「ご堪能……いただけましたかな?」
「堪能できるわけがねぇだろボケカス!! 頭腐ってるのか!?」
「これを楽しめる奴イカレてるんだよ!! ストレスだけ押し付けやがって!!」
「率直に言って死んでほしいです」
3人全員で中指を突き立てながら魔本の姿に戻る従僕を罵る。カス幼女もカス人形もカス鳥も全部殺しきったが、凄まじい疲労感が残った。それだけアリスというモンスターを使ったロック盤面は酷かった。
アリスによってコアスキルを封じられた状態で嘘つき人形がタンクに回り、反転ライフでダメージを受けても全く沈まなくなる。対策用のラファエラはコアスキルが封じられているので無力、エグゼリアも上手く火力が出せないから中々裏に攻撃を届かせられない。
その上で青い鳥と魔本のオーバークリティカルコンボだ。
「成程、オーバークリティカルは継続火力でひたすら盤面に圧力をかけ続けるのか……」
「そうなんだよね、クリバフは息が長いから合体魔法とは違ってずっと火力が継続するんだよね。しかも最低で4倍ダメージ、クリ判定で防御無視が入る。ダメカじゃないと耐えられないのがずーっと続く」
「お疲れ様です、オメガ……良く耐えてくれました」
「耐えてないからな? 何度も死んだからな?」
死に芸後輩っすか? という視線をララがオメガに向けてる。
アリスと嘘つき人形でロック盤面を形成し、その裏で青い鳥がクリ系バフを与え、4倍火力を毎ターン連打してくる魔本の従僕……控えめに言って地獄みたいな状況だった。だがハーデスが詰み対策に搭載してたDoT系付与スキルを使ってアリスを削り、そこから何とか倒した。
20ターン以上の時間をかけて。ちなみに普通の戦闘は長くても大体10ターン以内に終わる。
激戦だった。
したくもない激戦だった。今思えば発狂してないで《ドレスコード》に《パーフェクトキャンセラー》叩き込んでおけばここまで苦戦する事もなかった。アリスロックは初手でこれを切れるかどうかで変わるって事を覚えていた筈なのに、どうして……。
「な、ナーフ後アリスで良かった……」
「あら、オリジンの方を知ってるの? オリジンの方は世界と一緒に死んでしまったから今のアリスはこの程度の力しか残ってないのよ……」
ナーフってそういう設定なんだ……ぼろ雑巾になって床に転がってるアリスから楽しそうな声がし、やがて消えた。完全に死亡したらしい。改めてナーフ前のスキル重複可能だった時の仕様は頭がおかしかった。もう二度と見たくない。
「ちょっと、タンマ」
「休憩……しませんか……」
「うん……あ、ちょっと待って、これ消えてねぇな」
てっぽてっぽと近づいて倒れているアリス人形を拾い上げる。消えてない辺りを見るとドロップアイテムとして固定化されたらしい。これを疲れ果てている2人に見せる。
「童話系Ax童話系Aの合体でアリス作れるアイテム出たけど欲しい人いる?」
一瞬で疲れが吹き飛んだ成人男性2人の背筋がびしっと真っすぐになり、余裕のキメ顔を作った。
「滅茶苦茶欲しいが?」
「構築に入るかどうかは別として作りたいですね」
「じゃあ《幻想図書館》の様に共有財産に突っ込んで3個揃ったら配布、揃わなかったらじゃんけんで」
「異議なし」
意思が統一された所でマップを確認し、3階に上がった所直ぐに休憩室があるのを確認する。ぴょんぴょん跳ねたララが階段付近であの世まで跳んで行ったのを回収しつつ階段を登り切り、ギミックや回収を一旦忘れて休憩室の中へと流れ込む。
別館を1階2階と攻略してきたが、気づけば既に4時間近くダンジョンの中を潜っている。ルールを破れば死ぬ、というのは想像以上に無意識にストレスとして働きかけている所にアリスロックで地獄を見た。流石にここで休憩しないとミスが怖い。
休憩室に入り、そこにモンスターなどがいないのを確認したら椅子やソファの類に座り込み、休憩に入る。
「ふぅ―――」
「流石に少し疲れたな」
「ですね。ここで一旦リフレッシュしておきましょう」
「お茶を出しますね」
持ってきた荷物の中からラファエラが魔法瓶を取り出し、コップにハーブティーを注ぐ。休憩室の中に安らかな香りが広がって行く。
「どうぞ、先のことを考えて休んでください」
「あざす」
俺もラファエラからハーブティーを受け取り口をつける。飲むとやんわりと熱が体に広がり、疲れが溶けてゆく気がする。ついでにホテルで用意してもらった軽食を取り出しテーブルに広げて摘まむ。
休憩室は意図的に用意された聖域だ。ここでなら回復やパーティの変更ができる。
「ふぅ、難敵だったな……」
「ですね……耐久力があまり高く無くて助かりました」
実はナーフ前は耐久力普通にあったんですよ。ナーフで《ドレスコード》の重複、耐久力、技幅が減らされて今のスキル封印特化へと変わったのだ。
庇う貫通があればあっさり殺せるから対策出来てるかどうかなんだよね。少し前に見た大型の合体魔法は貫通効果あったし。出来てないなら死ぬしかない。
今回は東吾が詰み防止用に積んでたスキルに感謝だ。
「別館は5階までだ。そこでボスと戦って禁書庫へと入れるようになる。今は丁度半分……ってところかな」
「事前のミーティングでは本番は禁書庫から、と言ってましたね? これは思ってたよりも時間がかかりそうですね」
「現実時間だと2日が経過してるか……」
「ダンジョンは深部に近づけば近づくほど時間の流れが狂いだします。これはヤバいかもしれませんよ」
俺たちは顔を見合わせて頷く。
―――クリスマスが……!
「妻と娘にはクリスマスまでには帰ると約束してる……」
「私もクリスマスは家族と過ごす予定です」
「クリスマスまでに帰れなかったら婚約者が拗ねるぞ」
俺達は基本的に女性陣に勝てない。共通点を見出し、友情に涙を流しながら握手を交わす。クリスマス、それだ。それが俺たちの勝手に設定されているタイムリミットだ。政府だって道路封鎖を永遠に出来るわけじゃないのだ。
エネルギー補給しながら一息ついて、リラックスする。
多くの人は勘違いしてるが、人は無意識的にストレスを受け続けてる。異なる環境、異なる状況、それらに晒され続けると人は無意識のストレスを受けて疲弊し続ける。
そして人間が受ける最大のストレスとは死、だ。
死ぬかもしれない。その可能性が常にストレスを与えてる。俺は別として、アーサーや東吾の様に死を克服してない、悟りを得てない人間はどれだけ精神が強靭でも、少しずつ摩耗してゆく。
だからこそこうやって休息を挟むことは大事なのだ。
「よお、ちょっといいか」
「ん? オメガくん?」
「こっち来いこっちこっち」
部屋の隅に呼ばれるので、オメガに近づくと他のモンスターもやってきて軽い壁ができる。広げられたラファエラの翼からオメガが顔を出す。
「あ、お前らはこっちくるなよ! 内緒話だからな!!」
「聞き耳を立てるなよ」
「覗き見厳禁です」
成人男性共は興味がないと言わんばかりに手をひらひらとする。それを確認してからオメガは口を開く。
「……で、お前はどれだ?」
「どれ?」
「預言者? 予知能力者? それとも……こっちで生まれ直すことに成功したのか? どうなんだそこら辺?」
「あー……ごめん、そういう類のじゃないんだ。期待させてごめん。俺は知ってるだけの人間だから」
「そういう感じのか……」
「偶にあるやつだな」
あるんだ。
「……どこまで理解してる?」
「下に隔離されてるの、口でしょ?」
「マジモンかぁ」
「運が回ってきたな」
「ワンチャンあるか……?」
「ですが相手が相手ですし……」
モンスターたちの視線が向けられ、良し! という声が響く。
「判断は館長に任せるってことで!」
「解散!」
「彼の賢者であれば判断を間違えないでしょう」
「うむ」
「今、本人物凄いプレッシャーかけられてて苦しんでない……?」
気にすることなく解散するモンスター達。休みが必要なのはモンスターも変わりはしない。その中で、オメガが振り返ってくる。
「そうそう、戦えてないことを気にする必要はないぜ。お前はお前の役割を果たしてる。戦争ってのはそういうもんだろ?」
手を振って離れたオメガは部屋の隅でスリープモードに入った。それを見届けてから軽く息を吐く。まあ、皆俺よりも年上だしなぁ。中身を見透かされてる気がする。
まあ、俺浅いし。
「結局、何の話だったんすか、これ」
ただ1匹、ララだけ何も理解出来てないのが可愛いので持ち上げてほっぺをもちもちする。しばらくこいつのほっぺをもちもちしてるだけで精神力が回復して行く感じがする。やはり人権、人権を持たない人権モンスターだ。
「おーい、この休憩室トイレもあるししかもウォッシュレットだったぞ」
「マジか」
「やりますね」
トイレから戻って来た東吾が綺麗なトイレだったとサムズアップしながら帰って来た。ダンジョントイレ問題はかなり根深い問題なので、図書館にはちゃんとトイレがあって助かる。簡易トイレ、使ってみると解るけど問題しかないからな。
「でもこのペースなら今日中にボスまで行けそうですね」
「勝てるかどうかは別としてね! ねっ!」
「お、含みのある言い方するな」
東吾とアーサーが近寄ってくると両側からつんつんしてくる。地味なウザ絡み、大人がやるとほんとウザいだけ。
「初見討伐出来ると良いですねぇー」
「ヒント出すなよお前、絶対に出すなよ」
「私達から初見の楽しみを奪わないでくださいね」
「大丈夫大丈夫、滅茶苦茶アホに負けてる所を楽しみにしてるだけだから」
この、このこのと横から突かれつつ、一時の休息をして過ごす。アーサーも東吾も、ここら辺は凄い慣れているのかリラックスする時は一気に力を抜いている。俺もそれに倣ってリラックスしつつスマホを手にする。
「WIFI繋がる……」
一瞬、久遠に連絡しようかと思ったが、時間も時間だし、外に出てからで良いだろうと判断して止める。
ただ、まあ、どことなく……その声を聴きたいなあ、とは思う。