「これ、ホテルまで宜しくお願いします」
「お疲れ様です!」
ダンジョンから出て、後ろでモンスターに駄々をこねてるところを連行される馬鹿2人を指差して待機していた政府の関係者に指示を出す。普通子供が出てきたら疑うか何かするかと思ったのだが、物凄い綺麗な敬礼を見せると馬鹿とモンスターを回収し、そのまま俺も一緒に連れてホテルへと戻る事になった。
ホテルに到着してベッドに転がってみれば意外と疲れているようで、軽くごろっとなるだけで直ぐに眠りに落ちた。
それから目覚めれば空腹がおそいかかってくる。図書館の飲食禁止ルールはある意味で危険だ。アレは図書館の基本ルールだが、それとは別に地下の“アレ”対策のルールでもある。だけどそれとは別に、いっぱい探索して脳味噌を使うと凄いお腹が減る。
緊張と警戒で忘れていた空腹は1回眠った後で蘇って来る。
レストランまで降りるのが面倒で費用は東吾持ちなのでルームサービスでとりあえず何かを頼む。やって来たものを片っ端からお腹の中に詰め込んでいると東吾とアーサーも復活する。シャワーを浴びてさっぱりした2人もルームサービスで食事にありつく。
ドン引きするぐらい食べ始めた。
その体にどんだけカロリー詰め込めるんですか?
だけど俺も将来的にこれだけ食うようになるらしい。頭を使って、戦闘中は走り回って、モンスターと付き合って。そういう事を繰り返しているうちに死ぬほどカロリーを使うし溜め込む事の出来る体に少しずつ進化するらしい。
人間って不思議ー。
「じゃ、俺らエステに行ってくるから」
「エステで施術を受けて1日休むと翌日には疲労が全部消し飛んでいるんですよ……将来的にお世話になりますよ」
「こわぁ」
慣れた様子で体のメンテナンスへと向かう2人の姿に、Sランクって大変なんだなあ、と思わされる。
ともあれ。
現在、12月13日。図書館から帰って来た翌日である。タイムリミットまであと11日ぐらい。俺がそこまで疲れてないので一晩眠ったらもう回復しているのは若さ故だろうか?
東吾とアーサーが体のメンテナンスに行ったので俺は暇になった。
だから図書館に行くことにした。
図書館探索、ソロ編開始である。
「マジっスかマスター」
当然、1人で行ける訳がないので政府の人に送迎頼みつつ護衛としてオメガが、肉盾としてララが来てくれた。そうやって再び図書館にやって来た。入口の案内にはマリアゲルダの姿もあり、既に職務に戻っていた。
此方がやってくるのを見ると驚きつつも微笑んでいた。
「これはゲスト様、良くぞ幻想図書館へと参られました。あちらをご覧ください」
マリアゲルダが本館、1階奥の方を示す。図書スペースや本棚の間には先日にはなかったモンスター達の姿がある。
「先日はまだゲスト様方に怯えて出なかった子たちですが、別館の攻略を通して為人は把握されたので、安心して出てくるようになりました。もし、仲間にするモンスターをお探しでしたら勧誘するのは自由です……勿論、本の貸し出しも行っております」
「サンキュー、マリアゲルダさん。館長さんはまだ地下?」
「はい……困った事に大量の電子書籍をDLして行ったので当分引きこもる様子かと……」
「館長まーた引きこもってるのかよ。いい加減にしろよな、見かける度に引きこもってるか徘徊してるかじゃん。ボケ老人かよ」
オメガの言動にマリアゲルダは凄い何か言い辛そうな表情をしたが、黙る事を選んだ。仕える立場からしてもなんかちょっと言いたいことはあるんだろう……。
それにしても図書館の様子は少しだけ賑やかになっていた。昨日までは飛んでいなかった本型のモンスターがふよふよと浮かび、小さな妖精たちが掃除や片づけを手伝い、奥からは魔女型のモンスターが此方の様子を伺い、童話タイプのモンスターがのんびりやっている。
その名の通り、幻想的な図書館の様子が広がっていた。
「それと本館1階は外と時間軸を同期しております……安心してご利用ください」
「至れり尽くせりって奴だな……で、小鴉。なんでこんな所に来たんだ? アーサーたちと一緒じゃダメだったのか?」
「こがらすー」
「こがらすー」
「すーすーすー」
「くろいのー」
妖精たちが集まるとつんつんと頬を突いたり、髪の毛を弄って来る。本館は戦闘禁止令がルールとして整備されている。だからここでは特に命の危機もなく探索が出来る。だからララもオメガも無しでも別に良かったんだが……まあ、心配してくれてると考えよう。
「モンスターの勧誘に来たんだ。賢者の石は禁書庫の方にあるしね」
「賢者の石まで知ってるのかよ……」
「良くアレの居場所を把握しておられますね……」
呆れるオメガとマリアゲルダにピースピースする。原作知識とフレーバーテキストは頭にほとんど叩きこんでありまーす。フレーバーテキストの類って一旦読み始めると延々と読み込むから本当に困るよね。開発者の人どうやってあれだけのテキスト考えたんだろう。
「魔女の血統の始まりに賢者の石を入れてね? 属性を補完しながら合体をして行くとね? こう……」
「いや、言わんでも良い。大体察した。アレじゃん。アイツじゃん。やべー奴じゃん。なんてもん呼び出そうとしてんのお前? マジで? 正気か?」
「ですが本当に可能なのですか? あの方を呼び出す等と……いえ、システムとしてはそういう風に作られましたが……ですが実際に呼び出せるかどうかとなると疑問が……」
「いやいや、寧ろ喜んで飛び出て来るタイプだろアイツは。滅茶苦茶ハイテンションで飛び出てくると思うぜ。アイツ、興味のあるもんにはずっと一直線だっただろ」
「そうでしょうか? そうかもしれません……」
「……」
なんかちょっと疎外感。もしかして“超越”の人柄を知ってる? というか知人みたいな感じ? マリアゲルダは当然として、オメガはだいぶ前世界の記憶や情報が残っているようだ。考えてみると面白い話だ、ゲームではなかった情報を生で摂取する事が出来るだなんて。
考えてみればモンスター達は彼らの世界に生きていた人物や生物が元なのだから、知人だったり面識があったりするのは当然の話か。
「うーむ……」
「どうしたんすかマスター? 便秘っすか? 体消し飛ぶと便秘も治るっすよ」
「初めて聞く治療法だなそれ……。いや、そうじゃなくて今までこの手の話しようとしても出来る相手がいなかったからちょっとだけ感動を覚えてるというか、今、ネタバレとかを気にせずに遠慮なく中身が話せるのってだいぶ気持ちが良いな、って」
「あー」
唸るオメガに解りますと頷くマリアゲルダ。どうしてもネタバレって気を使うからね……。しかもアーサーとか東吾とか欠片も内容に興味を持ってくれないから会話にすら入れないからな。偶にこの無駄な知識とかフレーバー部分で話し合って盛り上がりたい日ってのがあるんだよ。
「ま、今日は勧誘しに来ました。出来たら第1世代の魔女を。そこから始めないといけないんで。付け合わせに使い魔系のモンスターとか童話系モンスターを、後は精霊も大量に。あ、でもあんまり多いと日本に連れ帰るのが大変か」
「住所を教えて貰えますか? 直接ゲートを開いて送り届けますよ」
「うおっ、密輸」
「これで立派な前科持ちっすね」
「マスター全員殺人前科持ちみたいなもんだろ」
いや……まあ……確かに元は異世界人なのでそうなるかもしれませんが……。
とりあえずこのことは忘れておこう。頭を振って考えを切り替える。東吾とアーサーが休んでいる間にモンスター集めを終わらせるのが今回の目的だ。そうすれば残りの日程を攻略に安心して使える。
なんて気遣いだ……もしかして俺も人の心が解ってきたのかもしれない。
「本当に心が解るやつは勝手に出歩かないんだよなぁ」
「人の心は読めるけど想いや空気は読めないマスターらしいっすね」
「地味に存在するかどうか怪しい俺の心に攻撃してくんの止めない? それよりもほら! 勧誘に回るぞ! サクッと勧誘終わらせれば早くホテルに帰れるぞ!」
「まあ、そうだな」
「新しい後輩は魔女っすかあ」
モンスターを勧誘する為に歩き出そうとして、ふと、疑問を覚えた事があった。そしてここにはモンスターとダンジョン、その全てを生み出した人物に最も近いモンスターがいる。聞こうかどうかを考えて、それから疑問として残すのには少し辛いかなぁ、と思った。
だから足を止めて、マリアゲルダへと振り返った。
「……アーサーも東吾もいないから今のうちに聞きたいんだけどさ」
「はい、なんでしょうか」
「……」
ちょっとだけ頭の中で情報を整理する。
「モンスターってさ、元々は君らの世界の住人や生物がオリジナルだよね? 生者死者関係なく世界そのものを概念という核へと加工、それを地球にインストールする事で出力されたのが概念データの噴出口であるダンジョンと、概念から再現された住人達、モンスター……だよね?」
「はい、それで正しい認識になります。世界の存続、そして対抗の為には必要な措置でした」
それは良いのだが……いや、地球的にはふざけんじゃねえぞクソボケ! 案件なのかもしれないが、正直モンスターバトルと出会うまでは生きている感覚が少なかったので俺は感謝してる。
「モンスターは世代交代を重ねてより上位の存在へと変化するにつれて種、という括りからかつて存在した英雄や神魔、それも単一の個人の個体へと変化して行く」
「そうですね、基本的にその方が概念としての情報の質、量として重いので世代交代を重ねると最も重いデータ、つまり英雄や神魔の類へとたどり着くようになっています。このシステムは人類が己と再現体の鍛錬を通して成長しながら対抗手段を手にする為のシステムなのですが……」
「まあ、人類……特にトップ層は凄い勢いで殺し合ってて練度上げて行くよな。なにあれ」
マリアゲルダとオメガが地球怖い地球怖いとか言っているけど、地球を超えるインフレ時空から飛んできた君らのが怖いと思うよ。
「じゃあ本題に入るけどさ」
「はい」
「再現されたSランク付近のモンスター……再現体ってさ」
「楽な方でどうぞ、気にする者はいないので」
「あ、はい。じゃあSランクとかに出て来る最終世代のモンスターって……大体ほら、記憶とか経験とかだいぶそのまんまじゃん?」
オメガとかラファエラとかエグゼリアとかハーデスとか。完全に前世の事を覚えている感覚で会話に参加しているし。それでいて情報を口にせず黙っているのはそれが人類の為なのか、或いは喋れないからか、なのか。何にしろ、こいつらには明確な人格が存在している。
「そうだな、俺様とかも元のオメガほぼそのまんまだしな」
じゃあさ、と続ける。
「合体したモンスターの意識って、どうなってるんだ?」
その、なんだ。
「家族みたいに育てたモンスターがいるんだけど……将来的に記憶や人格を持ったモンスターが生まれてくるとして……今受け継がれてるものは消えるのか?」
「あー……」
「……成程」
俺の疑問、というかちょっとした不安にオメガとマリアゲルダは顔を見合わせる。ララは合体予定皆無なので欠片も関係のない話なので妖精たちに持ち上げられて近場の罠へと運ばれて行く。ララで罠を起爆するのが最近の妖精トレンドらしい。今日は死ぬ予定なかったんだけどな。
「これは少し難しい質問ですね」
「そうだな、説明が難しいなこりゃ」
うーん、とオメガが唸って首をひねるので、俺は手を横に振った。
「いや、馬鹿な事を聞いた。モンスターを勧誘しに行こうぜ」
「いやいや、馬鹿な話じゃねえよ。すっげぇ重要な話だ。お前が今、初めて人間に見えたわ」
「ちょっとぉ?」
わはははと笑うオメガに対しマリアゲルダはそうですね、と続く。
「そもそもですね、自然に生み出される多くのモンスターは明確な自我と呼べるものに欠けています。ほとんど本能、或いは反射的な反応で知性はありますが、これはほとんどかつてあった行動や思考のトレースに近いです。マスター……使役資格者と接するうちに自我が確立し、明確な個我を持つに至ります」
モンスター博士が聞いたら絶頂しながら死にそうな内容だなこれ。Qちゃんも巻き添えで死んでそう。
「ですから多くのケースでモンスターの合体を行う時、より強い自我の方が残り、素材となった方は自我ではなくその記憶情報等が継承されるようになっています」
「つまり少しだけ覚えてる事が多くなっている、って事だ」
「ですがランクが上がってくるとモンスターに芽生える自我も強くなってきます。こうなってくるとモンスター同士でより強く、成熟した自我を持つモンスターの方が残るようになります。つまりよりマスターと長く接し、関係性を築いた……つまりマスターとより絆を深めた個体の自我が残りやすいです」
「これは絶対じゃないけどな」
「絶対じゃないのか……」
あの合体の間にそんな事が行われていたんだ。じゃあ負けた方は消えてしまうのか?
「ですが負けた方も別に消える訳ではありません。記憶、経験、思い出、絆……そういうものはそのまま、流れ込み、実際に体験したものとして蓄積、統合されます」
「感覚的には人生を2回送ったような感覚になるんだな、これが。古い記憶は段々と薄れて行くけど……それでも降り積もったものが消える訳じゃない。安心しろ。俺達は合体を繰り返しても消える訳じゃない。本質はそう変わらねぇよ」
「これは最終世代へと突入したモンスターでも変わりません。人格や記憶、経験のベースが我々のものを優先しているというだけで……それまでに積み上げたものは何一つ消えていません。全部覚えていますから」
「そっか」
チビの合体を繰り返しても、完全に消える訳じゃないんだな。
……そっか。
ぱん、と自分の頬を叩いてから妖精たちからララの死体を回収する。
「質問終わり! それじゃサクッと目的の娘を勧誘してホテルに帰ろう」
気分は少しだけ、すっきり。結局モンスターの合体を止められる訳じゃないが、それでもちゃんと受け継がれているという事が解るのなら……まあ、それで良いだろう。
前よりも、合体が楽しみに出来るというだけの話だ。