブラックホールに飲み込まれ―――」
「あ、《トラップガード》で被害は全部ララが請け負うから心配しなくていいよ。罠に関してはダメコンに特化してるから」
隠し部屋の中に発生した侵入者撃退用の小型ブラックホールが発生し、ララのみがスパゲッティの様に伸びながら飲み込まれて消滅した。消えたあたりの無を掴んでラファエラの方へと向けると、ラファエラが蘇生魔法を使ってララが無から帰還してくる。
そのまま素早く部屋の中に入り、スキルカードを数枚回収したら本を開き、そこに書いてある内容をスマホで撮影する。
「これは後で使う暗号の答えなのでスマホで記録しておく、っと。良し、この部屋は終わり」
「次の罠踏んでおくっスね」
シンクロで共有した情報をララが読み取って次の罠へと移動、起動、死亡する。韻を踏んだリズミカルな死に誰もが夢中になる。夢中になっている間にサクッとシンクロを利用した気配探知を活用し、引っ掛かったモンスターの存在をスマホのマップにマーキング。
「これ、今なら不意が打てるよ。まだ先は長いし先手取って処理お勧め」
「了解。背面を取りましょうか」
「雑魚が相手ならさっさと終わらせるか」
モンスターを連れて東吾たちが背面を取りに行く。バックアタックで先手を取り、相手よりも早くコンボを決めて戦闘を終了させる。図書館はそのコンセプト上“飲食禁止”のルールが広く設定されている。これはゲーム的にみると回復アイテムの使用禁止に当たる。
ポーション、クッキー、薬草、薬……回復アイテムの多くは飲食する形になっている。その影響で図書館内での戦闘は消耗を抑えない限り、アイテムによる回復が出来なくて段々とジリ貧になって行く。その為にバックアタック率を上げて、消耗せずに戦闘を終える事が大事になる。
東吾もアーサーも一通り雑魚を確認すれば満足し、次を求めて戦闘を効率化してくれる。ここら辺の動きは完全にプロのそれで、粛々と戦闘処理を行う姿に油断や慢心の類は存在しない。
だから2人が己の役割を全うするように、俺もやるべき事を行う。
記憶から描き出したマップを現実へと照合し、ゲームとリアルの差異を修正する。そして修正した上で三次元的にマップの構造を脳内で出力して、ルートと成すべき事を構築する。現状、このダンジョンの攻略を最も効率的に行えるのが俺である以上、しっかりとその仕事を果たすべきなのだ。
「この本棚にある本を調べると……うし、《幻想図書館》3枚目ゲット。アーサーと東吾に1枚ずつ配っておくね」
「ありがとうございます」
「詠唱加速は普通に使い道があるからな……低レベル帯で考えても《詠唱》を使って蓄積する時間が半減するからな。ランプ序盤加速の救世主になれるかもしれん」
魔型モンスターを採用するかどうかは別として、構築を頭の中で考えるのは楽しい。2人の思案する表情に良く解るよ、と頷きながらララを進ませて殺して蘇生して先頭を歩かせる。別館1階は確かに広いが、そこまで迷路のような構造にはなっていない。
禁書庫と比べればだいぶ素直な構造になっている。館長を探して隠し部屋を探す方が面倒なぐらいだ。だが別館1階の隠し部屋に居ない事が確認できれば、必要なアイテムだけ回収して2階へと上がる。
2階へと上がった所で壁には新しい看板がかかっている。
「湿気に注意? 飛び跳ね禁止?」
「水属性禁止フロアだよ。水属性攻撃を発動するとペナルティで発動って事。後ついでに飛行禁止かなこれは」
「今回のパーティーにはあまり影響のない縛りだな」
「……炎禁止が出たら私は死ぬのか?」
全員の視線がハーデスに向けられた。事実上回復アイテム禁止のルールでキャラメルを食ったオメガが死亡した。じゃあ全身炎のハーデスも死ぬのでは……? その気付きに俺達は静かにハーデスに合掌するが、根本的な解決方法はない。死んでくれ。
「省エネフォルムを今のうちに開発しておくか……」
厳しい現実を前に努力を積み重ねるハーデスはさておき、2階へと上がると10メートルを超える本棚がまるで壁の様に並んでいる。本棚の迷路、という奴だろう。入り組んだ本棚が侵入者を惑わすゲーム界のあるあるダンジョンだ。
空を飛べれば簡単にクリアできるが、そうすると即死する。普通に歩いて攻略しろ、という話だ。
まあ、こっちにはダンジョンマップを脳内に叩き込んである俺がいる。
迷路は迷う事無く攻略出来る。
「行き止まりにアイテムとヒントがあるからそれを回収しつつ3階に向かうよ。2階は隠し部屋の類はないから素早く抜けられると思う」
「了解、了解」
「じゃあ逝くっすよー」
てとてとてと。
ララは歩いた。
罠を踏んだ。
スプリング床の罠だ! ララは天井へと向かって射出されながらルールを破った罰として飛び上がり死した。死体が空から降ってきた。それを見てラファエラがララを蘇生し、スプリング床の上で蘇生されたララが空へと向かって再び射出され、死亡した。
「ご、ごめんなさい、そんな事になるなんて思わず……!」
「解除しないと進めないタイプの罠か」
「エグゼリア、ここで一番《技量》のステータスが高いのは貴方でしょう、解除をお願いします」
「はい、これお守りのララ。解除に失敗したら盾に使って。罠を吸い込んでくれるから」
エグゼリアに渡された蘇生されたばかりのララがサムズアップを浮かべ、本当にこれで良いのか……? という視線をエグゼリアが向けて来る。だけどこれが主にララの仕事で、全員の命をこれで預かっているので正しいのだ。
エグゼリアが罠の解除に挑む。成功率は80%ぐらい。
失敗した。
「あ」
「うっす」
ララが罠を請け負って再び空を飛んだ。
また死んだ。
死体になって降って来た。蘇った。
「じゃあ、リトライっすね」
「効率的なのは解るんだけど、なんか見てると心が痛くなってくるなこれ」
「傍目に見ると完全に動物虐待ですからねこれ」
エグゼリアが物凄い申し訳ない表情でララを抱えると、再び罠の解除に挑み……今度は成功した。ララが罠を全て吸い込んでくれる関係上、ララを犠牲にし続ければどんな罠でも成功するまで解除に挑戦する事が出来るのだ。
罠発見と感知と盾、最後にドロップ関係のスキル。それだけを限界まで詰め込んだのが対罠ダメコン特化ラッキーラビット、ララである。冗談でもなんでもなく、ダンジョン探索における人権キャラクターなのだ。
「人権は持ってないんっすけどね」
「照れながら言う所かそれ……?」
「外の人権団体が聞いたら発狂しそうな光景ですよね」
「自分以外の為に発狂出来るなんて余程感受性豊かな人たちなんすね」
いやあ……まあ……そういうもんなので……。
スプリング床が解除されたので先に進み、行き止まりでアイテムを回収しつつ曲がり角に潜んでいるモンスターを此方で先に捕捉し、奇襲を仕掛けて殲滅する。サクサクと進めば台座の上に本が置かれている所までやって来る。これは先に進む為のギミックだ。
「えーと、このギミックは欠けてる文章を修正すれば良かったんだっけな? 確か創世神話に関する記録だったな、これ」
「……」
モンスター達が俺の呟きに反応するが、言葉を口にしない。地球に存在するのになぜ知っているのか、という疑問に彼らは触れようとはしない。触れた所で意味がないのか、或いは本当は興味がないのか。どちらにしろ、興味を持つのはそのマスターたちの方だ。
「大まかに察する所はありますが……この創世神話とは地球の事ではないですよね?」
「そうだよー。
文章を完成させれば本が自動的に閉じる。本の表紙から紋章が浮かび上がり、砕ける。
それに合わせて2階のどこかで扉の開く音がした。
「良し、これで3階への扉が開いた。もうちょっとアイテム回収したら上に行こう。確かまだ《パーフェクトキャンセラー》が別の本棚に、ギミック解いて出現する宝箱の中に《リミットレス》が入ってた筈」
《リミットレス》は戦闘開始時に自身に与ダメージを上昇させるバフを付与するスキルだ。通常のバフとは違う別枠のバフに入る与ダメ上昇バフは物理と魔法、両方に対して効果がある。根本的にバフは別枠を並べる方が総合的な倍率は高くなる為、アタッカー用に1枚は確保しておきたいスキルだ。
最終的に“歌姫”でここら辺はガンガン付与する予定だが終盤になると使わなくなるから、Aまでの繋ぎ用のスキルになる。
歩き出す。
「ミコト、彼の世界は滅びたのですか?」
「滅びたよ。全能の王が……つまり創造神が死亡したんだ。維持神でもあったから世界に終末期が訪れてゆっくりと、着実に、どうしようもない現実と一緒に滅んだよ」
この話を始めた瞬間モンスター達が……特にオメガとラファエラの表情が曇る。そう言えば君たち所属としては滅茶苦茶そっちに関わりのあるモンスターだったね。オメガのフレーバーテキストはなんだっけなあ、と思い出そうとして……まあ、止める。
無機生命の決戦機だ。それが今、ここにある。
その事実はあまり掘り返す内容でもない。
「まあ、楽しい話じゃないよ。館長が全部説明してくれると思うけど、ヤバイ奴がこの世界にいるんだよね」
「―――ワールドイーターって奴か」
1階でのメイドとの会話に出てきた名前を、東吾は拾っていた。ワールドイーター、世界を喰らう化け物。世界を滅ぼした存在の1つであり、最悪の敵でもある。神を食い殺したのもコイツだ。まあ、その前に全ての元凶とかいうクソ女がいるのだが。ヘイト9割はコイツが担ってる。
早く死んでほしい。なるべく死んでほしい。生きていてほしくない。自分とは関係のない場所で勝手に死んでいて欲しい。
これがあらゆるユーザーからの感想である。俺もそう思う。関わらないで死ぬのならそれが1番。でもたぶん無理だ。アイツはこの世界では俺しか殺せないだろう。少なくとも俺抜きでDLCダンジョンを見つけられていない以上、自然な勝利を求めるのは不可能だろう。
と、そこでモンスターの接近を感知する。ギミックを解いた事に連動してモンスターが出現したらしい。真っすぐ此方へと向かってきているのを感知する。
「モンスターがこっちに向かってきてる戦闘ん!? う、うわあああああ―――!?」
「ミコト!?」
「どうしたミコト?」
感知したモンスターが何なのかを調べようとして、その思考に触れた瞬間何が現れたのかを察知し、一瞬で刺激されたトラウマに体が震え、発狂する。やだ! コイツ二度と見たくない!! この害悪構築絶対に見たくないのに!!!
悲鳴を上げながら後ずさる。そうすると奥の方からモンスターが出現した。
「―――あら、レディを前に悲鳴を上げるなんて失礼ね」
「少女? いや、よく見ると球体関節ですね……」
「それに横のは……ん!?」
「アッハ! 君みたいな醜い人形が現れたのなら誰だってビックリ……サ!」
「トーゴ? どうしたんですか急に顔を青くして」
少女、人形、それに合わせて青い鳥と執事が現れた。
「こんにちわ、皆様方。ゲストの皆様を最大限歓迎させていただく特別コースにございます」
執事の姿をした魔本の従僕が優雅な礼を取り、戦闘準備が整う。顔を青くした東吾と発狂している俺を背にアーサーが戦闘態勢に入る。
アリスLv100が現れた!
嘘つき人形Lv100が現れた!
幸せの青い鳥Lv100が現れた!
魔本の従僕Lv100が現れた!
「お茶会には相応のドレスコードが求められるわ」
アリス《ドレスコード》、味方のスキルが封印された。
ラファエラの《フルケア》《ピュリファイ》が封印された!
オメガの《自己改造》《再起動》が封印された!
ハーデスの《明日に死す》《パーフェクトキャンセラー》が封印された!
エグゼリアの《聖剣技》《無限覚醒》が封印された!
「殴られたらあっさり死んじゃうよ~」
嘘つき人形は耐性を偽った!
幸せの青い鳥が幸運を運んできた! 魔本の従僕の会心率+100%@3ターン!
「あ―――!! やだやだやだ―――! 見たくない!! またお前の顔を見たくない!! 見たくない―――!! こっちに来るなぁあああ―――!!」
「?????」
「わ、わぁ……わぁぁ……」
アリスの登場でコアスキルが封印されて死滅し、嘘つき人形が耐性偽装を行ったうえで味方を庇い、幸せの青い鳥が会心関係のバフでオーバークリティカルの倍率を馬鹿増やす。そして最後に残されたアタッカーで素早い連撃系の物理攻撃でOC連打のダメージを叩き出す。
下手なボスよりもよっぽど極悪で強い雑魚が出現してしまった。場合によってはボスすらロック盤面で封殺する程の邪悪構築、それがWクソボケカス人形構築。
別名、極限ストレス。
恐怖で震える中、図書館屈指の殺意が襲い掛かって来る。
「図書館へようこそ―――歓迎します、盛大に」