最強以外ありえない   作:てんぞー

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一般クソ雑魚敗北者マスター

 熱狂!

 

 白熱!

 

 マスターによるガチの殴り合い!

 

『止めて下さーい!! マスター同士の殴り合いは止めてくださーい!! モンスターバトルで勝敗を決めてください!! マスターバトルではありません、モンスターバトルです! 人間同士での殴り合いは控えろつってんだろうがッッ!!!!』

 

 広大な空間には様々なステージやリングが用意されており、そこではモンスター達による戦いが行われていた。どこもかしこも凄い熱気と活気で満ちている。リアルで目撃するモンスターバトルの空気はやはり画面で見るものと違う。

 

「あっちはDランク……あっちのはEランク……あっちではCランクもやってるのか」

 

 見覚えのあるモンスターの姿があちらこちらで戦闘を繰り広げている。今中央のモニターでは8連勝中と隅に書かれた試合が進行中だった。興行としての熱狂、単純な興味としての熱中、そして夢へと駆ける情熱。その全てがこの空間の中には詰まっていた。

 

「……」

 

 今期グランドマスターの戦術がアグロ寄りなせいか、やはり速攻戦を仕掛ける試合模様が多い。低ランク帯は一度に出せるモンスターの数が制限されているのもあって試合模様は単調なものばかりだ。とはいえ、勝つための創意工夫も見える。

 

「……ふむ」

 

 F~E帯は1対1の状況の為、モンスター1体に集中して戦える分細かい指示やテクニックが輝く。だがDランクになると2対2になって戦術ががらりと変わって来る。やはりグランドマスターやチャンピオン、有名なプレイヤーの戦術を真似た動きが多く見える。

 

「おーい」

 

 その中でもアグロ―――アタッカーを並べて序盤から押し切るタイプの動きが圧倒的に多い。まず戦術として運用しやすい点にある。サポートが混じるとなるとどう動かすか、という視点が入って複雑化するが、アタッカーのみだと集中攻撃による撃破で素早く戦闘を動かす事が出来る。

 

「ミコト」

 

「うおっ」

 

「思考に没頭しすぎだ」

 

 ぷんすこ、と言わんばかりに頬を膨らませて目の前に顔を寄せてきた久遠にちょっと驚いて数歩下がる。

 

「ご、ごめん」

 

「いや、気にするな……貴様が何が好きなのかが良く解ったからな」

 

 その言葉に首を傾げると、久遠が言葉を続ける。

 

「気づかなかったのか? 貴様が今日楽しそうに笑ったのはミストに乗っていた時と今だけだぞ。それ以外は全部愛想笑いから作った笑いだったぞ」

 

「あー……」

 

 その言葉に少しだけ居心地悪さを感じて視線を逸らす。

 

「……じゃあ見たし帰るか!」

 

「待て待て、私が悪かったからもう帰ろうとするな、流石に早すぎるだろう」

 

 照れ隠しにUターンしようとする肩を掴まれ、引き戻される。オタクだって事がバレてしまう……! と思ったが、この世界の住人が全員オタクの様なもんだから気にするほどの事でもなかった。

 

 改めて辺りを見渡すと本当に凄い施設と規模だ。この地下空間でどれぐらいのバトルが同時進行しているのだろうか? 画面で見てたものが今、目の前にリアルとして広がっている事実は感動するには十分すぎる景色だった。

 

 やはり、スマホやPCを通してみているのとは全然違う。

 

「ミコトはマスターになろうとは思わなかったのか?」

 

「最低で高校卒業して1人暮らし始めたらやろうかなぁ、とは思ってたけど……まあ、なあなあでそのままやらなかった可能性も高かったかな。都会住みだと金に余裕がないとなれないし。言い方は悪いけどジジイの件が無ければ自分からマスターになろうとはしなかったかも」

 

 どうせ世界は平和だし。

 

 起きる問題も主人公が解決するだろう。

 

 自分は所詮脇役ですらない。物語に名前もシルエットすら出てこない一般人なのだから。

 

「そんなにモンスターが好きなのにか?」

 

「好きだからだよ」

 

 苦笑しながら久遠に向き直る。

 

「半端な気持ちで命に触れたくなかったんだ」

 

「……?」

 

 俺の言葉に意味が良く解らないと首を傾げる彼女に説明する様な事はしない。恐らくその意味は俺でも完全に理解出来ている訳じゃない。だけど感覚として解るものを言語化するとこうなるのだろう。モンスターの命を、未来を、そう簡単に決める様な立場に立つだけの資格が俺にあるのだろうか……?

 

 無論、複雑に考えすぎなのだろう。

 

 この世界では多くの人間がモンスターと暮らし、狩っては殺し、合体させてより強いモンスターを生み出そうとしている……その裏にある倫理を考えずに。

 

「チビを飼うぐらいならほんと、気楽でいいんだけどな……」

 

「とはいえ、貴様はあそこの管理者に任命されたのだから強くならないと話にならないぞ」

 

「そうなんだよね」

 

 俺にはマスターになって強くなる以外の選択肢がないのだ……あのジジイはそれをあの世で笑いながら眺めてるだろう。

 

 最近めっきり増えた溜息をまたも零すと、同じように溜息を零す嘆くような声がした。

 

「私……もう駄目なのかも……」

 

「ごめんね……ななちゃん……僕が弱いから……」

 

 物凄いどんよりとしたオーラを近くから感じる。ちらり、と視線を向ければ少女が二足歩行する猫のモンスターを前に今にも泣きそうな表情をしていた。少女、といっても自分よりは年上だからその表現が当てはまるかどうかはちょっと解らないが……まあ、大体中学生ぐらいか。

 

 どうせバトルで負けたかそんなものだろう。勝者の数だけ敗者も存在する。それが勝負の世界だ。残酷だが敗者を気遣っていては何時までも前には進めない。

 

「久遠、あっちのCランクの試合を見に―――」

 

「そこの者よ、どうしたのだそんな泣きそうな顔をして」

 

「おい」

 

 去ろうとした直後には久遠がミサイルの如く少女の所へと着弾していた。引き留めるのが遅かったかぁ、と呟きながら久遠の方へと向かう。

 

「え? あ、ごめん、煩かったかな」

 

「気にするな。それよりも私には貴様が泣きそうなのを堪えていた事のが気になる。どうした、誰かに襲われたのか? それとも祖父を亡くしたか?」

 

「あまりにもピンポイントすぎやしないかそれ。どうも……こんな所にいるんだから試合に負けたとかそんな所でしょ」

 

 ちょっと驚きながらも俺の言葉にうん、と頷いた。

 

「みぃちゃんと2人でEランク戦頑張ってたんだけどさっきの試合で12連敗目になっちゃって……自信を無くしてた所なんだ」

 

 12連敗という言葉に流石に雑魚という言葉が口から漏れそうになるのを我慢する。これが間違いなく身内とのVC中だったら学習能力のない雑魚とか煽ってた。

 

「12連敗もするとか信じられない程弱いんだな。1勝ぐらいできなかったのか?」

 

「ひぃん、やっぱり私才能のないゴミクズカスマスターなんだ……」

 

「おい、デリカシー!!!」

 

 うわぁん、と鳴き声を零す年上の幼児をネコのモンスターが必死にあやす。俺も久遠に軽く説教を入れる為に引き剥がそうとするが、まあまあ、と自信満々の様子で久遠が胸を張る。

 

「どうしようもなく弱いかもしれないがそこまで悲嘆する必要もない。救いようのない雑魚という事はこれからは上がって行くだけだ。お前にやる気があるというのならば救いの手が差し伸べられる事もあるだろう……」

 

「ほ、本当……?」

 

「ななちゃん! 宗教勧誘に引っかかってるみたいでヤバいよななちゃん!!」

 

 段々と状況が混沌としてきた。もう、ここから逃げた方がいいのでは? 嫌な予感しかしない。そう思っていると久遠が此方にウィンクを送って来た。あ、逃げられなかった。

 

「何せ、ここにいるのはあの元グランドマスターである柊剛三が最も頭がおかしいと評価した孫だ。勝てない程度の悩み、我が婚約者からすれば簡単に解決できる些事でしかないとも!」

 

「え? あの!? 日本の新時代を築いたと言われている伝説の!?」

 

「自信満々のキラーパスっすね。もしかしてさっきのウィンクがパスサインのつもりだった? いや、ウィンクで答えるな」

 

 猛烈に逃げたいが、少女が助けを求めてる視線が必死すぎて逃げづらい。ごめんねぇ、と動く猫の口元だけが俺の味方だった。

 

 なおモンスターは基本、マスターに逆らえない。

 

 少女が乗り気な以上、止める事は出来ない。

 

 詰みです。

 

「あ、でも本当に迷惑だったら断っても良いから……」

 

「そこで引くなよ。俺が悪い奴みたいだろ」

 

 久遠がいい笑顔で向けて来るサムズアップをへし折ってやろうか。

 

 はあ、と溜息を吐いて俯く。

 

「解った……解った……助けになるかどうかは保証しないけど……アドバイス程度で良いならするよ」

 

「本当!? ありがとうー! もうずっと誰にも相手されなくてどうしたらいいのか解らなかったの!」

 

 たぶん周りの人たちはめんどくさいオーラを感じ取ったんだろうな。

 

 とりあえずパンパン、と手を叩いて空気をリセット。おかしな雰囲気になってるのをそれで祓って気持ちをリセットする。頭の中を入れ替えて少しだけ対人向けに意識を切り替える。短い深呼吸を終えて準備完了。

 

「俺は尊、こっちは久遠。お姉さんは?」

 

「あ、自己紹介遅れたね。私は七海、こっちはケットシーのみぃちゃん」

 

「宜しくね……そしてありがとうとごめんね……」

 

 喋って二本足で歩く猫のモンスター、ケットシー。ネコの妖精とも言われるモンスターで扱いやすく、育てやすい第2世代のモンスターだ。Eランク戦は基本変則ルールでもない場合は1対1での試合になる為、Eランク戦をこのケットシーで戦っている事になる。

 

「お姉さん、手持ちはケットシー1匹?」

 

「うん、そうだよ」

 

「解析しても良い?」

 

「あ、うん、いいよ」

 

「解析?」

 

 スマホを取り出してバトル用の解析アプリを起動する。スマホのカメラをケットシーの方へと向けて数秒が経過すると、抵抗もないのであっさりとデータの読み取りが完了した。

 

「えーと血統図アリ、上限到達済み、トレはHPMP伸ばしか。普通に理想的な育成してるな……あ、スキル構成がカスだ」

 

「ひぃん」

 

「カスって言われちゃった……」

 

「???」

 

 アプリを見て色々と納得している中で、久遠だけが首を傾げている。

 

「ミコト、それはなんだ?」

 

「これ? 協会が配布しているモンスターの育成管理用の解析アプリだよ。これでモンスターを読み込むとどういうステータスをしているのかが大雑把に確認できるんだよ。どんな技術なんだろうな、これ?」

 

「ほほお、そんな便利なものが」

 

 ゲームの時は本当にただの必須の便利アプリだったけど、現実化すると使用されている技術が謎すぎて一気にホラーになる。もしかしたらこのアプリを発展させる事で他人の女性経験人数が解るかもしれねえ……! などという変な妄想が横切る。

 

 忘れておこう。

 

「で、強くする方法は解ったのか?」

 

「ざっと見た感じスキル構成がカスの産物だからこれをまともなものにしてちゃんとした戦術を組めば何とかなると思うよ」

 

「ひぃん……でもそれぇ、今のグランドマスターの戦術を参考にしたのぉ……」

 

「アレをかぁ」

 

 今のグランドマスターはアグロ軸、アタッカーを多く並べてそれで一気に攻め上げる序盤から決着に入るスタイルだ。Sランク戦はEランク戦とは違い、4対4のバトルになる。ここで3体か4体をアタッカーで編成し、シナジーを取りながら一気に序盤から決着を付けに行くのが今期グランドマスターのスタイルだ。

 

「アレは連撃追撃の混成軸で纏めてるからこそ成立してるものだからEランクでは真似できない……というかそもそもケットシーがそういうタイプのスタイルを得意としてないから真似すら出来ないよ。ちゃんと相棒の強み把握してる? 何に強くて何に弱いとか理解してる? 何も理解せずに戦術組んだ? そう……」

 

「ひぃん」

 

「な、ななちゃん……」

 

 ガチへこみする年上のダメ女を放置して記憶を軽く叩く。ケットシーの技幅ってどんなもんだっけなあ、と思い出しているとなあと久遠が聞いてくる。

 

「スキルを変えるだけで強くなるのか?」

 

「それもそうなんだけど……このケットシーはそれ以外の事がもう育成し終えている……って感じかな」

 

 久遠に説明する。

 

 モンスターが強くなる方法は大雑把に2つある。

 

 育成。

 

 そして合体。

 

 この2つだ。

 

「このケットシーには血統図がある。つまり合体して生み出されたモンスターって事だ。アプリのこの部分ね……元はピクシーとトロットフォックスってモンスターを合体して生まれて来てるね。それがこの血統図に写されてるってワケ」

 

 合体して生まれてきたモンスターはダンジョンなどで出会う野生の個体と比べると合体によってステータスボーナスやスキルの継承がある為、明確に野生のより強いのだ。

 

「成程」

 

 そしてモンスターは世代数によってレベル上限が異なる。

 

 第1世代はレベル10が上限。

 

 第2世代はレベル20が上限。ケットシーはここ。

 

 そこからさらに上に行くと第3が30で第4が50、第5世代で70、第6世代で90、そして最終世代の第7世代が100でレベル上限になっている。レベルが10も違えばステータスも最低で10から20も違ってくる。それに種族としてのステータスの違いも加算されるのだから世代差による力の差は絶大だ。

 

「そしてこれは久遠も馴染みが深いと思うけどトレーニング」

 

「うむ、父も家では自分のモンスターに良く指導をしている」

 

 このトレーニングも上限があり、成長限界がある。つまり全てのステータスを999にするまでトレーニングをする様な事は出来ず、トレーニングで伸ばせる限界までステータスを振り分けるというのが正しい形だ。

 

「ケットシーのみぃちゃんのステータスを見れば血統図があるから合体済みの個体、レベル20だから上限までレベリング済み、成長限界までトレーニング済みだからちゃんと強くなるための努力はしている……って事」

 

「このアプリでそれだけの事が解るのか……凄いな……」

 

 純粋に関心する久遠はもう1度アプリを確認する。

 

「だがスキルがカス」

 

「カスの極み」

 

「……」

 

「あ、ななちゃんが言葉もなく沈んで……!」

 

 ステータスを見て適性を確認すればまともな脳味噌があれば何をさせるかだなんて解る筈だが? という言葉はしまっておく。殺人事件に発展しそうだから。

 

「とりあえずこれなら上の購買でスキルカードを購入してケットシーのスキル構成を入れ替えて、まともな戦術を用意すれば普通に勝てる範囲だと思うよ」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 財布の中身を確認する情けなさすぎる中学生を連れて購買部へと向かう。他人をプロデュースという形でだがモンスターバトルに触れるのはこれまでにないわくわく感を心に満たしてくれていた。

 

 ずっと待ち望んでいたものに漸く触れたような感覚に……ちょっとだけ、罪悪感を覚えた。

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