「―――さて、東吾とアーサーが良い感じにハイキメながらリーサルプランを成立させる段階に入って来たからこっちはこっちで答え合わせしようか」
「わあ」
「ぱちぱちぱち」
「もちもちもち」
流石に4時間もぶっ通しで死んでは起き上がってを見ているとだいぶ飽きる。参加しているならともかく、4時間見てるだけはキツイ。あの馬鹿2人の写真を自撮り含めてSNSに上げようかと思ったけど流石に後が怖いから玩具に出来なかったし。
アリスとおままごとしたり。
魔本の従僕に頼んで本を持ってきてもらったり。
ソシャゲしてれば4時間も過ぎ去った。
エナドリもなしにずっとテンションを維持している大人共もだいぶエネルギーを消費し終わっているが、それでもしっかりとリーサルまでのプランは立て始めているのでそろそろ終了だろう。それでもリアル化したこの環境で4時間で攻略方法を編み出しているのは普通に凄い。
だってゲームのボスなんてメタってハメ殺すのが普通なのに、それ一切なしで攻略してるし。
という訳でタブレットPCのホワイトボード機能を使って空中に描く。
「司書長マリアゲルダはレベル120で既存モンスターの最大レベル110を超える超強力なモンスターです。ベースがランプ構築になっていて、詠唱スタックしながら明確に蓋が用意されたボスでこれまで安定性が高かった耐久構築で挑むと突然の死を迎える、環境に対して中指を突き立てた性能してるのよね」
「司書長強いんですね」
「滅茶苦茶強かったよ」
DLC導入直後の環境は超耐久パが流行ってた。HPを超増強、耐性を増強、そして状態異常を遮断した要塞の様なモンスターを揃えて相手をちまちま削って行く安定性重視の構築で、DoTを付与して戦う軸が人気があった。
だって時間さえあれば大体なんにでも勝てるから。
対戦環境に入るとこの遅延構築はTier1ぐらいまで落ちたのだが、ストーリー攻略範囲だと相当猛威を振るっていた。
それを殺しに来たのがマリアゲルダだった。
ランプに不足していたのは蓋だ。ここまで溜めればゲームオーバーだよ? という明確な殺意の蓋だ。上位魔法までしか実装されてない環境だと耐性やダメージカットを盛れば耐えられてしまうから、今一ランプ型の強みが薄かった。
そこで出てきたのがマリアゲルダ、そして図書館による魔法型へのテコ入れだ。
「でもねぇ、魔法型には対策してない場合簡単にメタる方法があるんすよ」
「そうなの?」
「うん、攻撃属性を上書きしちゃえばいいんだ。フィールドを属性攻撃系統ので上書きして、こっちから強制的に上書きすれば単一属性耐性で攻撃を無力化出来るからね。これが一番楽」
フィールド系は基本後出し有利で上書きするので、属性系フィールドスキルで敵味方の属性を統一し、耐性系スキル使うとダメージの大部分を無力化出来る。なにせ、単一属性の耐性だったら100%カットが存在するので、普通のダメージカットやバラバラの属性に対する軽減方法を用意するよりは楽だ。
なお上位や最上位はここら辺対策に無属性に設定されていてダメージカットに引っ掛かりづらくなっている。
「2個目の攻略法は強化無効を付与する事で詠唱のスタックを妨害する事」
「あ、今やってる奴だ」
「うん、良く気づいたよね、忘れがちになるのに」
これは東吾とアーサーがやってる軸で少し面倒だしミスると一瞬で崩壊する原因にもなるのだが、詠唱のスタックも言ってしまえば特殊強化状態なので、システム的には強化無効を付与する事でスタックの妨害は出来るのだ。
ちなみにディスペル系による強化解除の対象にはならない。
スタックは強化扱いだけどスタックした後はHPやMPの様なリソース扱いらしいです。なんでそんな紛らわしい仕様にしたの……?
「マリアゲルダは30スタックで《アポカリプス》を発動して全体を薙ぎ払うけど、100スタック溜まると《ジ・エンド》で強制全滅魔法放ってくるからね。絶対にスタック数を溜めさせちゃダメなんだ。だから援軍として呼ばれた従僕を出現したターンに処理しないとならない」
援軍が残ったまま次のターンになると完全詠唱モードに入って一気にスタックしてくるので、出現したターンに処理するのがお勧め。
「ただ本人のHPそのものはそこまで高くないから一気に削るのがお勧めかな! 第2形態に入って一気に援軍呼んだり、残り10%でHPストッパーかかって戦闘1回スキルが全部復活して大体の場合でパフェキャン切った後なのに《無限覚醒》《絶唱》復活して殴りかかるけどまあ、誤差だよ誤差」
「誤差かなぁ」
「誤差かもぉ?」
「攻略法を聞いて思いました。司書長を怒らせる事だけは止めます」
力の差がちゃんと理解出来てるんだね? 偉いね。
ちなみに頼まれたらスキルの仕様とかを解説してるけど、ほぼ独力で詠唱と強化無効に辿り着いてるので、倍以上の時間は掛かるだろうけど、最終的にはこの二人、撃破にはたどり着けたんじゃないかなぁ、とは思う。
いや、凄えよ。
メタ視点と集合知なしで攻略法を編み出してるんだから。
だからこそ、この世界の強者は尊敬できるし、油断できない。
上の階のどがんどがん響く音もフィナーレに近く、これまで以上の頻度で衝撃が図書館を揺るがしてる。終わりが近い。流れ弾に消し飛ぶララを蘇生しつつ待っていれば5階を揺るがしていた衝撃と音が消えた。
「止まりましたね」
「そうっすね……勝ちました?」
「かもしれません。司書長にバレる前に業務に戻りましょう」
「あ、そうだった! じゃあね人間くん! また遊ぼうね!」
手を振ってばいばいしてからチラッと階段の上を見る。静かになった上の階ではぼろぼろになったマリアゲルダの姿、疲労困憊という様子の二人、そして半壊してるけどまだ戦える様子のモンスター達の姿があった。
「負け……ですね。良いでしょう、現行人類に対する敗北を認めましょう」
マリアゲルダのその言葉に東吾達が無言を貫き、それから床に倒れた。
「は、はははは……勝った、勝ったぞ……!」
「私達の勝利です! ははは」
「喜んでてテンション高いけど体が追いついてないなこれ……?」
4時間補給なしでぶっ続けで戦ってたらそうもなるか。呆れつつもこの世界の人間の強さに感服する。或いは、俺が殺意を持ってラスボスとの相対を考えなくても、この世界の人間なら倒せてしまうのかもしれない。そんな考えが一瞬過ぎり、否定する。
まあ、あれは無理だろう。
「おめでとうございます、そしてお疲れさまです。ここまでの強さを証明する人間が居たとは……感服です」
「そう言う割にはまだ余裕がありそうですね?」
「見栄でございます。館長様に仕える身として、いかなる時でも無様な姿を晒せないのです」
実際、俺から見ても既に限界に達してるのは見えている。恐らくは立っているだけで限界だろう。東吾達に近づき、倒れた二人を引っ張り上げる。これで図書館攻略の第一段階は終わった。
「それでは勝利の証にまずはこれを」
そう言ってマリアゲルダは手を振るい、魔法陣を生み出して破壊した。
「本館1階から地下へと通ずる階段があります。その先にある禁書庫への入り口を解放しました……その奥に何があるのかはご自身で判断なさってください」
知ってるので腕を組んで黙る。
図書館の攻略はここからが本番だ。禁書庫は合計30層にも及ぶ大型のダンジョンだ。しかも毎フロア構造の変わる所謂不思議系ダンジョンだ。だからマッピングはするだけ無駄、ダンジョンの特徴と生成されるフロアを暗記して突撃するしかない。
「それと、これをどうぞ」
そう言ってマリアゲルダは1枚のスキルカードを取り出した。
「この世界に合体魔法とオーバークリティカルという仕様を刻む為のスキルカードです……つまりこれはモンスター単体ではなく、世界に対して影響を与えるカードになります」
「待て待て、話がデカすぎる。クリアした者にじゃなくて世界そのものに干渉するカードだと?」
「そんな事がそもそも可能なのですか?」
今のマリアゲルダの発言に流石に東吾とアーサーも背筋を伸ばす。そして俺はマリアゲルダの言葉を頷いて肯定する。
「この世界にダンジョンとモンスターという概念を持ち込んだのは館長さんだよ。今はまだこの図書館にしかない合体魔法とOCを世界全体に対するパッチとしてアップデートするぐらい問題なく出来るよ」
「そもそもこの合体魔法とオーバークリティカルという技術は、彼の者に対抗する為に生み出した新戦術の一つですから。特定の者達が独占するのではなく、世界全体で学んで活用できるようにならなければ困ります」
「……成程な、国家所属のSランカーとして聞かなきゃいけない事が増えたな」
「疑問は館長様へ―――禁書庫の底でお待ちしております」
どこかとか言いつつ最初から禁書庫の底で此方が本当に希望を担えるのかどうか、それを確かめるように待ち続けているという感じだろう。……まあ、館長の思惑は解る。そもそも相手が相手だ。
DLC抜き、本編のラスボスは日本チャンピオンで、そこで疑問を残しつつシナリオは一旦終了した。
それからDLCによって海外が追加され、様々なマップや機能を追加し、最後にシナリオ型DLCが追加された。
最終DLC、その名も“とある星の終末期”。星に終末の化身を生み出し、文明に最後の輝きを与える事でエンディングを生み出そうとした女を相手に戦うシナリオだった。それまでのDLCやゲーム本編で徐々に明かされて行く秘密と真ラスボスの存在、その全てがこの図書館で明かされ、そして最後のDLCで決戦へと続く……という風にゲームではなっていた。
まあ……数字が設定されている以上殺すのがプレイヤーなのできっちりぶち殺したんですけど……。
数字が存在するなら殺せる。良い言葉だ。
「ま、今日は東吾もアーサーも限界だしここまでかな……」
「待って、まだやれる。まだ行ける行ける」
「見てください! まだまだ元気ですよ! 戦えます、イギリス人ですから!」
「人種は関係ないだろ。禁書庫からが探索の本番だし、1日休みを入れて疲労を抜いてから来よう」
「それではこれを」
「うん……確かに預かりました。ちょっと使う前にひと悶着あるかもだけど」
「いえ、ゲスト様なら恐らく悪い使い方はしないでしょうから」
「なんか好感度高いな俺? まあ、いいや。あ、やばっ、忘れ物」
「ごふっ」
「がふっ」
ぷるぷる震えてる大人二人を薙ぎ倒してカードを受け取り、他のスキルカードと一緒にしてとりあえず仕舞ったら、5階の部屋を見渡す。戦闘が終わった所で広かった部屋のサイズが圧縮されるように元に戻り、普通のサイズにまで戻る。
それに合わせて本棚の類も戻ってきている。
このフロアはかつての世界の英雄たちの記録を展示しているフロアだ。彼らの戦績や華々しい活動の数々を飾っている。
……よく見るとエグゼリアの記録も飾られていて、本人はちょっと位置調整して隠しているのが面白い。
このうち、一番端にある、解りづらい本棚まで移動し、そこに納められている真っ白な本を手に取る。背表紙、表紙、裏表紙全てが真っ白で何も書かれていない。開いても何も書かれていない。全てがまっさらな本。
『―――やっと、会えましたね』
知らない声がして振り返る。だがそこには誰もいない。手にあるのは白い本一冊のみ。それを手に取って聞こえた声は恐らく―――。
「……俺達が会えるのはまだまだ先の話になりそうだけどな」
白紙の物語。
最も重要なシナリオアイテムの一つ。
とあるモンスターを生み出す為に必要な素材であり、ラスボスへ対抗する為のメタユニットを作成する為のアイテムでもある。本来、このアイテムの事が話題になるのはまだ先の話なのだが―――まあ、先取して回収するのは良くあるプレイだ。
「後は賢者の石の回収と、二冊の書だな……」
其方は禁書庫の方にある。モンスターの勧誘はまた明日やるとして。
「……ま、まだやれるぞ」
「行きましょう、禁書庫……!」
「帰るか」
このダメそうな大人をホテルに連れ帰って寝かしつけよう。