飯食ってトイレ行って仮眠取って1時間。
休憩は終わりだ。
再び攻略へと戻る。
別館3階は歴史展示フロア。彼方の世界の歴史を様々な資料で展示している。文章、手紙、歴史書、或いはレポート。様々なもので滅びた世界の記録が残されており、どういう世界だったのかを色あせないように残している。それをスマホでコピーを軽く取って行く。
「これは後で利用する部分があるから軽く記録を取っとく。ララ」
「ぎゅぉん」
「言葉が消え行く音として出力されてる」
「超えましたね、言語を」
返事が消える際の音ってどうなってんの? と言いたいのを堪えて、やるべき事をサクサク進めて行く。3階は資料が展示されている関係か、襲い掛かって来るモンスターはいない。ゲーム内だとあったが、リアル化した際にここで暴れないようにしているのかもしれない。
そうやって必要な記録を取って、アイテム回収を終えたら4階へと上がる。此方はギミックフロアであり、モンスターも出現する。そこら辺の討伐作業は東吾たちに任せるとして、俺は俺でギミック解除の方に精を出す。
「本の順番をもとに戻すのー」
「背表紙すら確認せずに本を動かし始めたな」
「ちょっと気持ち悪いな、あれ……」
「ちょっとぉ?」
まあ、ここら辺は何度も遊んだ所なので良く覚えてる。パズルを解くのも初見の時は死ぬほどマラソンしながら資料を確認して、後々スクショを取って確認すれば良かったんだ! となるのはだいぶゲームあるあるだと思う。
「んー、これはドラゴン族の歴史か……」
「お前らの言うあっちの世界のドラゴンには歴史があるのか」
「滅茶苦茶あるぜ。最も古い生き物に分類されるし、最も神の血を濃く継いだ竜王がいたからな。竜王の爺さん今どこにいるんだろうなぁ」
得意げに語るオメガは懐かしむ様な表情を浮かべるので、答えちゃう。
「ヒマラヤ山脈に巣を作って引きこもってるよ」
「答えあったわ」
ドラゴンズバレー、竜の谷、竜の巣、竜王の寝床。
「竜王ラグナロクは神龍を失った悲しみと苦しみに耐えながら勝つ事も出来ず、誇りを折られて復讐の時を待ちながら山脈の間に身を沈めて眠ってるよ、確か」
このゲームを通して最強のボスは何か。
無論、メタユニットを投入したシナリオ補正なしでは勝てないというラスボスは別枠だ。
だが最強と呼べるボスは2体存在する。1つは次元城に君臨している隠しボス。クソクソギミック系糞カスボケクソボスである次元城の裏ボスは間違いなくギミック系統における最悪のボスだ。もう二度と戦いたいとは思えないし、再挑戦しようとも思わない。そういうタイプのクソだ。
そしてその正反対になるのが王道的な強さをもって最強に君臨する竜王ラグナロクだ。強い。デカい。馬鹿痛い。ただただステータスと破壊力と耐性の暴力で上から殴り続けて来る。それだけでももう強い。何をしてもHPが削れているのかどうか解らないぐらいHPがある。ひたすら強さを追求してみましたとかいうタイプのボスだ。
そのレベル、驚きの180。
「地球上に存在する生物の中で最も純粋な強さを持っているよ」
「レベル180か……ズルくない?」
「神に最も近いと謡われた竜王ですからね、竜王様は」
昔を思い出してからラファエラが汗を零す。まあ、アレが本気で暴れ回ってる時代を思い出したらそりゃあそうなるか。ギミックを解除して、次のギミックを動かす所まで移動する。ギミック系のフロアは西へ東へと移動しなきゃいけないからめんどくさい。
「まあ、何時かはドラゴンズバレーに行って竜王様の鱗を何とか回収しないといけないんだけど」
「自殺、良くない!!!」
「死ぬにはまだ若すぎます!! 考え直しましょう!!!」
「少年、勇気は無謀、蛮勇とはまた違うものです。落ち着きましょう」
「お、おぉ……そういうレベルなのか……」
そう、これぐらいのレベル。ぶっちゃけ、ゲーム時代でさえ相当苦しかったけど楽しかった。圧倒的強者相手にじりじり削りながら長時間殴り合える楽しいボスだった。爽快感のある戦いだった。だけど戦闘規模を思い出し、そしてそれを現実へとコンバートする。
これ、アレだよなぁ。
「たぶん竜王と戦う事になったらSランクマスター集められるだけ集めたレイド戦になると思うよ」
「Sレイドとかちょっと前代未聞ですね」
「間違いなく参加したいって飛び込んでくる奴ばかりだけど、立場と国が許すか……?」
「最悪現地集合で勝手に参戦してきますね」
そっかー、やっぱそうなるかー。
上澄み連中って基本的にスーパー駆間人みたいなノリしてるし、絶対にSレイド現地集合とかやったら我、グランドマスター参戦! とかやりそうなんだよね。想像できるから困る。この情報は絶対に公開しないようにしないとならない。
ぶっちゃけ。今この3人で挑んでも100%死ぬと思う。ゲーム時代のデータだけの戦いとは話がまるで違ってくる。
「まあ、戦力が整ったら……俺がSに上がったら……大規模Sマスター連合みたいなの結成できるようになったら……」
「世界征服でも始めるのか?」
ワンチャン世界征服できそうだから困るよな。
雑談しながらもそこはプロフェッショナル、足や手の動きを止める事もない。東吾もアーサーも出現してくるモンスターに慣れるとマストカウンターの把握を終わらせ、戦闘の無駄を削ぎ落す事で効率化を図る。そうなると少しずつだが全体の動きが加速し、探索速度がアップする。
戦闘をしている裏で俺のギミック解除も進む。
本のパズル。
歴史クイズ。
本棚の隠し通路。
絵画のワープ。
図書館に設置されているギミックの多くは歴史に関する事だ。無論、地球ではなく彼らの世界の歴史に関する事だ。ギミックを解けば自然と彼らの歴史を知る事が出来る……ここは既に知っている俺が突破しているので全く無意味だが。
それでも意図は伝わる。
「知って欲しい、ですか」
「資料とは、歴史とは、言ってしまえば生きていた証だからな……ここにあるのは全て、自分たちが実在していたという事に対する証明だ」
その背景にあるものを理解していると、何とも言えなくなる。だから黙々と手だけを動かし、4階の最後のギミックを解除する。中央の部屋にあった、何も入っていなかった額縁の中に階段の絵が出現する。
アイテムを全て回収してから額縁のある部屋へと戻り、指差す。
「アレで5階に行ける。そしたらボスだよ」
「この時を待ってた」
「しょっけん! しょっけん!」
半分スキップしながら進んでるが、しっかりと罠をララに処理させてる辺り絶対に理性を失わないプロの動作が見え隠れする。そんな野郎共と階段を上がり切れば異様に広い空間に出る。
ゲーム時代もなかなか広い空間だったが、こうやって実物を見るとさらに広く感じる。本棚の類は一旦片付けられ、その代わりに一番奥に人の姿がある。
「戦闘用に片付けられたか」
「空気に戦意と視線を感じますね。強敵ですよ」
ワクワクが増してきてる戦闘民族が心配することもなく前に進み、空間拡張されてる別館5階中央にまでやって来ると、そこには見た姿があった。
「驚きました、まさかこれほど早くここまで到達なさるとは」
そう言って、入り口に居たはずの彼女は一礼した。
「ゲストの皆様方、ようこそいらっしゃいました。どうでしょうか、少しは我々の事も知ってもらえましたか?」
俺は腕を組んで一歩後ろに下がる。ここで展示されてる内容や真実について、モンスター達同様に俺もよく知っている。だからここの応答はどちらかというと東吾たち向けだ。
「あぁ、歩きながらだが尊が良く解説してくれたからな」
「仕草が好きなものを説明するオタクのそれでしたよね」
「おい、バトルオタク共」
テヘペロ、と返される。何も可愛くない。
「ギミックの度に解説はいるしな」
「豆知識とか情報入りますよね」
「ついでに知っておけ……みたいなノリで追加情報入るよな」
「解った、俺が悪かった。俺の負けだよ」
もちもちするっすか? する。もちもちもち……。回復完了。ちょっと面倒くさいオタクになってたようだ。まあ、でも熱意のあるオタク程面倒になるもんだし……。
「成程……では当図書館の事をある程度理解いただけたようですね」
入り口にいた司書はそう言って言葉を区切る。
「こちらの言葉を借りるならこの図書館はノアの箱舟、というものに近いです。何時か我々の世界を再建するときに……という希望を乗せています。現状、勝ち目は見えず終わりのない戦いですが」
「まあ、そうだろうな。どれだけ頑張ったところでアンタらじゃ勝ち目はないからな」
「……そうですね」
「おお、アーサー。あの二人だけで通じ合ってるぞ。疎外感を感じないか?」
「感じますね。凄い感じますね。悲しくなりますよ」
「解った! 解らないように話すの止めよう! ハイハイ、おしまい! 俺はもう黙りますよ!!」
歩いて入口の階段まで戻り、階段に腰かけて背中を向ける。
「はい、話の続きどうぞ」
「悪い、少しアイツの機嫌取って来る」
「少し難しい年ごろですからね……」
階段まで戻って来た成人男性児共に慰められる。拗ねてる? 拗ねてないよ。でもこういうのってほら、ノリがあるじゃん。いや、俺も主語を抜いて話してるのが悪いし。知りたい? ネタバレしてもいいなら全部ゲロるけど? 別に興味ない? 欠片も? そっかぁ……。じゃあ館長が説明するまで黙っておくね。
ワンチャン、館長が世界説明始めたら欠伸漏らす可能性ないかこいつら?
というかアーサー、顔が金髪イケメン白馬の王子系なのに実はゴリゴリのスーパーブリテン人なのは微妙に脳がバグるよね。
「はい、反抗期終わったんで会話続けましょうか」
「……宜しいのですね?」
「うん」
「茶化した俺らが悪かった」
そういう訳でボス前会話、仕切り直し。
「こほん―――ですが我々は常に待ち続けていました。来館できる方を。可能性を持ち得る存在を。何時か。もしかして。それでも……そう何度も自分を慰めるように言葉を重ねて待ち続けてきました。そして貴方たちが、来ました……」
司書はゆっくりと目を閉じ、過ぎ去った年月に思いを馳せる。
「ですがそうやって全てを託せる程ゲスト様方の事を知りませんし、認められはしません」
故に、と言葉を置き、司書が構えた。
周囲に光を纏った本が浮かび上がり、無数のページが溢れだす。まるで聖域にいるかのような光の波と強い魔力の波動、人智を凌駕し、更に到達不可能な領域へと至った強さの証明をその存在は表わしている。
「レベル120……」
現行のモンスターのレベルキャップは100、そこにアンブロシアを使う事で+10だけする事が出来る。つまりプレイヤーが到達できる限界、その先へと至ったモンスターだ。その強さはもはや、これまでのモンスターとは比べ物にならない。
戦闘開始前に、安全な場所まで下がり、ララを何時でも盾に出来るように持ち抱えておく。
その間に東吾もアーサーも、モンスター達の展開と陣形を作り終えている。
「試させていただきます―――相応しいかどうかを」
司書長マリアゲルダLV120 が あらわれた!